COVID-19関連追加(2020331日)

【心筋炎とCOVID-19

 

@Brief Report

Inciardi RM, et al. Cardiac Involvement in a Patient With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). JAMA Cardiol 2020 Mar 27. doi: 10.1001/jamacardio.2020.1096より.

症例:53歳白人女性.健康で基礎疾患なし

現病歴:2日前からの重い倦怠感にて救急外来を受診.胸痛,呼吸困難や他の呼吸器症状なし発熱なしただ,前の週に発熱と咳を認めていた

現症:BP 90/50 mmHgHR 100/min低血圧.室内気でSpO2 98%.体温36.6度(経過中も発熱なし).

BGApH 7.46PaO2 82mmHgPaCO2 32mmHg,乳酸 17.1mg/dl

12誘導心電図は,肢誘導で低電位,前胸部誘導でびまん性に少しST上昇(特に下壁,側壁),V1aVRST低下とT波陰転化.

胸部単純レントゲンは特記すべきことなし

血液検査:心筋逸脱酵素上昇あり(高感度トロポニン0.24ng/mlCK-MB 20.3ng/mlNT-proBNP 5647pg/ml).CRP 1.3mg/dlとわずかな上昇を認めるのみ.血算は正常.その他,高K血症,低Na血症,低Cl血症を認めた.

経過:心臓エコーで壁運動異常を認め,心筋逸脱酵素上昇より,緊急冠動脈造影検査を行ったが,冠動脈に狭窄なし.

心筋炎を疑い,ICUに入院.COVID-19のアウトブレイクを鑑み,鼻咽頭スワブ検体にてrt-PCR検査を施行したところSARS-CoV-2陽性.他の心筋炎を起こしうるウイルス検査はいずれも陰性.

経胸壁心臓エコーを施行.中隔や後壁が14mmと肥厚あり,高輝度エコーを認めた.びまん性壁運動低下あり.LVEF 40%.弁膜症なし.E/A 0.7E/e’ 12全周性に心嚢液貯留を認めたが(最大11mm),心タンポナーデの所見なし.

心臓MRIを施行.びまん性に両心室壁肥厚を伴うhypokinesis,特に心尖部.そして左心室壁運動低下(EF 35%STIRshort tau inversion recoveryT2-mappingシークエンスでは両心室の著明な心筋間質性浮腫.PSIRphase-sensitive inversion(心筋遅延造影アプリケーションの1つ)シークエンスでは,びまん性に両心室壁のガドリニウムの造影遅延を認めた.心嚢液は特に右心腔周囲に目立った.Lake Louiseの診断基準より急性心筋炎と診断した.

治療経過:入院後,sBP 90mmHg未満の低血圧を認めたので,ドブタミンによる強心剤を開始(入院後48時間),NT-proBNP8465pg/ml,高感度トロポニンは0.59ng/mlCK-MB39.9ng/mlまで上昇したが,徐々に安定,低下傾向を辿った.sBP 100mHg未満であったが,血圧も安定化,入院後day 4には漸減も開始した.心不全の治療として,カンレノン50mg,フロセミド25-50mg,ビソプロロール2.5mg(メインテート)(しかし徐脈にてday5に中止)を投与した.また入院時より静注アスピリン(500mg12回),ヒドロキシクロロキン(200mg12回),ロピナビル/リトナビル(2錠:200/50mg12回),さらにメチルプレドニゾロン静注(1mg/kg3日間)投与した.胸部単純レントゲンはday4に行ったが異常なし.心臓エコーはday6に行ったが,左心室壁肥厚は改善(中隔は11mm,後壁は10mm),LVEF 44%に改善し,さらに心嚢液は最大8-9mmと少し減少していた.この原稿執筆時点で,患者は入院しているが臨床的にも血行動態的にも改善している.

Disucussion

・呼吸器症状や感染症状を認めないCOVID-19による急性心筋炎を経験した.

・先行する感冒を認め,入院時発熱を認めなかったことなどから,ウイルス感染の遅発性合併症の可能性がある.

・急性心筋炎の原因ウイルスはインフルエンザウイルス,パルボウイルスB-19が多いが,SARS-CoV-2による心筋炎は知られていない.

・局所の心筋炎を疑う患者は,しばしば感冒症状後に胸痛を訴える.

SARS-CoV-2による心筋炎の病因は,呼吸器系から血液・リンパ系を介してのウイルスの自己複製および播種を反映しているかもしれない.しかし,我々が知る限り,心臓からインフルエンザウイルスあるいはコロナウイルスのRNAを証明した報告はない.

一方で,SARS-CoV-2は炎症反応を惹起し心筋障害を引き起こすため,この症例のようにコルチコステロイドの効果があったのかもしれない.

・感冒症状から数日後の発症という経過は,ウイルスが感染した心筋細胞の広がりが免疫反応を活性化させ,心不全を引き起こしている可能性がある.

limitationとしてこの報告は心筋炎の病理像および心臓からウイルスゲノムの証明がない.本症例ははじめの48時間は強心剤によるサポートを行ったが,以降は心不全の治療が主体である.数々の報告があるように,ウイルス性心筋炎は多彩な臨床経過を辿り,致死的不整脈や侵襲的治療を必要とする重症心不全まで様々である.

・もちろん抗ウイルス薬やクロロキンが効いた可能性もある.

・このような症例を知ることが,さらなるサーベイランスに役に立つことを願う.

 

AZeng JH, et al. First case of COVID-19 infection with fulminant myocarditis complication: case report and insights. Preprints 2020. 2020030180 doi: 10.20944/preprints202003.0180.v2

63歳男性.喫煙歴あり(40本,20年).5年来のアレルギー性の咳の既往.高血圧や心血管障害の既往なし.湖北省へ旅行,武漢市に半日来訪.39.3度の発熱と呼吸困難にて病院を受診.低酸素血症,高CO2血症,心電図でST上昇はないが,頻脈あり.心筋逸脱酵素上昇あり.心エコーではLVEF 32%と心機能は著明低下.胸部レントゲン,CTは両側の陰影.この例はIL-6272.40pg/mlと著明高値である.入院時に喀痰のrt-PCR検査でCOVID-19陽性.治療はECMOまで使用.

 

<私見>

Aの症例の胸部CTは両側下葉の中枢がスペアされる非区域性の陰影で,典型的な肺水腫と異なるパターンだが,胸部単純レントゲンだけみると“肺炎±心不全,原因は虚血性心疾患”と考えて,まずは循環器コールをしてしまう症例だと思う.すぐにrt-PCR検査が行えない現状ではかなり危険.@の症例にしてもAの症例にしても,「心臓エコーによる心機能低下」はかなり認知バイアスがかかってしまう(COVID-19を疑わないというバイアス).Aのように発熱があれば,常にCOVID-19は念頭におき,@のような急性心筋炎を疑うときはCOVID-19を念頭に置く必要があると考えさせられた症例であった.急性心筋炎→致死性不整脈→CPAで運ばれてくる可能性もあるだろう.@の症例の経過がもし致死性不整脈でCPAであったなら,CPAになる前は「発熱なし」ということになる.CPA患者の心肺蘇生時のPPE着用は必須だ.