COVID-19関連追加(202044日)

 

COVID-19によるARDSは通常のARDSと異なる可能性】

Gattinoni L, et al. Covid-19 Does Not Lead to a “Typical” Acute Respiratory Distress Syndrome. Am J Respir Crit Care Med 2020 Mar 30 doi: 10.1164/rccm.202003-0817LE.

COVID-19によるARDS患者を観察すると,肺保護のメカニズムと重篤な低酸素血症の間に乖離がある.我々が治療したCOVID-19関連ARDS患者16例において,肺コンプライアンス 50.2±14.3 ml/cmH2Oとシャント率 0.50±0.11は関連があり(Figure 1),通常のARDSではこのような広範なdiscrepancyは観察されない.すなわち,重篤なARDSであるという予想に反してCOVID-19関連ARDS患者の肺コンプライアンスは相対的に高く,肺の空気量が保たれていることを示している

このようなコンプライアンスが低下していない肺で重篤な低酸素血症が起こる,これを説明しうる仮説は,“肺循環の調節・低酸素性肺血管攣縮の喪失”である.我々は,「空気を含まない肺組織の循環量/肺全体の循環量」を「機能的シャント比」と定義し,通常のARDSでは5cm H2OPEEP下で平均1.25±080と報告したが1),今回我々が診療したCOVID-19関連ARDS患者8例は平均3.0±2.1であり,“空気を含まない肺組織の循環量増加(hyperperfusion”が示唆される.もしそうならば,通常ならば酸素化を改善させる肺胞開放手技(リクルートメント)であるHigh PEEPや腹臥位換気は効果が乏しいかもしれない.我々は以下を考慮する必要がある.

@CPAPや非侵襲的人工呼吸器で治療しているものの非常に吸気努力がみられる症例においては,過度な胸腔内陰圧と自ら起こしうる肺傷害を避けるために気管内挿管が優先するべきだ.

AHigh PEEPは肺胞開放が期待できない肺においては,重篤な循環障害や水分貯留を引き起こす.

B腹臥位換気は施行するための多大な労力がかかるが,結果として微々たる効果しか及ぼさない.

人工呼吸器を要する症例に対して我々が出来ることは,最小限のダメージ(可能な限り低いPEEP,やさしい換気)で“時間を稼ぐ”ことである.

1) Cressoni M, et al. Anatomical and functional intrapulmonary shunt in acute respiratory distress syndrome. Critical care medicine 2008.

 

 

 

COVID-19関連追加(202044日)に51日追記しました

 

CARDS: COVID-19 patient with ARDSと血管内皮傷害(Endotheliitis)について】

(1)Marini JJ, et al. Management of COVID-19 Respiratory Distress. JAMA Published online April 24, 2020. doi: 10.1001/jama.2020.6825.

COVID-19の本質は血管内皮傷害による全身病である.

・通常ARDSは非心原性肺水腫,シャント性低酸素血症,空気が入る肺の縮小(固いのではなく小さい,その小さい肺のelasticityは正常)“baby lung”,結果として肺コンプライアンスの低下を特徴とする.このような状況では,High PEEP,リクルートメント手技,腹臥位換気を用いて,虚脱した肺をリクルートメントすることによって換気できる肺のvolumeを増やすことが大切になる.経肺圧(気道内圧-胸腔内圧)の上昇はARDSにとって許容できない肺のストレスを生み出してしまうため,許容できる高二酸化炭素血症とともに相対的な一回換気量を減少させることが,人工呼吸器関連肺傷害(ventilator-induced lung injury: VILI)を最小限にすることができる.

・しかし,ARDS早期において,強い自発呼吸努力が存在すると,それにより高い経肺圧が生じself-induced lung injuryP-SILIを起こす

※ストレス:負荷がかかった局所において外部からの力に対抗するために発生する反対向きの力.

※ストレイン:外的力による構造的な変形をいい,大きさや形の変化と定義.

CARDSの臨床像>

COVID-19によるARDS発症早期は重篤な低酸素血症にかかわらず,肺コンプライアンスは保たれる.呼吸回数は多いのが特徴である.肺浸潤はある程度限定され,初期のCT所見は肺水腫よりもGGOが特徴的である.多くの患者ははっきりとした呼吸困難を示さない

L肺弾性の低下(コンプライアンスの上昇)CTによる算出では肺重量は減少,そしてPEEPに対する反応は低下しているのが特徴である.このステージでは安定していることが多いが,増悪すると典型的はARDSの臨床像に移行する.

HCT所見は広範なconsolidationを呈する.肺弾性の上昇(コンプライアンスの低下)肺重量の増加High PEEPに対する反応が特徴である.

L型とH型は概念的なスペクトラムの両端であり病態はオーバーラップすることもある.

凝固カスケードの活性化:肺や他臓器にミクロ〜マクロな血栓症が広がる(eFigure 1).

eFigure 1:小〜中血管内の血栓と破壊された内皮層(triangle).

肺血管の調節機能不全をきたす不均一な内皮傷害は,換気血流ミスマッチ(最初の低酸素血症の原因)血栓形成を促進する.また呼吸駆動(respiratory drive)が著明に増加すると,患者の呼吸努力によって非常に脆弱な組織に適用されるエネルギー負荷とtidal strainが増強されてP-SILIが肺の炎症過多状態に加わってしまう.このような状況に直面したとき,これらの異なったステージに対して十分に認められている肺保護戦略をとることには根拠がある.そして重要なのは,血管サイド(体液過剰を避ける,心拍出量需要を減らす)に注意を置かないと病態を増悪させてしまうということだ.

 

 

 

 

 

CARDSの肺を保護するために>

・肺コンプライアンスの良好なLARDSには,慣習的にARDSにおいてVILIのリスクを減らすための量より多いTV: tidal volume7-8 ml/kg理想体重)を選択する.例えば,70kgの男性で呼吸器コンプライアンス 50ml/cm H2OPEEP 10cm H2OTV 8ml/kgはプラトー圧 21cm H2O,駆動圧 11cm H2Oを生み出し,これはVILIのリスクとなる閾値よりもはるかに少ない(それぞれ30cm H2O15cm H2O).より大きなTVは再吸収無気肺と高二酸化炭素血症を回避することができる.

血管調節機能不全CARDS早期のキーとなる.低酸素性肺血管攣縮(HPV: hypoxic pulmonary vasoconstrictionは低酸素血症に対する反応として起こるが,このステージの換気血流ミスマッチを起こす内皮傷害のためHPVが起こらない.結果としてより重篤な低酸素血症が生じてしまう.この時の対応として,まず早めにFiO2を増やすことが効果を示すかもしれない.もし不十分ならば,患者の過度な呼気努力を起こさせないために非侵襲的サポート(high-flow nasal O2CPAPBiPAPmildなケースにおいては効果を示すかもしれない.もし酸素投与や非侵襲的サポートによっても呼吸駆動が減らないならば,持続的な強い自発呼吸努力が組織のストレスを増加させ,肺経血管圧(血管内圧-胸腔内圧)の上昇やvascular flows,体液漏洩(fluid leakage)を増加させてしまう(P-SILI.進行性の肺機能低下(VILI vortex)は即座に起こってしまうだろう.早期の気管内挿管,効果的な鎮静(±筋弛緩)がこのサイクルを止めるだろうTargeting lower PEEP8-10cm H2O)は適切であるHigh PEEPによる経肺圧の上昇,吸気呼気比(I/E ratio)の逆転は過剰に伸展されたopen air spacesから血流を排出させ,浸透性の高い微小血管へのストレスを強調し,機能的な肺のリクルートメントの効果を示さない“妥協的な”CO2ガス交換を生み出す.

原病の進行あるいはP-SILIによってLARDSにおける肺水腫が進行したならば,”baby lung”はさらに収縮し,HARDSに進行する.すでに負担がかかっている“baby lung”に人工呼吸の負荷をかけることはその力の曝露と血流を増加させ,肺傷害の可能性を高めてしまう.

・小さくなっている“baby lung”に対するVILI vortexに影響する2つの主要因子がある:air space VILI血管への強いストレスである(eFigure 2).

継時的にVILIとウイルス疾患の進行は炎症と浮腫を惹起し,局所あるいは全体の血栓形成,強力なサイトカイン放出,右心負荷,多臓器不全を促進させる.この進行ステージにおいては,従来の肺保護戦略すなわち,酸素消費を最小限にするHigh PEEP15cm H2O以下),low TV6ml/kg),そして腹臥位換気が推奨される.どのステージにおいてもウイーニングには慎重さが求められる(Table).

 

COVID-19は特徴的な肺傷害を起こす.L型なのかH型なのかを把握することが大切であり,異なった呼吸管理が求められる

 

(2)Endeman H, et al. Progressive respiratory failure in COVID-19: a hypothesis. Lancet Infect Dis April 29, 2020.

https://doi.org/10.1016/s1473-3099(20)30366-2.

COVID-19による呼吸不全患者の管理において,しばしま深部静脈血栓症の進行や凝固亢進による人工透析フィルター詰まりを経験する.そして時に肺血栓塞栓症も経験する.我々は肺血栓塞栓症を発症したCOVID-19患者は,内皮の活性化を伴う凝固能亢進状態にあり,引き続き炎症性サイトカインを放出すると考えている.

凝固能状態と毛細血管透過性の亢進は関連がある.血漿D-dimer> 4μg/mlinterleukin-6 (IL-6)の増加腹臥位換気の反応不良肺血栓塞栓症を示唆するマーカーかもしれない我々はCOVID-19患者90例においてD-dimerIL-6を測定し,予防的に低分子ヘパリン(nadroparin 5700 IU経皮投与を1日に1回あるいは2回)を投与した1).我々は,CT検査で肺血栓塞栓症の疑いが低リスクでも同様の方法をとっている.

1)Tang N, et al. Anticoagulant treatment is associated with decreased mortality in severe coronavirus disease 2019 patients with coagulopathy. J Thromb Haemost 2020; published online March 27. doi: 10.1111/jth.14817.

 

(3)Varga Z, et al. Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. Lancet Published Online April 17, 2020.

https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30937-5.

ACE2は肺,心臓,腎臓,小腸などさまざまな臓器に発現する.またACE2は内皮細胞(endothelial cell)にも発現する

我々は内皮細胞にウイルスが直接感染し,びまん性の内皮炎症を引き起こすことを発見したFigure Dはアポトーシスに関連した内皮機能障害を示している.

・内皮細胞内にウイルスの存在と炎症細胞の蓄積(内皮細胞と炎症細胞の死を伴う)が示された.

ウイルスが直接侵入し,宿主の免疫反応が惹起された結果,SARS-CoV-2感染は多臓器に内皮炎(endotheliitisを引き起こす

 

 

 

COVID-19関連追加(202044日)に53日追加しました

 

COVID-19に関連した低酸素血症:Dual-energy CTによる血管と血流異常】

Lang M, et al. Hypoxaemia related to COVID-19: vascular and perfusion abnormalities on dual-energy CT. Lancet infect J. April 30 2020.

https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30367-4.

 

COVID-19による急性呼吸不全は肺コンプライアンスが保たれているにも関わらず重篤な低酸素血症を呈するという報告が散見され,肺胞傷害以外のプロセスが関与している可能性が示唆されている.COVID-19肺炎の典型的な画像所見は末梢性すりガラス陰影±consolidationであるが,これは非特異的でありその他の疾患でも観察される.COVID-19の重篤な低酸素血症の可能性のある説明として“微小血管の血栓”が注目されている

Dual-energy CTは肺血流を同定することが可能であり,我々の施設では肺血栓塞栓症に対する標準プロトコールの一部として施行される.

我々が経験したCOVID-19患者3例を報告する.いずれも喫煙歴や肺疾患の既往はなく,D-dimer >1000 ng/mlであったため,肺血栓塞栓症を疑いdual-energy CTを施行した.いずれのCTでは肺血栓は認めなかったが,以前に報告されていない際立った血流異常を認めた:retrospectiveに検索してみると少なくとも9例に同様の所見を認めた.典型的なCT所見に加えて,かなりの数の近位あるいは遠位の肺血管の拡張およびねじれ,内側優位,肺陰影周囲,を認めた(Figure.@肺陰影の近位の血流の増加,A肺末梢陰影に一致した末梢血流領域の減少,B末梢consolidationを囲む血流の増加(haloといった肺血流量を反映したdual-energy CT所見が特徴的であった.この肺血管の拡張は,びまん性の炎症プロセスの機能不全の一部としての局所的な血管拡張の過剰活性化状態における生理学的な低酸素性肺血管攣縮反応の低下によるものかもしれない.加えてモザイクパーフュージョンは気管支壁肥厚や気管支分泌物に一致せず,気道病変が低酸素血症の主たる原因ではないと考えられる.それゆえ肺血管の拡張といったこれらの血流異常所見はガス交換が障害された肺内シャントを意味し,結果として換気血流ミスマッチと低酸素血症は増悪する.血流低下を伴った末梢陰影は肺梗塞にみられるが,肺血栓はどのような研究でも観察されておらず,梗塞に陥った領域に対する区域性の血流増加は非典型的である.さらに血流が増加した末梢性haloは肺梗塞では報告されていないが,細菌性肺炎の症例の報告が1つある.しかし我々の3例の血液および喀痰培養はいずれも陰性であり,細菌感染の合併は考えにくい.ウイルス感染よりもCOVID-19に対する免疫反応は細菌感染に類似する可能性があるかもしれない.我々の見解はARDSや血栓性血管疾患としては非典型的であるが,以前は正しく評価されなかった肺血管シャントとして中心的な役割である可能性があるということである.

 

 

【人工呼吸器管理を受けたCOVID-19患者の呼吸病態生理】

Ziehr DR, et al. Repiratory Pathophysiology of Mechanically Patients with COVID-19: A Cohort Study. Am J Respir Crit Care Med. April 29, 2020.

Objective, Methods

USABostonMassachusettsにある2病院(MGHBIDMC)のICU2020311日〜30日に入院し,人工呼吸管理を受けたCOVID-19患者66例の解析.

Results

Median 58歳(23-87歳),男性43例(65%),8例(12%)は基礎疾患に肺疾患あり,22例(34%)はcurrentあるいはformer smokerであった.ICU入院時にARDSBerlin criteriaを満たしたのは56例(85%)で,多くは軽症〜中等症ARDSであった.気管内挿管時,median PEEP: 10 cmH2O (IQR, 8-12),プラトー圧: 21 cmH2O (IQR, 19-26),駆動圧: 11 cmH2O (IQR, 9-12)であり,静肺コンプライアンス: 35 ml/cmH2O (IQR, 30-43),算出した死腔換気率: dead space fraction (VD: dead space/VT: tidal volume): 0.45 (IQR, 0.38-0.58)であった.※動肺コンプライアンス=一回換気量/(最高気道内圧-PEEP),静肺コンプライアンス=一回換気量/(吸気終末ポーズ圧-PEEP).

31例は腹臥位換気を施行した.腹臥位換気直前の背臥位でのP/F: 150 (IQR, 125-183),静肺コンプライアンス: 33 ml/cmH2O (IQR, 26-46)であった.腹臥位換気後は,P/F: 232 (IQR, 174-304)と増加を認め,静肺コンプライアンス: 36 ml/cmH2O (IQR, 33-44)と上昇した.背臥位に戻した後,P/F: 217 (IQR, 149-263),静肺コンプライアンス: 35 ml/cmH2O (IQR, 31-41)であった.初回の腹臥位換気72時間後の通常の背臥位換気では,P/F: 233 (IQR, 167-265),静肺コンプライアンス: 42 ml/cmH2O (IQR, 34-47)であった.72時間以降はmedian 2セッション (1-3)1セッションmedian 18時間 (IQR, 16-22)で腹臥位換気を繰り返した12例(38.7%)は筋弛緩薬が使用された.全ての背臥位換気中の測定ポイントにおけるmedian PEEP: 13 cmH2O (IQR, 12-15)であり,腹臥位換気中は14 cmH2O (IQR, 12-15)であった.

Outcomes2020428日時点での観察期間はmedian 34 (30-49)であった.41例(62.1%)は抜管でき人工呼吸器装着期間はmedian 16 (IQR, 10.0-21.0)であった14例(21.2%)は気管切開を受けた.40例(75.8%)はICUから退室ができた.11例(16.7%)は死亡した

Discussion

・気管内挿管時のP/F比,死腔換気率,静肺コンプライアンスは,今までの大規模コホート研究にあるARDSの所見と一致する.

おおむね正常領域の静肺コンプライアンスの患者はほとんどいなかった

・腹臥位換気における酸素化とコンプライアンスの改善は今までのARDSにおける腹臥位換気の報告と一致する.

・それゆえ,ARDSに進展したCOVID-19患者の早期では,コンプライアンスはほぼ正常範囲で,リクルートメントのしやすさ(recruitability)が欠如するという報告があるが1)2),我々の症例では様相は異なった我々の症例は従来のARDSの管理,すなわちlow tidal volume,体液管理,そして腹臥位換気を行い,30日の観察期間ではあるが全死亡率は16.7%で大多数の患者は抜管でき,ICUから退室できた

limitation:この後ろ向き研究における観察期間は呼吸器病態生理に主眼を置いているため,クリニカルアウトカムを確認できない.

1) Gattinoni L, et al. Covid-19 Does Not Lead to a “Typical” Acute Respiratory Distress Syndrome. Am J Respir Crit Care Med 2020.

2) Gattinoni L, et al. COVID-19 pneumonia: different respiratory treatment for different phenotypes?. Intensive Care Med 2020.

 

私見CARDSL型,L型〜H型の移行,H型との報告があるが,このような従来のARDSの管理でもそれなりに効果を得られるという報告もある.