COVID-19関連追加(2020512日)

 

COVID-19肺炎における肺血管内凝固異常症の免疫学的メカニズム】

McGonagle D, et al. Immune mechanisms of pulmonary intravascular coagulopathy in COVID-19 pneumonia. Lancet Rheumatol. Published May 7, 2020.

https://doi.org/10.1016/s2665-9913(20)30121-1.

COVID-19の病態を理解する重要な論文である.

<概略>

COVID-19患者肺の病態像は,肺胞や間質の著明な炎症と結びつく著明な微小血管血栓と出血であり,これはマクロファージ活性化症候群(MAS: macrophage activation syndromeと病態が類似する.これをびまん性の肺血管内凝固異常症(pulmonary intravascular coagulopathy)として「the lung-restricted vascular immunopathology associated with COVID-19」と命名するが,その早期においては播種性血管内凝固症候群(DIC: disseminated intravascular coagulation)とは様相が異なるフィブリノーゲンと血小板数は正常にもかかわらず,著明なDダイマーの上昇(線溶異常を伴った肺血管床の血栓を反映)と心筋逸脱酵素の上昇(肺高血圧によって起こる緊急的な血管ストレスを反映)が観察され,これはCOVID-19に関連した重症肺血管凝固症の早期の特徴である.早期の段階でCOVID-19ウイルス血症が形成されることなく,広範な肺血管領域に著明な免疫学的血栓形成(immunothrombosis)が起こることは,COVID-19患者の予後不良因子として男性高血圧症肥満,そして糖尿病が挙げられることの理由になる.びまん性に肺胞や肺間質に起こる炎症を背景とした免疫学的メカニズムがMAS様病態を引き起こし,免疫学的血栓形成を惹起する.そしてそれはサブクリニカルな心臓血管疾患を露わにし,MASDICとは異なる病態であることからリウマチ医の専門分野になると考えられる.

<はじめに>

・ヒトコロナウイルス群に対する免疫反応の重症型は,サイトカインストームあるいはマクロファージ活性化症候群二次性血球貪食性リンパ組織球症(sHLH: secondary haemophagocytic lymphohistocytosisとして知られる)を連想させる.

sHLHあるいはMASのキーとなる臨床像は血球貪食と急性の消費性凝固異常症であり,DICへ進展する.

DICCOVID-19に合併するが,最終的な状況一歩手前で観察されることが通常である

・典型的にはsHLHでみられる著明なフェリチン増加を伴う高サイトカイン血症(hypercytokinaemiaは時にCOVID-19肺炎患者でも観察される.

COVID-19肺炎はMASとは異なる>

sHLHあるいはMASはしばしば著明なフェリチン高値(≧10000-100000 ng/ml)を呈する一方で,COVID-19において少なくとも早期は,典型的には血清フェリチンは500-3000 ng/mlである

sHLHMASでは肝合成機能の喪失に続発する凝固異常症を起こす肝機能障害がみられるが,COVID-19には典型的ではない

SARSにみられるびまん性肺胞障害(DAD: diffuse alveolar damageCOVID-19にもみられる.

SARS-CoV-2によるウイルス感染は肺にびまん性炎症を引き起こし,その付近の広範な肺血管ネットワーク傷害が生じる.

・このびまん性でゆっくりとしたCOVID-19肺炎の進行は,臨床像および臨床検査所見においてMASに類似する.

これらの所見は,COVID-19肺炎ではまず肺血管内凝固異常症が起こり,それはDICとは異なることを示唆する

 

 

SARSCOVID-19における肺血管病態像>

・急性呼吸器感染症は心血管関連死の高リスクであり,特に高齢者や基礎疾患で心血管疾患がある患者では速やかに週単位で進行する.

感染によって引き起こされる血管血栓症は,ウイルス感染そのものよりも,キーであるかもしれない

コロナウイルス群はU型肺胞上皮細胞に発現するACE2に親和性を持つこの親和性(U型肺胞上皮細胞と肺血管ネットワークは密接している)と多岐にわたる炎症反応がCOVID-19患者にみられる過剰凝固状態を惹起する

COVID-19肺炎のCTでみられるびまん性の肺胞性変化は気管支肺炎とは異なり,どのように肺微小血管の広範な領域にSARS-CoV-2が干渉するかを示している.

ACE2は自然免疫を調節することが示されてきた.そして野生株に比べて,ACE2が遺伝的に欠損しているマウスは酸吸入後に重篤な肺炎症が惹起されることが示されている.これらの所見は,ACE2調整不全(ACE2 downregulation)が広範な肺胞毛細血管ネットワークの炎症を増悪させうることを示している.SARS spike proteinを注入したマウスは同様の肺病態が引き起こされることは,ACE2の細胞質内への移動(internalization)による受容体の感受性低下(脱感作),それに続くMAS1受容体を介した,ACE2が媒介する免疫調節アンギオテンシン(1-7)ペプチドの生成を抑制が起因している.野生株に比べてACE2欠損マウスはより重篤なインフルエンザ肺炎になることも示されている.理論的には,ヒトにおいても同様のメカニズムが免疫学的血栓形成へ導くことはありえるだろう.

MERS-CoVDPP4受容体(dipeptidyl peptidase 4)を利用して細胞へ侵入するが,この受容体はU型肺胞上皮細胞に限局していない.それにもかかわらず高い死亡率をもってSARS-CoVSARS-CoV-2と同様の病態を示す.DPP4受容体はリンパ球機能をネガティブに調整することが示されており,それは肺血管凝固異常症を引き起こすコロナウイルスに特異的なメカニズムであると考えられるpanel).

 

 

 

 

SARSCOVID-19における肺血管疾患>

SARSDADと肺小血管血栓症だけでなく,より全身の小血管血栓症(フィブリン血栓,小血管閉塞,肺梗塞)を引き起こすことが示されている.

COVID-19肺炎でも同様で,著明な毛細血管血栓症,そして肺高血圧の進行に起因すると考えられる心拡大,右心室拡張を呈することが示されている.

<コロナウイルス心筋炎と冠動脈炎の不十分なエビデンス>

COVID-19における心筋逸脱酵素の上昇は心筋炎冠動脈炎を反映する可能性がある.

SARS-CoV-2感染では血液中にRNAは検出されず,わずか6/42例(15%)のとどまり,全身のウイルス感染症というよりも肺胞上皮細胞とその周囲の組織が病態の中心であるという議論があるFigure 2).

・心血管のACE2の役割は肺病態とCOVID-19肺炎の結びつきよりも先行する.げっ歯類におけるACE2の遺伝的欠損は心室収縮不全と関連があるが,心筋障害や心筋線維化とのエビデンスはない.肺におけるACE2機能不全と炎症亢進は,ACE2が発現している心筋細胞および冠動脈内皮に対するコロナウイルス感染が同様の炎症病態を引き起こすことを示唆している.

・しかし,剖検で心臓組織からウイルスを検出できたのは1/3であり,ウイルス性心筋炎の特徴であるミオサイトの壊死やリンパ球浸潤のエビデンスは示さなかったという報告もある

COVID-19肺炎における心臓障害の病態には,低酸素血症に関連したMAS様病態や二次性肺高血圧症だけでなく,背景にある高血圧や肺血管内凝固異常症といった心血管合併症の観点からの評価が必要である.

MAS様病態の一部である高サイトカイン血症は,ウイルス血症とは独立してACE2発現を変化させうる

MAS様病態のキーとなるサイトカインの1つにインターフェロンγがあり,これは上皮細胞のACE2発現調整不全を引き起こすことが示されているしかし,この所見の心臓細胞における報告はない.それゆえ,内皮細胞を含んだ心臓組織における今まで報告された変化は直接的なウイルス感染よりも,むしろサイトカインと低酸素血症の影響を示している可能性がある

 

 

<早期の肺血管内凝固症を示す臨床検査所見>

COVID-19肺炎の早期のキーになる臨床検査所見は,BNPCK,トロポニンTといった心筋マーカーの上昇とともにみられる血清Dダイマーの上昇である.トロポニンTDダイマーを含むフィブリン分解産物の上昇は予後不良マーカーと報告されている.

Dダイマーの1μg/mlを超える上昇は死亡におけるオッズ比を18倍上昇させる.非生存群に著明なDダイマー,フィブリン分解産物の上昇が認められる.

・しかしDダイマーの上昇にもかかわらず,典型的なCOVID-19は明らかなDICに進展しない.明らかなDICに進展するCOVID-19の稀な症例においては,DICが観察されるのは晩期に限定される傾向がある

COVID-19においてDダイマーの著明な上昇にもかかわらず,血小板数やフィブリノーゲン数が減少しないこともこの所見を示唆する

これらの患者においてフィブリノーゲンが上昇したままであるということは,急性相の反応が進行していることを示唆する

COVID-19の病態における著明な肺の炎症と血栓>

・重症COVID-19敗血症はMASに類似し,炎症マーカーの上昇フェリチンの上昇が認められ,これは肺血管内皮細胞の活性化を意味する.

たとえばIL-1IL-6,そしてTNFtumor necrosis factorは急性に肺血管内皮細胞を活性化することが知られている

内皮細胞は正常の止血において線溶機能を調節するという重要な役割を果たす.そして,肺微小血管の血管壁の浸透性の亢進や局所の内皮細胞機能不全は結果としてCOVID-19凝固異常症,換気血流不均等,そして治療抵抗性ARDSフェノタイプに至る血栓炎症過程(thromboinflammatory processes)において重要な役割を果たす

COVID-19に関連したMAS様病態は内皮細胞やマクロファージ,好中球に活性化した凝固因子を発現させる.その結果,凝固カスケードの活性が増幅される.

・重要なことは,内皮細胞破壊,凝固因子の発現,凝固カスケードの活性化は,局所の低酸素血症によって増悪するということである.

・重篤な肺炎とARDSにみられる気管支肺胞構造内のトロンビン産生とフィブリン沈着は強い炎症と関連し,それらはプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1PAI-1: plasminogen activation inhibitor 1)による線溶機能の低下とともに肺胞内の凝固因子発現の過剰調節によって促進される.

・プラスミン産生増加を伴った過剰に活性化された線溶異常を示唆する報告もある.プラスミンとプラスミノーゲンの上昇はCOVID-19に対する脆弱性の危険因子かもしれない

低酸素血症は肺小血管血栓症に影響するかもしれない

陽圧人工換気は,傷害された肺胞内皮細胞バリアを通してウイルス核酸や蛋白放出を促進する結果,医原性に免疫学的血栓形成を促進し予後不良に至らせる可能性があることを認識しなければならない.

・ウイルスあるいは加齢によるタイプ1インターフェロン産生障害は炎症性サイトカインの第2波そして肺血管内凝固異常症に本質的に影響する凝固因子発現に関連があると考えられる.

 

 

 

 

 

 

<肺血管内凝固異常症が示唆すること>

・凝固調節不全を念頭においた抗凝固薬による治療が報告されている.

・重症例における抗カルジオリピン抗体の発現の報告がある.

・治療量よりも予防量としての低分子ヘパリンによる治療は全生存には寄与しなかったが,SIC: sepsis-induced coagulopathy scoreが高値である群やDダイマーが正常上限の6倍より高値である群においては生存を改善した報告がある1)

DICでは血栓と線溶異常は同時に起こりうるし,肺血管内凝固異常症でも同様のことが起こりうる(Figure 3).

抗サイトカイン療法について.例えばIL-1αとIL-1β経路を遮断するanakinra選択的にIL-1βを遮断するモノクローナル抗体であるcanakinumab,などが肺血管内凝固異常症を伴うCOVID-19関連MASに有効な治療法であるかどうか現時点では明らかではない.

ウイルスに対する適切な免疫反応の結果として早期に起こる凝固・線溶異常を治療のターゲットにするのか,あるいは肺血管内凝固異常症の進行を抑えるための過剰な炎症反応を治療のターゲットにするのか,不明な点が多い

この肺血管内凝固異常症モデルは,“ACE2が過剰に発現したミオサイトや内皮細胞へのウイルス感染に続発した心臓障害(COVID-19関連心筋炎や冠動脈炎)”から“心筋虚血障害を伴った多面的な肺血管血栓症”の方向へ着眼点を変えるきっかけになる

COVID-19肺炎患者において数日の経過を経て起こる免疫学的血栓形成は,背景に肥満や高血圧症,U型糖尿病といった心血管危険因子をもった患者に起こりやすいと考えられる.そして,病態はARDSの進行に伴って併発する心血管虚血病変によって複雑になる

MAS様病態の形成が特徴的な,COVID-19パンデミック,これは緩やかに肺の免疫学的血栓形成を進行させ,サブクリニカルな心血管疾患の存在を露わにする.

びまん性の肺胞への感染,自然免疫機構の活性化,ACE2発現の調節不全,そして著明なウイルスに対する免疫反応,これらは臨床的にMASが明らかでなくても広範な肺の免疫学的血栓傾向を引き起こすpanel).

肺血管内凝固異常症または肺の免疫学的血栓形成が起こることによって,たとえCOVID-19の早期において全身のウイルス血症が存在していなくても,心血管疾患のようなCOVID-19肺炎の危険因子の存在が予後を不良にすると我々は考えている.

1) Tang N, et al. Anticoagulant treatment is associated with decreased mortality in severe coronavirus disease 2019 patients with coagulopathy. J Thromb Haemost 2020; published online March 27. doi: 10.1111/jth.14817.