COVID-19関連追加(2020520日)

 

【韓国におけるコールセンターにおけるクラスターの報告,

アメリカにおける合唱団におけるクラスターの報告,ドイツにおける旅行者から拡大した感染伝播の報告の3編】

(1)Park SY, et al. Coronavirus Disease Outbreak in Call Center, South Korea. Emerg Infect Dis. 2020.

https://doi.org/10.3201/eid2608.201274.

韓国のコールセンターにおけるCOVID-19アウトブレイクの報告.202038日,オフィスビルXで働いていた1人のSARS-CoV-2感染が判明した(以前に報告されていたクラスターと関連).行政はこのオフィスビルにおける濃厚接触者の調査を始めた.このビルは19階であり,1階から11階はオフィス,13階から19階は居住区で構成されていた.オフィスで働いていた922人,居住区の203人と来訪した20人が同定された.コールセンターは7階から9階,そして11階にあり,811人が働いていた.従業者は他の階への往来はなく,社内レストランはない.

1143人がCOVID-19の検査を受け,97人の感染が判明した(8.5%, 95% CI, 7.0%-10.3%)(Figure 1).そのうち94人は従業員216人を有する11階のコールセンターで働いており,2発症率は43.5%95% CI, 36.9%-50.4%)であった(Table 1Figure 2有症状者における家庭内2発症率は16.2%95% CI, 11.6%-22.0%)であった(Table 2COVID-19感染が確定した97人のうち,4人(1.9%)は14日間の隔離期間中,無症状であり,彼らの家庭内濃厚接触者で発症した者は認めなかった

Discussion

・オフィスビルX全体では2発症率8.5%だが,11に限定すれ2発症率43.5%あった.SARS-CoV-2はコールセンターのような「密な環境」では簡単に感染拡大することを示唆している

オフィスビルX内のエレベーターやロビーといった共有スペースでの従業員同士の接触があったにもかかわらず,感染者の多くが11階に限局していたことは「接触の時間」が感染拡大に寄与することを示唆している

・このアウトブレイクにおける有症状者による家庭内2次発症率は16.5%であり,従来の報告と一致する結果であった.

・無症状者が感染拡大に寄与するかどうかは重要なポイントである.このケースでは確定例97人のうち無症状者は4人(4.1%であり,ある数理モデルでは無症状感染者は30.8%と算出されており1),これより頻度は低かった.一方で中国,北京市の指定病院に入院したCOVID-19患者のうち5%13/262)が無症状感染者であったと報告されている2).今回のケースはコミュニティにおける無症状COVID-19感染者の比率を表しているかもしれない.そして無症状感染者の家庭内濃厚接触者は17人であったが,いずれも2感染を起こしていない.無症状あるいは前症状感染者は感染伝播の原因になると言われているが,我々はこのコホートに対して38日以降指示してきた厳格な自己隔離,検疫方針によって,無症状感染者からの感染伝播は認めなかった.無症状感染者に対して感染の可能性の情報を与えることにより家族から自己隔離を促すことができるため,全ての疑い例に対する拡大スクリーニング検査は無症状感染者からの感染伝播を防ぐことができるだろう.

 

Table 1

IMG_4192  IMG_4193

 

 

IMG_4194

korean

 

1) Nishiura H, et al. Estimation of the asymptomatic ratio of novel coronavirus infections (COVID-19). Int J Innfect Dis. 2020; S1201-9712(20)30139-9.

2) Tian S, et al. Characteristics of COVID-19 infection in Beijing. J Infect. 2020; 80: 401-6.

 

(2)Hamner L, el al. High SARS-CoV-2 Attack Rate Following Exposure at a Choir Practice-Skagit County, Washington, March 2020. Morbidity and Mortality Weekly Report. May 12, 2020. Vol. 69.

2020317日,ワシントン州,スカジット郡の合唱団のメンバー122人が不調を訴えた.3人(2人はスカジット郡出身,1人は他エリア出身)はSARS-CoV-2 PCR陽性だった.他の25人も典型的な症状が認められた.保健所は318日から調査を開始した.310日の合唱の練習に参加していた61人(1人は症状を認めていた)のうち53人が同定され,33人がSARS-CoV-2陽性,20人が疑い例であった(確定例では2次発症率は53.3%,全例では2次発症率は86.7%)であった.合唱団の平均年齢は69歳で女性が85%であった.確定例53人のうち3人が入院し(5.7%),2人が死亡した(3.7%).2.5時間の合唱の練習時間の中で,メンバーは密に接触し,軽食をシェアし,椅子の片づけなど,飛沫あるいはfomitesを介した感染伝播の可能性があった歌う行為」そのものがエアロゾルを介した感染伝播に寄与し,発声の大きさが影響することが示唆されている1).またsuperspreadingイベントが多数報告されている2)-5)確定例53人のうち49人(92.5%)は311日〜15日に発症しているため,単回曝露イベントが考えやすい(Figure33日の練習から発症までの間隔はmedian 10日間(range 4-19日間),そして310日の練習から発症までの間隔はmedian 3日間(range 1-12日間)であった.310日の練習には33日の練習に参加したメンバーも多く参加していた.33日に参加していたメンバーの発症リスクは参加していなかった者に比べて17倍(95% CI 5.5-52.8),しかし310日以降の発症リスクは同日参加していなかった者に比べて125.7倍(95% CI 31.7-498.9)であった.以上より,310日が単回曝露イベントであった可能性が強く示唆され,37日に発症していたメンバーがindex caseと考えられる

 

 

choir1

Superemitterと考えられるメンバーが他のメンバーよりも会話等を介してより多くのエアロゾルを発生させていた可能性がある座席表をみてもindex caseから距離に依存して感染が広がっており,エアロゾル感染の可能性があるかもしれない

mm6919e6_ChoirPracticeCOVID19_IMAGE_12May20_1200x675-medium

 

1) Asadi S, et al. Aerosol emission and superemission during human speech increase with voice loudness. Sci Rep 2019; 9: 2348.

https://doi.org/10.1038/s41598-019-38808-z.

2) Wang D, et al. Clinical characteristics of 138 hospitalized patients with 2019 novel coronavirus-infected pneumonia in Wuhan, China. JAMA 2020; 323: 1061-9.

https://doi.org/10.1001/jama.2020.1585.

3) McMichael TM, et al. Epidemiology of COVID-19 in a long-term care facility in King County, Washington. N Engl J Med 2020; NEJMoa2005412.

http://doi.org/10.1056/NEJMoa2005412.

4) Ghinai I, et al. Community transmission of SARS-CoV-2 at two family gatherings-Chicago, Illinois, February-March 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2020; 69: 446-50.

https://doi.org/10.15585/mmwr.mm6915e1.

5) South Korean city on high alert as coronavirus cases soar at ‘cult’ church. The Guardian, US Edition. February 20, 2020.

 

(3)Bohmer MM, et al. Investigation of a COVID-19 outbreak in Germany resulting from a single travel-associated primary case: a case series. Lancet Infect Dis. May 15, 2020.

https://doi.org/10.1016/s1473-3099(20)30314-5.

BackgroundMethods

20201月下旬にドイツ,バイエルンを訪れた中国人滞在者から始まった4つのSARS-CoV-2感染伝播経路を調査した.接触者を高リスク,低リスクと層別化した(高リスク:感染者と15分以上の対面接触,感染者の分泌物や体液との直接接触,医療従事者においてはPPE着用せずに感染者の2m以内で業務;低リスク:それ以外).

高リスク接触者は積極的に経過観察しながら14日間の自宅隔離を指示し,低リスク接触者は症状の自己申告に応じて検査を行った.発熱と咳をCOVID-19に特異的な症状と定義した.そして,特異的な症状を認める前に少なくとも1日間,非特異的な症状を認めた場合を前駆相(prodromal phase)と定義した.流行疫学的なリンクを確定させ,接触歴が曖昧な感染曝露イベントを明らかにするために全ゲノムシーケンスを行った.

Findings

Patient 0は仕事でドイツを訪れた中国人滞在者であり,続いて感染した16例(軽症,あるいは非特異的な症状を認めた)を通して4つの感染伝播経路に認められた(Figure).ウイルスゲノムの著明な変異は伝播経路2に認められた(経路41例を含む).ウイルスは2つの変異(G6446AC22323T)を獲得しており(Table 2),観察された変異率は2変異/29903ヌクレオチド/11日間であり,2.2 x 10-3変異/site/年に匹敵する潜伏期間はmedian 4.0日(IQR 2.3-4.3であり,世代間隔serial intervalmedian 4.0日(IQR 3.0-5.0であった.伝播イベントは前症状期間中に1例(恐らくは5例以上),発症時に4例(恐らくは5例以上),そして残りは発症以降に起こったと考えられる.1あるいは2例は前駆相の接触で感染している.一緒に隔離していた家庭内接触者において2次発症率は75.0%95% CI, 19.0-99.0; 3/4例)感染者の隔離まで一緒にいた家庭内接触者において2次発症率は10.0%95% CI, 1.2-32.0; 2/20例)であった.一方,家庭外の高リスク濃厚接触者における2次発症率は5.1%95% CI, 2.6-8.9%; 11/217例)であった.

Table 2

Figure

Figure thumbnail gr1

Interpretation

この調査における患者は軽症,非特異的症状であったが,感染は発症前あるいは発症時に起こっていた.そして潜伏期間はしばしば非常に短くPCR検査の偽陰性が起こりうる

 

【補足:感染症疫学用語の整理】

潜伏期間<<世代間隔serial intervalならば,症候性期間に感染性期間を認めるということになるが,COVID-19のように潜伏期間≧世代間隔serial intervalだと無症状あるいは前症状の時に感染性があるということになるので,簡単に感染が拡大することになる

 

状態

ratio

割合proportion

rate

疾患morbidity

相対リスクrelative risk

オッズ比odds ratio

率比rate ratio

発生率incidence rate

有病率prevalence

発症率attack rate

人時発生率person time incidence rate

死亡mortality

死亡罹患比

death-to-case ratio

致死率

case fatality rate

死亡率mortality

 

 

Sporadic:ある感染症が,ある特定の地域で,不規則に,断続的に発生している状態.

Endemic:ある感染症が,ある特定の地域で,常に一定の発生率で存在している状態.風土病.

Epidemic:ある感染症が,ある特定の地域で,通常の頻度を明らかに超えて発生している状態.

OutbreakEpidemicと同義であるが,より限局的なエリアでの発生に.

PandemicOutbreakが国を超えて世界の複数の地域で発生している状態.

インデックスケースindex caseOutbreakが発生したとき,探知のきっかけとなった症例.後に続く積極的疫学調査により,それよりも前に発症者が見つかることも少なくない.

クラスターcluster:一定の期間の一定の場所での発症者の集積.累計が通常より大きいかどうかは問わない.

率比rate ratio2つの率の比.被曝露群での発症率に対する曝露群の発症率などに用いる.

人時(観察人年)person time人数と時間を組み入れた考え方コホート研究を行うときに,数年間の調査期間中に死亡したりその地域から転出したりして,追跡できなくなることがある.このような場合,観察期間中のすべての年数(月数,日数)を足し算した数字をperson timeとする

発生率・罹患率incidence rete:ある疾患が一定の期間内に新規発生した件数を対象となる人工で割った値.

人時発生率person time incidence rate分母をperson timeにしたときの新規発生率.例えば医療機関における耐性菌の新規検出数をその月の延べ入院日数patient daysで割った値.1000延べ患者あたりで表現されることが多い.人時罹患率,発生密度率も同義.

有病率prevalence:ある疾患の,ある期間での罹患している人数を人口で割った割合.

点有病率point prevalenceある時点での罹患している人数(新規発症+すでに発症)をある時点での人数で割った割合.

期間有病率period prevalence:ある期間での罹患している人数(新規発症+すでに発症)をある期間内の人数で割った割合.

発症率attack rateある感染症の流行期間中に,一定期間,一定の場所で新規発症した人数を人口で割った割合.曝露された人の中で,発症した人の割合は2次発症率secondary attack rateという.

 

指標

分子

分母

粗死亡率crude mortality rete

一定の期間,一定の場所での死亡者数

一定期間のあるエリアでの人数(人口)

死因別死亡率cause specific mortality rate

一定の期間内,一定の場所でのある疾患による死亡者数

一定の期間内,一定の場所での人数

致死率case fatality rate

一定の期間にある疾患に罹患した人の中で,その疾患が原因で死亡した人数

一定の期間にある疾患に罹患した人数

死亡罹患比death-to-case ratio

一定の期間にある疾患が原因で死亡した人数

一定の期間にある疾患を発症した人数

(感染症疫学ハンドブック,医学書院より)