COVID-19関連追加(2020521日)

 

BCG仮説について最新の論文2編(45日,514日の内容に追加)】

(1)O’Neill LAJ, et al. BCG-induced trained immunity: can it offer protection against COVID-19? Nature Reviews Immunology. May 11, 2020.

http://doi.org/10.1038/s41577-020-0337-y.

Bacillus Calmette-GuérinBCG)ワクチンは呼吸器感染症に対する脆弱性を低下させる.これは自然免疫メカニズムの長期増強による調節効果によるものであり,「trained immunity」と呼ばれる.COVID-19は今後数年間は定着し,検疫が緩んだ時に定期的に流行し,冬季にはより拡散するだろう.効果的なワクチンの開発には少なくとも1218ヶ月はかかるだろう.BCGワクチンはCOVID-19ワクチンへの橋渡しとなるかもしれない.

 

BCGは自然免疫をリプログラムする>

1920年代にヨーロッパでBCGが開発されて以来,BCGワクチンは乳児の死亡率が減少した報告が相次ぎ,これは結核罹患の減少のみでは説明がつかないと言われている.RCTでもBCGによって乳児の死亡率が50%減少したという報告がある1).これは何らかの感染性病原体,特に呼吸器感染と新生児敗血症に対する防御機構によるものと推測される.またBCGRSウイルス感染罹患率を低下させるという報告もある2).そして日本でも高齢者の肺炎に対して防御機構の報告がある3).南アフリカの報告では,BCGワクチンによって青年の呼吸器感染症が70%減少したことが示されている4)BCGワクチンによるウイルス感染への防御機構を示す(Figure 1a).

マウスを使った動物実験によってBCGはマクロファージ依存性にインフルエンザウイルス量を減少させることが示されており,BCGによる防御効果はマクロファージによって調節され,宿主防御として自然免疫へのBCGの影響が示唆されている.またマウスへBCGを経静脈投与することによって,様々な病原体に対して脾細胞および腹腔マクロファージからのサイトカイン産生が増加することが示されている.

BCGワクチンは様々な病原体によって単球が刺激された時に,IL-1β,TNFIL-6など炎症性サイトカインの産生を増強する.これらの効果には,骨髄細胞の転写エピジェネティックス(=後天的に決定される遺伝的な仕組み),メタボリックなリプログラミングが伴う.これらのエピジェネティックな変化はメチル化やアセチル化といったヒストン修飾によって起こり,結果としてクロマチンのアクセビリティが高くなり,抗細菌反応や細胞機能の改善に寄与する遺伝子の転写が促進される.加えて,メタボリックなリプログラミングの結果,エピジェネティックな変化で産生された様々な酵素の作用によって,これらのプロセスを調節する代謝産物を選択的に蓄積したり消費したりする(Figure 1b).

BCGワクチン接種後の自然免疫細胞への長期にわたる変化の結果,自然免疫の記憶が誘発される,これを「trained immunity」というTrained immunityBCGワクチンが誘発する少なくとも1つの効率的なメカニズムといえよう.この考えは,おそらくはBCG接種が骨髄中の単球あるいはナチュラルキラー細胞にエピジェネティックな変化を与えるというものである.病原体関連分子パターン(PAMPs: pathogen-associated molecular patterns)を介して,これらの自然免疫細胞は免疫応答し宿主防御を促進する.

BCGワクチンは黄熱ワクチン接種後の健常者のウイルス血症を減少させることが示されている5)これはBCGワクチンによって誘発されたtrained immunityは多くのウイルス感染に対する防御反応を引き起こすことを示唆している

 

BCGワクチンはCOVID-19に対抗するツールとなりうるか>

BCGワクチン接種後に何年もtrained immunityをもった単球のプールが維持されるかは不明であるが,BCG接種を受けた子供たちがSARS-CoV-2に対する防御機構を持ち,高齢者へ感染を拡大しないことはありうる

BCGワクチンがCOVID-19に対する防御機構を持つかどうかのRCTが必要である.医療従事者などの高リスク群を対象に,現在オランダ,オーストラリア,ギリシャで臨床試験が開始されている.アメリカ,イギリス,デンマーク,フランス,ウルグアイ,タンザニア,ウガンダ,南アフリカでも計画されている.

BCGによる自然免疫反応のブーストはどうなのか.COVID-19の過剰免疫反応によるサイトカインストームが報告されている.しかし,trained immunityによってブーストされた免疫機構は,ウイルス複製を抑制し,ウイルス量を減少させて,結果的には炎症と症状の改善に寄与するだろうBCG接種後の黄熱ワクチンによるウイルス血症の減少がそれを支持する5)

我々はBCGワクチンによるtrained immunityCOVID-19に対しての防御として働く仮説を支持する.しかしその確認にはRCTが必要だ.Trained immunityにはBCGのみに拘る必要はない.例えば,ポリオワクチン,the new recombinant BCG-based vaccine VPM1002など.BCG(あるいはtrained immunityを惹起するもの)を12年間の橋渡しで使った結果としてCOVID-19の特異的なワクチンが開発されるだろう(Figure 1c).

 

 

1) Aaby P, et al. Randomized trial of BCG vaccination at birth to low-birth-weight children: beneficial nonspecific effects in the neonatal period? J Infect Dis 2011; 204: 245-252.

2) Stensballe LG, et al. Acute lower respiratory tract infections and respiratory syncytial virus in infants in Guinea-Bissau: a beneficial effect of BCG vaccination for girls community based case-control study. Vaccine 2005; 23: 1251-1257.

3) Ohrui T, et al. Prevention of elderly pneumonia by pneumococcal, influenza and BCG vaccinations [Japanese]. Nihon Ronen Igakkai Zasshi 2005; 42: 34-36.

4) Nemes E, et al. Prevention of M.tuberculosis infection with H4:IC31 vaccine or BCG revaccination. N Engl J Med 2018; 379: 138-149.

5) Gursel M, Gursel I. Is global BCG vaccination-induced trained immunity relevant to the progression of SARS-CoV-2 pandemic? Allergy 2020.

https://doi.org/10.1111/all.14345.

 

(2)Miyasaka M. Is BCG vaccination causally related to reduced COVID-19 mortality? EMBO Mol Med. May 7, 2020.

doi: 10.15252/emmm.202012661.

COVID-19罹患率と総死亡数は国のBCG義務接種プログラムの存在と強く相関しているCOVID-19による総死亡数が少ない(40人未満/100万人)8カ国のうち7カ国は6つに分かれたBCG株のいずれかを義務接種しているTable 1.対照的にBCGが義務接種されていないか,あるいは高リスク群のみ接種している国においてはCOVID-19死亡率が高い.またBCG接種を広く行っていても20年を超えて中止している国,定期的あるいは一時的にBCG Denmark株を使用している国においては死亡率が高い.ここでBCG接種とCOVID-19死亡率の因果関係,そしてなぜBCG株が死亡率と関係がありそうなのかという疑問が生じる.

 

 

BCG1921年にフランスのパスツール研究所で開発され,研究者を冠した菌(Bacillus Calmette-Guérin:カルメットとゲランの菌)の頭文字をとったものである.結核菌に対する牛型結核菌:Mycobacterium bovisの毒性を弱めた生ワクチンであり,日本では生後1歳になる前に(通常は生後5カ月から8カ月)1回,皮内に注射する.BCGは様々な病原体に対しての防御を強めるheterologousは免疫効果を発現する(Hirve et al, 2012.様々な臨床的・実験的データから感染に対して自然免疫と獲得免疫の効果を高めるという仮説がある(Netea et al).自然免疫において,BCGは炎症性サイトカイン(例えば,IL-1IL-6TNF)がエンコードされる遺伝子のプロモーター領域におけるヒストン修飾とエピジェネティックなリプログラミングを促進させる.この過程は「trained immunity」と呼ばれる.

BCGが開発された後,オリジナルのワクチン株は世界中に広がった.広がりの過程において,「初期株early strains」と「後期株late strains」に分かれる(Figure).注目すべきことは,初期株に分類されるBCG JapanBCG RussiaCOVID-19の低い死亡率と関連が示唆され,一方でBCG Denmark株のような後期株はCOVID-19に対する防御は減弱している可能性が示唆されることである

 

BCGの初期株と後期株はツベルクリンに対する遅発型免疫反応を惹起する作用は同等ということが示されているが(Table 2; Ladefoged et al, 1976),続く研究ではこれらの株は遺伝子的あるいはフェノタイプ的に異なることが示されている.BCG Denmark株のような後期株が初期株から遺伝子的に変異していることがDNA fingerprint法で示されている(BehrSmall, 1999).また別の研究では,これらの変異によって後期株がいくつかの膜タンパク質(MPB64MPB70MPB83など)の発現を喪失していることが報告されている.さらに後期株ではmethoxymycolateのような細胞壁関連脂質(cell wall-associated lipids)が欠如している一方で,phthiocerol dimycocerosatesPDIMs)やphenolic glycolipidsPGLs)は保持されている(Table 2; Chen et al, 2007, Liu et al, 2009).他の研究では初期株であるBCG Japan株とBCG Russia株は多くの細菌(bacterial count)を含んでいることが示され(Table 4; WHO Technical Report, 1979),初期株は後期株よりも「trained immunity」を誘導する能力が高い可能性がある

BCG Japan株とBCG Denmark株の末梢血リンパ球におけるサイトカイン産生能力を比較した2つの研究がある.1つはアフリカの研究であり,BCG Denmark株に比較すると,BCG Japan株はCD4+T細胞とCD8+T細胞の増殖が強く,Th1サイトカイン(interferon-γ,TNF-α,IL-2)をより産生し,一方でTh2サイトカイン(IL-4)の産生はより少なかったことが示された(Davids et al, 2006).もう1つはメキシコで行われた研究であり,BCG Denmark株に比較すると,BCG Japan株を接種した小児の末梢血単核細胞においてより多くIL-1α,IL-1β,IL-6,そしてIL-24が産出されることが認められた(Wu et al, 2007).これらの結果はBCG Denmark株よりもBCG Japan株はより効率よく炎症性サイトカインを産生することを示している

これらの結果は正確なメカニズムはわからないもののBCG Japan株のような特別なBCG株はM.tuberculosisのみならず,何らかの病原体に対して効率よく免疫反応を促進させる可能性を示唆しているしかし,フィンランドとオーストラリアはBCG初期株がCOVID-19の罹患・死亡率を減少させるという仮説に否定的である.両国はBCG接種プログラムを数年前に中止しているが(フィンランドは2006年,オーストラリアは1980年代中期),現在義務接種している国と比較しても100万人あたりのCOVID-19死亡率は低い.それゆえ,もしBCGが死亡率の抑制に関与していたとしても,単一の要素でないことは確かであるフィンランドとオーストラリアの特徴は,充実した医療システムと人口密度の低さが関係しているかもしれない(人口密度が低いとソーシャルディスタンスはより効果的である)

最後に,今まで述べてきた研究はいずれも観察研究であり,BCGワクチンとCOVID-19の重症度や死亡率との正確な因果関係はわからない.いくつかの国において,医療従事者におけるSARS-CoV-2に対するBCGワクチンの臨床研究が始まっているが,スペイン,イタリア,そしてフランスといった流行国でも感染者は10/1000人未満であることから少数の研究では明確な結果をだすことは難しいだろう.倫理的な問題もある.よって,SARS-CoV-2に感染したフェレットを用いた動物実験(Kim et al, 2020)によりこの仮説を検証することが望まれる.