COVID-19関連追加(2020523日)

 

(1)ヒドロキシクロロキン・クロロキン(±マクロライド)の多国間観察研究(Lancet),

(2)セレンとCOVID-19の予後の関係,(3)ビタミンDCOVID-19 の予後の関係の3編】

 

(1)Mehra MR, et al. Hydroxychloroquine or chloroquine with or without a macrolide for treatment of COVID-19: a multinational registry analysis. Lancet. May 22, 2020.

結論:暫定的な観察研究であるが,クロロキンあるいはヒドロキシクロロキン,単独あるいはマクロライド併用によるCOVID-19入院患者に対する治療は有益ではなく,心室性不整脈の発現リスク,院内死亡率リスクと関連があり有害になりうる

Methods

6大陸,671の病院のCOVID-19入院患者96032例(mean age 53.8, 女性46.3%)多国間登録データを用いた観察研究で,内訳は治療群14888例(クロロキン1868例,クロロキン+マクロライド3783例,ヒドロキシクロロキン3016例,ヒドロキシクロロキン+マクロライド6221例),コントロール群81144例である.診断から48時間以内にいずれかの治療を始めた患者を選択し,診断から48時間以降あるいは人工呼吸器管理中の治療,レムデシビルを投与された患者は除外した(Figure 1).メインアウトカムは院内死亡率潜在性心室性不整脈の発現(非持続型あるいは持続型心室頻拍あるいは心室細動)とした

Figure 1

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Findings

多くの交絡因子で調節したコックス比例ハザードモデルの結果(年齢,性別,人種・民族,BMI,心血管疾患,糖尿病,肺疾患,喫煙,免疫抑制状態,重症度),死亡率はコントロール群(9.3%)に比較して,ヒドロキシクロロキン(18.0%; hazard ratio 1.335, 95% CI 1.223-1.457),ヒドロキシクロロキン+マクロライド(23.8%; 1.447, 1.368-1.531),クロロキン(16.4%; 1.365, 1.218-1.531),そしてクロロキン+マクロライド(22.2%; 1.368, 1.273-1.469)は院内死亡率増加リスクと独立して関連を認めた(Figure 2.そしてコントロール群(0.3%)に比較して,ヒドロキシクロロキン(6.1%; 2.369, 1.935-2.900),ヒドロキシクロロキン+マクロライド(8.1%; 5.106, 4.106-5.983),クロロキン(4.3%; 3.561, 2.760-4.596),そしてクロロキン+マクロライド(6.5%; 4.011, 3.344-4.812)は入院中の潜在性心室性不整脈発症リスクと独立して関連を認めた

Figure 2

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Figure 3

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Limitation

観察研究であり,薬物治療と生存の因果関係を推測するべきではない.またこの結果は,外来・院外の状況には適応されない.COVID-19に対してこれらの薬が有益なのが有害なのか結論を出すためにはRCTが必要であろう.一方で,我々はQT間隔や不整脈パターン(torsade de pointesなど)は調査していない.そしてこれらの薬で治療した患者と院内死亡率増加の関係が彼らの心血管疾患リスクに直接的に結びつくかどうか,あるいは観察されたリスクにおける薬物用量の影響の分析は行っていない.

 

(2)Zhang J, et al. Association between regional selenium status and reported outcome of COVID-19 cases in China. Am J Clin Nutr 2020; 00: 1-3, May 19, 2020.

doi: 10.1093/ajcn/nqaa095/5826147.

中国の北東から南西にかけてセレンという微量元素が少ない地域がある.1990年代にBeck研究室から宿主のセレン欠乏はコクサッキーウイルスB3やインフルエンザAのようなRNAウイルスの毒性を増加させるという報告が出された.またセレン摂取が少ない人は世界で最大10億人存在すると考えられており,中国北東部のセレン欠乏地域において若い女性や小児が罹患する心筋症としてケシャン病が風土病として知られている.この疾患は季節依存性があり,コクサッキーウイルスB3のようなウイルスが関与している可能性が示唆されている.セレンを摂取することによって,大幅にケシャン病の罹患率が減少したことが報告されている.セレンの抗ウイルス効果の報告は散見され,セレン蓄積の状態がCOVID-19の予後と関連性を検討した.

 

湖北省外の都市におけるセレン蓄積の状態(髪のセレン含有量)とCOVID-19治癒率が有意に相関していたR2= 0.72, F test p< 0.0001.セレン蓄積の状態のデータは湖北省内ではわずか二都市でしか得られなかったので,湖北省内の都市における検討は行わなかった.

 

 

(3)Ilie PC, et al. The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality. Aging Clinical and Experimental Research. May 6, 2020.

https://doi.org/10.1007/s40520-020-01570-8.

ビタミンDCOVID-19に対して防御作用があるかどうかを検証した.調査は地域差によるバイアスを考えヨーロッパ地域に限定した.各国の1人あたりの平均ビタミンD濃度を文献的に調査し1)COVID-19感染者数,死亡者数との関連を検討した(Table 1Figure 1).

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Figure 1平均ビタミンD濃度average 56.79 nmol/L, STDEV 10.61と人口100万人あたりのCOVID-19感染者数は負の相関が認められたaverage 1393.4, STDEV 1129.984, r(20)= -0.4435; p= 0.050.また平均ビタミンD濃度とCOVID-19死亡者数は負の相関が認められたaverage 80.42, STDEV 94.61, r(20)-value= -0.4378; p= 0.05

 

The European Calcified Tissue Society Working Groupは重症ビタミンD欠乏を血清25(OH) D <30 nmol/L12 ng/mL)と定義している2)

※活性型ビタミンD3製剤としてカルシトリオール1,25-dihydroxyvitamin D3®ロカルトロールなどがある.

The Seneca studyは高齢者の平均血清ビタミンD濃度は,スペイン:26 nmol/L,イタリア:28 nmol/L,北欧諸国:45 nmol/Lと報告している.スイスのナーシングホームにおける平均ビタミンD濃度は23 nmol/Lであり,イタリアの70歳以上の女性の76%の平均ビタミンD濃度は23 nmol/Lであった.これらの国はCOVID-19感染者数が多い.また高齢者はCOVID-19感染と死亡の高リスク群である.

ビタミンDは食事からは十分に摂取することが困難であり,日光に当たることによって皮膚で合成される.日照曝露と皮膚合成酵素の減少が原因で,ビタミンDは年齢(70歳以上)で減少する 3).南欧諸国は平均血清ビタミンD濃度が低い(太陽光レベルが高いにもかかわらず.日光を避ける傾向があるため?)が,北欧諸国はビタミンD濃度が南欧諸国より高い(肝油cod liver oilや乳製品を摂取するため?).

ビタミンDはインフルエンザウイルスをはじめ呼吸器感染症に対して防御作用を持つことが報告されている4)カルシトリオール(1,25-dihydroxyvitamin D3)はACE2の発現とともに,ACE2/Angiotensin(1-7)/Mas受容体軸を活性化する5)ACE2SARS-CoV-2の細胞内侵入の原因になる受容体であるため,この知見はむしろ感染のリスクを高めるようにみえるが,ACE2はコロナウイルス感染の予後と関連し,むしろ肺傷害に対して防御的に作用するという報告がある6).ビタミンDは感染における免疫機構において様々な役割を果たしている.ビタミンD欠乏はマクロファージの成熟能を障害する報告7)や,病原体などを認識するTLRtoll様受容体)はビタミンDの影響を受ける報告8)がある.ビタミンDはマクロファージの機能を調節し,マクロファージがあまりに多くの炎症性サイトカインやケモカインを放出するのを防ぐよう作用している9)

1) Cannell JJ, Vieth R, Umhau JC et al (2006) Epidemic influenza and vitamin D. Epidemiol Infect 356:1129–1140. 

https://doi.org/10.1017/S0950268806007175

2) Lips P, Cashman K, Lamberg-Allardt C et al (2019) Current vitamin D status in European and Middle East countries and strategies to prevent vitamin D deficiency: a position statement of the European Calcified Tissue Society. Eur J Endocrinol 180:23–54

3) Adami S, Bertoldo F, Braga V et al (2009) 25-Hydroxy vitamin D levels in healthy premenopausal wome: association with bone turnover markers and bone mineral density. Bone 45:423–426.

4) Martineau Adrian R, Jolliffe David A, Richard HL et al (2017) Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory tract infections: systematic review and meta-analysis of individual participant data. BMJ 356:i6583

5) Cui C, Xu P, Li G et al (2019) Vitamin D receptor activation regulates microglia polarization and oxidative stress in spontaneously hypertensive rats and angiotensin II-exposed microglial cells: role of renin-angiotensin system. Redox Biol 26:101295.

 https://doi.org/10.1016/j.redox.2019.101295

6) Kuka K, Imai Y, Penninger JM (2006) Angiotensin-converting enzyme 2 in lung diseases. Curr Opin Pharmacol 6:271–276

7) Abu-Amer Y, Bar-Shavit Z (1993) Impaired bone marrow-derived macrophage differentiation in vitamin D deficiency. Cell Immunol 151:356–368

8) Gruber-Bzura BM (2018) Vitamin D and influenza-prevention or therapy? Int J Mol Sci 19:2419. 

https://doi.org/10.3390/ijms19082419

9) Helming L, Böse J, Ehrchen J et al (2005) 1alpha,25-Dihydroxyvitamin D3 is a potent suppressor of interferon gamma-mediated macrophage activation. Blood 106:4351–4358