COVID-19追加(202074日)

SARS-CoV-2の2つの主要系統(clade),“サイトカインストーム”は本当か,について2編.

COVID-19の重症度を決定する因子を探せ】

NEWS AND VIEWS. Marios Koutsakos Katherine Kedzierska. A race to determine what drives COVID-19 severity. Nature. June 29, 2020.

doi: 10.1038/d41586-020-01915-3.

COVID-19患者が重症化するかどうかを決定するヒト側あるいはウイルス側の因子を見つけるための努力が続けられている.2つのウイルス主要系統(clade)と関連のある臨床的なエビデンスが,この謎を解く鍵となる知見を与えてくれる.

ZhangらはSARS-CoV-22つの主要な系統の進化に関するデータと,中国・上海におけるSARS-CoV-2感染患者326人の解析から得られた疾患重症度のヒト宿主決定因子に関する情報をNature誌に報告した1)SARS-CoV-2は武漢市の海鮮市場で広がったと考えられており,市場で売買されている“感染している生きた動物”から新しいウイルスが種を超えて現れたことが示唆されている.うろこ状のアリクイであるマレーシアンパンゴリンが中間宿主ではないかと疑われたが,この保護された生き物が当時市場で売買されていたかどうかは不明である.しかし,武漢で201912月上旬に何例か発生したCOVID-19症例と,市場との明らかな関連性は認めなかった

Zhangらは,20201月または2月に医療機関を受診した上海在住の人から得たサンプルにおける94検体のSARS-CoV-2のすべてのゲノム配列を分析し,これらのデータをウイルスの他の221個の配列と比較した.今回の結果は,中国で発生したSARS-CoV-22つの主要な系統(clades)が,発生初期の段階で確認されていたことを支持する.これらの系統は2つの特徴的なヌクレオチドの違いによって分別され,上海(武漢から車で約800kmの距離にある)の人々に感染したSARS-CoV-2は複数の起源を持つことが示唆された.

2つの系統をcladeT(L型)cladeU(S型)と命名する(Figure 1).これらはおそらく共通の祖先から独立して進化したものと思われるが,ゲノム上の2つの部位でしか違いがないため,互いにどのように関係しているのかという点に関して祖先は不明である.一つの相違点は,ウイルス蛋白質ORF884番目のアミノ酸残基をコードする配列の中の特定のヌクレオチドである.ヌクレオチドがチミン塩基(cladeT)を有する場合,配列はロイシンをコードする;もしシトシン塩基(cladeU)を有する場合,配列はセリンをコードする.もう一つの相違点は,遺伝子ORF1abのヌクレオチドにあり,このヌクレオチドはシトシン(cladeT)またはチミン(cladeU)のいずれかを含み,結果として得られるヌクレオチド配列は両方ともセリンをコードしている.

Zhangらは,SARS-CoV-2系譜におけるcladeTをもって武漢市場クラスターへリンクが確定している6人,そして市場クラスターへのリンクが明確ではないcladeUによる3人のからウイルス遺伝子を示した.これらのデータは,海鮮市場がパンデミックの起源ではなかったかもしれないという考えを支持している.その代わりに,cladeTとcladeUが共通のウイルス祖先に由来し,同時に独立して広まったことを示唆している;cladeTは海鮮市場を介して,そしてcladeUはそれ以外で.動物からヒトへの感染は別の場所で発生した可能性があり,その感染が海鮮市場に広がった後,制御不可能な感染拡大につながったかもしれない.限られた数のウイルス亜種がランダムに感受性の高い集団が存在する地域に入り込むと,その地域でのウイルス亜種の優位性が促進されるという,「founder effect: foundeとは開祖,設立という意味」で説明することができる.

しかし,Zhangらは,2つのcladeのいずれか,あるいはsubcladeの変異の間に,そしてCOVID-19の重症度を分類するために評価した臨床的なパラメータの間に,関連性を見出せなかった.この発見は驚くべきことではないが,SARS-CoV-2遺伝子の約30000のヌクレオチドのうち,これらのcladeはわずか2つのヌクレオチドいしかないことを考えると,異なる系統というものが,必ずしも異なる臨床転帰につながる異なるウイルス株を示しているわけではないという事実を強調している.

Zhangらは,2つのSARS-CoV-2系統の感染による臨床転帰に違いがないことを明らかにし,疾患の重症度に寄与する因子を同定するために,ヒト宿主における免疫系機能の様々なパラメータを分析した.

著者らは,患者を4つカテゴリーに分類した;無症状例とは,発熱や呼吸器症状がなく,X線検査が正常な患者.軽症例とは,発熱と炎症の徴候があり、X線検査で肺炎を認めた患者.重症例とは,呼吸困難を認め,X線検査でGGOを呈した患者.致死例とはARDSを呈し人工呼吸管理が必要な患者とした.Zhangらは,高齢,基礎疾患,および男性が,主な重症化の要因である可能性を示した

血液サンプルの分析から,重症例の特徴の一つはリンパ球減少(免疫反応に関与する)の数が異常に少ないことであった.このリンパ球減少は,CD3+T細胞と呼ばれる特定のタイプのリンパ球の枯渇によるものであった著者らは,これらのT細胞が血液から組織の感染部位に移動したことを反映している可能性が高いと考えている

また,炎症性サイトカインであるIL-6IL-8の値が異常に高いのも重症例の特徴であった.高レベルの炎症性サイトカインは,一般的にサイトカインストームと呼ばれる激しい免疫応答を引き起こす.肺に存在するマクロファージは,IL-6およびIL-8を産生し,呼吸器感染症におけるサイトカインストームの最初の細胞メディエーターであることが多い.しかしながら,COVID-19に起こりうる遷延するサイトカインストームに寄与する正確な細胞集団は確定していない.

IL-6またはIL-8の増加リンパ球数の減少との間の逆相関は,重症化した疾患のこれらの特徴を結びつける根底にあるメカニズムを示唆している.しかし,これらのサイトカインレベルとリンパ球減少との間に因果関係があるかどうかを確立するためには,さらなる研究が必要である.注目すべきは,これら2つのパラメータの変化の時間軸が一致していないことであるT細胞の枯渇は疾患が顕在化した最初の週から明らかである一方で,サイトカインストームはCOVID-19が重症化した後に起こる.また,リンパ球減少もサイトカインストームはCOVID-19に限ったものではない.いずれも,鳥インフルエンザウイルス,SARSなど,多くのタイプの重症呼吸器感染症の特徴である.COVID-19に特異的な免疫学的特徴を明らかにするためには,より詳細な細胞・分子解析が必要である.

CD3T細胞の枯渇や炎症反応の亢進などの免疫防御の変化の根本的な原因とメカニズムを解明することは,COVID-19の臨床的・分子的特徴を明らかにすることと同様に,治療戦略や効果的なワクチンを開発するために重要なことである.

 

Figure 1

Figure 1: Assessing the relationship between coronavirus lineages and COVID-19 severity.

Zhangらは,2020年初頭にSARS-CoV-2に感染した中国・上海の人々を調査した.

a: Zhangらが同定したコロナウイルスゲノム配列は,cladeT(L型)およびcladeU(S型)と呼ばれる2つの系統に属していた.これらは,2つのヌクレオチドが異なっており,おそらくは共通の祖先から独立して進化したと考えられる.cladeTは,最初の発生源と考えられていた中国武漢市の華南海鮮市場にリンクするいくつかの症例と関連していた.しかし一方で,著者らは市場との関連を持たないclade Uによる感染を発見した.2つの系統が同時に独立して広がった可能性がある.

b: Zhangらは,患者を重症度に応じて4つの群に分類した(無症状群から重症群(人工呼吸管理が必要)まで).どちらのcladeも,異なる疾患群の原因となる可能性があった.疾患の重症度が増すほど,CD3+ T細胞と呼ばれる免疫細胞の枯渇と,炎症性サイトカインであるIL-6IL-8が上昇していた.サイトカインレベルが高いと,サイトカインストームとして知られる激しい免疫反応を引き起こす可能性がある.

1) Zhang, X. et al. Nature https://dx.doi/10.1038/s41586-020-2355-0 (2020).

 

【果たしてサイトカインストームはCOVID-19と関連があるのか?】

Editorial. Sinha P, et al. Is a “Cytokine Storm” Relevant to COVID-19? JAMA Intern Med. June 30, 2020. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.3313.

SARS-CoV-2は,生命を脅かす肺炎とARDSを引き起こす.COVID-19に関連したARDSによる死亡率は40-50%と言われている.COVID-19によって誘発される肺傷害のメカニズムはまだ解明されていないが,サイトカインストームという言葉は,科学的な出版物やメディアの両方で,その病態生理と同義語になっている.COVID-19に対する有効性についての説得力のあるデータがないが,IL-6活性を標的とするモノクローナル抗体であるトシリズマブやサリルズマブなどが患者の治療に使用されている;これらの薬剤の臨床試験では,一般的にはサイトカインストームがその根拠として挙げられている(NCT04306705NCT04322773).

サイトカインストームには定義がない.広く言えば,インターフェロン,インターロイキン,tumor necrosis factors,ケモカイン,および他のいくつかのメディエーターの放出によって特徴づけられる過剰な免疫反応を指す.これらのメディエーターは,感染性因子の効率的な排出に必要な自然免疫応答の一部である.サイトカインストームは,放出されたサイトカインのレベルが宿主細胞に有害であることを示唆している.しかしながら,重篤な疾患の病態生理において,適切な炎症反応と異常な炎症反応を区別することは非常に困難である.さらに複雑なことに,サイトカインストームに関与するほとんどのメディエーターは多面的な下流効果(pleotropic downstream effects)を示し,その生物学的活性は相互に依存していることが多い.これらのメディエーターとそれらが関与する経路の相互作用は,直線的でも一様でもない.さらに,それらの定量化されたレベルは反応の重症度を示唆しているかもしれないが,必ずしも病因を示唆するものではない.このような複雑な相互作用は,単一のメディエーターを基づいた急性炎症反応に対して見境なく時間をかけて干渉することの限界を示している

なぜ“サイトカインストーム”が,COVID-19と非常に密接に関連してきたのか?SARS-CoV-1が原因のSARS流行期において,サイトカインストームという用語が特徴とされ,有害な臨床転帰と関連していたと報告された.COVID-19のいくつかの初期の症例シリーズでは,いくつかの血漿サイトカインのレベルが正常範囲を超えて上昇していることが報告されている.しかし,それらの多くは,以前に報告されたARDSのコホートにおける血漿レベルよりも低い炎症性サイトカインであるIL-6は,急性炎症性反応およびサイトカインストームと称される現象の重要なメディエーターであるTableは,COVID-195つのコホート(いずれも100人以上の症例)とARDS3つのコホートで報告されたIL-6レベルをまとめたものである.中央値は,多くの(すべてではないが)症例で正常範囲を超えているが,ARDSで一般的に報告されている中央値よりも低いThe National Heart, Lung and Blood Institute’s ARDS Networkが実施した無作為化臨床試験における中央値は,重症COVID-19患者のみを考慮して比較しても,その約1040倍の値であるARDSの過剰炎症状態をもつフェノタイプ(hyperinflammatory phenotype of ARDS)は,炎症性サイトカインレベルの上昇,ショック発症率の増加,および有害な臨床転帰によって特徴づけられる.このフェノタイプの特徴は,サイトカインストームで予想されるものとよく一致している.しかしながら,ARDSの過剰炎症状態をもつフェノタイプにおけるIL-6レベルの中央値は,重症COVID-19患者におけるレベルよりも10~200倍高いTable

根拠がないサイトカインストーム理論はさておき,より関心のある疑問は,COVID-19の臨床転帰は,循環するIL-6レベルが比較的低いにもかかわらず,なぜこれほどまでに不幸な転帰を辿るのかいうことである.一つの仮説は,COVID-19による重症ウイルス性肺炎が,ほとんどのCOVID-19患者において同様の全身性反応を示すことなく,一元的に重症肺傷害を起こすというものである(これはARDSの過剰炎症状態をもつフェノタイプの先行研究で報告されている).例えば,最近のCOVID-19関連ARDS患者の剖検報告では,インフルエンザ関連ARDS患者の剖検肺に比べて頻度が9倍の肺胞微小血栓といった重度の血管障害が示されている.現在進行中の研究により,COVID-19が惹起する肺傷害の特異的なメカニズムが明らかになる可能性がある.

これらの観察にはいくつかの限界がある.ほとんどすべてのCOVID-19に関するIL-6レベルの測定値は臨床検査で得られたものである.多くの研究では,使用された正確な方法の詳細がわからない;キャリブレーションの問題は,以前のARDS研究で使用されたELISAenzyme-linked immunosorbent assay)法に基づく測定値と比較して,IL-6レベルを過小評価することにつながる可能性がある.さらに,サイトカインの血漿レベルは肺の炎症を代表するものではないかもしれない.世界的に広がるCOVID-19患者数を考えると,IL-6レベルのデータはごく一部の患者から得られたものである.それにもかかわらず,サイトカインストーム理論はこれらのデータに基づいており,COVID-19におけるサイトカインストームの存在を示すケースは根拠が弱いように思われる.より適切な結論は,他の原因によるARDSと比較して,COVID-19は循環するサイトカインの反応レベルが低いことが特徴であるということであろう.しかし,おそらく最も妥当な結論は,現在のデータがCOVID-19における調節が障害されたサイトカインの反応の正確な役割を結論づけるには,証拠が不十分であるということである

COVID-19におけるサイトカインストームという用語が広く受け入れられたことで,臨床試験でも,compassionate useにおいても,強力な免疫調節薬の使用が進んでいる.IL-6阻害薬や高用量コルチコステロイドなどのこれらの薬剤は,宿主の免疫応答にとって重要な経路を遮断する.モノクローナル抗体薬の多くは,最適な薬物動態が長時間の半減期を必要とする慢性炎症性疾患の患者の治療に用いられている.急性期重症患者の炎症反応を長期間にわたって見境なく抑制することは,SARS-CoV-2のウイルス排出を障害したり,二次感染のリスクを高めることが懸念される.COVID-19における免疫調節薬を用いたアプローチの促進は,サイトカイン放出症候群(CRS: cytokine release syndrome)(しばしばサイトカインストームの代替用語である)の臨床経験に大きく起因しているようである.Maudeらによる2016年のCRSに関する研究では,キメラ抗原受容体T細胞による治療(CAR-T細胞療法)後にCRSを発症した患者にトシリズマブが投与され,有効であったことが示されている.特筆すべきは,CRSを発症した患者の血漿中IL-6レベルのピークは約10000pg/mLであり,重症COVID-19患者で報告されているレベルの約1000倍であったことである.これらの治療法はCOVID-19に有効であるかもしれないが,成功の可能性は適切な介入のタイミング,適切な患者の選択がポイントになるだろう.

デキサメタゾンがCOVID-19ARDS患者の生存率を改善する可能性があるという報告があることを考えると,これらの効果がARDSのフェノタイプで異なるかどうか,また循環している炎症性サイトカインの反応が強くないにもかかわらず有益であるかどうかを判断すべきである.もしそうであれば,デキサメタゾンに関する追加情報は,肺におけるCOVID-19の肺における局所炎症性応答を研究することの重要性をさらに高める.

これらの理由から,COVID-19 関連ARDSにおいては,サイトカインストームという用語は誤解を招く可能性がある.推測されるサイトカインストームにおける循環メディエーターレベルの上昇は,発熱,頻脈,頻呼吸,低血圧を引き起こす内皮機能障害全身性炎症に起因する可能性が高い.このような一連の症状は,全身性炎症反応症候群として知られる重症患者の治療においてすでに長い歴史があり,何十年にもわたって敗血症を定義するために使用されてきた.敗血症における単一のサイトカインを標的とした介入も残念ながら長い間失敗してきた歴史がある.サイトカインストームという言葉はドラマチックなイメージを連想させ,主流派や科学メディアの注目を集めているが,現在のデータはその使用を支持するものではない

Table: Plasma Levels of Interleukin-6 Reported in COVID-19 Compared With Levels Previously Reported in ARDSa