COVID-19関連追加(202077日)

 

COVID-19に関連した凝固異常における内皮傷害】

Goshua G, et al. Endotheliopathy in COVID-19-associated coagulopathy: evidence from a single-centre, cross-sectional study. Lancet Haematol. June 30, 2020.

https://doi.org/10.10106/s2352-3026(20)30216-7.

Background

COVID-19に関連した凝固異常は重要な臨床所見であり,血栓性微小血管合併症で特徴づけられる.これまでの研究では、COVID-19関連凝固障害における内皮細胞傷害の役割が示唆されている。COVID-19関連凝固障害の病態に内皮傷害が関与しているかどうかを判断するために,COVID-19で入院した重症患者および非重症患者における内皮細胞および血小板活性化のマーカーを評価した.

Methods

この単一施設横断的研究では,ICUまたは非ICUCOVID-19専門病棟に入院した18歳以上の成人COVID-19患者を対象とした.また入院していない無症状患者を,基準範囲を持たないバイオマーカーの比較対照群として募集した.von Willebrand FactorVWF)抗原可溶性トロンボモジュリン可溶性P-セレクチン可溶性CD40リガンドを,内皮細胞および血小板活性化のマーカーとして,ならびに凝固因子,endogenous anticoagulants,線溶系酵素(fibrinolytic enzymesを評価した.ICU群,非ICU群,および対照群において,各マーカーのレベルを比較した.これらの臨床検査結果と,退院および院内死亡率といった臨床転帰との相関を評価した.生化学マーカーと生存率との関連をさらに調べるために,Kaplan-Meier分析を用いた.

ICU群と非ICU群間の重症度を最大限に分けて,可能な限りバイアスを減らすために,気管内挿管されたICU患者と酸素投与が必要な最小限のICU以外の患者を優先的に含め,無作為に患者を選択した.多くのICU患者は人工呼吸器管理であり,非ICU患者はすべて3L/分以下の酸素療法を受けていた.

Results

成人患者68人(ICU患者48人,非ICU患者20人),さらに正常範囲が標準化されていない内皮細胞および血小板バイオマーカーの測定のための比較対照群13人(男性5人,女性8人,平均年齢48歳[SD 10range 30-65])が対象であった.臨床血液検査は,2020413日〜24日まで行われた.基礎疾患は,肥満,高血圧,高脂血症,糖尿病が一般的であり,全患者の半数に認められた(Table 1).活動性の悪性腫瘍3人(4%),肝硬変3人(4%),肝移植が行われた肝硬変1人(1%)であった;これらは,すべてICU群に含まれていた.予防的抗凝固療法を受けていた患者は41例(60%),中用量抗凝固療法(エノキサパリン0.5 mg/kg12回,※®クレキサン:低分子ヘパリン)を受けていた患者は13例(19%)、治療的抗凝固療法を受けていた患者は11例(16%)であった;抗凝固療法を受けていなかった患者は3例(4%)であった2人を除くICU患者全てを含む48人(71%)の患者は,凝固因子測定前にトシリズマブを投与されていた.解析されたすべての患者の特徴において,性別のみがICU群と非ICU群間で分布に有意な差を認めた(男性, ICU33 [69%] vs ICU8 [40%]).

凝固因子,内因性凝固因子(endogenous anticoagulants),線溶系酵素の測定(Figure 1)では,PAI-1はほぼ全体的に上昇しており,ICU患者,非ICU患者ともにα2-アンチプラスミン活性は維持されていた.ICU患者ではVWF抗原,VWF活性,第VIII因子活性が上昇しており,それぞれ16例(80%),15例(75%),18例(90%)で正常範囲を超えていたこれらのレベルはICU患者でさらに上昇し,35人(73%)のICU患者でVWF活性が検出限界を超えていた(Figure 1Endogenous anticoagulantsについては,ICU患者と非ICU患者のアンチトロンビン活性,プロテインC活性,プロテインS活性は,概ね正常範囲に維持されていた(Figure 15人(7%)の患者でアンチトロンビン活性が70%以下であり,全員がICUに入院しており,肝硬変、細菌性または真菌性の敗血症を有していた.研究コホート全体において,D-ダイマーとTATの濃度は上昇しており,ICU患者では非ICU患者と比較して有意に高値を示した(Figure 1.また,研究コホート全体において,D-ダイマーとTATは有意に相関していた(r=0.49, p=0.0001

 

 

Figure 1: Comparisons of select haemostatic factors in ICU vs non-ICU patients

 

 

COVID-19患者でVWF抗原および活性が上昇しており重症患者においてレベルがさらに上昇していた.よって内皮細胞傷害および血小板活性化について検討するために,追加の血漿バイオマーカーを調べた.可溶性P-セレクチン(内皮細胞および血小板活性化のマーカー)sCD40L(血小板およびT細胞活性化のマーカー)、および可溶性トロンボモジュリン(内皮細胞活性化のマーカー)を,ICU患者40人および非ICU患者10人,および比較対照13人で測定した(Figure 2).可溶性P-セクレチン(r=0.36, p=0.012)と可溶性トロンボモジュリン(r=0.48, p=0.0005)はともにVWF抗原と有意な相関を示したVWF抗原と可溶性トロンボモジュリンの両方が全患者の死亡率と有意な相関を示した(両者ともr=0.38, p=0.0022, p=0.0078.そして,ICU患者に限定して解析しても,可溶性トロンボモジュリンは死亡率と有意な相関関係を認めた(r=0.37, p=0.024

 

Figure 2: Comparisons of endothelial cell and platelet activation markers in ICU patients, non-ICU patients, and controls

 

可溶性トロンボモジュリンを測定した50人で,median 3.26 ng/mLIQR 2.6-12.4であり,この値を用いて,可溶性トロンボモジュリン低レベル群(< 3.26 ng/mL)と可溶性トロンボモジュリン高レベル群(> 3.26 ng/mL)に各25人ずつ2群に分けた低レベル群は22人(88%)が退院した,一方高レベル群は13人(52%)が退院した(χ2検定p=0.0050可溶性トロンボモジュリンを測定したICU患者40人のうち,可溶性トロンボモジュリン低レベル群は,可溶性トロンボモジュリン高レベル群に比べて,退院できる人が多かった17人中14人[82%] vs 23人中11人[48%]; χ2検定 p=0.026生存分析では,可溶性トロンボモジュリン高レベル群と比べて,可溶性トロンボモジュリン例レベル群では院内死亡率は低かった(全体: hazard ratio HR 5.9, 95%CI 1.9-18.4; ICU: HR 4.5, 95%CI 1.5-14.0; Figure 3

 

Figure 3: Kaplan–Meier curve of survival and soluble thrombomodulin concentration

 

Discussion

本研究は,COVID-19入院患者の特徴として,内皮傷害と血小板活性化が重要であることを示唆したこれまでの研究では,VWFの上昇はICU患者でのみ報告されてきたが,我々は非重症COVID-19患者でもVWFが上昇していることを報告した.また,重症患者ではVWFがさらに上昇し,可溶性P-セレクチンとsCD40Lが対照群と比較して増加していることも示した.これらの結果は、COVID-19関連凝固障害では内皮傷害血小板活性化が特徴的であり,疾患の進行に重要な役割を果たしている可能性があることを示唆するものである.

我々の知る限りでは,内皮細胞傷害の特異的マーカーである可溶性トロンボモジュリンCOVID-19患者の退院の可能性,そして死亡率と関連があることを示唆したのは本研究が初めてである.この所見はさらなる検証が必要である.可溶性トロンボモジュリンは内皮細胞膜貫通型の糖タンパク質であり,内皮細胞が傷害された時に放出される.健常者では,循環するトロンボモジュリンは、膜結合型トロンボモジュリンの生理的な切断および脱落によって産生されると考えられている.対照的に,過剰炎症状態では,可溶性トロンボモジュリン濃度の上昇は,内皮細胞の直接的な損傷による二次的なものと考えられている.可溶性トロンボモジュリンが糖尿病などの疾患における凝固カスケードや線溶に及ぼす影響も報告されている.COVID-19における内皮細胞の傷害または死を契機とした,トロンボモジュリンの脱落および病理学的な排出の相対的寄与については、さらなる研究が必要であるが,可溶性トロンボモジュリンがCOVID-19における死亡率の予測マーカーであるという結果は,重症患者においてVWFおよび可溶性P-セレクチンが特異的に増加していたという観察とともに,COVID-19患者における重症化および死亡への進行において,内皮傷害が重要なイベントであるという考えを支持するものである

COVID-19患者において抗線溶性のα2-アンチプラスミン活性が保持されているという結果は,本研究および他の研究で観察された内因性抗凝固活性(アンチトロンビン活性,プロテインC活性,プロテインS活性)が保持されていることと合わせて,COVID-19関連凝固異常はDICdisseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固症候群)とはメカニズムが異なるという考えを支持するものである.PAI-1IL-6の上昇と関連しており,重症ARDSでの役割が示唆されている. 重症および非重症COVID-19患者におけるPAI-1上昇は,PAI-1の主要な供給源としての内皮細胞の役割を考えると,内皮傷害としての根拠をさらに支持するものであるまたPAI-1の上昇はCOVID-19関連凝固傷害において古典的な線溶が抑制される可能性を示唆している.組織およびウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーターおよびプラスミノーゲンレベルの測定は,このことをさらに評価するのに役立つかもしれない.

したがって我々は,COVID-19関連凝固障害は,VWF放出の増大,血小板活性化,そして過剰凝固状態をもたらす内皮傷害であり,静脈血栓症動脈血栓症,および微小血管血栓症といった臨床的な血栓症の症状につながると考えている.この内皮傷害および血小板活性化の原因となる因子は不明であるが,内皮細胞への直接のウイルス感染,免疫反応が活性化した結果としての組織傷害,補体活性化,そして炎症性サイトカインを含む可能性がある.

内皮細胞と血小板の中心的役割は,敗血症性ショック,ARDS,造血幹細胞移植後の静脈閉塞性疾患などの重篤な疾患の形態で特徴づけられており,内皮傷害および血小板活性化のマーカーの増加が観察されている.またDICも内皮細胞および血小板の活性化を伴うものであるが,DICにおける凝固カスケードの持続した活性化,そしてそれに続くendogenous anticoagulant(内因性抗凝固因子)の消費の結果の一部をみても,COVID-19関連凝固障害とはメカニズムが異なる.敗血症性ショックでは,VWF抗原と活性の上昇は,超大型のVWF multimersを小型のVWFに切断するADAMTS13メタロプロテアーゼの減少を伴い,DICとは異なるメカニズムで血栓性微小血管症を引き起こす.この研究において,ICU患者ではADAMTS13濃度を測定していないが,同様に低下しているだろうと考えている.

この研究における内皮傷害と血小板活性化の知見は,トロンビン生成を標的とした従来の抗凝固療法に加えて,抗血小板療法または内皮細胞の修飾が治療標的として有望であることを示唆している.これまでのところ,レトロスペクティブ研究でもプロスペクティブ研究でも,COVID-19の臨床転帰に関してのアスピリンの有益な効果は確認されていない。しかしながら,ジピリダモール,デフィブロチド,エクリズマブ,および内皮細胞修飾作用を有する薬剤は有益である可能性があるかもしれない.この研究における,可溶性トロンボモジュリンがCOVID-19患者の死亡率を予測する可能性があるという結果を考慮すると,可溶性トロンボモジュリンの測定は,これらの治療から最も恩恵を受ける可能性のある患者を特定するのに有用であろう.しかし,このマーカーの予後予測の可能性はさらに検証されるべきである。

Limitation:サンプルサイズが小さいこと,年齢,基礎疾患,入院期間にばらつきがあることによる患者群の不均一性,および本研究の目的である各患者の臨床検査値が入院中に一度だけの評価であったこと,および単一施設での研究であったことによる一般化させるには限界があることなどが挙げられる.また,トシリズマブが,特にICU患者に広く投与されていたことから,この研究ではICU患者の内皮傷害の程度が過小評価されている可能性がある.最後に,COVID-19における血小板活性化の程度を検討するためには,可溶性P-セレクチンおよびsCD40L濃度の上昇の結果以上の,血小板活性化のさらなる証拠が必要である.

Conclusions

VWFPAI-1,可溶性トロンボモジュリン,可溶性P-セレクチン,およびsCD40Lを測定したところ,COVID-19関連凝固異常の病態生理において,内皮傷害血小板活性化が重要な因子である可能性があることがわかった