COVID-19関連追加(2020724日)

 

【無生物(fomites)接触による感染伝播リスクの誇張について】

Emanuel Goldman氏の意見.

Professor of Microbiology, Biochemistry and Molecular Genetics, New Jersey Medical School - Rutgers University, Newark, NJ 07103, USA

 

Goldman E. Exaggerated risk of transmission of COVID-19 by fomites. Lancet Infect Dis. July 3, 2020. doi: 10.1016/s1473-3099(20)30561-2.

現実の状況とほとんど一致していない研究に基づいてfomites(無生物の表面または物体)によるSARS-CoV-2感染の臨床的なリスクが想定されている.

非常に大きなウイルス力価サンプル(107個の感染性ウイルス粒子)をfomitesに接種することによって行われた実験では,SARS-CoV-2の最長生存期間は6日であった1).他の研究でも4日間の生存期間が報告されているが,同様にfomitesにおける同様の大きなサンプル(106個の感染性ウイルス粒子)が用いられている2)van Doremalenらの報告では、SARS-CoVSARS-CoV-2の生存期間は,SARS-CoVSARS-CoV-2はいずれも,fomites上では2日間,実験室で生成されたエアロゾル上では3日間であったが,同様に大規模な接種(エアロゾル中の感染性ウイルス粒子は105-107/mlfomitesの感染性ウイルス粒子は104/ml)を行った結果であったことが示されている3).さらに別の研究では,細胞溶解液中のかなり大きなウイルス(103 plaque-forming units)を接種されたfomites上のcoronavirus 229Eの生存期間は長い(5日)ことが明らかになっている4)しかし,精製されたウイルスや半精製されたウイルスよりもむしろ細胞溶解液を使用することによって,初期にウイルスが増殖することが可能になり,サンプルが乾燥するのを保護できた可能性がある

これらの研究はいずれも実生活に近いシナリオを提示しているわけではない.患者からのエアロゾル飛沫中のコロナウイルスを定量できなかったが,エアロゾル中のインフルエンザウイルスRNAにおいては,飛沫中の10-100個のウイルス粒子に相当する濃度が測定されてきた.そして,plaque assayで増殖可能な感染性インフルエンザウイルス粒子はさらに少ない5).対照的に,ある研究では,アルミニウム,滅菌ラテックス手術用手袋,滅菌スポンジなどの様々なfomitesを乾燥させた後では,human coronavirus 229Eはわずか3時間,human coronavirus OC431時間生存したことが明らかになっている6).ある研究では,fomitesが患者によって汚染される可能性のある実際の状況を模倣した結果,fomitesからは生存可能なSARS-CoVが検出されなかった7)

2020年の文献のレビュー8)には,私がここで引用した研究のほとんどが含まれているが(他の研究も含めて),新しい研究は追加されておらず,私の見解では、過去に発表された研究を批判的に評価するものではない.私はこれらの研究結果に異議を唱えているのではなく,実生活への適用性を論じているだけである.例えば,小さなfomitesの上に107106104個の感染性ウイルス粒子のサンプルを使用した研究1)2)3)では,これらの濃度は現実の状況での飛沫中の濃度よりもはるかに高く,実際にfomitesに沈着したウイルスの量は数桁小さい可能性がある5).したがって,実生活での状況をより反映させているのは,fomitesから生きているウイルスが発見されなかったDowellらの研究である7)

私の考えでは,fomitesの表面を介した感染の可能性は非常に小さくもし感染伝播するならば,感染者がその表面上で咳やくしゃみをして,その後すぐに(1-2時間以内に)他の誰かがその表面に触れた場合のみだということだ注意を払うことに異論はないが,データに基づかない極端な行動に出ることに対しては懸念を持つ.定期的にfomitesの表面を消毒し,手袋を使用することは,特に病院では合理的な予防措置であるが感染しているキャリアと何時間も接触していないfomitesは,病院以外の場所における感染リスクをもたらすものではないと信じている.むしろ逆効果になる過剰な行動を防ぐためには,よりバランスのとれた視点が必要である.

 

Reference

1) Rabenau HF, Cinatl J, Morgenstern B, Bauer G, Preiser W, Doerr HW. Stability and inactivation of SARS coronavirus. Med Microbiol Immunol. 2005;194:1–6.

2) Duan SM, Zhao XS, Wen RF, Huang JJ, Pi GH, Zhang SX. Stability of SARS coronavirus in human specimens and environment and its sensitivity to heating and UV irradiation. Biomed Environ Sci. 2003;16:246–255.

3) van Doremalen N, Bushmaker T, Morris DH. Aerosol and surface stability of SARS-CoV-2 as compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med. 2020;382:1564–1567.

4) Warnes SL, Little ZR, Keevil CW. Human coronavirus 229E remains infectious on common touch surface materials. mBio. 2015;6:e01697–e01715.

5) Lindsley WG, Blachere FM, Thewlis RE. Measurements of airborne influenza virus in aerosol particles from human coughs. PLoS One. 2010;5

6) Sizun J, Yu MW, Talbot PJ. Survival of human coronaviruses 229E and OC43 in suspension and after drying on surfaces: a possible source of hospital-acquired infections. J Hosp Infect. 2000;46:55–60.

7) Dowell SF, Simmerman JM, Erdman DD. Severe acute respiratory syndrome coronavirus on hospital surfaces. Clin Infect Dis. 2004;39:652–657.

8) Kampf G, Todt D, Pfaender S, Steinmann E. Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and their inactivation with biocidal agents. J Hosp Infect. 2020;104:246–251.