COVID-19関連追加(2020829日)番外編

 

【室内の空気感染を評価するための感染伝播動態モデル】

Liao CM, et al. A Probabilistic Transmission Dynamic Model to Assess Indoor Airborne Infection Risks. Risk Analysis. Oct 17, 2005.

https://doi.org/10.1111/j.1539-6924.2005.00663.x.

Introduction and Objective

本論文の目的は,確率論的感染伝播動態モデリングアプローチに基づいて,室内における空気感染を介した吸入に関連する公衆衛生リスクを定量化することである.

Materials and Methods

Quantitative Epidemiology of Influenza and SARS Data:

インフルエンザSARSに関する報告例の詳細な疫学データと流行曲線(症状発症日別の症例数)を用いて,介入や制御努力を行わない場合のインフルエンザとSARSの感染確率を推定した.SARSは新型コロナウイルスであり,20034月から台湾で局所的に報告されている罹患率・死亡率の高い疾患である.

その推定された感染確率から感染力を推定した.感染力データ,様々な活動下における人の呼吸換気,環境条件などのデータを再解析した.本研究では,20032004年にかけて台湾疾病管理センターから小学校の設定に基づくインフルエンザの発生率に関する週次ベースの感染率データと,2003424日〜58日に台北市立和平病院から報告されたSARSの疫学データを使用した

換気された空間における感染については,観測や理論的な理解から得られる知識が限られているため,不確実性と変動性を特徴づける必要がある.我々はモンテカルロシミュレーションを用いて,報告された感染確率と感染力に関する不確実性を定量化した.我々は,分布の適合度を最適化するために,Kolmogorov-SmirnovK-S)検定を使用した.データの分析と分布パラメータの推定には、Crystal Ballソフトウェア(Version 2000.2, Decisioneering, Inc., Denver, CO, USA). この研究では,結果の安定性を確保するために、10000回の繰り返しで十分である.

 

 

Transmission Model:

ほとんどの研究者は,発症時刻しかわからない場合に,病気の疫学に関する仮定をまとめた特定のモデルを適用している. 我々は,RudnickMiltonが提案したWells-Riley式を修正して,感染症の室内空気感染リスクをモデル化した.修正されたWells-Riley式は,感染リスクを,呼気曝露の指標となるCO2濃度を用いることによって建物内の誰かが以前に吐いた吸入空気の割合(再呼吸割合)の関数として表現している.

RudnickMiltonWells-Riley式を,

image(1)

と提唱した.

ここで,Pは感染しやすい集団の感染確率,Dは病気の症例数,Sは感受性のある者(susceptible)の数,iは感染させる者(infectors)の数,qは感染者による量子発生率(quanta S-1),pは一人当たりの呼吸数(m3 s-1),tは総曝露時間(秒),Qは外気供給率(m3 s-1),Vは換気された空間の容積(m3)である.式(1)は,定常曝露; 宿主の感受性が等しいこと; 飛沫の大きさが均一であること; 換気が均一であること; 空気が均一に混合されていること; 生存能力の喪失,ろ過,沈降などによる感染粒子の除去,そして,換気による除去に比べて他のメカニズムが小さいことを前提としている.そうすると,量子の蓄積率は,量子発生率から換気による量子除去率を差し引いた値になる.RudnickMiltonは,外気供給率が一定と仮定できる場合,換気の悪い環境では,式(1)が特に有用であることを指摘している.

室内空気中の総CO2濃度は,人間由来のものと外気供給によるものがある.感染症の人から人への感染伝播は,換気空域の再循環空気を介して行われる.したがって,外気供給率(Q)は,呼気による室内空気の割合(f),換気空間内の人の数(n),および一人当たりの呼吸数(p)の関数として表すことができ,次のように表せる.

image(2)

(1)に式(2)を代入すると,次のようになる.

image(3)

感染確率の推定には,式(3)に示す修正Wells-Rileyモデルを用いる.

 

 

Basic Reproductive Number:

i= 1S= -1のとき,建築環境における感染症のR0は,式(3)から導かれ,次のように表される.

image(4)

基本再生産数は一般的に1点推定値として提示され,生物学的パラメータの推定に内在する変動性は示されていない.我々は,各感染源症例による二次感染者数の分布の大きなばらつきと,その分布の不確実性,およびサンプリングのばらつきによる不確実性に起因するR0に関する不確実性を定量化することができる,確率論的伝播モデルに関連して報告されているインフルエンザとSARSの流行曲線を用いた.

Total Proportion of Infected Population:

各日の感受性のある者の感染確率は,感染している可能性がある接触者の伝播確率に基づいている.Anderson and Mayによれば,以下のように流行期間中の感染者の総割合(I)R0にのみ依存する.

image(5)

(5)は,均質で構造化されていない母集団を仮定した場合の流行(I)とR0の間の理論的な関係の基づく.

Risk Analysis:

換気された空間での感染リスクは,基本再生産数R0が与えられた場合に,感染すると予想される集団の割合に条件付き流行確率を乗じたものとして計算することができる.この同時確率(joint probability)関数における結果は,R0値の範囲において感染しやすい集団で病気が発生する確率を表している.また,同確率関数のグラフィック表示は,管理努力や自然減衰による基本再生産数R0の変化がどのように影響を与えるかを評価する手段になる.これは次のように象徴的に表すことができる.

image(6)

これは,Φ(R0)R0の範囲における感受性のある集団の流行におけるアウトブレイク発生リスク,P(R0)R0の確率密度関数,P(I | R0)は基本再生産数R0が与えられた場合の,条件付き感染確率である.式(6)が空気感染リスク評価にどのように利用できるかを示すために,航空機内におけるインフルエンザと、病院や小学校におけるSARS感染を考慮した.我々は,航空機と小学校の教室を一つの部屋として,そして病院を大きな建物の一階全体として,独立して換気された共有空間として分析した.Rudnick and Miltonが指摘しているように,学校や職場の始業時に個人が発症し,他の人が一定時間曝露していると仮定した.換気された空間の占有者数(n)と,式(2)で捉えられた室内空気である呼気の割合(f)を知ることで,式(6)を使用してR(I)を推定することができる.最も単純な疫学モデルにおける重要なパラメータは,伝播パラメータβと回復率νである.伝播パラメータ(β)は,感染者が感受性のある者と接触し,感染が成功する確率を表す.特に,伝播パラメーター(β)は,感受性のある集団が感染する確率であり,1日あたりの感受性のある者1人あたりの感染者1人あたりの予想される新規感染者数である.回復率(ν)は感染性期間(1/ν)の逆数であり,1日あたりの感染者1人あたりの予想される回復者数である.我々は,方程式による室内二酸化炭素濃度と接触率を示す,CO2を基にしたリスク方程式よる基本再生産数R0と伝播パラメータβを関連付けるために,基本疫学モデルに標準的なSIRモデルを採用することを意図している.

image(7)

μは感染集団の出生率(birth rate)と死亡率(d-)を示す.

Results

Infected Probability and Quantum Generation Rate of Influenza:

Figure 1は,感染率,感染確率の最適化分布,インフルエンザの推定量子発生率の観点から報告された症例の流行曲線のヒストグラムを示している.インフルエンザの感染確率は,台湾疾病管理センターによって20032004年までの報告された学校におけるサーベイランス週報を参考にしている.K-S検定を最適化した対数正規分布は,統計的基準,分布パラメータの比較,ヒストグラムの視覚的解釈に基づいて選択された分布タイプとパラメータにおける感染確率としてのLN(0.006, 1.53)を示している(Figure 1B).インフルエンザの量子発生率は,既知の感染確率(Figure 1B)および採用された入力パラメータ(TableT)を用いて式(3)から推定することができる.K-S検定を最適化した後,LN(66.91 quanta h-1, 1.53)をインフルエンザの量子発生率に適合させた(Figure 1C).

 

 

Figure 1: 20032004年にかけて台湾の小学校から報告されたインフルエンザの定量的疫学.(A)感染率で報告された症例の流行曲線,(B)Figure 1Aを基にした感染確率と対数正規分布,(C)量子発生率の対数正規分布.

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Table 1:

aAdopted from ICRP 66.

bCalculated based on Equation (2) for Q= 20 m3 h−1 m−2 and floor area = 200 m2 (Construction and Planning Agency, Ministry of Interior, ROC).

cBased on Q= 5 air changes per hour (ACH) (Construction and Planning Agency, Ministry of Interior, ROC).

Risk of Outbreak of Influenza:

(6)がリスク評価にどのように利用できるかの一例として,感染性の高い航空機,例えばボーイング737航空機のような環境設定を考えた(TableU).我々は,インフルエンザの感染確率と量子発生率の大きなばらつきに起因するR0の不確実性を定量化するために,提案した感染伝播モデルを用いた(Figure 1B, 1C).モンテカルロシミュレーションの結果,幾何平均10.35,幾何標準偏差1.48LN(10.35, 1.48))で最適化された対数正規分布がR0に最適な分布であることが示された(Figure 2A).R0の分布は,信頼できる間隔が広く,かなりの右への歪み(right skew)があることが示された.Figure 2Bは,式(5)を介してR0のみに起因した感染集団の合計割合(I)としての推定値を示しており,R0に基づく期待値が直接接触している均質な集団を想定していることを示している.

 

 

TableU:

aAdopted from ICRP 66.

bAdopted from Rudnick and Milton (2003).

cLognormal distribution with a geometric mean and a geometric standard deviation.

dBased on Q= 0.3 ACH, a mean value adopted from Rudnick and Milton (2003).

eBased on Q= 5 ACH (Construction and Planning Agency, Ministry of Interior, ROC).

fSee Table I.

 

 

Figure 2:

ボーイング737型航空機におけるインフルエンザの空気感染.(A)基本再生産数(R0)の対数正規分布,(B)流行時の感染集団の総割合(I)(C)R0値の範囲における感受性のある集団におけるインフルエンザのアウトブレイクリスク,(D)Φ(R0)の累積密度関数,(E)R0値の範囲における感受性のある集団におけるインフルエンザのアウトブレイクの超過確率.

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モンテカルロシミュレーションの結果から計算されたプロットされた確率は,R0の範囲について,感受性の高い集団におけるインフルエンザの発生リスクを記述した同時確率関数(式(6))に従っている(Figure 2C).そして,Φ(R0)の累積密度関数(CDF)をFigure 2Dに示すことができる.さらに,Figure 2Eに示すように,Φ(R0)の相補的なCDFを介して,R0の超過リスクを計算することができる.Figure 2Eから,1回の導入からボーイング737型航空機で発生したアウトブレイクの超過確率は,R0とともに減少し,R0=10のときには0.5程度のリスクになることがわかりる.これは,ボーイング737型航空機でインフルエンザのアウトブレイクが発生した場合,R010より大きくなる確率は50%であることを示している

Infected Probability and Quantum Generation Rate of SARS:

2003424日〜58日に台北市立和平病院で発生したSARSについて,発症日ごとに発症者数を総感受性者で割ってSARSの感染確率を算出した(Figure 3A, 3B).感染確率(Figure 3B)は,各発症日における症例数を総人口で割って算出したものである.量子発生率(Figure 3C)は,台北市立和平病院のSARS流行における感染確率(Figure 3B)と入力パラメータ(TableT)に関連した修正Wells-Riley式を用いて推定した.K-S検定を最適化した対数正規分布の結果,感染確率はLN(0.00015, 2.64)SARSの量子発生率はLN(28.77 quanta h-1, 2.64)であった(Figure 3C).

 

 

Figure 3:

2003424日〜58日に台湾の台北市立和平病院から報告されたSARSの定量的疫学.(A)200358日までに報告された症例の流行曲線,(B)2Aの対数正規分布に基づく感染確率,(C)量子発生率の対数正規分布.

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Risk of Outbreak of SARS:

我々は,SARSウイルスへの曝露リスクを評価するために,感染性の高い2つの環境,国立台湾大学(NTU)病院と小学校(TableU)を考慮した.我々は,SARSの感染確率と量子発生率の大きなばらつきに起因するR0の不確実性を定量化するために,提案した感染伝播モデルを用いた(Figure 3B, 3C).Figure 4Aは最適化された対数正規分布の確率密度関数を示しており,モンテカルロシミュレーションの結果,NTU病院ではLN(2.61, 2.61),小学校ではLN(0.77, 2.61)R0に最適な分布であることが示された.R0の対数正規分布の最も顕著な特徴は,右への歪み(right skew)がかなり大きいことである.

 

 

Figure 4:

NTU病院および小学校におけるSARSの空気感染.(A)基本再生産数(R0)の対数正規分布,(B)流行時の感染者数(I)の合計割合,(C)R0の値の範囲における感受性のある集団におけるSARSのアウトブレイクリスク,(D)Φ(R0)の累積密度関数,(E)R0値の範囲に対する感受性のある集団におけるSARSのアウトブレイクの超過確率.

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モンテカルロシミュレーションの結果からプロットされた確率は,R0の範囲の感受性のある集団におけるSARSのアウトブレイクリスクを記述した同時確率関数(式(5))に従っている(Figure 4C).そして,Φ(R0)CDFR0の超過リスクをFigure 4D-4Eに示す.Figure 4Eに示すように,NTU病院ではR0= 2そして小学校ではR0= 3.8の場合,1回の導入で発生する超過確率は約0.5に達している.これは,小学校でのSARSアウトブレイク時にR02以上,NTU病院ではR03.8以上となる確率が50%であることを示している.このように,感染拡大には環境が大きな役割を果たしていることが明らかになった.

Relationship Between Indoor CO2 Level and Contact Rate:

感染伝播モデリングの主な利点は,代替的な制御シナリオを検討することができ,可能性のある戦略への洞察を与えてくれることである.感染伝播モデリングの主な利点は,代替的な制御シナリオを検討することができ,可能性のある戦略への洞察を与えてくれることである.ここではR0を標準的なSIRモデルへ適用させる,CO2を基にしたリスク方程式を組み込み,接触率と室内CO2レベルの関係の観点から,換気された空間での呼気曝露のリスクを評価した.Figure 5Aおよび5Bは,式(7)に基づいたモンテカルロシミュレーションの10000回の反復から計算されたインフルエンザおよびSARSの接触率の最適な対数正規分布を示しており,R0の分布はFigure 2Aおよび4Aに示した.そしてSIRモデルで使用された出生率および回復率の入力データはTableVに記載した.最適な接触率の対数正規分布を与えるシミュレーション結果は,インフルエンザではLN(0.04, 1.52)SARSではLN(0.0005, 3.32)であった(Figure 5A, 5B).

 

 

Figure 5:

ボーイング737型航空機におけるインフルエンザの接触率β(A)NTU病院におけるSARSの接触率(B)の最適化された対数正規分布.また,ボーイング737型航空機のインフルエンザ(C)NTU病院のSARS(D)の室内CO2濃度と接触率(β)の関係がこの箱ひげ図(the box and whisker plots)に示されている(箱ひげ図は,モンテカルロシミュレーションの10000回の繰り返しから計算した不確かさを示している).

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TableV:

Figure 5Aおよび5Bは,ボーイング737型機およびNTU病院の流行を想定したパラメータ(TableU)でシミュレートした,インフルエンザおよびSARSの室内CO2濃度と接触率の関係を示したものである.

Figure 5Aおよび5Bは,ボーイング737型機およびNTU病院の流行を想定したパラメータ(TableU)でシミュレートした,インフルエンザおよびSARSの室内CO2濃度と接触率の関係を示したものであるまたFigure 5Cおよび5Dから,それだけではインフルエンザやSARSの感染を抑制するには不十分であるものの,外気換気の増加による室内CO2濃度の低下は,感染伝播をある程度減少させることができる; それ以外にも、病院の感染管理の改善集団接触率の自発的な減少移動制限などの対策が必要である.また,Figure 5Cおよび5Dに基づいて室内CO2濃度の測定値から接触率の分布を推定すれば,修正Wells-Riley式を用いずにSIRモデルから直接R0を算出することも可能である.

また,Figure 5Cおよび5Dに基づいて室内CO2濃度の測定値から接触率の分布を推定すれば,修正Wells-Riley式を用いずに,SIRモデルから直接R0を算出することも可能である.さらに,室内CO2濃度を外気供給の代替として記録することで,建物の換気を強化して,様々な曝露時間に基づいてR01を達成するために集団接触率を減少させることができるかもしれない(Figure 6).

 

 

Figure 6:

室内CO2濃度と接触率を低下させるための1時間あたりの換気(ACH: air changes per hour)は,様々な曝露時間t=16時間に基づいて,空気感染の広がりを制限するのに有効である可能性がある(A,B)小学校におけるインフルエンザ,および(C,D)病院でのSARS感染伝播.

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Discussion

環境環境下では,室内における空気感染の広がりに影響を与える要因がモデルには含まれていないものが多い. したがって,モデルによって得られたR0の推定値は、どんなに不正確であっても、あくまでも目安として使うことはできる.しかし,モデルは不確実性や不均一性を示すR0値の分布を考慮することで,単一の統計量よりも情報量が多くなり,流行過程への洞察を得ることができる.さらに,感受性のある集団を介したウイルスまたは細菌感染の広がりの結果を定量化できるモデルが開発されてきた.このモデルでは,R0値の範囲として,感受性のある集団におけるアウトブレイクのリスクを示している.総感染者数を推定することができる.このモデルは,感染拡大を抑制するための建物内の換気の効果を調査するために使用することができる.特定の疾患の制御戦略に関連するコスト,利益,リスクを調査するための強力なツールになるだろう.

我々の分析は,室内空気感染リスクは,病原体の病原性だけでなく,環境因子(例えば部屋の広さや換気率),宿主因子(例えば呼吸速度や曝露時間)によっても決定されることを強調する.人の呼吸数を変えることはほとんどできないが,我々のデータは空気感染を介した呼吸器感染症のリスクは,低濃度の曝露を伴った部屋の換気をかなり控えめに増加させることでかなり減少する可能性が高いことを示唆している.我々のデータは,屋内感染リスクを低減するための公衆衛生とリスク管理者による戦略を洗練させるのに役立つかもしれない.

外気供給率を上げることで,空気感染性病原体の感染リスクを低減できる可能性があるが,Nardellらは,特に感染に曝露する濃度が高い場合には,建物の換気がこのリスクを低減する上で本質的に制限される可能性があることを指摘している.通常は,室内の空気感染伝播のモデリング研究では感染者における単一の均一な量子発生率と,時間と空間にわたる感染性エアロゾルの均一な濃度を仮定してきたが,我々は,感染性エアロゾル発生率の変動の相対的な重要性を評価するために,境界範囲の値を追加した.

Wells-Rileyモデルを採用した主な利点は,Wells-Rileyモデルによって作成されたデータが,麻疹や結核の空気感染の観測データと一致していることである.より多くの変数を同定し,より複雑な数学的形式を持つ空気感染のモデルは、他には存在しない. 将来的にWells-Rileyモデルを拡張するための我々の可能なアプローチは,確率論的疫学モデル,例えば確率論的SIRモデルを組み込むことであろう.

このモデルの定式化において,室内空気感染と建物環境における外気供給の関係を検出することができる.室内CO2濃度は,外気供給量の代替(surrogate)として記録されるかもしれない.外気供給率を調整することで,接触率と室内CO2濃度の関係についてモデルから推定される集団接触率を低減させることが可能である.

我々のシミュレーション結果は,外気の供給が少ない建物の占有者(occupants)は,感染した占有者から排出される空気感染性飛沫核に曝露されるリスクが高いことを示唆している.Wells-Rileyモデルは環境を考慮することも可能であり,共通の濃度(common dose)を共有する人によって層別化することで,変化する曝露シナリオに適応することができる.これらのモデルの妥当性を検証するために疫学的データが入手できるようになることはないだろうが、我々の分析では、室内の空気感染リスクが,病原体の毒性だけでなく,感染性量子発生率,呼吸数,曝露時間,宿主の感受性因子のバランスによっても決定されることが示されている.室内環境の換気は,感染リスクの重要な決定要因である.室内換気の強化や,呼吸器保護や公衆衛生上の介入に関連した他の工学的な制御手段は,感染リスクを減少させるために使用されるかもしれない.我々のモデリングデータは,空気感染症のリスクを決定する上で,宿主の感受性因子,環境因子,感染メカニズム,濃度反応関係の複雑な相互作用をより理解する必要があることを強調している.

Conclusions

我々は,一般的に適用可能な室内空気感染の数理モデルを用いて,インフルエンザやSARSの感染を症例の増加率から推定し,感受性ある集団に症例が導入された場合のアウトブレイクの可能性を評価し,様々な環境設定に関連したリスクプロファイルを定量化した.

 

 

 

 

COVID-19関連追加(2020829日)番外編に831日追記しました

 

【香港アモイガーデンズにおける空気感染によるSARSアウトブレイク】

Yu ITS, et al. Evidence of Airborne Transmission of the Severe Acute Respiratory Syndrome Virus. N Engl J Med 2004; 350:1731-1739. doi: 10.1056/NEJMoa032867.

Background

重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスの感染様式については明らかにはなっていない.我々は,香港で発生したSARSの大規模なコミュニティアウトブレイクにおける症例の時間的・空間的分布を解析し,これらのデータと,気流動態の研究を用いてモデル化したウイルスを含むエアロゾルプルーム(plume: 空中に立ち上る煙,水,炎などの柱,雲)の3次元的な広がりとの相関を調べた.

Methods

EPIDEMIOLOGIC ANALYSIS:

アウトブレイク初期のSRASウイルス感染者(その多くは2次感染者と思われる)の症状発現日と居住地のデータを調査した.住居は,建物(AS,計19棟),階数(436階),アパート(18戸,各階8戸)であった.そして,発症日と居住地別に症例の分布を検討した.各アパートユニット(各居住者ではない)の感染確率を従属変数とし,ロジスティック回帰モデルを適用して,場所(アパートユニット,各建物のフロア)と感染確率との関連を調べた.各ユニットにはベッドルームが2つあり,すべてのユニットがほぼ同じ大きさであったため,各ユニットには4人が居住している(これはデータの中のどんなユニットにおいて最も感染者が多い場合の数)と仮定した.したがって,個々のアパートのユニットで観察される感染確率は,00.250.50.751 である可能性がある.感染源と疑われる場所であるEでは,SARSウイルスの拡散に関わる気流の動態が他の棟の動態とは明らかに異なるため,E棟の分析は他の棟の分析とは別に行った.

建物の階数は,解析に十分な数が得られるように,階層別に3つの区分(下,中,上)に分類した.カットオフポイントの基準は,ロジスティック回帰モデルの偏差を最小にするために選択された.ユニット番号(18)は,各アパートの寝室の窓(正面向き)とリビングの窓(側面向き)の向きを反映するように再コード化した(Figure 1).その結果,8つのアパート番号の代わりに使用された8つの方向コード(Ab, Ad, Ba, Bc, Cb, Cd, Da, Dc, ここでAは南東, Bは南西, Cは北西, Dは北東)では,大文字は正面向きの窓の方向を,小文字は側面向きの窓の方向を示している.回帰分析において,低階層とアパートユニットCbは対照区分(reference categories)とした.3次症例による分析のcontaminationの可能性を検討するために,晩期発症例を除外した後に分析を繰り返し、326日から始まる様々なカットオフ日を使用した.フィットしたモデルは,maximum rescaled R2およびC staticsを用いて比較した.

 

COMPUTATIONAL FLUID-DYNAMICS ANALYSIS AND MULTIZONE MODELING:

アモイガーデンズの詳細な敷地計画,平面図,排水システムのレイアウトは香港特別行政区の建築局から入手した。アモイガーデンズの3月の1時間ごとの気象データは香港天文台から入手した.

計算流体力学(CFD: computational fluid dynamics)を用いた分析により,エアシャフト(リエントラントエリア)や集合住宅の建物周辺の詳細な気流パターンを合理的に正確に予測することができた.同様の気流モデルは,口蹄疫や1979年に発生したスベルドロフスク炭疽菌漏出事故の研究にも用いられている.このようなモデリングツールの応用では,乱流モデル,数値的手法,利用者の経験によって,かなりの誤差が生じる可能性がある.したがって,結果の適切な評価が不可欠である.CFDには,FluentFluent)とAirpakFluent)の2つのソフトウェアパッケージを使用した.Fluent は,流体の流れをモデリングするための3次元汎用CFDソフトウェアパッケージである.乱流が気流と汚染物質の分散に及ぼす影響をモデル化するために,Fluentbasic-renormalization-group (RNG) turbulence modelReynolds stress modelを用いた.指標患者(index patient)が訪れたアパートから発生したウイルスを含む飛沫(water droplets)は,エアシャフト内のウイルスを含むプルームをモデル化すると,(空気中で数秒後に)急速に蒸発することが判明した.ほとんどのシミュレーションでは,飛沫核はパッシブスカラー(流れに影響を及ぼさず,受動的に輸送されるだけのスカラー)に近似されたため,沈着効果は無視されたAirpak は,建物内および建物周辺の気流をモデル化するために開発された3次元CFDソフトウェアである.Airpakに搭載されているRNG turbulence modelを用いて,エアシャフト内のプルームフロー(plume flow)と建物間のエアロゾル拡散の両方のCFDシミュレーションを実施した.

マルチゾーン法では,アパートユニット間の1時間ごとの気流の速度(この計算ではゾーンとも呼ばれる)と,E棟の各アパートユニット内のウイルスを含むエアロゾルの濃度を計算することができた.

これらのゾーンは,窓,ドア,閉じた窓やドアの周りの隙間,エレベーターのロビーなどの流路によって接続され,フローネットワーク(flow network)を形成していた.閉じた窓やドアについては,Ormeらのデータに基づいて有効漏洩面積(effective leakage area)を計算した.出入り口や窓(閉じている場合と開いている場合)を通る流量は,気圧の差に依存すると仮定した.気温や風の違い,ファンからの排気の違いなどが駆動圧(driving pressure)を導入する可能性がある.我々は,Liらによって開発されたソフトウェアプログラムMIXを使用して,ユニット78の間のエアシャフト内部から汚染が発生したという仮定に基づきE棟のアパートユニット間の気流をモデル化した.カットオフ日を除いたロジスティック回帰モデルの結果をTable 1に示す.E棟では,中高層階のアパートユニット(人ではない)は低層階のアパートユニットに比べて感染確率が高く,オッズ比は中層階で5.1595%信頼区間 CI, 2.6-10.3; P< 0.001),高層階で3.195% CI, 1.6-6.2; P< 0.01)であった.感染リスクは,方位Ab(各階ユニット8)に面したアパートユニットで最も高く(オッズ比, 14.5; 95% CI, 5.5-38.4),方位Ad(ユニット7)に面したアパートユニットでも有意に高かった(Table 1.方位Da(ユニット6)とDc(ユニット5)に面したアパートユニットは,他のアパートユニットに比べて感染リスクがやや低いように見えた.異質性(heterogeneity)の検定の結果は,階層と方位の両方で統計的に有意であった(P< 0.001).

Table 1: Location as a Risk Factor for Infection with the SARS Virus among Residents of Housing Units in Amoy Gardens.

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2004/nejm_2004.350.issue-17/nejmoa032867/production/images/img_medium/nejmoa032867_t1.jpeg

 

Figure 1: Distribution of Cases of SARS Infection in Buildings A to G in the Amoy Gardens Housing Estate.

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2004/nejm_2004.350.issue-17/nejmoa032867/production/images/img_medium/nejmoa032867_f1.jpeg

 

Results

アモイガーデンズにおけるSARSウイルスの感染拡大を解析するための十分なデータとして,保健省が調査した全321人(2003415日まで)のうち,41日以前に発生した症例の約70%を占める最初の確定症例187人(アパートユニット142戸の居住者が含まれていた)について入手可能であった.最初の症状の発症日をFigure 2に示す.2003321日に流行が始まったが,全棟居住者では324日〜26日までの3日間に発症した例が多く,324日がピーク(mode)であった.流行曲線の形状は、共通の感染発生源を持つアウトブレイクと一致していた.E棟のみのデータでは,全棟の流行曲線と非常によく似たパターンを示し,324日にピークを迎えたことが明らかであった.Figure 2に示すように,D棟では322日に流行が始まり324日にピークを迎えた; C棟では324日に流行が始まり326日にピークを迎えた; B棟では323日に最初の患者が発生しており,明確なピークはなかった.

建物の階層は,レベル別に下層(413階),中層(1423階),高層(2436階)に分類された.5人のSARS患者を除くすべての患者(97%)がリング状になっている7つの建物(AG)に居住しており(Figure 1),半数以上の患者(99人)がE棟に居住していたAFG棟では,それぞれの症例数が10人以下であったため,これらの建物は回帰分析の対象から除外された.BCD棟では,症例数は各2025人であり,これらの建物は層別分析に含まれた.

Figure 2: Epidemic Curves for All Buildings and for Buildings B, C, D, and E.

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2004/nejm_2004.350.issue-17/nejmoa032867/production/images/img_medium/nejmoa032867_f2.jpeg

 

maximum rescaled R2(モデルによって説明される変動の割合)は0.230.24の範囲であり,C statics0.800.82の間であった.

BCD棟では,3つの階層区分における変動は統計的に有意であった(P= 0.01)が,8つの方位の変動はボーダーライン(P= 0.06)にとどまっていた.中層階,AdBaDa方位では,それぞれ低層階やCb方位に比べて有意に感染リスクが高かった.建物別に層別化した分析では,C棟のモデルのみに有意な異質性が認められた.中層階(オッズ比, 16.3)とDa(オッズ比, 9.9)のオッズ比は統計的に有意であったが,高層階(オッズ比, 7.2)とAd(オッズ比, 6.4)のオッズ比はボーダーラインであった.しかし,B棟では,窓の向きがD方位(正面または側面),つまりE棟からの風が吹く方向に面しているアパートメントユニットのオッズ比は3.05.2と高くD棟では,窓の向きがAb(オッズ比, 6.3)とBa(オッズ比, 6.3)のアパートメントユニットのオッズ比はボーダーラインであった.各ユニットに56人の居住者がいると仮定してモデル化を繰り返したところ,同様の結果が得られた(データは示されていない).

Figure 3は,E棟の ユニット7Ad)と ユニット8Ab)の間のエアシャフト内の汚染された空気の上下動と,ウイルスのプルームがB棟,C棟,D棟に三次元的に拡散する場合のCFDモデルを示したものである.index unitE棟のユニット7, 窓はAd方位を向いている)の浴室から湿った暖かい空気が流れ,エアシャフト内にプルームを形成し,空気を介してウイルスを上方に拡散させた.北東風が毎秒2mの風速で吹いているエアシャフトの上部では,プルーム中の汚染エアロゾル濃度の予測値は25%であった建物の最上部に到達した汚染された空気は,この北東風によって他の建物に向かって運ばれたかなりの量の汚染された空気が,中層階の高さでC棟とD棟の間を通過した

Figure 3:  Model of the Movement of the Virus-Laden Plume.

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マルチゾーン法を用いた分析の結果,E棟のアパートユニット間の水平気流は,ユニット7Ad)とユニット8Ab)からユニット16に向かって,主に風圧とユニット16の浴室やキッチンの排気ファンによって駆動されていることがわかった(Figure 4仮説的な感染性エアロゾルの「正規化 "normalized"」濃度は,ユニット78(参照 the referent)で最も高く,ユニット56で最も低かった

 

 

Figure 4: Predicted, Time-Averaged, Normalized Concentration of Virus-Laden Aerosols in Apartment Units 1 to 8 in Building E.

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Discussion

アモイガーデンズでのSARSウイルスのアウトブレイクを説明するために,さまざまな仮説が提唱されてきた.香港特別行政区政府の調査によると,指標患者(index patient)によって,E棟の居住者小グループが感染し,その後,汚水処理システム,人と人との接触,エレベーターや階段などの共同施設の利用を通じて,その建物の他の居住者に感染が広がったと考えられているこれらの感染者は,その後,人と人との接触や環境の汚染を介して,E棟の内外を問わず,他の居住者に感染を広げた

世界保健機関(WHO)の調査チームによって,多くのユニットの床排水溝のトラップ(traps in the floor drains)に長期間水が満たされておらずトラップのシール(seals)が乾燥し,その結果,垂直方向の土煙突(排水管)(soil stack, drainage pipe)との接続部が開いていたことが判明した.調査チームは,浴室の閉鎖されたドア後部で稼働していた換気扇が,密閉されていない床の排水管を通って,土煙突(垂直方向の排水管)から細かい飛沫やエアロゾルを浴室内に引き込み,それによって浴室を汚染した可能性があることを示唆した排気ファンは,浴室からエアシャフトへ,汚染された飛沫やエアロゾルを運んでいた可能性があるこれらの汚染された飛沫やエアロゾルは自然気流によって上方に運ばれ,ウイルスを含んだエアロゾルが開いた窓に到達していた場合,感染源から数階離れた他のユニットにも侵入した可能性があるWHOの報告書には,E棟から他の棟への感染拡大についての説明はなかった.

我々は,感染源やウイルスに汚染されたエアロゾルを介した初期の拡散メカニズムについては,WHOの仮説を支持する.香港大学水理学研究室による排水システムの実物大模型(mock-up)を用いた実験では,トイレを流す際,垂直方向の土煙突(排水管)の水理作用により,大量のエアロゾルが発生することが発見された一つの建物内の様々なユニットの排水管は直接つながっておらず,全ての建物の排水管は地下で初めて結合する仕様であった.したがって,政府の報告書で示唆されている下水道を介した感染拡大は,E棟のユニット7で発生した事例のみ説明することができるが,その建物の他のユニットや他の建物で発生した事例は説明できなかった.

BCD棟では,E棟の初発例から13日後に感染が始まったCD棟では,E棟での流行のピーク期間の3日間以内(324日〜26日)の初発例が多かった.このことから,政府の報告書で示唆されているように,これらの症例は人と人との接触よりも,共通の感染源への曝露によって発症した可能性が高いことが示唆された. Rileyらは,2003319日前後の非常に短い期間(±1日)に感染した可能性が高いことを示唆している. また我々の分析では,潜伏期間を45日程度と仮定すると,ピークは319日と20日頃に発生したと考えられる

アモイガーデンズの管理・警備スタッフは,各建物の1階で24時間勤務しており,居住者と頻繁に接触していたと思われるが,ウイルスには感染していなかった.同様に,アモイガーデンズ内の大型ショッピングセンターでは,いずれのスタッフにも感染例は報告されなかった.感染が認められたアパートユニットの空間的分布は,無作為な人と人との接触では説明できなかった.このような接触はおそらく流行の後半に発生したものと考えられ,このような様式で感染した症例数,つまり感染が認められたユニットの数は少なかったと考えられる.

Ng は,クマネズミ(roof rats)が SARS 関連コロナウイルスを増幅させると同時に流通させるという説を提唱したが,この説は疫学的な症例分布からは裏付けられていない.クマネズミはもともと縄張り意識が強いため,E棟という単一の建物から他の建物への感染拡大を迅速かつ効率的に行うことはできなかっただろう.この仮説では,クマネズミの突然の消滅あるいは大量死がなかったため,ピーク後の流行曲線の急減を説明できない.

この流行曲線は,アモイガーデンズでの発生源が共通であるという仮説を支持するものであり,症例の空間分布は,気流力学データを用いて作成したモデルに示されているように,ウイルスを含んだエアロゾルが単一の発生源(index unit)から拡散したという仮説に合致していたBCD棟での流行の発症が13日遅れたのは,エアロゾルが徐々に希釈されていくにつれて,エアロゾル中の有効ウイルス量が低下したと説明できるかもしれない.また,E棟ではindex エアシャフトに接していないアパートユニットでも発症が遅れて認められた.発生後3日以内に発症した症例については,1人を除くすべての症例がindex unitに最も近いエアシャフトに面したユニット7Ad)とユニット8Abで発生していた.また,ユニット7からユニット8に向かって吹く風の向きが優勢であったことから,様々な階のユニット8の居住者が,ユニット7の居住者よりも影響を受けていた理由が説明できるだろう

プルームが上昇するにつれてウイルス量が希釈されたため,中層階の居住者が高層階の居住者よりも影響を受けたのかもしれないユニット5Dc)とユニット6Da)では感染例が少なかったが,これはこれらのユニットがindex エアシャフトの風上に位置していたためで,正規化されたウイルス濃度が最も低かったからであるC棟とD棟では,リスクが高いと考えられるユニットの向き(正面窓と側面窓の向き)と階数は,C棟とD棟の中層階の空間を汚染されたプルームが通過することを示した気流モデルの結果とよく一致していた.B棟については,E棟に面したアパートユニットでは感染リスクが高いようだった.

指標患者(index patient)の糞便や尿から検出されたSARS関連コロナウイルスの濃度が非常に高かったことに加えて,排水管内の水理作用によるエアロゾル化(垂直方向の排水管)のため,大量のウイルスを含むエアロゾルが発生した可能性が高いと考えられるエアロゾルの濃度は,発生源から遠ざかるにつれて低下し,E棟の他のユニットや他の建物では発病率(attack rate)が低下した(そして,恐らくは,潜伏期間が長くなった)呼吸器分泌物中のウイルス濃度は,尿や便中の濃度よりもはるかに低いことが判明した.この違いは,いくつかのSARSの院内感染アウトブレイクにおいては,指標患者との密接な接触が必要であることを説明しているかもしれない.

Conclusions

我々の疫学的分析,実験的研究,気流シミュレーションの結果から,アモイガーデンズのアウトブレイクにおけるSARSウイルスの空気感染の可能性が示唆された.E棟のユニット7垂直方向の排水管で発生したウイルス含有エアロゾルは,乾燥した床排水溝トラップのシールを通過して浴室に戻り,排気ファンによる吸引によってエアシャフトに入ったと考えられるエアロゾルは,エアシャフト内の高温多湿空気の浮力により上方に移動し排気ファンによる陰圧や建物周辺の風の作用により,エアシャフトに隣接する高層階のユニットへ侵入した可能性があったE棟の他のユニットへの感染は,ユニット間の空気の移動によって水平方向に広がったE棟のエアシャフトの上部に達した後,北東風の作用により,B棟,C棟,D棟の特定の階層のユニットにウイルスが拡散した

 

 

 

 

COVID-19関連追加(2020829日)番外編に926日追記しました

 

【二次空気媒介感染(airborne infection)リスクの把握に向けて: 呼吸器病原体の排出】

Nicas M, et al. Toward understanding the risk of secondary airborne infection: emission of respirable pathogens. 2005 Mar;2(3):143-54. doi: 10.1080/15459620590918466.

Abstract

特定の呼吸器感染症は,空気を介して感染する.感染者の咳やくしゃみにより,肺胞領域に到達する直径10μm以下の病原体含有粒子が排出されることがある.呼吸器エアロゾルに関する文献は少ないが,これらを分析した結果,排出された粒子は水分損失により急速に直径が減少し初期値の1/2に至る,そして1回の咳における初期直径20μm未満の粒子の体積は6×10-8mLと推定された.発生源からの病原体排出率は,呼気イベントの頻度,呼吸粒子(respirable particles)の体積,および呼吸液中の病原体濃度に依存する.空気中の生きた病原体は,換気,粒子の沈降,死滅,空気の消毒などの方法で除去される; これらの除去メカニズムには一次反応速度定数(first-order rate constant)を割り当てることができる.十分に混合された室内空気中の病原体濃度は,排出率,病原体を運ぶ呼吸粒子のサイズ分布,および除去速度定数に依存する.粒子沈降率と肺胞沈着率は粒子径に依存する.これらの入力パラメーターに感受性のある人の呼吸速度と室内空気に対する曝露時間を加えると,予想される肺胞到達量(alveolar dose)μが推定される.結核のように,感染量(infectious dose)が1つの病原体である場合,感染リスクは次式によって推定される: R= 1exp(−μ).咳嗽頻度,呼吸液中の結核菌濃度,死滅率に関する結核の報告されているデータを用いて,肺結核患者の部屋を訪問した場合の確からしいシナリオによるモデルを説明する.”スーパースプレッダー: superspreaders”,または”危険な播種者: dangerous disseminators”と呼ばれる,咳やくしゃみの頻度が高く,呼吸液中の病原体濃度が高く,および/または呼気イベントあたりの呼吸エアロゾル量(respirable aerosol volume)が増加し,病原体排出率が平均よりもはるかに高いような患者にまれに遭遇することがある.

Conclusions

咳嗽中の呼吸液粒子数とサイズ分布に関する限られたデータから,粒子径が初期の1/2まで急速に減少すると推定されていることから,deq10μmの粒子に初期に含まれる咳嗽1回あたりの液体体積(fluid volume)は6×10-8 mLと推定されるくしゃみに対応する体積は1.2×10-5 mLである.これらは大まかな推定値であり,その妥当性を確認するには新たな実験研究が必要である.しかし,これらの数値から,呼吸液中の病原体濃度と呼気イベント発生率に関する情報が得られれば,呼吸粒子によって運ばれる病原体における平均排出率を推定することができる室内空気供給率および環境ストレスに対するエアロゾル化された病原体の耐性に関する更なる情報があれば,一般的な室内空気中の呼吸病原体濃度(respirable pathogen concentration)を推定するために,単純なよく混合された室内モデル(simple well-mixed room model)を使用することができるこれは,空気中の濃度,呼吸速度,曝露時間,異なる粒子サイズの肺胞粒子沈着率,および感染量に依存する

空気を介した感染リスクを評価するためのこのアプローチは,複数のデータ入力を必要とする.与えられた病原体,感染源,および感受性の高い空間の占有については,真の値にはかなりの不確実性があるかもしれない.それでも,このアプローチは,最も重要な情報を同定し,代替感染対策の相対的な有効性を評価するための有用なフレームワークを提供するものであると考えている.