COVID-19関連追加(202098日)

 

【気管支喘息患者のライノウイルス感染はACE2発現とサイトカイン経路を活性化させる】

Chang EH, et al. Rhinovirus Infections in Individuals with Asthma Increase ACE2 Expression and Cytokine Pathways Implicated in COVID-19. Am J Respir Crit Care Med. July 10, 2020.

https://doi.org/10.1164/rccm.202004-1343LE.

Background

SARS-CoV-2は,201912月に中国の武漢で初めてCOVID-19の原因ウイルスとして同定された新規ウイルスで,現在世界で750万人以上の症例が報告されている1)ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)はSARS-CoV-2の受容体であり,最近ではIFN刺激遺伝子(IFN stimulated gene)として確認されている2).ライノウイルス(RV: Rhinovirus)感染は,IFN刺激遺伝子およびそれに続くサイトカイン産生の強力な誘導因子である.RV感染症は感冒で同定される最も頻度の高いウイルスであり,小児および成人の喘息増悪の主要因となっている3).喘息を持つ若年層はCOVID-19発症率が高く,米国における1849歳の入院患者の27%を占めている4).我々は,RV感染がACE2発現を増加させ,続いて重症COVID-19感染に関連するサイトカイン経路を活性化させる可能性があるという仮説を立てた.

喘息と診断された成人30人の鼻組織を生検し,ALIair-liquid interface)培養を施行した.被験者の平均年齢は35歳,60%が非ヒスパニック系白人,被験者を性別で均等に分けられた.喘息と診断された成人30人の鼻組織を生検し,ALIair-liquid interface)培養を施行した.被験者の平均年齢は35歳,60%が非ヒスパニック系白人,被験者を性別で均等に分けられた.ALI培養物に,common RV株,RV-A16 (1×105  RNA copies/well)RV-C15 (1×105 RNA copies/well)を感染させ,ダルベッコの改変イーグル培地/F12培地(対照),34℃,5% CO2を用いた.次いで,RNAを全細胞ライセートから抽出し,Illumina HiSeq 3000上のKAPA Stranded RNA-Seqライブラリーを用いて1×50 runで配列決定し,Illumina Bcl2fastq2v2.17)を用いてデマルチプレックス(demultiplex)し,Bowtie2v2.1.0)を用いてUCSCトランスクリプトセットにマッピングした.カウント数が低い(100万あたり30未満)遺伝子を除外するために,NOISeq libraryを用いて,探索コホート(discovery cohorts, n= 22)と検証コホート(validation cohorts, n= 8)に分けて検証した.その結果,探索コホート,検証コホートで,7474個と7905個の特有の遺伝子が得られた.次に,LIMMA R libraryに実装された線形モデルを用いたdownstream statistical analysisを使ったRNAカウント処理のために,voomWithQualityWeights "に続いて"ARSyNseq "関数 を使用した.統計解析には,false discovery rate <1%absolute log2 fold chenge >0.5で調整された402個の発現変動遺伝子(DEGs: differentially expressed genes)を優先させるために,対になるサンプルに対して,moderate t testを用いた.

対照群と比較すると,RV-A16RV-C15のどちらにも感染したALI培養物では,探索コホートと検証コホートでACE2発現が3倍以上に増加したFigure 1興味深いことに,SARS-CoV-2ウイルスの細胞侵入を促すプロテアーゼであるTMPRSS2(膜貫通型セリンプロテアーゼ2)の発現量は,RV-A16およびRV-C15のいずれに感染しても再現性をもって増加しなかったRV感染はどのようにしてACE2の発現を誘導したのだろうか?Zieglerらは,プライマリ鼻上皮細胞をIFNで刺激するとACE2発現が増加することを明らかにした.また,ACE2の開始部位から2kbp以内に位置する4つの潜在的なACE2転写因子を同定した: STAT1STAT3IRF8IRF1である.これら4つの転写因子のうち,IRF1のみが異なる発現を示し,RV-A16およびRV-C15感染後に3倍の有意な発現増加を示した

 

Figure 1: ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)は,ヒトライノウイルス(RV: rhinovirus)感染ヒト鼻組織培養物で過剰発現しているACE2発現は,RV-A16およびRV-C15感染後の探索コホートおよび検証コホートでは3.2倍〜3.6まで変化していた.TMPRSS2RV感染によって再現性をもって変化していなかったmRNA発現は,voom countsの正規化により算出した.

 

次に,果たして,喘息患者の鼻細胞で観察されたパターンが,喘息で選択されていないヒト気管支上皮細胞における他のウイルスについても同様に観察されるかどうかを調べた.マイクロアレイデータ(GSE32140)を解析し,ヒト気管支上皮細胞のALI培養物に対して,インフルエンザAおよびRSウイルスを曝露させた後の遺伝子発現変化を定量化した.インフルエンザAまたはRSウイルスに感染してから2時間後,ACE2の発現レベルは6倍に上昇したが,TMPRSS2レベルは対照の未感染細胞と比較して変化しなかった(データは示されていない).

COVID-19の重症度に臨床的に関連することが示されているサイトカインサージ(surge: うねり,大波)に対するACE2過剰発現の役割は不明である.最近,Huangらは,COVID-19重症患者は,IL-1β,IL-1RAIL-2IL-4IL-7IL-8IL-9IL-10IL-13IL-17G-CSFIFN-γ,IP-10MCP-1MIP-1A,およびTNF-α(SARS-CoV-2関連サイトカインサージ)の血清レベルが高かったことを報告した7).我々はin vitroモデルを用いて,RV誘発性ACE2過剰発現およびSARS-CoV-2サイトカイン調節に関連するDEGの同定を試みた.63個のDEGRV誘発性ACE2過剰発現と相関し,「Regulation of cytokine productiongene ontologyGO)セット(GO:0001817)に過剰発現していた.次に,SARS-CoV-2関連サイトカインサージの調節および産生に関連する34個のGOアノテーション(annotation: 情報,説明)を同定した8)9)これら63個のDEGのうち29個が,7つのGOアノテーションにおいてアノテーションされ,これらの遺伝子のいくつかは喘息における異常な抗ウイルス反応にも関与していたFigure 2

Figure 2:

Figure

 

 

Discussion

ここでは,@RV感染が喘息患者におけるACE2過剰発現の潜在的な機序であること,AACE2活性化が複数のサイトカイン抗ウイルス反応を調節していることを示唆する新たな知見を提示した.これらの結果は,喘息の増悪に関連するウイルス感染が,SARS-CoV-2感染との相乗的な生体分子相互作用(synergistic biomolecular interactions)を示すことを示唆している.したがって,RVSARS-CoV-2との重複感染は喘息患者に重大なリスクをもたらす可能性がある.この研究の限界の1つは,RV感染後のACE2の表面タンパク質発現を評価していないことである.残念ながら、現在利用可能なACE2抗体の検査は非特異的であったり,決定的なものではない2).また安全性の懸念から,ALI培養物にSARS-CoV-2を直接感染させることはできなかった.しかし,SARS-CoV-2スパイク蛋白質を発現する疑似型ウイルスモデルが最近利用可能になったことは,ACE2発現と相関したSARS-CoV-2の結合の違いを評価する上で非常に貴重なものとなるだろう.ACE2活性化とサイトカイン誘導モデルとしてRV感染を用いたが,ICU患者に見られるCOVID-19重症例のサイトカインサージにも同様の所見が見られるかどうかは不明である.ACE2発現をダウンレギュレートしてSARS-CoV-2の感受性を低下させる可能性のある治療法はあるのだろうか?Zaheerらは,IRF-1のノックダウンにより,RV感染後の抗ウイルス性サイトカインの産生が抑制されることを発見した3)IRF-1のノックダウンがACE2発現にも影響を与えるかどうかについては,さらなる研究が必要である.またPetersらは喘息患者における吸入コルチコステロイドの使用がACE2発現レベルの低下と関連していることを明らかにしており,経鼻または吸入コルチコステロイドの使用が,ACE2のダウンレギュレーションによる治療の可能性を示唆している10)我々の研究は,一般的なウイルス感染が,宿主のSARS-CoV-2感染に対する過剰な反応を促進し,複数の呼吸器ウイルスによって,重症度が増す可能性があることを示唆している

Reference

1) World Health Organization. Coronavirus disease 2019 (COVID-19): situation report-145 [accessed 2020 Jun 13]. Available from:

https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200613-covid-19-sitrep-145.pdf?sfvrsn=bb7c1dc9_4.

2) Ziegler CGK, Allon SJ, Nyquist SK, Mbano IM, Miao VN, Tzouanas CN, et al.; HCA Lung Biological Network. Electronic address: lung-network@humancellatlas.org; HCA Lung Biological Network. SARS-CoV-2 receptor ACE2 is an interferon-stimulated gene in human airway epithelial cells and is detected in specific cell subsets across tissues. Cell 2020;181:1016–1035, e19.

3) Zaheer RS, Proud D. Human rhinovirus-induced epithelial production of CXCL10 is dependent upon IFN regulatory factor-1. Am J Respir Cell Mol Biol 2010;43:413–421.

4) Garg S, Kim L, Whitaker M, O’Halloran A, Cummings C, Holstein R, et al. Hospitalization rates and characteristics of patients hospitalized with laboratory-confirmed coronavirus disease 2019 - COVID-NET, 14 States, March 1-30, 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2020;69:458–464.

5) Tarazona S, Furió-Tarí P, Turrà D, Pietro AD, Nueda MJ, Ferrer A, et al. Data quality aware analysis of differential expression in RNA-seq with NOISeq R/Bioc package. Nucleic Acids Res 2015;43:e140.

6) Law CW, Chen Y, Shi W, Smyth GK. voom: Precision weights unlock linear model analysis tools for RNA-seq read counts. Genome Biol 2014;15:R29.

7) Huang C, Wang Y, Li X, Ren L, Zhao J, Hu Y, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet 2020;395:497–506.

8) Tao Y, Sam L, Li J, Friedman C, Lussier YA. Information theory applied to the sparse gene ontology annotation network to predict novel gene function. Bioinformatics 2007;23:i529–i538.

9) Yang X, Li J, Lee Y, Lussier YA. GO-Module: functional synthesis and improved interpretation of Gene Ontology patterns. Bioinformatics 2011;27:1444–1446.

10) Peters MC, Sajuthi S, Deford P, Christenson S, Rios CL, Montgomery MT, et al. COVID-19-related genes in sputum cells in asthma: relationship to demographic features and corticosteroids. Am J Respir Crit Care Med 2020;202:83–90.

 

 

 

 

【吸入ステロイドは他の有益な効果があるか?】

202055-2の内容の補足.

Maes, T, et al. COVID-19, Asthma, and Inhaled Corticosteroids: Another Beneficial Effect of Inhaled Corticosteroids? Am J Respir Crit Care Med. May 21, 2020.

https://doi.org/10.1164/rccm.202005-1651ED.

Petersらによる素晴らしい研究(Peters MC, et al. COVID-19 Related Genes in Sputum Cells in Asthma: Relationship to Demographic Features and Corticosteroids. Am J Resp Crit Care Med. April 29, 2020. 202055-2ファイル)が,喘息,ICSSARS-CoV-2感染,そしてCOVID-19における複雑な相互作用についての重要な洞察を提供している.著者らは,ACE2およびTMPRSS2の発現の違いが,SARS-CoV-2感染に対する個人の感受性および臨床経過に影響を与え,その結果,COVID-19罹患リスクのある喘息サブグループを特定できる可能性があると仮説を立てた.SARS-CoV-2のスパイクプロテインは,ウイルスが宿主細胞に付着する際にACE2受容体に結合する.そしてウイルスの侵入は,膜結合型プロテアーゼTMPRSS2によるスパイクプロテインのプライミングによっても促進される.SARP-3Severe Asthma Research Program-3)プログラムに登録された330人からの誘発喀痰サンプルを調査することにより,Petersらは3つの主要な発見を報告した.

@喘息患者と健常者において喀痰中のACE2遺伝子発現に有意差がないことを発見し,喘息患者はCOVID-19のリスクが増加していない可能性を示唆した.これは,喘息患者の喀痰中のICAM-1intercellular adhesion molecule 1: 細胞間接着分子1)の発現が増加していることとは対照的であるICAM-1はライノウイルスの受容体であり,健常者では上気道症状に限定されるが,喘息患者では下気道症状の長期化と重度の増悪を引き起こす可能性がある.A男性,アフリカ系アメリカ人,および糖尿病の既往歴が,誘発喀痰中のACE2およびTMPRSS2 mRNA発現の増加と関連していることを発見した.糖尿病を有するCOVID-19患者は重症化する可能性があり,これらの知見は,SARS-CoV-2関連遺伝子の発現増加がウイルス感染を促進する可能性を示唆し,これらの特徴のうち1つ以上を有する喘息患者はCOVID-19の転帰を厳重に観察するべきであることを強調している.Bそして最も重要なことは,喘息患者におけるICSの使用は,用量依存的にACE2およびTMPRSS2 mRNA発現の減少と関連していることを示したことであるこれは全身性コルチコステロイドとは対照的である.これらの興味深い知見がタンパク質レベルで確認されれば,臨床的に重要な意味を持つ可能性がある.ACE2発現は主に上皮細胞で報告されているが,これは誘発喀痰に含まれるごく一部の細胞であり,主に下気道の炎症細胞である.SARS-CoV-2関連遺伝子の発現が,喘息における特定の気道炎症細胞でどのように調節されているのか,また,それがウイルスの侵入や感染性に影響を与えるのかどうかについては,さらなる検討が必要である.さらに,重症COVID-19では肺組織が主な傷害部位であるため,ACE2の発現も評価することが重要である.

Ghent大学病院の肺組織バンクにおける,喘息および/またはCOPDを含む閉塞性気道疾患(OAD: obstructive airway diseases (asthma, ACO, or COPD))の有無にかかわらない白人被験者の肺切除標本におけるACE2遺伝子発現を調べ,ACE2遺伝子発現がICS使用と関連しているかどうかを調査した(Figure 1).肺組織におけるACE2 mRNA発現は,COPDを有する喫煙者(現在または以前)では有意に増加したが,喘息またはACO(喘息とCOPDの合併)を有する被験者では,OADを有しない対照群と比較して変化がなかった(Figure 1Aしかし,肺におけるACE2遺伝子発現は,ICS治療を受けているOAD被験者とICS治療を受けていないOAD被験者では差がなかったFigure 1B.これらの結果は,より大規模な前向き研究や他の民族(非白人)で再現する必要がある.ICSの使用がACE2発現に及ぼす影響がこれらの両研究で異なっているのは,呼吸器コンパートメント(誘発喀痰と肺組織)や患者集団(喘息がある非喫煙者 vs COPDがある喫煙者)の違いによるものかもしれない

Figure 1: ACE2 (angiotensin-converting enzyme 2) mRNA expression in human lung tissue and effect of ICS.

A) コントロール(n= 61),喘息/ACOn= 7),およびCOPDGOLD stage II)(n= 38)の肺組織におけるACE2遺伝子発現.B) コントロール(OADなし, ICS使用なし, n= 56),ICSを使用していないOADn= 23),およびICSを使用しているOADn= 25)におけるACE2遺伝子発現.

結論として,Petersらの重要な知見は,ICSは喘息管理の要であり,喘息の増悪と死亡率を減少させるものであり,そして誘発喀痰中のSARS-CoV-2の受容体であるACE2発現の低下と関連しているためICSを使用している喘息患者ではこの治療を継続するべきであるという推奨を支持するものである.喀痰,気道,肺におけるACE2発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションが、COVID-19の感染性または転帰に臨床的にどの程度影響を及ぼすかについて明らかにする必要がある.喘息のない者(または増悪する傾向のあるCOPD)では,ICSの使用は肺組織におけるACE2発現に影響を与えないようであるためICSを開始すべきではない.しかし,慢性気道疾患の有無にかかわらず,COVID-19の治療におけるICSの有効性と安全性を評価する無作為化比較試験の結果を待ち望む.