COVID-19関連追加(2020913日)

 

【会話が生み出す呼吸飛沫を介したSARS-CoV-2感染伝播】

Bax A, et al. SARS-CoV-2 transmission via speech-generated respiratory droplets. Lancet Infectious Diseases. Sep 11, 2020.

https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30726-X.

Mohamed AbbasDidier Pittetは,通常の会話が,空気中に数分にわたって浮遊する小さな粒子を含み,SARS-CoV-2の重要な感染様式の可能性があるという我々の報告2)3)の結論に異議を唱えている1).彼らは短報(correspondence)の中で,「我々の発見はすぐには意味を持たない」と主張している1).提起されたすべての問題への詳細な回答についてはappendixを参照されたいが,ここでは Abbas Pittet のより関係がある懸念事項のうちの2つを取り上げる.

AbbasPittetは,我々の結果が発声者1人のみを対象としたものであるため,一般化はできないと主張している1).発声による飛沫の生成は特殊なものであるかもしれないという彼らの示唆は,発声による飛沫生成について理解されている物理学を否定するものである.音声を発生させる音響波は,肺で加圧された空気が振動する声帯の粘膜上皮層を高速で通過することで発生する4)生成された音は,この空気が舌,唇,歯の間の狭い通路を通過することでさらに調節され,口腔内の液体が排出される4)飛沫の排出は音声発生の物理学と密接に関連しており5)個人差はほとんどないと思われるappendixに示されているように,すべての発声者から唾液が生じる幸いなことに,口から出るときには,そのような飛沫はまだかなり大きく一般的な布製のマスクで簡単に大気中への侵入を防ぐことができる2)

また.AbbasPittetは,発声によって生じた収縮・乾燥した飛沫核を観察するために使用した“箱”の大きさが小さいため,それによって飛沫核が移動できる物理的な距離が制限されているという批判している.実際,我々の測定では,静かな環境下において飛沫核が箱の底に落ちるまでに何分もかかることが確認されたにすぎない現実世界では,発声による飛沫が乾燥し,地上に到達するまでにどの程度の距離を移動できるかは,空気の対流換気などの要因に大きく左右される物理学的には,空気の動きがそのような粒子をかなりの距離にわたって運ぶということは,タバコの煙が部屋中に拡散するのと完全に類似している

医学界では,長時間空気中に滞留する可能性のある飛沫核のような,発声による呼吸器飛沫を介して感染伝播することが認識されてきた5).また,Abbas Pittet による反対の主張にもかかわらず,SARS-CoV-2無症状感染の重要性は十分に認識されている(無症状,前症状,あるいは症状が乏しいかどうか)6)7)このような感染者の口腔内の液体における高レベルのウイルス量はよく知られている.そして発声による飛沫のかなりの割合が数分間空気中に留まることが示されているため,このような粒子の吸入は鼻咽頭への直接到達する.屋内におけるsuperspreadingイベントにおける感染伝播の報告は,空気を介した感染伝播における発声による飛沫の役割をさらに裏付けるものである8)

1) Abbas M, Pittet D. Surfing the COVID-19 scientific wave.

Lancet Infect Dis. 2020; (published online June 30.)

https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30558-2.

2) Anfinrud P, Stadnytsky V, Bax CE, Bax A. Visualizing speech-generated oral fluid droplets with laser light scattering.

N Engl J Med. 2020; 382: 2061-2063.

3) Stadnytsky V, Bax CE, Bax A, Anfinrud P. The airborne lifetime of small speech droplets and their potential importance in SARS-CoV-2 transmission.

Proc Natl Acad Sci USA. 2020; 117: 11875-11877.

4) Mittal R, et al. Fluid dynamics of human phonation and speech.

Annu Rev Fluid Mech. 2013; 45: 437-467.

5) Gralton J, et al. The role of particle size in aerosolised pathogen transmission: a review. J Infect. 2011; 62: 1-13.

6) Greenhalgh T. Face coverings for the public: laying straw men to rest.

J Eval Clin Pract. 2020; 26: 1070-1077.

7) Oran DP, et al. Prevalence of asymptomatic SARS-CoV-2 infection: a narrative review. Ann Intern Med. 2020; 173: 362-367.

8) Morawska L, et al. It is time to address airborne transmission of COVID-19.

Clin Infect Dis. 2020; (published online July 6.)

 

2)の論文再掲(427-2

Anfinrud P, et al. Visualizing Speech-Generated Oral Fluid Droplets with Laser Light Scattering. N Engl J Med. 2020 April 15. doi: 10.1056/NEJMc2007800.

発声時のエアロゾルと飛沫はウイルスのヒトーヒト感染伝播に関与する.発声は様々な大きさの口腔液体飛沫(oral fluid droplets)を生み出し,それには感染性のあるウイルス粒子が潜んでいる.大きな粒子はすぐに地面に落ちるが,小さな飛沫は水分が抜けて空気中に飛沫核として浮遊することになる.そしてそれはエアロゾルとしてふるまい,感染性をもつ粒子を広げることになる.我々はlaser light scatteringを用いた実験で,発声が生み出す飛沫とその軌跡を可視化したので報告する.

2.5-Wの光学力をもつ532nmのグリーンレーザーを出力とした光線を,厚さ約1mm,高さ150mmの薄いシートに通過させた.そしてこの薄いシートを53x46x62cmの段ボール側面のスリットを通した.内部は黒色で塗った.塵を除去するためHEPAhigh-efficiency particulate air)フィルターで囲んだ.

治験者が箱の開放口を通して発声したとき,発声時の飛沫は薄いシートを通過する前に約5075mm横切った.そして反対側の側面の7cm大の穴を通してiPhone 11 Pro video cameraによって薄いシートを毎秒60フレームでlight scatteringイベントを記録した.

治験者がstay healthy」と発声したとき20500μmのたくさんの飛沫が発生し,この飛沫が薄いシートを通過する際にフラッシュ(flashes)を生み出す(Figure 1).フラッシュの輝きは粒子の大きさを反映し,それらはvideo撮影の16.7msec〜シングルフレームの間,存在していた.撮影時シングルフレーム中の粒子数は,“th”の発音時と“healthy”の発音時に最も多かった(Figure 1A.フェイズ間は短い休止として,3回同じフェイズを繰り返した.フラッシュ数は最も大きな声で発声した時の347が最も多く,最も少ないのは最も小さな声で発声した時の227だった(Figure 1Atop trace.一方同じフェイズで少し湿らせた布で治験者の口を覆って発声させた場合は,バックグラウンドレベル(mean 0.1フラッシュ)に近いくらいの少ないフラッシュ数であった(Figure 1Abottom trace.これは前方に移動する飛沫を減少させることを意味する.

我々の研究で大きな声での発声によってフラッシュ数が増加することが判明した.咳や鼻すすりよりも発声は飛沫の拡散は少ないという報告もあるが,会話は咳と同程度の飛沫を拡散させるという報告もある1)

我々は発声によって生み出される飛沫や飛沫核そしてエアロゾルの役割は検討していない.この研究によって発声が生み出す飛沫を可視化でき,湿らせた布で口を覆うことが飛沫の拡散を防ぐ効果を持つことが示された.

1) Chao CYH, et al. Characterization of expiration air jets and droplet size distributions immediately at the mouth opening. J Aerosol Sci 2009; 40: 122-133.

 

 

※上記2)と参考文献3)への批判(ただし6月のものであることに注意.内容は既に古い可能性がある.)

Abbas M, Pittet D. Surfing the COVID-19 scientific wave. Lancet Infectious Diseases. June 30, 2020. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30558-2.

著者らは,限られた箱の中の実験で,発声が様々な大きさの飛沫を生じることを報告した2).またこの著者らのグループは,一連の過程に基づいて,5μm以下のエアロゾルが発生することを示唆するモデルを作成した.以上より,発声が空気を介した感染伝播と関連していると結論付けた3)

著者らが行ったいくつかの過程には問題がある.

モデルの主な仮定は,乾燥が飛沫径を減少させ,飛沫がエアロゾルになることが可能であるということである.実験は相対湿度27%の環境で行われたが,これは室内相対湿度の推奨値である40%を下回っている.

著者らは喀痰中のウイルス負荷を測定した前向きな研究に基づいて,唾液中の平均ウイルス量を7×106 copies/mLと仮定している.このように,著者らは,唾液中のウイルス負荷は喀痰中のウイルス量と同じであると仮定している.また著者らは,106 copies/mL未満のサンプルからは決して感染性のあるウイルスは分離できないという報告の知見なしに,検出されたすべてのRNA copyが感染性をもつウイルスであると仮定した.さらに必要な証明は,生きているウイルスが感染性をもつということ,そしてその生きているウイルス量が感染させる量よりも高いことを示すことであろう.

これらの研究2)3)には方法論的な欠陥があり,その一般化が制限されている.1人を対象とした実験が一流の科学雑誌に掲載されていることに驚いている.どちらの研究も,発声の大きさをデシベル(decibels)単位で測定していないが,ビデオでは参加者が叫んでいる場合もあるようで,正常な発声であるという主張には疑問が残る2)3).ブラックボックス内の空気はHEPAフィルターでろ過されていたのかもしれないが,発声開始前の233分間に飛散粒子が観察されたのを少なくとも12例数えることができた3).また,ブラックボックスの大きさが小さく,参加者から60cm以上離れた場所(ボックスの最大長)でも飛散粒子が確認されたことは示されていない.録音された音声の持続時間は25秒であったが,結果は人為的に1分に外挿したものである3).また,発声中および発声終了後10秒間,ブラックボックスの底部に扇風機があるのは現実世界の環境ではない.いずれの点についても議論されていない.そして無症状感染に関しては議論がある.