COVID-19関連追加(2020926-2

 

【喘息・COPD患者のCOVID-19関連死にICSsは保護的な役割を果たさない】

202055-298日に追記.喘息におけるICSの使用は,用量依存的にACE2およびTMPRSS2 mRNA発現減少と関連はあったが,OAD(喘息,ACOCOPD)患者において肺組織のACE2遺伝子発現はICS治療の有無で有意差がないということを考えると,このような結果に至ったのは必然かもしれない.

 

Schultze A, et al. Risk of COVID-19-related death among patients with chronic obstructive pulmonary disease or asthma prescribed inhaled corticosteroids: an observational cohort study using the OpenSAFELY platform. Lancet Respiratory Medicine. Sept 24, 2020.

https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30415-X.

Background

COVID-19パンデミック時における入院患者の初期の報告では,COVID-19のような急性呼吸器疾患の有病率が喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)においてはより低いことが示され,吸入コルチコステロイド(ICSs: inhaled corticosteroids )がSARS-CoV-2感染や重篤な後遺症の進行に対して保護的な役割を果たしているのではないかという推測がある.我々は,英国イングランドの COPDまたは喘息患者におけるICSCOVID-19関連死との関連をリンクされた電子カルテ(EHRs: electronic health records)を用いて評価した

Methods

この観察研究では,OpenSAFELY platformを用いて,国家統計局の死亡データとリンクされたプライマリーケア EHRsからCOPDまたは喘息患者の患者データを分析した.両コホートの指標日(追跡調査開始日)は202031日,追跡調査は202056日まで行われた.COPDコホートでは,35歳以上,現在または過去に喫煙歴あり,指標日以前4ヵ月以内にICSまたは長時間作用型β2作動薬と長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LABA-LAMA)併用療法を行っていた人を対象とした.喘息コホートでは,18歳以上で、指標日の3年以内に喘息と診断され,指標日前4ヵ月以内にICSまたは短時間作用型β2作動薬(SABA)を処方された人を対象とした。COVID-19関連死の転帰を,ICS処方された人と他の呼吸器薬を処方された人で比較した(COPDコホートではICS vs LABA-LAMA,喘息コホートでは低用量,中用量,高用量ICS vs SABA単独).Cox回帰モデルを用いて,年齢,性別,その他の事前指定された共変量で調整した各集団における曝露カテゴリーと転帰との関連について,ハザード比(HRs: hazard ratios)と95% CIsを推定した.我々は,測定されていない交絡因子が結果に及ぼす影響を定量化するためにe値を算出した.

Results

リンクされたデータベースの33356521人のうち,COPD患者148557人,喘息患者818490人,そして指標日以前4ヶ月以内に関連する処方を受けた人は,この2つのコホートに登録した(appendix pp 3-4).

COPDコホートの人口統計学的および臨床的特徴をTable 1に示す.このコホートの148557人のうち43308人(29.2%)が指標日以前の4ヶ月間にLABA-LAMAを処方されており,105249人(70.8%)がICS-LABAまたはICS-LABA-LAMA(すなわちICS併用)を処方されていた.治療群の人口統計学的特徴は同様であった.追跡期間中央値は両群とも66日間(IQR, 66-66)であった(appendix p 39).指標日前の3年で喘息と診断された人を除き(ICSを処方された人では,より一般的であった),併存疾患の有無は両治療群で同様であった.過去1年間に増悪した人の割合は,ICS併用を処方された人よりもLABA-LAMA併用を処方された人の方が低かった.

喘息コホートの人口統計学的および臨床的特徴をTable 2に示す.818490人のうち608972人(74.4%)が指標日以前の4ヵ月間に低用量または中用量ICSが処方されており,101077人(12.3%)に高用量ICSが処方されており,108441人(13.2%)にSABA単独が処方されていた.喘息治療群は,人口統計学的および臨床的特徴に関して違いがみられた.年齢中央値はSABA単独群で48歳(IQR, 35-60),低用量または中用量ICS群で53歳(40-66),高用量ICS群で55歳(44-67)であった.男性の割合は,SABAのみを処方された人(46614 [43.0%])の方が,低用量または中用量ICS群(245446 [40.3%]),高用量ICS群(38590 [38.2%])よりもわずかに高かった.追跡期間中央値は全群で 66 日間(IQR, 66-66)であった.多くの併存疾患の有病率は,SABA単独処方群で最も低く,高用量ICS処方群で最も高かった.過去1年間に喘息の増悪を経験した人の割合は,SABA単独処方群が最も低く(15210 [14.0%]),高用量ICS処方群が最も高かった(36726 [36.3%]).

COPDコホートではCOVID-19関連死が429人発生した.治療群別のCOVID-19関連死に至るまでの時間をFigure 1Aに示す.単変量モデルでは,LABA-LAMA併用療法を処方された人と比較して、ICS併用療法を処方された人はCOVID-19関連死のリスクが高かった(HR, 1.53 [95% CI, 1.22-1.93]; Figure 2この関連性は年齢と性別(1.43 [1.13-1.80])で調節すると減少したそして完全調整モデルでは関連性は減少した(1.39 [1.10-1.76]; Figure 2事後解析では,二値変数としての過去の増悪,喫煙状況,および重複剥奪指標で調節すると,関連性が最も減少した; 他の個々の潜在的交絡因子の調整による効果推定値への影響は無視しえた(appendix pp 17-18).年齢と(事前指定された)相互作用の証拠は見つからなかった(appendix p 14).比例ハザードの仮定からの逸脱の証拠がいくつか検出された(appendix pp 15-16).Kaplan-Meier曲線は,経時的にわずかに増大している効果量とともに,追跡期間を通してHRがおそらく1を超えていることを示している(Figure 1A

 

 

Figure 1: Time to COVID-19-related death for the COPD population (A) and asthma population (B), and standardised survival curves for the COPD (C) and asthma (D) populations.

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Figure 2: Forest plot of COVID-19-related deaths in the COPD population, overall and sensitivity analyses

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COPDコホートの標準化生存曲線を作成した(Figure 1C).追跡調査終了時の推定累積死亡率は,ICS併用群では0.31%95% CI, 0.28-0.35),LABA-LAMA併用群では0.22%0.17-0.27)であった追跡調査終了時の両治療群における調整済み絶対累積リスク差は0.09%(0.03-0.15)であった

喘息コホートではCOVID-19関連死が529人発生した.治療群別のCOVID-19関連死亡に至るまでの時間をFigure 1Bに示す.単変量モデルでは,低用量または中用量,そして高用量のICSを処方された人は,SABAのみを処方された人と比較してCOVID-19関連死のリスクが高かった(低用量または中用量: HR, 1.36 [95% CI, 1.01-1.84]; 高用量: 2.30 [1.64-3.23]; Figure 3これらの関連性は,年齢および性別で調整すると大幅に減少した(低用量または中用量: 1.02 [0.76-1.37]; 高用量: 1.61 [1.15-2.27]事後解析により,年齢と性別で調整すると,過去の増悪で調整した時に高用量ICSCOVID-19関連死亡率との関連の強さがもっとも減少することが明らかになった; 他の個々の潜在的交絡因子の調整による効果推定値への影響は無視しえた(appendix p 25-26).年齢との(事前指定された)相互作用の証拠はなく,比例ハザードの仮定からの逸脱も認められなかった(appendix pp 20-24).

Figure 3: Forest pot of COVID-19-related deaths in the asthma population, overall and sensitivity analyses

 

喘息コホートの標準化生存曲線を作成した(Figure 1D).追跡調査終了時の推定累積死亡率は,高用量ICS群で0.07%95% CI, 0.06-0.09),低用量ICS群で0.05%0.05-0.06),SABA単独群で0.05%0.03-0.07)であった調整済み絶対累積リスク差は,低用量または中用量ICS群とSABA単独群を比較した場合,0.005%(−0.0012-0.002),高用量ICS群とSABA単独群を比較した場合,0.03%(0.003-0.05)であった

本解析と比較すると,感度分析において,COPDコホートではICS-LABA2剤併用とICS-LABA-LAMA3剤併用を別々に検討した場合,3剤併用療法が処方された人では死亡リスクが増加した(完全調整後HR, 1.43 [95% CI, 1.12-1.83])が,2剤併用療法を処方された人ではこの増加はそれほど大きくなかった(1.29 [0.96-1.74]; Figure 2分析を白人に限定すると,COPDコホートではHRsが減少した(Figure 2)が,喘息コホートでは減少しなかった(Figure 3

喘息コホートの母集団の定義を変更しても,結果にはほとんど影響はなかった(Figure 3.また、COPD対照群にLAMA単剤療法を受けている人を含めても,主な効果推定値には実質的な影響を与えず(Figure 2COPDコホートでの経口ステロイド使用(増悪の定義に含まれていない)で追加調整しても効果推定値には影響を与えなかった(appendix pp 18).最後に,治療重み付けCox回帰(treatment-weighted Cox regressions)の逆確率(inverse probability )で組み込まれた傾向スコアを用いて解析を再実行しても,効果推定値は変化しなかった(Figure 2, Figure 3; appendix p 38

COPDコホートでは,非COVID-19関連死リスクはICSを処方された人の方がLABA-LAMAを処方された人よりも高く,調整後HR1.23であった(95% CI, 1.08-1.40; 2喘息コホートにおいては,高用量,低用量,中用量ICSを処方された人では,SABAのみを処方された人と比較して,非COVID-19関連死リスクが増加したという証拠は見られなかった(Figure 3

ICSCOVID-19関連死に有害な関連が観察されたことから,定量的バイアス分析を用いて,もし実際にCOVID-19関連死のリスクにICSの使用が影響しないのであれば,この結果を説明するためにどの程度の未調整交絡因子がデータに存在する必要があるかを確認した.我々の結果をnull effectと一致させるためには,すなわち,COPDコホート(1.10)における完全に調整された95% CIの下限を完全に説明するため,あるいは喘息コホート(1.10)における高用量ICSとの関連を説明するためには,測定されていない交絡因子が(測定された共変量を条件として)曝露または転帰のいずれかと少なくとも1.43のリスク比(e; appendix p 28)で関連している必要があるだろう.測定されていない交絡因子は,観察されたHR0.8の保護効果(e COPD: 2.87, 喘息: 3.29, appendix p 299)に移行させるためには,曝露または転帰のいずれかとより強い関連性を持つ必要がある.

 

Discussion

・英国の慢性呼吸器疾患患者における定期的なICSの使用とCOVID-19関連死との関連を調査した.COPDコホートにおいて,ICSを処方された人とLABA-LAMAを処方された人のCOVID-19関連死におけるHRは,この統計量はICS処方による差を意味するものではなかったが,完全調整モデルでは1.3995% CI, 1.10-1.76であった.一方,喘息コホートでは,高用量ICSを処方された人のCOVID-19関連死におけるHRは,完全調整モデルではSABAのみを処方された人と比較して1.5595% CI, 1.10-2.18であったが,低用量または中用量ICSを処方された人の相対的な死亡リスクが増加したという証拠はほとんどなかった(1.14 [0.85-1.54]注目すべきことに,推定累積COVID-19関連死亡率はCOPDコホートではLABA-LAMA群よりICS群の方がわずか0.09%高く,喘息コホートではSABA単独群より高用量ICS群の方が0.03%高いという,絶対的な死亡リスクは非常に低かった.以上の結果から,これらのコホートでのICS使用による保護効果については,以前に仮説が立てられていたような強い支持は得られない

・感度分析を含め,ここに示されたデータを総合すると,喘息またはCOPDに対する定期的なICS療法がCOVID-19による死亡リスクを減少させたり増加させたりすることは示されておらず,また,SARS-CoV-2アウトブレイクにおいて,喘息またはCOPD患者におけるICS療法を調整することを支持する証拠は得られていない保護効果を示す証拠がないことは,初期のCOVID-19疫学研究で観察された慢性呼吸器疾患の割合が低いことの代替的な説明を今後の研究で検討すべきであることを示唆している.観察された死亡リスクの増加は小さく,因果関係があるとは考えられないため,我々の結果は,ICS治療を受けている患者に,パンデミック下においても,これらの薬剤の使用が患者を過度の負のリスクに晒しているわけではないことを再確認させるものである.最後に,この臨床問題に関する今後の観察研究では,ここで述べたものと同様に,測定されていない交絡因子に関する課題に直面する可能性が高いことに留意し,可能であれば適切な感度分析を行うことを研究者に奨励する.

 

Conclusions

COPDおよび喘息患者における定期的なICSの使用がCOVID-19関連死亡率に有益な効果を示す証拠は見出されなかった我々はわずかな有害な関連性を報告したが,我々が観察した結果のパターンは,ICSを処方された人と他の呼吸器薬を処方された人における背景にある健康状態の違いによってこの関連性が容易に説明できることを示唆している.これらの結果から,SARS-CoV-2感染アウトブレイクにおいて,COPDまたは喘息患者にICSをルーチン投与するという現在の臨床ガイドラインを変更することを支持するものではない