COVID-19関連追加(2020929日)

 

【感染性滴(drops)と感染性エアロゾル(aerosol)を理解するためのロゼッタストーン】

Milton DK. A Rosetta Stone for Understanding Infectious Drops and Aerosols. Journal of the Pediatric Infectious Diseases Society, Volume 9, Issue 4, 1 September 2020, Pages 413–415.

https://doi.org/10.1093/jpids/piaa079.

曝露科学や産業衛生学において用いられるエアロゾルとその気道への沈着を説明するために使用される用語は,医療感染症のコミュニティで頻繁に使用されている“呼吸飛沫respiratory droplets”や“エアロゾルaerosol”という用語とはあまり一致していない.このようなコミュニケーションの難しさが,効果的かつ適切な共同研究の妨げとなっている.私の目的は,呼吸器感染症の感染伝播形式を正確かつ学問的に理解できるように翻訳することである.

定義によれば,エアロゾル(aerosolとは,気体における粒子の懸濁(a suspension of particles in a gasである.粒子は,固体,液体,またはそれらの組み合わせで存在しうる.懸濁しているということは,通常,粒子が空気中に数秒以上滞留し,気流に乗って運ばれることを意味する.気象学者は,空気中に浮遊し続ける,または地上に到達する前に蒸発する”飛沫(droplets)や雲粒(cloud particles)(< 200μm)”を,”滴(drops)(径200μmを超える液体沈殿物)や雨粒(raindrops)(> 500μm)と区別している1).霧の飛沫(fog droplets)はほとんどが10μm以下であるが,20μm以上のものもある2)

静止空気における10μmの範囲の粒子の沈降速度は,床上1mにおける咳から放出されてから5分間は空気中に浮遊していることを示唆している3)しかし室内空気は静止していない人体からの熱プルームにおける空気の上昇速度は,50μmの飛沫における沈降速度よりも大きい4)一般的に,室内空気速度は,少なくとも10μmの粒子を懸濁させて気流に沿って漂流させるには十分であり、2030μmまでの粒子は放出された場所から遠くまで移動することができる5μmよりもはるかに大きい粒子(液体飛沫または呼吸飛沫の乾燥残留物であるかどうかにかかわらず)は,空気中に浮遊し,気流に乗って漂流することができるので、そのような粒子は真のエアロゾルであるしたがって,医学的には5μm以下の粒子のみを意味する”エアロゾルaerosols”という用語を一般的に使用することは,現代エアロゾル物理学の知見とは一致しない

広州で報告されたCOVID-19レストランにおけるアウトブレイク5)では,天井に設置された空調ユニットにより、明らかに速い空気流速が流れていたため,径10μmを超える飛沫とその残留粒子が客の呼吸域に浮遊していたと考えられる.しかし,何の疑いもないレストラン客の呼吸域を浮遊しているこのような比較的大きな粒子で構成されたエアロゾルの意味は何だろうか?

曝露科学者および産業衛生学者は,エアロゾルが気道に沈着する場所に基づいて,呼吸エアロゾル( respirable aerosols)または粒子状物質(particulate matter<2.5μmPM2.5; 胸部エアロゾル(thoracic aerosls)または粒子状物質 <10μm PM10; 吸入エアロゾル(inhalable aerosols)または総(大気)浮遊粒子状物質(TSP:  total suspended particulatesとして分類している6)呼吸エアロゾルは,呼吸細気管支および肺胞に到達するのに十分小さい粒子と定義され,5μm以下の粒子を含む.環境大気汚染測定では,PM2.5が標準的な測定基準となっている.胸部エアロゾルとは,気管や胸腔内の太い気道に入り込むことができるより大きな粒子(最大1015μm)のことである.環境大気汚染の場合,標準的な基準値はPM10である.吸入エアロゾルは最大の粒子(約100200μmまで)であり,鼻に吸い込まれる.環境大気汚染では,おおよそ対応する基準値はTSPである.

健康の観点から,どのエアロゾル分画(呼吸,胸部,吸入)が重要なのかどうかは,それが何の粒子で,その標的組織はどこなのかによる結核菌では,標的組織は肺胞であるため,吸入エアロゾルのみが重要である 7)気道全体にわたって細胞表面に標的組織の受容体が存在するウイルスの場合 8),これらのエアロゾルすべてが重要である可能性が高い(Figure 1.さらに,結膜はSARS-CoV-2に対して感受性があるため,表面に触れた後に汚染された指でこれらの部位に自己播種してしまうリスクに加えて、目や前鼻腔に飛んでくる弾道滴ballistic dropsもリスクをもたらす.

Figure 1: 吸入,胸部,呼吸エアロゾルのサイズ範囲における弾道滴および飛沫エアロゾルの近距離伝播,そしてソースコントロールとしてのフェイスマスクの効果

 

高度に汚染された可能性のある環境で患者に近づかなければならない医療従事者を保護するための推奨事項として,目と呼吸器の保護が重要である.一般の人々の場合,フィジカルディスタンスは,跳ね散った(splash),霧状の(spray)曝露や汚染された表面への曝露は制限するが,かなりの距離を移動する可能性のある2030μmの粒子のエアロゾルを遮断する効果は低いだろう吸入エアロゾルや胸部エアロゾルの放出を遮断し呼吸エアロゾルの放出を減少させるフェイスマスク9)は,発生源の制御として重要な役割を果たす.フィジカルディスタンス,フェイスマスク,目の保護のすべてがベータコロナウイルス感染の広がりを抑えることに貢献しているという証拠がある10)

エアロゾルを介したSARS-CoV-2感染伝播の証拠が蓄積されているため,工学的な制御,特に換気空気の浄化(air disinfectionが今後の対策の重要な要素となる 11)12).その結果,医学界,曝露科学,工学界の間の”言葉の壁language barrier”を埋めることが重要な課題である.1世紀以上前に確立され13)飛沫感染伝播とエアロゾル感染伝播を人為的に二分化した医学用語によって,専門家は”瘴気(miasma)の概念”を十分に払拭しえた.しかし,今こそ,COVID-19の被害を最小限に抑え,皆が安全に学校や職場に戻れるようにするために,必要なコミュニケーションや学問的な協力を促進できる正確で違いがないような(more precise and nuanced)用語へと移行する時である.

References

1) American Meteorological Society. Droplet. Meteorology glossary. 2012. Available at: http://glossary.ametsoc.org/wiki/Droplet. Accessed June 17, 2020.

2) Podzimek J. Droplet concentration and size distribution in haze and fog. Stud Geophys Geod 1997; 41:277–96.

3) Hinds WC. Aerosol technology: properties, behavior, and measurement of airborne particles. 2nd ed. New York: Wiley; 1999.

4) Gena AW, Voelker C, Settles GS. Qualitative and quantitative schlieren optical measurement of the human thermal plume. Indoor Air 2020; 30:757–66.

5) Lu J, Gu J, Li K, et al.  COVID-19 Outbreak associated with air conditioning in restaurant, Guangzhou, China, 2020. Emerg Infect Dis 2020; 26:1628–31.

6) Volkwein JC, Maynard AD, Harper M. Workplace aerosol measurement. In: Kulkarni P, Baron PA, Willeke K, eds. Aerosol measurement. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, Inc, 2011:571–90.

7) Wells WF. Airborne contagion and air hygiene: an ecological study of droplet infection. Cambridge, MA: Harvard University Press, 1955.

8) Hou YJ, Okuda K, Edwards CE, et al.  SARS-CoV-2 reverse genetics reveals a variable infection gradient in the respiratory tract [manuscript published online ahead of print 27 May 2020]. Cell 2020. doi:10.1016/j.cell.2020.05.042.

9) Leung NHL, Chu DKW, Shiu EYC, et al.  Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks. Nat Med 2020; 26:676–80.

10) Chu DK, Akl EA, Duda S, et al. ; COVID-19 Systematic Urgent Review Group Effort (SURGE) Study Authors. Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis. Lancet 2020; 395:1973–87.

11) Morawska L, Tang JW, Bahnfleth W, et al.  How can airborne transmission of COVID-19 indoors be minimised? Environ Int 2020; 142:105832.

12) Nardell EA, Nathavitharana RR. Airborne spread of SARS-CoV-2 and a potential role for air disinfection [Published online June 1, 2020]. JAMA 2020. doi:10.1001/jama.2020.7603.

13) Chapin CV. The sources and modes of infection. 1st ed. New York: J. Wiley & Sons, 1910. Available at: https://lccn.loc.gov/12021189. Accessed May 25, 2020.