COVID-19関連追加(20201110日)

 

【無症状担がん患者からの長期にわたるウイルス排出】

Avanzato VA, et al. Case Study: Prolonged infectious SARS-CoV-2 shedding from an asymptomatic immunocompromised cancer patient. Cell. Oct 28, 2020.

https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.10.049.

Summary

慢性リンパ性白血病と後天性低ガンマグロブリン血症を合併した免疫不全の女性患者の上気道から長期にわたるSARS-CoV-2排出が観察された.感染性SARS-CoV-2排出は70まで,ゲノムRNAgRNAおよびサブゲノムRNAsgRNAの排出は,最初の診断日から105まで観察された1回目の回復者血清投与後も感染は消失せず,この患者の上気道における SARS-CoV-2 に対する影響は限定的であることが示唆された.2回目の回復者血清投与から数週間後には,SARS-CoV-2 RNAは検出されなくなった.宿主内におけるSARS-CoV-2の顕著なゲノム進化が観察され,優位なウイルス変異の連続的なターンオーバー(入れ替わり)が確認されたしかし,Vero E6細胞およびヒト初代肺胞上皮組織における複製速度は影響を受けなかったこれらのデータは,特定の免疫不全患者では,これまでに認められていたよりも長い期間にわたって感染性ウイルスが排出される可能性があることを示唆しているSARS-CoV-2が持続して陽性になる患者では,感染性ウイルス排出の代理指標として,サブゲノムRNAsgRNAの検出が推奨される

Results

Clinical presentation of an immunocompromised patient persistently infected with SARS-CoV-2:

2020212日,10年来の慢性リンパ性白血病(CLL),後天性低ガンマグロブリン血症、貧血,慢性白血球症(chronic leukocytosis)の既往歴を持つ71歳の女性が,腰痛と下肢痛を主訴に救急外来に来院した.2020214日にがんに関連した脊椎骨折および狭窄の手術を受け(生検結果はTable S1),その後,2020219日にリハビリテーション施設に転院した.2020225日,貧血のため再入院し,翌日に胸部X線検査を受けたが正常であった.彼女は,施設でCOVID-19アウトブレイクが確認されたため(McMichael, 2020a; McMichael, 2020b),リハビリテーション施設に戻ることができなかった.2020228日に施行された胸部CTでは目立った所見はなかった.この間,患者には呼吸器症状や全身症状はなかった.COVID-19アウトブレイク時にはリハビリ施設に入居しており,202032日にSARS-CoV-2の検査を受け,陽性であることが判明した(Figure 1).SARS-CoV-2と診断された後、患者は隔離病棟の陰圧室に隔離された.医療スタッフは,ゴーグル,ガウン,手袋を着用し,電動ファン付呼吸用保護具(PAPR: Powered Air Purifying Respirators )あるいはN95レスピレーターで構成されるfull PPEを装着していた.その後の15週間,彼女はいくつかの検査会社によるSARSCoV-2検査をさらに14回受け,最初に陽性になった日から105日後の2020615日まで陽性が持続した.その後,この患者は616日から716日までの4回の検査で連続して陰性となり,感染が消失したことが示された.

患者は,CLLによって引き起こされた後天性低ガンマグロブリン血症のため,治療レジメンの一部として46週間ごとに免疫グロブリン(IVIG)を静脈内投与された.彼女は202046日と56日にIVIG治療を受けた.このIVIGの特定ロットの製造日は,COVID-19パンデミック以前の202011日に先行していたため,SARS-CoV-2血清検査結果には寄与しなかった(Table S2).彼女のSARSCoV-2感染は持続していたため,NIHによって血清サンプルにおけるスパイク糖タンパク質に対する抗体を検査したが,スパイク特異的抗体は検出されなかった(Burbelo, 2020).2020512日,FDA eINDプロトコルの下,Bloodworks Northwestが提供したSARS-CoV-2回復者血清200ml(ウイルス中和(VN: virus neutralizing)力価 60Table 1)が彼女に投与された.彼女の感染は持続し,そして2020523日、同じプロトコルの下で,別のドナーから得た,回復者血清200mlVN力価160)を投与された(Table 1). 追加の臨床検査値はTable S3に記載した.

 

 

Figure 1:

 

Table 1:

 

Long-term shedding of genomic RNA, subgenomic RNA and infectious SARS-CoV-2:

ゲノムRNAgRNA),サブゲノムRNAsgRNA),および感染性SARS-CoV-2の検出を用いて,患者内でのSARS-CoV-2排出動態を観察した.最初の診断から49日,70日,77日,85日,105日,および136日目に採取した鼻咽頭スワブおよび口腔スワブからRNAを抽出し,ウイルスgRNACorman, 2020)を評価した.この時点でEvergreenHealthによる検査は陽性であったが,gRNAsgRNAは,77日目に採取されたスワブを除き、105日目までの鼻咽頭スワブで検出された(Figure 2A).口咽頭スワブのいずれにもgRNAsgRNAは検出されなかったため,感染は鼻咽頭に限局していることが示唆された.陽性スワブ上のgRNAsgRNAの絶対定量は,droplet digital PCR (ddPCR) によって行われた (Figure 2A).最も高いウイルス量は70日目のスワブで検出され,2.2×106gRNAコピー/mlCT 22.44),および1.1×105sgRNAコピー/mlCT 29.05)であった.スワブのsgRNAの検出は,SARS-CoV-2の活発な複製を示すものである.すなわち活発に複製しているSARS-CoV-2のみがRNA合成を開始し、結果としてsgRNAの複製および転写を引き起こすからである(Wang Y, 2020; Kim, 2020).そしてsgRNAは,gRNAとは異なり,ウイルスの複製がない場合には鼻腔内に持続しない(Speranza, 2020).ウイルス分離を,すべてのqRT-PCR陽性サンプルで試みた.感染性SARS-CoV-2の培養が,49日目および70日目に採取した鼻咽頭スワブにおいて成功した.49日目と70日目に採取した鼻咽頭スワブから培養したSARS-CoV-2の走査型および透過型電子顕微鏡検査(scanning and transmission electron microscopy)においてコロナウイルスの形態と一致するウイルス粒子が観察され,これは,この患者における感染性ウイルス排出を伴うSARS-CoV-2の持続感染を示している(Figure 3).

Figure 2:

 

 

Figure 3:

 

Convalescent plasma treatment did not clear SARS-CoV-2 from the upper respiratory tract:

SARS-CoV-2持続感染の治療のために,患者は71日目と82日目に2回の回復者血清療法を受けた.輸血前および輸血後の血清サンプル,そして回復期血漿サンプルにおいて,ELISAアッセイによる完全長スパイクおよびスパイク受容体結合ドメイン(RBD: receptor binding domain )抗体の存在,およびウイルス中和(VN)アッセイによるSARS-CoV-2中和抗体の存在について分析した(Figure 2B, 2C, およびFigure S1A, S1B, およびTable 1)(Amanat, 2020; Wrapp, 2020).1回目に投与した回復者血清(#1)は,IgGスパイク力価2560RBD力価3840,およびVN力価60を有していた.2回目に投与した回復者血清(#2)は,IgGスパイク力価5120RBD力価5120,およびVN力価160を有した(Figure 2B, S1A, Table 1).71日目に投与された最初の血清投与前には,患者から採取された血清における検出可能なスパイクおよびRBD IgG抗体価は非常に低く,輸血前の49日目および71日目にはIgG価は1:101:40であった; これらのサンプル中にはVN価は検出されなかった.71日目に最初の投与を行った後,スパイクおよびRBD IgG抗体価は1:320まで上昇し,それから77日目にはそれぞれ1:801:160まで低下した.71日目および77日目にはVN抗体価は検出されなかった(Figure 2C, S1B, Table 1).82日目に2回目の投与を行った後,速やかにスパイクおよびRBD IgG力価はそれぞれ1:320および1:640に上昇し,105日目まで上昇したままであった(Figure 2C, S1B).1:10の低中和力価(neutralizing titer)が82日目と105日目に観察された(Table 1).

2回の回復者血清の投与にもかかわらず,85日目と105日目の鼻咽頭スワブはgRNAおよびsgRNAが陽性のままであり,これは回復者血清治療が,この患者の上気道からのウイルス除去に失敗したことを意味するこの時点でのsgRNAの存在はウイルスの複製が活発であることを示唆しているが,70日目以降は感染性SARS-CoV-2を培養することはできなかった

 

 

Genetic analysis of patient swab samples links infection to the primary Washington State outbreak:

SARS-CoV-2の完全ゲノム配列は,49日目,70日目,85日目および105日目に採取した鼻咽頭スワブから得た(Table S4).完全ゲノムは,ARTICプライマーセット(https://artic/network/)を用いて配列決定し、参照ゲノムとしてMN985325.1(USA/WA1/2020)リードアセンブリから得た(Harcourt, 2020)SARS-CoV-2の系統は,Pangolinソフトウェア(https://pangolin.cog-uk.io/)を用いて決定され,患者ウイルスゲノムは,ワシントン州での最初のアウトブレイクに由来するゲノムからなる系統A.1に配置された(Rambaut, 2020).最も可能性のある系統樹は,GISAIDデータベース(www.gisaid.org)から得られ,過去の報告された系統(Rambaut, 2020)からの代表的なSARS-CoV-2ゲノムを用いて生成された(Shu and McCauley, 2017).患者のSARS-CoV-2完全長ゲノムは,系統A.1内で一緒にクラスタリングしている(Figure 4A).これは,患者がSARS-CoV-2 A.1系統のウイルスに感染したことを示唆している(その系統は,中国から最初に輸入した後に循環し,その後ワシントン州で指数関数的に増殖し局所的に伝播した). 患者分離株の時間的関係を可視化するために,ワシントン州からNextStrain clade 19Bclades.nextstrain.org)に属するSARS-CoV-244の全ゲノム配列を,20202月〜5月にワシントン州で収集された株を代表するGISAIDデータベース(www.gisaid.org)(Shu and McCauley, 2017)からサブサンプリングした. 持続感染している患者から回収された完全ゲノム配列のうち4つ,USA/WA1/2020ゲノム配列,およびWuhan-Hu181 1/2019ゲノム配列を,Geneious Prime v.2020.1.2 (www.geneious.com)で実装されたMAFFT v.1.4 (Katoh and Standley, 2013, Katoh, 2002)を用いてフルゲノムアライメントを行った.最も可能性のある系統樹をPhyML v. 3.1 Guindon, 2010)で再構成し,時間的発散を示す系統樹(Figure 4B)をTreeTime v. 0.7.6 (Sagulenko, 2018, Hadfield, 2018)において,(NextStrainパイプライン(nextstrain.org/sars-cov-2/)で実装されているように),ヌクレオチド置換のHKY85モデルと標準偏差4e-48e-4の分子時計(molecular clock)を用いて推定した. 発散時期の推定によると,患者分離株は2020227日〜331日に共通の祖先を共有しており,限界確率分布の90%以内に収まっている.これは,患者が最初に検査で陽性となった202032日に行われたタイミングと一致している.患者スワブから回収されたSARS-CoV-2ゲノムと,サンプリング時(2020420日,511日,526日,および615日)にワシントン州で循環している他のSARS-CoV-2ゲノムとの関係をさらに評価するために,ワシントン州のSARS-CoV-2ゲノムをGISAIDデータベースからダウンロードした(Shu and McCauley, 2017).配列の品質はNextcladeサーバーv.0.7.5(https://clades/nextstrain.org/)で決定し,420日時点の1,789配列,420日〜511日における385配列,511日〜526日における268配列,526日〜615日における709配列を,さらなる系統解析のために保存した. キュレーションされた配列セット,4つの患者ゲノム、およびUSA/WA1/2020ゲノムを用いた最も可能性のある系統樹を,IQ-TREE v1.6.12Nguyen, 2015)で実装されたModelFinderKalyaanamoorthy, 2017)およびultrafast boostrapHoang, 2018)を用いて推定した.系統樹は,本研究の患者ゲノムが,2月下旬/3月上旬に感染した後にウイルス感染が持続していることに矛盾しない単系統クラッドとしてクラスター化していることを示している(Figure S2).

次に,2つのSARS-CoV-2分離株から完全ゲノム配列を得た(Table S4).そして鼻咽頭スワブから得られた配列におけるconsensus level variantsおよびそれらのスワブから培養されたSARS-CoV-2分離株を参照株USA/WA1/2020  (MN985325.1) (Harcourt, 2020)と比較した.患者スワブおよびSARS-CoV-2分離株から直接得られた完全ゲノム配列において,ORF1ab,スパイク,MおよびORF8コーディング配列内にいくつかの一塩基(nt)置換(single nucleotide (nt) substitutions)が観察された.また,49日目と70日目のサンプルでは,nsp1にメチオニン残基を欠失する3 ntの欠失が認められた(Table 2).2つのSARS-CoV-2分離株のゲノム内では,スパイク糖タンパク質(spike glycoprotein)のコード領域に2つのインフレーム欠失(in-frame deletions)が認められた.S1N末端ドメイン(NTD: N-terminal domain)に21 ntのインフレーム欠失(残基21,975-21,995)が見られ,49日目のSARS-CoV-2分離株のスパイク糖タンパク質の7アミノ酸欠失(aa 139-145)につながった.70日目の分離株では,より小さな12 ntの欠失(残基21,982 - 21,993)が検出され,NTD4アミノ酸欠失(aa 141-144)につながったが,これは49日目の分離株で見られた7アミノ酸欠失の範囲内であった(Figure 5A).スパイク糖タンパク質におけるこれらの観察された欠失は,部分的に溶媒に露出してスパイクのcompact conformationでβ鎖を形成するNTD内の領域にマップする(Wrobel, 2020)(Figure 5Bおよび5C).この領域は,スパイクの付加的なコンフォメーション状態(conformational states)を表す他の構造ではモデル化されておらず,したがって,おそらくflexibleである(Wrapp, 2020; Walls, 2020).分子のこの領域内の見かけの可塑性が,同定された欠失の構造的許容性に寄与している可能性がある.これらの欠失の位置はS1/S2およびS2'開裂部位に位置する他のSARS-CoV-2分離株で観察されたものとは異なる(Andres, 2020; Lau, 2020; Liu, 2020d).

患者サンプルから直接得られた完全ゲノム配列と,2つのSARS-CoV-2分離株から得られたゲノムデータとを比較すると,21ヌクレオチド欠失は,49日目から患者サンプルから得られたゲノム中のシークエンシングリードの少数(1%)に存在し(Table 2),細胞培養中の継代時に選択されることが示された.70日目の12ヌクレオチド欠失は,臨床サンプルと組織培養分離株において100%のリードに存在していた.注目すべきことに,85日目と105日目のスワブからのゲノム配列では,どちらのスパイク欠失も検出されなかった(Table 2).他のマイナーな変異が低レベルで存在しており,シークエンシングのカバレッジ深度によって検出されなかったか,またはその時点でのサンプリングに反映されていなかった可能性がある.感染過程の様々な時点で得られた異なる完全長ゲノムにおいて観察された変異は,優位なウイルス種が連続的に入れ替わる多様なウイルス集団(類似種複合体quasispecies complex)であることを示唆している

Table 2:

Figure 4:

Figure 5:

Growth kinetics of SARS-CoV-2 patient isolates:

49日目に分離されたSARS-CoV-2VeroE6細胞における複製速度を参照株USA/WA1/2020と比較した.49日目の分離株で観察された変異にもかかわらず,49日目の分離株と参照株において複製速度の差は観察されなかったFigure 6A.より機能的に関連した細胞型での増殖速度を確認するために,ヒト初代肺胞上皮組織(EpiAlveolarTM, MatTek Corporation, Ashland, MA, USAにおいて増殖曲線を作成した.これらの細胞においても,患者分離株と参照株において有意差は観察されなかった(Figure 6B

Figure 6:

 

Discussion

ここでは,慢性リンパ性白血病(CLL)と後天性低ガンマグロブリン血症を有する免疫不全患者において,最初の検査陽性から105日後までの長期にわたるSARS-CoV-2排出について報告した.患者がSARS-CoV-2に感染した正確な時期は不明であるが,2020228日にその施設で大規模なCOVID-19アウトブレイクが確認される直前の2020219日〜25日において,彼女が入所していた長期療養施設で曝露された可能性が高い.この患者は,感染性SARS-CoV-2が最初の診断から49日目および70日目に分離されたにもかかわらず,経過を通して無症状のままであり,過去に報告されたように20日目まで続いた感染性ウイルス排出よりもはるかに長い期間であった(van Kampen, 2020).CLLなどのがんを含む免疫不全患者におけるSARS-CoV-2感染に関するこれまでに入手可能な情報は限られており,ほとんどが疾患の重症度および転帰に焦点を当てている(He, 2020a; Paneesha, 2020; Baumann, 2020; Furstenau, 2020; Jin, 2020; Soresina, 2020; Zhu, 2020; Fill, 2020).この例をもって一般化することは出来ないかもしれないが,我々のデータは,特定の免疫不全患者において,感染性ウイルスの長期的な排出が懸念される可能性があることを示唆している.免疫不全患者は長期にわたり感染性ウイルスが排出され,COVID-19の典型的な症状がない可能性があることを考えると,CDCCDC, 2020b)が推奨するような症状ベースの検査・隔離戦略では,特定の患者が感染性ウイルスを排出しているかどうかを検出できない可能性がある.

この患者は,低中和抗体価を認めた後,上気道からのSARS-CoV-2感染が最終的に消失した.どのようにしてウイルスが除去されたのか,また回復者血清がウイルスクリアランスに及ぼす影響は不明である.1回目の投与で鼻腔内スワブにおけるウイルス量は減少したが,2回目は抗体価の高い回復者血清を投与したにもかかわらず,その後のウイルス量は増加した.回復者血清は重症または致死性COVID-19患者の治療に重点が置かれている.いくつかの臨床試験では,回復者血清の有効性を検討しているが,現時点で,COVID-19の転帰における回復者血清療法の有効性は,依然として曖昧である(Mira, 2020; Salazar, 2020).SARS-CoV-2クリアランスに対する回復者血清の影響が限定的であるのは,静脈内投与された抗体が,下気道に比べて(Mira, 2020),鼻上皮に十分に分布しないという事実(Ikegami, 2020)に起因している可能性がある.

感染過程を通して,SARSCoV-2の著明な宿主内ゲノム進化が認められた.ディープシークエンシング(deep sequencing)により,感染過程で観察された遺伝子型の相対的な頻度の入れ替わり(turnover)を伴うウイルス集団構造の連続的な変化が明らかになった.SARS-CoV-2内では,一般的に報告されている宿主内変異は比較的限定的であり,感染経過にわたって主要なSARS-CoV-2集団は同一のままである(Jary, 2020; Shen, 2020; Capobianchi, 2020).観察された宿主内での進化に寄与する可能性のある要因は,感染の長期化と宿主の免疫状態の低下であり,おそらく免疫力のある宿主と比較して異なる選択圧(selective pressures)が生じる.このような差のある選択圧が,感染の過程を通じて優位なウイルス種の連続的な入れ替わりとともに,より大きな遺伝的多様性を可能にしたのかもしれない.いくつかの配列変異は感染期間を通して一貫しているが,49日目と70日目に観察されたスパイク欠失のように,個々の時点で特徴的な変異も観察された。.以前に報告され,この報告とは異なるスパイク欠失は,臨床サンプルにおいて比較的低い頻度で観察されたが,ウイルス分離時に濃縮された(Andres, 2020; Liu, 2020d). これらの報告と同様に,49日目の分離株におけるスパイク欠失は,患者サンプルにおいてマイナーな変異として観察されたが,ウイルス分離時の継代で選択された.

過去に報告された開裂部位での欠失とは対照的に,患者において49日目および70日目に観察されたスパイク欠失は,受容体結合部位から遠位領域であるS1NTDに位置している.これらの欠失残基は,多くのスパイク構造においてモデル化されておらず(Wrapp, 2020; Walls, 2020),この領域が構造的に不安定(labile)であることを示唆している.NTDは抗原性標的(antigenic target)として同定されているが(Brouwer, 2020; Chi, 2020; Liu, 2020a),2つの患者分離株とプロトタイプUSA/WA1/2020 SARS-CoV-2分離株においては,ウイルス中和における明確な違いは観察されなかった.

現在の感染管理ガイドラインの多くは,持続的にPCR陽性の患者は感染性ウイルスではなく残留RNAを排出しているとされており,免疫不全患者では,症状発症後20日以上は感染性を維持しないと考えられている(CDC, 2020a).ここでは,特定の患者が,以前に認識されていたよりもはるかに長い期間,感染性かつ複製能力があるウイルスを排出する可能性があることを示している(van Kampen, 2020感染性ウイルスは70日目まで検出されたのに対し,SARS-CoV-2の活発な複製を示す分子マーカーであるsgRNASperanza, 2020)は105日目まで検出された.免疫不全状態は,COVID-19による重症化および合併症の発症の危険因子として同定されている(CDC, 2020b).さまざまな状態や治療によって免疫系が変化し,免疫不全を引き起こす可能性があり,ウイルス複製や感染性SARS-CoV-2排出が長期化する状況を生み出している.本報告では,1人の免疫不全患者の長期のウイルス排出に焦点を当てているが,米国では推定300万人が何らかの免疫不全状態にあり,HIV感染者,固形臓器移植患,造血幹細胞移植患者,化学療法を受けている患者,副腎皮質ステロイドを投与されている患者などが含まれている(Kunisaki and Janoff, 2009).このような一過性または慢性の免疫不全患者集団は,インフルエンザAウイルスおよびSARS-CoV-2などの呼吸器感染症による呼吸器疾患合併症のリスクが高い(Kunisaki and Janoff, 2009).前回の2009年のパンデミックでは,化学療法を受けている癌患者や固形臓器移植患者など,様々な免疫不全状態の患者において,長期にわたるpH1N1排出が観察された(van der Vries, 2013).中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)については,骨髄異形成症候群患者,大細胞型B細胞リンパ腫治療のための自家末梢血幹細胞移植患者,および末梢T細胞リンパ腫患者において,38日までの長期排出が観察された(Kim, 2017).実験的に感染させた,シクロホスファミドとデキサメタゾンで免疫抑制された非ヒト霊長類では,MERS-CoV排出はより高レベルで,より長期にわたった.これは,この研究で観察されたウイルス-宿主動態に対する免疫抑制の影響を実験的に支持する(Prescott, 2018)

Limitation:

単一症例であることであり,ウイルスクリアランスにおける回復者血清治療,ウイルスクリアランスに関与する潜在的な代替機序,および他の免疫低下状態の患者におけるSARS-CoV-2の持続感染および排出の頻度に関する一般的な結論を出すことが困難であることである.この多様な集団での感染動態をより詳細に研究できるように,持続感染と感染性ウイルスの長期排出の追加症例の検討が必要である.

 

 

 

 

 

COVID-19関連追加(20201110日)に1115日追記しました

 

Immunocompromised HostにおけるSARS-CoV-2の持続性と進化】

Choi B, et al. Persistence and Evolution of SARS-CoV-2 in an Immunocompromised Host. N Engl J Med. Nov 11, 2020. doi: 10.1056/NEJMc2031364.

抗凝固療法,グルココルチコイド,シクロホスファミドが投与され,そしてリツキシマブとエキュリズマブを間欠的に投与されていた,びまん性肺胞出血を合併した重症抗リン脂質抗体症候群1)45歳男性が,発熱を主訴に入院した.

day 0に鼻咽頭スワブによるSARS-CoV-2逆転写酵素ポリメラーゼ鎖反応(RT-PCR)アッセイによりCovid-19と診断され,レムデシビルを5日間投与された(Figure S2.びまん性肺胞出血が疑われたため,グルココルチコイドの投与量が増量された.day 5には,補助酸素を必要とせずに退院した.

day 6からday 68までは自宅で単独隔離していたが,隔離期間中に腹痛で3回,倦怠感と呼吸困難で1回入院した.入院時,低酸素血症を合併しており,びまん性肺胞出血の再発が懸念され,グルココルチコイドが増量された.SARS-CoV-2 RT-PCRCt値はday 3937.8まで上昇した(これは感染の消失を示唆する)(Table S12)3)

day 72(低酸素血症による別の入院から4日目)に,鼻咽頭スワブのRT-PCR陽性,Ct値は27.6であり,Covid-19の再発が懸念された患者は再びレムデシビル(10日間のコース)を投与され,その後のRT-PCRは陰性であった

day 105,患者は蜂窩織炎で入院した.day 111に低酸素血症を発症し,最終的には高流量酸素(high-flow oxygen)による治療が必要となった.びまん性肺胞出血の再発が懸念されたため,免疫抑制を強化した(Figure S1-S3).day 128RT-PCR Ct値が32.7となり,2度目のCovid-19の再発が懸念されたため,レムデシビルを再度5日間投与したその後のRT-PCRは陰性であった.呼吸機能の低下(respiratory decline)が続き,びまん性肺胞出血が懸念されたため,グルココルチコイドに加え,免疫グロブリン静脈内投与,シクロホスファミド静脈内投与,毎日のルキソリチニブの投与が行われた.

day 143RT-PCR Ct値が15.6であったため,3度目のCovid-19の再発が懸念された患者はSARS-CoV-2スパイク蛋白質に対するSARS-CoV-2抗体カクテル(Regeneron4)を投与されたday 150に低酸素血症のため気管内挿管を行ったが,day 151BALF(気管支肺胞洗浄液)のRT-PCRによるCt値は15.8であり,Aspergillus fumigatusが増殖していた患者はレムデシビルと抗真菌薬を投与されたday 154にショックと呼吸不全で死亡した

呼吸器サンプル(鼻咽頭および喀痰)および血漿中の定量SARS-CoV-2ウイルス量アッセイ(quantitative SARS-CoV-2 viral load assays)を行ったところ,その結果はRT-PCRによるCt値と一致し,8.9 log10 copies/mlでピークを示した(Figure S2, Table S1).組織の検討では,肺と脾臓でSARS-CoV-2 RNAレベルが最も高かった(Figure S4, S5).

系統解析では,持続感染加速されたウイルスの進化に矛盾しない結果が示された(Figure 1A, S6アミノ酸変化は,主にスパイク遺伝子および受容体結合ドメイン(RBD: receptor-binding domain)に見られ,それはそれぞれウイルスゲノムの13%および2%であるが,観察された変化においては,それぞれ57%および38% を内在性に有していた(Figure 1B.ウイルス感染性の検討では,75日目および143日目の鼻咽頭サンプルにおいて感染性ウイルスを確認した(Figure S7).イムノフェノタイピングおよびSARS-CoV-2特異的B細胞およびT細胞応答を,Table S2Figure S8-S11に示す.

ほとんどのimmunocompromised personsSARS-CoV-2感染を効果的にクリアランスするが,本症例はimmunocompromised stateに伴う持続感染5)加速されたウイルスの進化の可能性を強調している

 

Figure 1: SARS-CoV-2 Whole-Genome Viral Sequencing from Longitudinally Collected Nasopharyngeal Swabs.

パネルAに示すのは,SARS-CoV-2ウイルス量が多い4つの時点(T018日目と25日目; T175日目と81日目; T2128日目と130日目; T3143日目, 146日目, 152日目)における患者配列(赤矢印),そして州(U.S.: MA),国(U.S.: all),アジア,ヨーロッパ,およびその他(アフリカ,南米,カナダ)からの代表的な配列を含む最尤系統樹である.目盛りは0.0001ヌクレオチド置換/siteを表す.挿入図は、鼻咽頭およびBALFSARS-CoV-2 RT-PCR Ct値を示す; 横の破線は陽性のカットオフ値をCt40 で示し,縦の赤い破線はウイルス配列決定日(18, 25, 75, 81, 128, 130, 143, 146, 152日目)を示す.

パネルBには,T0と比較したT1T2T3における患者における欠失の位置,同義変異(アミノ酸が置換しない遺伝子変異),非同義変異の位置が示されている.CP denotes cytoplasmic domain, E envelope, FP fusion peptide, HR1 heptad repeat 1, HR2 heptad repeat 2, N nucleocapsid, NTD N-terminal domain, ORF open reading frame, RBD receptor-binding domain, RdRp RNA-dependent RNA polymerase, S1 subunit 1, S2 subunit 2, TM transmembrane domain.

 

 

 

 

References

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Supplementary Appendix