COVID-19関連追加(202115日)

★当院HP関連ファイル:

20201226-2(真の無症状感染者からの感染伝播)

【中国武漢市の住民約1000万人におけるロックダウン後の

SARS-CoV-2核酸スクリーニング検査】

Cao, S., Gan, Y., Wang, C. et al. Post-lockdown SARS-CoV-2 nucleic acid screening in nearly ten million residents of Wuhan, China. Nat Commun 11, 5917 (2020). Published Nov 20, 2020.

https://doi.org/10.1038/s41467-020-19802-w.

Abstract

武漢では,2020123日〜48日まで,厳しいCOVID-19抑制措置が実施された.抑制解除後の感染有病率を推定することは、ロックダウン解除後のパンデミック管理に役立つ可能性がある.武漢では,2020123日〜48日まで,厳しいCOVID-19抑制措置が実施された.抑制解除後の感染有病率を推定することは、ロックダウン解除後のパンデミック管理に役立つ可能性がある. ここでは,武漢での2020514日〜61日までに実施された市全体のSARS-CoV-2核酸スクリーニングプログラムについて述べる6歳以上の住民全員が対象となり,9,899,828 人(92.9%)が参加した.新たな症候性症例はなく,無症候性症例300人(検出率0.303/10,000, 95%CI 0.270-0.339/10,000が確認された無症候性症例の濃厚接触者1,174人のうち検査陽性者は認めなかった以前に回復したCOVID-19患者34,424人のうち107人が再検査で陽性となった(再陽性率0.31%, 95%CI 0.423-0.574%.そのため,武漢におけるSARS-CoV-2感染の有病率は,ロックダウン終了後58週間で非常に低かった.

Methods

nucleic acid testing:

核酸検査にはリアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ法を用いた.2つの標的遺伝子: ORF1abおよびnucleocapsid proteinN)遺伝子を同時に増幅し検査した.Ct値が37未満の場合を陽性と定義し,Ct値が検出されない,またはCt値が40以上の場合を陰性と定義したCt値が37から40までの範囲では,サンプルは再検査された.再検査の結果が40未満のままで.増幅曲線に明らかなピークがある場合,サンプルは陽性と分類され,そうでない場合は陰性と報告された.これらの診断基準は,中国の公式勧告に基づいている16)

Definition and management of identified confirmed cases and close contacts:

本研究では,全国COVID-19予防管理ガイドライン(Supplementary Note 2)に基づき,指定医療機関でCOVID-19と診断されたすべての確定症例を対象とした.無症候性陽性例(asymptomatic positive cases)とは、スクリーニング時に陽性であり,核酸検査時にはCOVID-19の診断既往歴も臨床症状もない者を指す.濃厚接触者とは,核酸検査サンプリングの2日前から無症候性陽性者と濃厚接触した者を指す16).再陽性例とは,以前に確認されたCOVID-19から回復し,スクリーニングプログラムで再度陽性と診断された者を指す.すべての再陽性例,無症候性陽性例,およびその濃厚接触者は,プライマリ・ヘルスケア専門家が管理する指定のホテルで少なくとも2週間隔離され,2回の連続した核酸検査が陰性であった場合にのみ隔離から解放された.

Results

武漢の6歳以上の対象者は10,652,513人(総人口の94.1%)であった.核酸スクリーニングプログラムは19日間(2020514日〜61日)で完了し,対象者10,652,513人のうち,合計9899,828人を検査した(参加率92.9%9,899,828人のうち,COVID-19の既往診断がない人は9,865,404人,COVID-19回復患者は34,424人だった.

COVID-19の既往歴のない参加者9,865,404人を対象としたスクリーニングでは,新たにCOVID-19が確認された症例はなく検出率0.30395%CI, 0.270-0.339/10,000無症候性陽性例300が確認された.無症候性症例の年齢層別Ct値の中央値をSupplementary Table 1に示した.無症候性陽性例300人のうち,2人は1家族からのもので,別の2人は別の家族からのものであった.これら2家族には過去にCOVID-19を確認された患者はいなかった無症候性陽性例の濃厚接触者1174を追跡したところ,全員がCOVID-19陰性であった.スクリーニングに参加したCOVID-19の既往歴のある患者は34,424人であった。COVID-19の既往歴のある34,424人のうち,107人が再検査で陽性となり,再陽性率は0.310%95%CI, 0.423-0.574%であった

すべての無症候性陽性例および再検査陽性例では,ウイルス培養は陰性であり,本研究で検出された陽性例には”生存可能なウイルス”は検出されなかったことを示している

すべての無症候性陽性例,再発陽性例およびその濃厚接触者は,核酸検査の結果が陰性となるまで少なくとも2週間隔離された.検出された陽性例およびその濃厚接触者のうち,隔離期間中において,有症状,そして新たにCOVID-19が確認された者はいなかった.このスクリーニングプログラムでは、採取されたサンプルの76.7%は単独検査(single testing),23.3%は混合検査(mixed testing)が実施された.無症候性陽性率はそれぞれ0.32195%CI, 0.282-0.364/10,000および0.24395%CI, 0.183-0.315/10,000であった.

1089歳の無症候性陽性者300人の内訳は,男性132人(0.256/10,000),女性168人(0.355/10,000)であった.無症候性陽性率は,17歳以下の小児または青年で最も低く(0.124/10,000),60歳以上の高齢者で最も高かった(0.442/10,000)(Table 1).女性の無症候性陽性率(0.355/10,000)は男性(0.256/10,000)よりも高かった.

 

 

Supplementary Table 1:

 

Table 1:

 

 

無症候性陽性例は,主に国内在住・無職(24.3%),退職した高齢者(21.3%),公共サービス従事者(11.7%)であった(Figure 1).

Figure 1: The occupation distribution of asymptomatic positive cases (%).

Note: Others included the self-employed, military personnel, and so on. (Source data are provided as s Source Data file.).

figure1

 

 

都市部の無症候性陽性率は平均0.456/10,000で,洪山区の0.317/10,000から武昌区の0.807/10,000までであった.郊外地区の無症候性陽性率は0.132/10,000で,新州区の0.047/10,000から江岸区の0.237/10,000と低かった(Figure 2).

Figure 2: The geographic distribution of the detection rate of asymptomatic positive cases.

Note: 1 represents Jianghan district; 2 represents Qiaokou district. (Source data are provided as s Source Data file.).

figure2

 

 

武漢における7280の居住地域では265の地域(3.6%)で無症候性陽性例が確認されたが(246の地域では1例のみ),その他の96.4%の地域では無症候性陽性例は確認されなかった.

SARS-CoV-2ウイルス抗体検査では,無症候陽性例300人中190人でIgG陽性(+)であり,無症候性陽性例の63.3%95%CI, 57.6-68.8%)が実際に感染していたことが示されたIgM(-)かつIgG(-)であった無症候性陽性例の割合は36.7%95%CI: 31.2-42.4%; n= 110)であり,感染のウインドウ期や核酸検査の偽陽性の可能性を示唆していた(Table 2

Table 2: The geographic distribution of the detection rate of asymptomatic positive cases. Note: 1 represents Jianghan district; 2 represents Qiaokou district. (Source data are provided as s Source Data file.).

 

無症候性感染者の検出率が高いのは武昌区,青山区,橋口区(Qiaokou)であり,過去のCOVID-19確認症例の有病率はそれぞれ68.243/10,000人,53.767/10,000人,100.047/10,000人であった.Figure 3は,無症候性陽性者の検出率が高い地区では,全体的にCOVID-19確定症例の有病率が高いことを示している(rs= 0.729, P= 0.002

 

 

Figure 3: The prevalence of previously confirmed patients and the detection rate of asymptomatic positive cases of COVID-19 in each district in Wuhan.

figure3

 

a The prevalence of previously confirmed patients of COVID-19 in each district in Wuhan. b The detection rate of asymptomatic positive cases of COVID-19 in each district in Wuhan. (Source data are provided as s Source Data file.).

 

Discussion

SARS-CoV-2感染症の武漢市における核酸スクリーニングでは,1,000万人近くが募集され,新たに確認されたCOVID-19症例はなかった無症候性陽性例の検出率は非常に低く、無症候性陽性例から追跡された濃厚接触者への感染伝播の証拠は認めなかった居住地域の96.4%において,無症候性陽性例は認められなかった

これまでの研究では,SARS-CoV-2ウイルスの無症候性感染者は感染性をもち3),その後発症することがあると示されている4).症状のある患者と比較して,無症候性感染者は一般的にウイルス量が少なく,ウイルス排出期間が短いため,SARS-CoV-2感染伝播リスクが低いと考えられる5)本研究では,無症候性陽性例のサンプルを用いてウイルス培養を行ったが,生存可能なSARS-CoV-2ウイルスは検出されなかった無症候性陽性例の濃厚接触者はすべて陰性であり,本研究で検出された無症候性陽性例の感染性が低い可能性が示唆された

武漢において回復したCOVID-19患者の再感染率は低かったウイルス培養と罹患追跡の結果,回復したCOVID-19患者の再感染例に感染性がある証拠は認めなかった(これは他の研究の証拠と一致する).韓国で行われた研究では,回復したCOVID-19患者285人の接触者790人をモニタリングした結果,COVID-19患者は確認されなかった6).中国のCOVID-19回復患者の公式サーベイランスでも,再感染例の感染性についての証拠はないことが明らかになった7)COVID-19の感染力の強さを考えると8)9)10),確定症例数と地域での感染リスクが関連していると考えられる武漢の異なる地区における無症候性陽性率は,既確定症例の有病率と相関していることがわかった.これは,感染症の時間的・空間的進化(特にロングテール特性(long-tailed characteristic))と一致している11)

既存のウイルス培養と遺伝子研究により9)10)SARS-CoV-2ウイルスの病原性は時間経過とともに弱くなっているかもしれず,新たな感染者(the newly infected persons)は初めの感染者(earlier infected cases)よりも無症状かつウイルス量が低い可能性が高いことが示された武漢のロックダウン期間中に全COVID-19症例を集中的に隔離・治療したことで,住民が地域内で感染するリスクは大幅に低下した.感染に感受性がある住民が低いウイルス量に曝露した場合,住民自身の免疫の結果として,無症状になる傾向があるかもしれない.今回の研究では,血清抗体検査の結果,無症候性陽性例の少なくとも63%が現実にSARS-CoV-2ウイルスに感染していたことが判明した.にもかかわらず,武漢では無症候性陽性例が存在し,より住民の感染感受性が高いため,満足するには時期尚早である(it is too early to be complacent, because of the existence of asymptomatic positive cases and high level of susceptibility in residents in Wuhan).武漢では,マスク着用,安全なソーシャルディスタンスを保つなど,COVID-19流行の予防と制御のための公衆衛生対策を継続する必要がある.特に,免疫減弱あるいは併存疾患がある者は適切に防御を続けるべきである.

本研究で得られた知見は,武漢ではスクリーニングプログラムの時点で, COVID-19 が十分にコントロールされていたことを示している.スクリーニングプログラムから2ヶ月後(202089日まで),武漢で新たに確認されたCOVID-19症例はなかった.武漢のマーケット環境から採取したサンプルにおいてSARS-CoV-2のさらなる検査が行われた.そして2020613日〜72日において,マーケット環境1795件から採取した合計52,312サンプルを確認したところ,陽性は認められなかった.

Limitation: @これは横断的なスクリーニングプログラムであり,無症候性陽性および再実施結果の経時的変化を評価することができない.A核酸検査陽性結果はウイルスRNAの存在を明らかにするが,特に無症候性感染者のウイルス量は相対的に低レベルであったり,サンプル収集が不十分であったり,検査技術の限られた精度13)のために偽陰性結果が発生している可能性があった.スクリーニングプログラムでは,使用された検査方法の感度と特異度に関する直接的な証拠は得られなかったが,メタアナリシスでは,COVID-19の鼻咽頭および咽頭スワブ検査の統合感度(pooled sensitivity)は73%95%CI, 68-78%)であったことが報告されている14).スクリーニングプログラムで使用された検査キットは政府が公的に購入したものであり,これらのキットは中国やその他の国で広く使用されている.スクリーニングプログラムにおける偽陰性結果を最小限に抑えるために,複数の対策が講じられた.例えば,サンプルの質を確保するために,サンプル採取のための標準的な訓練が保健所に提供された.サンプル採取,抽出,PCR を含む実験手技は,公式ガイドラインに従った(Supplementary Note 1).リアルタイムRT-PCRアッセイでは,2つの標的遺伝子を同時に検査した.それでも,特にマススクリーニングプログラムでは偽陰性の可能性が残っていた.しかし,検査感度が50%と低かったとしても,実際の有病率は本研究で報告されている2倍となるが,それでも非常に低い.対象となる住民の約7.1%が市全体の核酸スクリーニングに参加しておらず,スクリーニングプログラムでは不参加の理由に関する詳細なデータを収集していないことが本研究の限界である.公式な統計はないが,多くの出稼ぎ労働者や大学生がロックダウン前に武漢を離れ,伝統的な旧正月のために他の都市や省に住む家族と合流していた.したがって,不参加者の多くはスクリーニング時には武漢にいなかったと思われる.スクリーニングプログラムの主な目的は,ロックダウン後の武漢に実際に居住していた住民のCOVID-19流行リスクを評価することであった.したがって,推定された陽性率は,武漢にいなかった住民の不参加や他の理由でスクリーニングに参加しなかった住民の影響を大きく受けた可能性は低いと考えられる.また,武漢を離れた人は他の省や都市でのモニタリング対象者であり,核酸検査を受ける必要があった.この集団における核酸検査の陽性率を示す公式統計はないが,我々の知見よりも高い陽性率を示した報告はなかった.

Conclusions

ロックダウン後の武漢における無症候性陽性例の検出率は非常に低く(0.303/10,000),同定された無症候性陽性例が感染性をもつことを示す証拠はなかった.これらの所見は,ロックダウン後の予防・管理戦略を調整することを可能にするものであった.SARS-CoV-2感染の市中スクリーニングが住民の健康,健康行動,経済,社会に与える影響と費用対効果を十分に評価するためには,さらなる研究が必要である.

 

References

1) WHO. Coronavirus disease 2019 (COVID-19) Situation Report—51. Data as reported by national authorities by 10 AM CET 11 March 2020 (WHO, 2020).

2) Prevention measures taken at Sanmin residential community in Wuhan—Xinhua | English.news.cn

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3) Gandhi, M., Yokoe, D. S. & Havlir, D. V. Asymptomatic transmission, the Achilles’ heel of current strategies to control Covid-19. N. Engl. J. Med. 382, 2158–2160 (2020).

4) He, D. et al. The relative transmissibility of asymptomatic COVID-19 infections among close contacts. Int. J. Infect. Dis. 94, 145–147 (2020).

5) Arons, M. M. et al. Presymptomatic SARS-CoV-2 infections and transmission in a skilled nursing facility. N. Engl. J. Med. 382, 2081–2090 (2020).

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https://www.cdc.go.kr/board/board.es?mid=a30402000000&bid=0030/

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http://www.nhc.gov.cn/xcs/fkdt/202004/3e16b2976000411da737c70523e05522.shtml.

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9) Su, Y. C. F. et al. Discovery and Genomic Characterization of a 382-Nucleotide Deletion in ORF7b and ORF8 during the Early Evolution of SARS-CoV-2. mBio 11, e01610-20 (2020).

10) Lin, Z. Italian scientist: the virulence of SARS-Cov-2 is weakening, the newly infected person are almost asymptomatic (Chinanews, 2020).

11) Ajelli, M. et al. Spatiotemporal dynamics of the Ebola epidemic in Guinea and implications for vaccination and disease elimination: a computational modeling analysis. BMC Med. 14, 130 (2016).

12) Wuhan Municipal Health Commission. All results were negative by checking 52312 samples from 1795 supermarket and other market environment setting for 20 days (news).

http://wjw.wuhan.gov.cn/ztzl_28/fk/tzgg/202007/t20200702_1389323.shtml.

13) Woloshin, S., Patel, N. & Kesselheim, A. S. False negative tests for SARS-CoV-2 infection—-challenges and implications. N. Engl. J. Med. 383, e38 (2020).

14) Boger, B. et al. Systematic review with meta-analysis of the accuracy of diagnostic tests for COVID-19. Am. J. Infect. Control S0196-6553(20)30693-3. Advance online publication. https://doi.org/10.1016/j.ajic.2020.07.011.

15) Lohse, S. et al. Pooling of samples for testing for SARS-CoV-2 in asymptomatic people. Lancet Infect. Dis. 20, 1231–1232.

https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30362-5.

16) National Health Commission of the People’s Republic of China. The prevention and Control Plan of COVID-19 5th edition (National Health Commission of the People's Republic of China, 2020).

17) European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC). Laboratory support for COVID-19 in the EU/EEA. (ECDC, 2020).

18) Dorai-Raj, S. Package’binom’—Binomial Confidence Intervals For Several Parameterizations. Version 1.1-1.

https://cran.r-project.org/web/packages/binom/binom.pdf.

 

 

 

 

 

COVID-19関連追加(202115日)に112日追記しました

 

COVID-19症状がない人からのSARS-CoV-2感染伝播】

Johansson MA, et al. SARS-CoV-2 Transmission From People Without COVID-19 Symptoms. Published, Jan 7, 2020. JAMA Netw Open. 2021;4(1):e2035057.

https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.35057.

Introduction

SARS-CoV-2の世界的な広がりは,2003年に発生したSARS-CoVとは異なり,症状に基づいたスクリーニングだけではウイルスを封じ込められないことが明らかになっている.2003年のSARS-CoVアウトブレイクでは,無症状で臨床的に軽症の感染はまれであり,症状発症前の人からの感染例は報告されていなかった1)SARS-CoV-2SARS-CoVよりも感染拡大が早く,SARS-CoVと異なり、症状のない人からも感染伝播することが示されている.しかし,COVID-19症状のない人からの感染伝播を減らすための対策は論争を呼び,政治化され,そして経済や多くの社会活動に悪影響を与えていると考えられる.COVID-19の最適な制御は,感染伝播を防ぐ可能性の高い緩和努力に資源と健康メッセージを向けることにかかっている.症状のない人からの感染伝播を防ぐ緩和策の相対的な重要性は議論されている.症状のない人からのSARS-CoV-2感染伝播の割合を決定することは,管理の実践と方針に優先順位をつけるための基礎となる.

感染しているが症状がない人からの感染伝播は,2つの異なる感染状態から発生する可能性がある: 前症状性感染と”真の”無症状性感染.COVID-19症例データを用いた初期のモデル研究では,SARS-CoV-2の世代間隔(generation interval)は,発病間隔(serial interval)より短い.これは1人が感染してからその人が誰かに感染させるまでの平均時間が,1人が症状を発現してから,その人から感染した人が症状を発症するまでの平均時間よりも短いことを示している2)-5).このことは,もし感染伝播が有症状期間に限定されていた場合,予想以上に早く流行が拡大していたことを意味する.第2世代の感染者が症状を発現する頃には,すでに第3世代は感染していた.パンデミック初期の疫学的データからも,前症状感染伝播の可能性が示唆されている6)7).そして実験室での研究では,呼吸器分泌物中のウイルスRNAレベルが発症時にはすでに高いことが確認されている8)-10)

無症状性SARS-CoV-2感染伝播は,全く症状のない感染者(または症状が非常に軽度またはほとんど認識できない感染者)によっても発生する.感染者と非感染者の代表的なサンプルからの集中的な前向き臨床データ収集と症状スクリーニングが必要であるため,明らかに症状を示さない感染者の割合を定量化することは困難である.それにもかかわらず,家庭内濃厚接触調査では,無症状または非常に軽度の症状による感染が発生していることが示されている11)-14).そして検査・流行疫学研究では,全く症状を発現しない人が,症状がある人と同様にSARS-CoV-2を他者に感染させる可能性があることを示唆されている9)15)16)

Methods

疾病対策予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)は,ヒト被験者の登録を伴わないこの決定分析研究は,機関審査委員会の承認を必要としないと判断した.我々は単純なモデルを用いて,前症状感染伝播の様々な寄与と”真の”無症状性感染伝播(無症状のまま)を評価するため感染性期間(infectious period)を変化させて前症状性(症状が出る前から感染性あり),”真の”無症状性,有症状性からの感染伝播の割合を評価した.

すべての推定値について,中国で行われたメタアナリシス研究8件のデータを用いて,潜伏期間を中央値5日,症状のある人の95%12日目までに症状を発症したとした17)

そのため,症状を発症した個人の日ごとの(daily(t))症状発症確率(pso)を:

pso(t)= FLog−Normal(t,logmean= 1.63, logsd= 0.5).

感染性期間の分布を近似するために,症状発症前に感染性の獲得が始まるように,感染性のピークは平均的に潜伏期間の中央値と同じ時間に発生するというベースラインの仮定を立てた(Table9)12)14)-16)18)20).それから,我々は,経時的な感染性(I: infectiousness)I)はγ密度関数(y density function)で近似でき,平均的な人が感染性を獲得する期間は約10日間(すなわち,感染伝播の98%10日間以内に起こる)11)と仮定した:

I(t)=fγ(t, mode=5, interval=10).

全ての推定値について,感染性期間は10日としたが,モードは3日〜7日の間で変化させた(潜伏期間の中央値に対して-2日と+2日).

また、感染者の中で症状を示さない人の割合(pns)や,これらの感染が感染伝播に及ぼす相対的な寄与度(rns)についても不確実性が残っている.pnsの推定値は一桁から50%以上と幅があり,その多くは研究集団(例: 年齢,併存疾患の有病率)や長期追跡調査12)-14)19)20)Table)の程度に関連したバイアスの可能性がある.我々は,感染者の30%が”真の”無症状であるというベースラインの仮定を立て,それより高い仮定または低い仮定を評価した.

また,無症状性感染者(asymptomatic)は,有症状性感染者の感染性(infectious)と比較して平均75%であるというベースラインの仮定を立てた9)15)16).これらのベースラインの仮定を合わせると,全く症状を発症しない感染者が全感染伝播(T)の約24%を説明するかもしれないことが示唆される:

Tns= pns×rns/(pns×rns+[1pns]).

この全体的な割合であるTns0%70%の間で変化させ,幅広い可能性のある割合を評価した.そのため,症状発症後の個人からの感染伝播の日ごとの割合(Ts)は,以下のようになった:

Ts(t)= (1Tns)×pso(t)×I(t),

そして,前症状性感染伝播の日ごとの割合(Tps)(すなわち症状を発症するが症状が出る前に感染性を獲得する人)は以下である:

Tps(t)= 1Ts(t)Tns.

ベースラインの仮定を修正し,”真の”無症状性感染伝播と前症状性感染伝播の異なるレベルの相対的重要性を考慮した.

Results

ベースラインの仮定では,全感染伝播の約59%は無症状性感染者からであった: 前症状性感染者から35%”真の”無症状性感染者から24%であった(Figure 1.それぞれの要素(component)は不確実であるため,我々は発症に対して感染性のピーク時期および,”真の”無症状性感染者からの感染伝播の割合を変えて評価した.”真の”無症状性感染者からの伝播の24%を維持しつつ,感染性のピーク時期を1日早く(4日目に)シフトさせると,前症状性感染者からの伝播は43%に増加し,全ての無症状性感染者からの伝播は67%に増加した(Figure 1A).それより遅いピーク(すなわち6日目)では,前症状性感染者からの伝播は27%に減少し,全ての無症状性感染者からの伝播は51%に減少した(Figure 1C).

感染性のピーク日を5日目に一定とし,”真の”無症状性感染者からの相対感染性を75%,伝播の割合を10%に減少させた場合(ベースラインの仮定),”真の”無症状性感染者からの全ての伝播は8%に減少し,前症状性感染者からの伝播は42%に増加し,それらを合わせた無症状性感染伝播は全ての感染伝播の50%となった(Figure 1D).一方,症状を発症したことのある人の割合を30%とし,その相対感染性を100%とした場合には,それらの者は全感染伝播の30%に寄与し,前症状性感染伝播は32%,それらを組み合わせた無症状性感染伝播は全感染伝播の62%であった(Figure 1F).

前症状性および”真の”無症状性感染伝播の大きさについては不確実性が残っている.そのため,我々は,感染性ピークが症状発症の中央値の2日前(より前症状性感染伝播らしい)から2日後(より前症状性感染伝播らしくない)までの間の変化し,そして”真の”無症状性感染伝播が0%70%の間であるという,これらの要素についてより広い範囲を分析した(Figure 2).このように広い範囲のシナリオでは,感染性のピーク時期と”真の”無症状性感染伝播を組み合わせた仮定によって,新規のSARS-CoV-2感染の少なくとも50%は感染伝播時に症状のない人から感染している可能性があることが示唆された.”真の”無症状性感染者からの感染伝播が伝播の30%を超えていた場合,感染性のピーク時期のいずれの値を用いても,症状発現時期の中央値から2日後までの全ての無症状性感染伝播は50%を超えていた.感染性のピークが症状発現時期の中央値の約6時間前のいずれかの時点であれば,”真の”無症状性感染者の割合に関わらず,症状のない人からの感染伝播が50%を超えていた.感染性のピークが症状発現の中央値から2日後であり,”真の”無症状性感染伝播は0%であるという非常に保守的な仮定でも,無症状性感染者からの感染伝播は25%を超えていた.

 

 

Figure 1: The Contribution of Asymptomatic Transmission Under Different Infection Profiles.

 

 

Figure 2: Combined Transmission From Individuals Who Are Presymptomatic and Those Who Never Have Symptoms.

色は,感染伝播時に症状のないすべての人からの感染伝播の割合を示しており,その中には、前症状性感染伝播(x軸,症状の発現に対する感染性ピークのタイミング)と,”真の”無症状性感染伝播(y軸)が含まれる.例えば,”真の”無症状性感染者からの感染伝播が10%である症状発症中央値(0日差)と同時期の感染性ピークは,感染伝播の約51%は無症状性感染者からの伝播であることを示す.

 

Table: Key Assumptions and Evidence Informing Those Assumptions.

Discussion

今回の調査結果は,以前の評価21) を補完するものであり,無症状性感染伝播の重要性を強調するものである: 様々なもっともらしいシナリオにおいて,感染伝播の少なくとも50%は症状のない人から起こると推定された.症状のない人からの感染伝播の割合は,SARS-CoV-2を抑制するための緩和策を見極める上で重要である.例えば,ある環境での再生産数(R)が2.0である場合,再生産数を1.0未満にするためには,少なくとも50%の感染伝播を減らす必要がある.いくつかの環境ではR2よりもはるかに大きくなる可能性があり,感染伝播の半分以上は感染伝播時に無症状の人から感染する可能性があることを考えると,効果的な制御として,症状のない人からの感染伝播リスクを軽減しなければならない.

Limitation: @このモデルの結果は定量的な精度を欠いているが,これら2つの要素(感染性のピーク時期,無症状性感染者における伝播)の質的な役割を示しており,幅広い範囲の可能性のある仮定にもかかわらず,無症候性感染伝播がSARS-CoV-2感染伝播ダイナミクスの重要な成分であるという知見は一定であることを示している.A前症状性感染者と“真の”無症状性感染者の正確な割合は不明である.年齢によって変動する,特に若い年齢では無症状性感染がさらに優位になる可能性がある20).B現実の感染伝播動態もまた,経時的な感染性獲得の個人レベルに完全に依存しているわけではない.COVID-19が広く認知されるようになった現在,COVID-19症状がある者は隔離される可能性が高くなり,感染伝播における有症状性感染者の割合はさらに減少し,無症状性感染者の割合が大きくなる.この意味において,ここでの推定値は,有症状性感染伝播を減少させるための介入の存在下での無症状性感染伝播の割合の下限を表している.

Conclusions

COVID-19の無症状性感染者の割合と感染性期間を複数のシナリオで検討したこのモデルでは,無症状性感染者からの感染伝播が全感染伝播の半数以上を占めると推定された

 

 

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