COVID-19関連追加(2021111日)

 

COVID-19拡散に不可欠であるエアロゾル感染伝播経路:

百貨店クラスターの事例研究】

Jiang, G., Wang, C., Song, L. et al. Aerosol transmission, an indispensable route of COVID-19 spread: case study of a department-store cluster. Front. Environ. Sci. Eng. 15, 46 (2021). https://doi.org/10.1007/s11783-021-1386-6.

Abstract

COVID-19患者が世界中で大アウトブレイクが発生し世界的な広がりが懸念されている.COVID-19の感染伝播経路を明らかにすることは,さらなる感染拡大を抑制するために必要である.本研究では,宝坻百貨店(中国)の患者43のデータを解析し,クラスター型アウトブレイクにおけるCOVID-19の感染伝播経路と疫学的特徴を補足した.潜伏期間中央値は5.95日(2-13日)と推定された.患者のほぼ76.3%が発症直後に診察を受けていた.発症から入院・確認までの期間の中央値は,それぞれ3.96日(0-4日),5.58日(1-21日)であった.異なるクラスター症例の患者は,アウトブレイクが発生した場所の特殊性から,独特の疫学的特徴を示す可能性がある.SARS-CoV-2は,患者の呼吸器活動を通じて周囲の空気中に放出され,長距離移動し,長期間空気中に存在する可能性がある.SARS-CoV-2 RNAは,隔離病棟,一般病棟,屋外,トイレ,廊下,混雑した公共エリアなど,さまざまな場所でエアロゾル中に検出される可能性がある.エアロゾル中のSARS-CoV-2輸送に影響を与える環境因子を分析したところ,エアロゾル中のSARS-CoV-2輸送は,温度,湿度,換気率,不活化物質(オゾン)含有量に依存していることが示された.症例番号2-610131617182023の感染経路については,エアロゾルによる感染伝播が重要な役割を果たしていると考えられた.エアロゾル感染伝播は環境要因によっては一部のクラスター症例で発生する可能性があり,COVID-19の感染拡大には不可欠な拡散経路であると考えられる.

 

 

GRAPHIC ABSTRACT

 

Introduction

天津市の宝坻百貨店で発生したアウトブレイクは,販売員,顧客およびその濃厚接触者を含む40人以上に影響を与えたが,この地域での流行の特徴を十分に説明した報告はない.したがって,クラスター症例におけるCOVID-19の疫学的特徴を早急に探索し,様々なクラスター症例における感染伝播経路を解析する必要がある,ここでは,宝坻百貨店(中国)のアウトブレイクにおけるクラスター症例43に関する利用可能なデータの解析を行い,疫学的特徴と感染伝播経路を明らかにした.

Methods

Data collection:

天津市疾病管理予防センター(TCDC: Tianjin Centers for Disease Control and Prevention)と天津海河病院(THH: Tianjin Haihe Hospital)は,中国天津市におけるCOVID-19流行の予防と管理のための権威ある機関である.TCDCは疑い患者と確定患者の疫学調査を担当している.疑い患者および確定患者がTHHに入院した時点で,詳細な疫学調査が行われる.患者,親族,濃厚接触者,医療従事者との面談,カルテの作成を通じて,患者の年齢,性別,職業,臨床症状,発症日,初回治療日,初診日,入院日,臨床結果などの情報を収集した.研究者は必要に応じて患者の親族に問診を行い,流行開始2週間前の接触歴を同定した.患者の感染源を可能な限り正確に検出するために,発症2週間前の特定の家庭や訪問先を調査し.全患者の曝露履歴を横断的に分析した.特に,最初の追跡調査では,120日〜25日までの宝坻百貨店の監視ビデオを直ちに回収し,COVID-19が確定した販売員が直接接触しているかどうかを判断した.本研究では,完全な疫学調査結果と予備的な臨床診断データに基づいて,さらに結果分析を行った.個人のプライバシー保護のため,身元情報を省略し,番号に置き換えた.

Study population:

疫学調査の結果をもとに,確定症例131人のうち,宝坻百貨店に関連する43を慎重にスクリーニングしたCOVID-19が確定した43のうち,宝坻百貨店と直接・間接的に接触した患者の疫学的特徴を後ろ向きに分析した: 販売員6人(症例1-6顧客18人(症例7-24,およびその濃厚接触者19人(症例25-43であった.販売員は宝坻百貨店で持続して曝露していた.顧客は特定エリアに短時間滞在していただけであり,その濃厚接触者は,現実的には宝坻百貨店における曝露の可能性がない二次症例(second-generation infections)であった.

Epidemiologic analysis:

各機能エリア分布および患者の感染エリアを説明するために,販売員や顧客の正確な曝露位置を記載した宝坻百貨店の平面図を作成した.宝坻百貨店のCOVID-19の換気状況とアウトブレイク過程を図示した.感染者の人口統計学的特徴,曝露,臨床診断などの特徴を標準化された表に記載した.また,疾患のタイムラインにおける患者の流行の特定に関連した重要な日付を説明する図も示した.潜伏期間,発症日から初回治療日まで,発症日から入院日まで,発症日から確定日までの期間をbox-plotで解析し,GRAPHPADを用いて確認した.サーベイランスビデオ解析と疫学調査の結果を組み合わせ,43人の感染経路を明らかにし,患者間の感染伝播の関連および経路について結論を導き出した.

Results

機能エリアは,宝坻百貨店の装飾品エリア,服飾エリア,靴エリア,宝飾品エリア,時計エリア,小型家電エリア,化粧品エリア,ヘッドウェアエリア,荷物エリアの9つのエリアに分かれていた.隣接するエリアは,服飾・靴エリアと宝石・時計エリアを除いて,少なくとも1.5mの通路で区切られていた.服飾・靴エリアと宝飾品・時計エリアの間には,明確な境界線はなかった(Figure 1).感染した販売員は6人で,そのうち4人(症例1, 4, 5, 6)が服飾・靴エリア,1人(症例3)が宝飾品エリア,1人(症例2)が小型家電エリアに配属されていた.11人(症例: 7, 8, 10, 11, 13, 14, 17, 18, 19, 20, 23)が服飾・靴エリアにいた.2人(症例7, 17)は宝飾品エリアへ,1人(症例7)はヘッドウェアエリアへ行っていた.加えて,感染した8人(症例9, 12, 15, 19, 21, 24)の正確な曝露位置は特定できなかった(Figure 1).宝坻百貨店の販売員および顧客の曝露日をそれぞれ青ブロック,緑サークルで示した.

年齢中央値は、患者は50歳(range: 10-90歳),販売員は42歳(range: 34-52歳),顧客は50歳(range: 26-69歳),濃厚接触者は51歳(range: 10-90歳)であった.患者43人のうち28人(65.1%)が女性であった.また,顧客20人のうち16人(80%)が女性であった.そして感染した販売員はすべて女性であった.この事例における感染者は中高年高齢者であり,主に服飾・靴エリアでの曝露が報告され,女性が主であった.臨床所見は軽症で典型例が中心であり,重症例はほとんど認めなかった(Table 1(a), (b)).

症例1はこのクラスターアウトブレイクの輸入感染源(指標症例)と考えられた症例1は,112日〜113日において職場で高熱患者と接触し,121日に臨床症状を呈した120日以前に来店した顧客は全員感染していなかったことから,120日から宝坻百貨店においてSARS-CoV-2の拡散が始まったと考えられた.そのため,症例1120日の潜伏期間中に感染伝播させた(Figure 2症例23は,症例1が放出したSARS-CoV-2を含むエアロゾルに長期間曝露することで感染したその後、臨床症状を示す2日前から空気を介したSARS-CoV2の他の主要な放出者となった.症例1を除く他の42名の感染経路を調査し,以下の3群に分類した: 1: エアロゾル感染伝播の可能性が最も高い(症例2-6, 10, 13, 16, 17, 18, 20, 23; 2: 飛沫あるいは接触感染伝播の可能性が最も高い(症例7, 8, 11, 14, 22; 3: すべての経路で感染する可能性のある不明確な感染伝播(症例9, 12, 15, 19, 21, 24, 25-43).

症例1を除くすべての販売員が宝坻百貨店における長期曝露により感染したことを考えると(症例2-6),症例43は無症状性感染者であり,症例33は感染源が不明であり,具体的な感染時期や潜伏期間を特定することができなかった.そのため,症例234563343を除く全症例の潜伏期間のみを解析した.潜伏期間の中央値は5.95日と推定された(2-13; Figure 3(a)).隔離期間中に発症した患者を除くと,患者のおよそ76.3%がアウトブレイク時に直ちに治療を求めていた(症例: 33, 34, 35, 38, 43).発症から入院および発症から確認までの期間の中央値は,それぞれ3.96日(0-14日),5.85日(1-21日)であった(Figure 3(c), (d)).この分布期間の結果は,顧客,販売員,およびその濃厚接触者において有意差なく全患者で同様であった.

さらに,我々は,SARS-CoV-2が真に空気によって運ばれ,エアロゾル感染伝播の可能性があることを証明した複数の環境大気サンプルにおけるSARSCoV-2の検出結果をまとめた.

Figure 1: Functional areas division and patients’ exposure places in Baodi Department Store.

Table 1:

 

Figure 2: The key dates relating to the epidemic identification of COVID-19.

 

Discussion

これまでの後ろ向き研究では,大都市圏におけるCOVID-19患者の疫学的,臨床的,および感染動態が記述されているが,これらの特性は国レベルでの公衆クラスターアウトブレイク事例においても分析されていない(Chan et al., 2020; Chen et al., 2020; Huang et al., 2020; Li et al., 2020; McMichael et al., 2020; Pan et al., 2020; Xu et al., 2020a).ここでは,クラスターアウトブレイクにおけるCOVID-19伝播経路の評価,動態,疫学的特徴を補足する.その結果,COVID-19は,感染経路の解明,さらなる広がりの制御,制御対策の有効性の評価,将来の感染拡大の予測など,クラスターアウトブレイク時のさらなる分析のための重要なポイントを提供しうることがわかった.

Epidemiological characteristics in this public cluster outbreak:

このクラスターアウトブレイクのCOVID-19患者43人のうち,男性よりも女性の方が多いことが観察された(Table 1.この結果は,女性よりも男性に感染者が多いことを明らかにした先行研究(Chen et al., 2020; Huang et al., 2020; Li et al., 2020; Xu et al., 2020a)とは若干異なる.特筆すべきは,感染した26人の販売員と顧客のうち22人が女性(84.6%であり,その半数は宝坻百貨店の服飾エリアであったこのクラスターアウトブレイクのCOVID-19患者43人のうち,男性よりも女性の方が多いことが観察された(Table 1.また,感染した販売員・顧客の濃厚接触者17人のうち,11人(58.8%)が男性であった.宝坻百貨店という女性にとってより魅力的であった場所でCOVID-19のクラスターアウトブレイクが発生した.これは,この普通ではない男女比の説明として納得できるものであった.

患者の多くは中高年に分類されたが,65歳以上(76.7%)はいなかった.感染した販売員は全体的に若かった(Table 1).臨床転帰も他の後ろ向き研究と一致していた: 患者の大部分は軽症で典型的であった(Table 1)(Chen et al., 2020; Huang et al., 2020; Li et al., 2020; Xu et al., 2020a重症例は2人であり,いずれも販売員であったことから,長時間かつ密閉(風通しが悪い)(long-term and stuffiness)の曝露は重症化を伴う感染リスクを高めるかもしれないことが示唆された

発症から最初の治療までの期間は概ね短かったが(症状発生から2日以内に自己治療(self-medicate)を選択した患者は81.4%),入院までの期間は長かった(平均4日).また,患者の半数は発症から5日以上経過しても入院しておらず,複数の呼吸器サンプルから検出されて確定した患者は23.3%であった(Figure 3このことから,発症初期には症例の同定や分離が困難であることが示唆された.また,患者の9/10は専門的な医療を求めるよりも自己治療を好む傾向にあり,これが症例のスクリーニングの難しさと感染伝播リスクを高めている.COVID-19の予防・制御には,積極的に医療を求める意識を高めることも重要である.

 

 

Table 1:

 

Figure 3: Key periods distribution of epidemic development.

(a) Incubation period; (b) Onset to the first medicine therapy; (c) Onset to hospitalization; (d) Onset to confirmation.

 

Transmission routes of SARS-CoV-2 in cluster outbreak:

COVID-19は呼吸器感染症として定義されており,新型コロナウイルスとしてのSARS-CoV-2は,主に患者から呼吸器を介して空気中に放出され,より分離された輸送としての呼気飛沫にウイルスを含むことができる(SARS-CoVMERS-CoVと同様)(Rockx et al., 2020).したがって,気道から放出される飛沫は感染症の伝播起点として利用され,空気中にその特性を探ることは,疾患の伝播経路を解析する上で大きな意義がある.

現在,気道を介して排出される飛沫の呼気粒子量やサイズ分布を明らかにした研究は数多く行われている(Roy and Milton, 2004; Fabian et al., 2008; Gralton et al., 2011; Gralton et al., 2013; Milton et al., 2013).それは以下のように結論づけることができる: 1)自然な呼吸活動によって排出される飛沫の大きさの範囲は,健康状態,性別,年齢,性別による影響が少ない2) ほとんどすべての呼吸活動(呼吸,咳,くしゃみ,会話)で<0.1-100μmの粒子径の飛沫を放出できるが一方,より”激しい”咳・くしゃみ・会話活動では100μmを超える大きな飛沫粒子を空気中に飛散させうる3) 異なる呼吸活動によって生成される粒子の数はかなり異なる: 「咳」は”通常の呼気の5分間の放出”に相当する3500個の感染性粒子(3500 infectious particlesを生成し,「くしゃみ」は100万個の粒子を周囲の空気中に放出することができる4何らかの微小病原体が呼吸活動を介して空気中に放出されることがある

呼吸器感染症は,ICU病棟,蒸気船,百貨店などの閉鎖された屋内環境に複数の感染伝播経路で存在しているかもしれない.今回の宝坻百貨店クラスターアウトブレイクでは,トイレの利用を考慮せず,販売エリアに集中している場合,主な感染伝播経路は飛沫,接触,エアロゾル感染伝播であると考えられる.飛沫感染伝播は,エアロゾル感染伝播に比べて粒子径が大きく,伝搬範囲が狭い(< 1.5m).しかし,飛沫とエアロゾル伝播の間には特定の境界は存在しない.5μmの飛沫サイズによって,WHOは,長距離エアロゾル伝播(£ 5μm)と近距離飛沫伝播(> 5μm)を区別している(Siegel et al., 2007;World Health Organization., 2014).これは,粒子が下気道に沈着するかどうかについて米国感染症学会(IDSA: Infectious Diseases Society of America)によって定義された10μmの境界とは異なっている(Tellier et al., 2019).IDSAでは,”呼吸可能な粒子(respirable particles)”は直径10μm以下,”吸入可能な粒子(inspirable particles)”は直径10μm-100μmであり,”吸入可能な粒子”のほとんどは上気道に沈着すると定義されている.

バイオエアロゾルは,空気中に懸濁した100μm以内の空気動力学的粒子径(aerodynamic diameter)を有する混合分散系(mixing decentralized system)であり,多数の飛沫,飛沫核,および複数の無機組成物(inorganic compositions)を含む100μmより大きくない感染性粒子(infectious particles)(呼吸可能な粒子respirable particlesや吸入可能な粒子inspirable particles)は,バイオエアロゾルによって長距離にわたって拡散されうる.感染感受性がある集団は,感染者との接触することなくエアロゾル中の病原性粒子(pathogenic particles)を吸い込むことによって感染し,それによってエアロゾル感染伝播によるプロセスを完了する.ウイルスキャリアと感染感受性がある集団との濃厚接触では,飛沫および接触感染伝播が起こるかもしれない: 1) 大きな飛沫粒子は,より沈降する挙動をとり,相対的に強い病原性を持っており,感受性がある者が容易に吸い込む,あるいは目・口・鼻粘膜に沈着することによって飛沫感伝播染によって感受性がある者に疾患を引き起こす2)  感染感受性がある集団は,直接的(握手のような接触),または間接的(物体表面に沈着したウイルス飛沫に触れる)にウイルスが付着した自分の手を伝わって粘膜(目,鼻,口)に播種し,感染を引き起こす(Figure 4

Figure 4: The transmission of exhaled virus between infected and susceptible population.

 

Aerosol transmission in the cluster outbreak:

宝坻百貨店は,北京・天津・唐山の三角地帯に位置する築40年の商業エリアである.宝坻百貨店は,2020126日以前は通常通り営業していたが,126日以降はCOVID-19流行アウトブレイクにより閉店している(Figure 2).中国疾病管理予防センターは,COVID-19潜伏期間の感染性は,最初の臨床症状の発症よりも2日早い時期に発生するかもしれないと報告している.この条件は,接触日から発症日までの最小限の時間間隔であり,感染した顧客では3日間存続していることを示している(Figure 2).宝坻百貨店の感染した顧客18人の曝露は,2020120-25日に集中しており,最初に確認された販売員3人(症例1, 2, 3)が感染性を示した期間であるそして春節に向けて人々が商品を購入する時期であり,人口密度が高いことが示唆された(Figure 2

これらの販売員の勤務日と発症日を分析したところ,販売員3人(症例4, 5, 6)が129日以降に臨床症状を示しており,120-25日には感染性を有していないことが示唆された.結果として,120-24日の間(症例1120-22日,症例2120-23日,症例3123-24日)に感染源としての要件を満たしたのは半数のみであった.そこでは,症例1は初発した販売員であり2020120日からの感染性を有していた.症例23は症例1と様々なエリアで活動していた.現地視察を通して,症例123はお互いに関係性を保っておらず,監視カメラの映像には密接な接触行動(会話,同じ場所での食事,共用トイレの使用など)は記録されていなかったしたがって,症例2と症例3の感染経路を推測した時,飛沫および接触感染伝播経路は実質的に排除できる

症例1は,すぐに感染性が示された時,激しい呼気(咳,くしゃみ,会話)や単純な呼気により,鼻咽頭,気道,肺に存在するSARS-CoV-2を放出した.エアロゾル中の核粒子(nuclei particles)に付着した一部のSARS-CoV-2は,エアロゾル伝播によってかなりの距離(数m以上)を移動する可能性があった.そのため,症例2と症例3SARS-CoV-2を含むエアロゾルに対する長時間曝露によって感染したと考えられた彼らはまた,COVID-19感染が確認され,感染性を示した後は,エアロゾルにおけるSARS-CoV-2の主要な供給者でもあった

1群の他の患者は,症例23と同様であった: いかなる直接的,百貨店内(in-plant),間接的な接触も確実には起こらなかったそれにもかかわらず,第1群の患者は,エアロゾルへの曝露によりSARS-CoV-2に感染したCOVID-19患者の潜伏期間の感染特性は明瞭ではなかったが,販売員と顧客との直接接触があったかどうかは,曝露履歴分析により判断することができた.そのため,第2群と第3群の感染伝播経路は同定することができた: 2群では百貨店内での接触や感染源との直接接触があった; 3群では顧客が宝坻百貨店において明確な接触エリアを提供しておらず,また濃厚接触者が日常生活の中で様々な接触形態を示していたかもしれない(Figure 5

以上のことから,今回のクラスターアウトブレイクでは,43人のうち12人がエアロゾル感染伝播を介して感染した可能性が高いことが示唆された.また,間接感染がない場合,宝坻百貨店で直接感染した患者のうち,半数の1224人がエアロゾル感染伝播を介して感染した可能性が高いことが示唆された.このことから,COVID-19拡散にはエアロゾル感染伝播が不可欠かつ重要な経路であることが示唆された.

また,COVID-19の予防対策を確立するためには,エアロゾル伝播の感染リスク評価を検討する必要がある.これまでのいくつかの報告では,エアロゾル感染伝播に関する健康リスク評価の理論解析が行われている(Buonanno et al., 2020; Zhang et al., 2020).我々のその後の研究では,エアロゾル感染伝播モデル開発とともに感染リスクの推定を行う.

Figure 5: The transmission chain in salespersons, customers and their close contacts.

 

Detected SARS-CoV-2 in aerosol:

多くの種類のコロナウイルスは,環境中で9日間生存し,そのウイルス性(viral properties)を維持することができる(MERS-CoVSARS-CoVなど)(Kampf et al., 2020).現在,複数の研究チームが,異なる場所のエアロゾル中にSARS-CoV-2 RNAを検出している(Table 2).Jiangらは,重篤患者が存在する空気中でSARS-CoV-2を検出した(Jiang et al., 2020b).Guoらは,病棟におけるSARS-CoV-2の分布を確認する目的で,空気およびサンプル(swatch)の表面を検査した.彼らは,集中治療室が通常の病棟よりも汚染されていることを発見した(Guo et al., 2020).空気中のSARS-CoV-2は屋内だけでなく,屋外でも検出できた.Settiらはイタリアロンバルディア州ベルガモの工業基地から屋外のPM10サンプル(PM10 swatches34個を収集し,そのうち5個は核酸アッセイ後に陽性を示したことを報告した(陽性の有意な結果を示した(Setti et al., 2020).彼らは,屋外空気粒子(air particles)が空気中のSARS-CoV-2と結合してポリマー(polymer)を形成することを示唆した.このポリマーは,安定した大気条件下で低い拡散係数(low diffusion coefficient )および伝播耐久性(propagation durability)を有していた.Santarpiaらは廊下とパーソナルゾーンから採取した空気サンプルの陽性率がそれぞれ66.7%100%であったことを明らかにした.そして,SARS-CoV-2は,トイレや汚染物質と接触したときに,呼気粒子(expired particles)の形式で環境中に飛散する可能性がある(Santarpia et al., 2020).屋内環境におけるSARS-CoV-2の粒子分布については,Chiaらが一般病棟の空気感染隔離室3部屋からサンプリングしたところ,ACH 12の一般病棟3つのうち2つで,粒子径が> 4μmおよび1-4μmSARS-CoV-2陽性粒子が検出された(Chia et al., 2020).これは,SARS-CoV-2が空気中に存在し、長期的にエアロゾル感染伝播することができることを示している.

Table 2:

 

Environmental factors impact on SARS-CoV-2 transmission:

環境中のウイルス生存時間は,塩分(salinity),湿度,温度,pH,日射量,大気汚染の影響を受けるが(Sooryanarain and Elankumaran, 2015),温暖,湿潤,密閉(風通しが悪い)(stiffness)などのウイルスに適した環境条件では,空気中のSARS-CoV-2濃度は高く,生存時間は長くなりうる.Liuらは,患者のトイレ周辺における空気中のSARS-CoV-2 RNA濃度が,定期的に換気が行われている一般病棟や隔離病棟に比べてはるかに高いことを示した.また、彼らは,混雑する傾向がある2つの百貨店を除いて,ほとんどの公共の場所では空気中のSARS-CoV-2 RNAを検出することは困難であることを示した(Liu et al., 2020b).BukhariJameelは,一定の温度(3-17℃)と絶対湿度(4g/m3-9g/m3)の範囲内では,COVID-19の拡散の90%が認められることを示した(Bukhari and Jameel, 2020).彼らは,高レベルの温度および絶対湿度がSARS-CoV2感染伝播に不利であると推測した.同様に,SARS-CoV-2のリスクは相対湿度に反比例し,日中の気温範囲に正比例することを示したMaらの知見もある(Ma et al., 2020).これらの研究は,SARS-CoV-2感染伝播は周囲の温度や湿度に影響されることを強く示している.

さらに,気象条件や周囲の大気汚染もSARS-CoV-2感染伝播に影響を与えうる.Xuらは,COVID-19の推定再生産数,屋外紫外線接触,風速,堆積,日周変化温度,SO2,オゾンの間にU字型の関連(U-shaped association)があることを示した(Xu et al., 2020b).Yaoらは,中国の様々な31の地域におけるCOVID-19確定症例数に対する地域環境要因の影響を検討し,その結果,SARS-CoV-2の環境拡散係数(environmental diffusion coefficient)は,周囲のオゾン濃度の上昇に伴って減少し続けることが示唆された(Yao et al., 2020).

別の研究では,屋内ウイルス濃度は換気効率に影響され,低レベルの換気率は感染性をもつ可能性がある飛沫核との接触の危険性を高めることが示唆された(Myatt et al., 2004).宝坻百貨店には空調設備が設置されておらず,換気条件が不良であることが示されていた.冬の屋内を暖かく保つためには,ドアを閉めて自然換気を妨げなければならず(ドアには厚手の風防が取り付けられていた),COVID-19のエアロゾル感染伝播に適した条件を提供してしまった.また,屋内の除染には十分な日照がなかった.天津市では,124日に実施されたレベル1警報以前から,消毒剤を用いた適時・定期的な除染は行われていなかった.

また,N95KF94,医療用サージカルマスクなどのマスクの種類によっては,患者の呼吸活動によって放出されるSARS-CoV-2輸送を制限することができるにもかかわらず(Leung et al., 2020),今回のクラスターアウトブレイクにおいては,人々はマスク着用方法を知らされていなかった.したがって,患者の呼吸,会話,咳,くしゃみによって放出されたSARS-CoV-2は,このような好適な環境においてエアロゾル中でより生存することができた.これらの環境因子は,COVID-19のエアロゾル感染伝播に適した条件を提供した.

Conclusions

特定のクラスターアウトブレイクと発生したエリアの疫学調査では,疫学的特徴(症状,潜伏期間,治療期間など)に有意な差は見られなかった.個人的特徴(年齢,性別,職業など)から,アウトブレイク地域の特殊性による特徴性が示唆された.感染した顧客の多くは女性であり,年齢層は比較的高く,すべての重症例はクラスターアウトブレイクが起こった宝坻百貨店の販売員であった.トイレの場所を無視して販売エリアに焦点を当てれば,飛沫,接触,エアロゾル感染伝播が主な感染経路となる.SARS-CoV-2は患者の呼吸活動を介して周囲の空気中に放出され,長距離輸送のために長期間存在する可能性がある.エアロゾルによる感染伝播は重要なルートであり,宝坻百貨店クラスターアウトブレイクでは一部の患者の感染につながっている