COVID-19関連追加(2021年1月16日-2)
★当院HP関連ファイル:
【大規模刑務所施設におけるCOVID-19アウトブレイク,2020年4月-6月,ブラジル】
Gouvea-Reis FA, Oliveira PD, Silva DCS, Borja LS, Percio J, Souza FS, et al. COVID-19 outbreak in a large penitentiary complex, April–June 2020, Brazil. Emerg Infect Dis. 2021 Mar [date cited]. https://doi.org/10.3201/eid2703.204079.
留置場は,呼吸器感染症の導入と蔓延に最適な環境を構成している.収容者の生活環境は過密で換気が悪く,水道水(running water)へのアクセスが制限され,十分な衛生設備がないことが多い.これらの条件は,感染の危険因子と背景にある有病率を増加させる(1,2).さらに,刑務所は一般的に人員不足と資源不足に対処しなければならず,リスクの高い患者のトリアージと治療を適時行うためにさらなる課題がある(3).
ブラジルでは,2020年2月26日に最初のCOVID-19症例が報告された.COVID-19の原因であるSARS-CoV-2が刑務所に持ち込まれると,すでに業務の負担が大きい環境にさらなる負担が加わることになる.日中は刑務所の外で過ごし,夕方には戻ってくるという半開放的な体制の下で,職員,面会者,あるいは受刑者を介してCOVID-19が持ち込まれる可能性がある.さらに,免疫がない新しい疾患は健康リスクを高める.したがって,刑務所におけるCOVID-19を制御することは,公衆衛生対応の不可欠な部分と考えなければならない(4).
ブラジルでは,442,000人強を収容するように構築されたシステムに約750,000人が収監されている(5).6月12日までに,ブラジルでは全国で828,810人のCOVID-19症例が報告されており,そのうち刑務所内では2,200人を超える症例が発生した(6,7).受刑者に実施されたすべてのCOVID-19検査の65.5%はブラジルの連邦地区に位置するブラジリアでの検査である; 刑務所における全国の症例総数の約48%は、ブラジリアの最高警備刑務所(maximum-security penitentiary complex)で報告された.この複合刑務所には4つの刑務所ユニットがある: ユニットIは公判前拘留下の者を収容し,ユニットIIは半開放体制下の受刑者を収容し,ユニットIIIとIVは有罪判決を受けた受刑者を収容している.全体としては,2020年6月時点で,13,000人を超える男性受刑者が収容されており,ブラジル最大級の刑務所の一つとなっている.
本報告書では,アウトブレイクの記述分析を行い,初期段階での疾患伝染性を推定する.
<The Study>
ブラジリアにおける最初のCOVID-19症例は3月5日に報告された; 4月1日には,刑務所内での最初の症例である刑務所の看守(prison guard)の感染が確認された.最初期の感染は警備関係者(security officers)に認められた; 最初の受刑者のCOVID-19症例は,4月7日に公判前拘留区域であるユニットTで報告された.4月10日には,そのユニット内の同じブロックの2つの異なる棟で患者6人が報告された.他の刑務所ユニットにおける最初の症例の位置から,COVID-19が刑務所全体に分散していることが示唆された.ユニットIIでは,4月9-10日に3つの異なるブロックで症例が13人確認された.ユニットVでは,4月17日に2つの異なるブロックで症例が5人確認された.ユニットIVにおいて,4月15-17日に3つのブロックで6人が確認された.ブラジリアで最初に症例が報告された1ヶ月以内までには,このウイルスは刑務所内に導入されていなかったが,この地域では急速に発生率が高くなっていた.5月1日までに,市内の発生率が47症例/100,000人であったのに対し,受刑者の発生率は1,832症例/100,000人となっていた(8).
4月1日〜6月12日において,刑務所で報告された患者は1,057人であった: 受刑者859人(81.3%),看守180人(17.1%),契約職員9人(0.8%),医療従事者9人(0.8%)であった.症状のあった症例の経時的な分布をFigure 1に示す.入院患者は9人,死亡者は3人であった: 看守1人,受刑者2人であった.
Figure 1: Distribution of symptomatic coronavirus disease cases over time by symptom onset date in a penitentiary complex, Brasília, Brazil, March–June 2020.
感染した受刑者は平均38歳(SD 14.1歳)であった; 18-29歳が296人(34.5%),30-39歳が245人(28.5%),40-49歳が124人(14.4%),50-59歳が61人(7.1%),60歳以上が133人(15.5%)であった.民族に関する情報は患者783人で得られた; 混血407人(52.0%),白人214人(27.3%),アジア人93人(11.9%),黒人67人(8.5%),先住民2人(0.3%)であった.基礎疾患は160人(18.6%)で報告された; 最も多かったのは心血管疾患(11.8%),糖尿病(5.1%),肺疾患(2.8%)であった.COVID-19確定症例401人の症状がカルテから確認できた; 最も多かった症状は頭痛(34.9%),咳(30.2%),発熱(28.9%)であった.
EpiEstim Rパッケージ(https://cran.r-project.orgExternal Link)を用いて,刑務所を対象に,1人の初発症例からPCRによって確定した二次症例数を表す経時的再生産数(Rt: the reproduction number over time)を推定した.アウトブレイク初期の4月に記録された4つの刑務所ユニットすべてにおいて,逆転写PCR検査(RT-PCR)により確認された一症例・二次症例ペア144人の症状発現日の差を計算することで,世代間隔(serial interval)を推定した.我々は,監房内で最初にRT-PCRで確定した症例を一次症例とし,一次症例と監房を共有していて発症から< 14日以内にRT-PCRでCOVID-19が陽性であった症例を二次症例と同定した.地域の保健チームは,日々の活動的な症例発見を通じて疑い症例を同定した; 確定症例は別の集団に隔離された.
その結果,平均世代間隔は2.51日(SD 1.21)と推定された.刑務所における全体のRt(overall Rt)は2.28であり,アウトブレイク開始時に高い伝播性が認められた(Figure 2).4月が最も感染が激しくなった月である; ユニットIIIおよびIVでは4月20日-30日においてRtのピークに反映される149人が報告されている(Appendix Figure).Rtは時間経過とともに減少し,5月には≈1.0となった.
Figure 2: Rt for severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 transmission in a penitentiary complex, Brasília, Brazil, April–May 2020. Blue line indicates median Rt; blue shading indicates 95% CI. Dashed line indicates Rt = 1.
Appendix Figure:
<Conclusions>
この刑務所におけるCOVID-19の世代間隔は,ブラジル全体の推定値よりも短いことがわかった(9).この所見は,過密環境下ではウイルス拡散が早いという考えを裏付けるものであり,推定された世代間隔が平均潜伏期間よりも短かったことを考慮すると,前症状症例の感染伝播が刑務所内でのウイルス拡散に重要な役割を果たしていた可能性がある(10, 11).無症状あるいは前症状症例,他の感染源,または症状を報告しない受刑者がいた場合,一次症例の正確な特定に影響を与えた可能性があり,その結果,世代間隔,Rt,またはその両方を過小評価した可能性がある.刑務所内の過密な状況や,効果的なソーシャルディスタンスを強制することが不可能であることを考慮すると,広範な検査戦略を実施することは,ウイルスの拡散を正確に測定し,より適切な介入を計画するための基本である.
<References>
1) Sánchez A, Simas L, Diuana V, Larouze B. COVID-19 in prisons: an impossible challenge for public health? [in Portuguese]. Cad Saude Publica. 2020;36:e00083520.
2) Dolan K, Wirtz AL, Moazen B, Ndeffo-Mbah M, Galvani A, Kinner SA, et al. Global burden of HIV, viral hepatitis, and tuberculosis in prisoners and detainees. Lancet. 2016;388:1089–102.
3) Burki T. Prisons are “in no way equipped” to deal with COVID-19. Lancet. 2020;395:1411–2.
4) Kinner SA, Young JT, Snow K, Southalan L, Lopez-Acuña D, Ferreira-Borges C, et al. Prisons and custodial settings are part of a comprehensive response to COVID-19. Lancet Public Health. 2020;5:e188–9.
5) Departamento Penitenciário Nacional. National survey of penitentiary information [in Portuguese] [cited 2020 Sep 21]. https://www.gov.br/depen/pt-br/sisdepen.
6) Ministério da Saúde. Coronavirus panel [in Portuguese] [cited 2020 Sep 21]. https://covid.saude.gov.br.
7) Conselho Nacional De Justiça [Internet]. CNJ renews Recommendation no. 62 for another 90 days and releases new data [in Portuguese] [cited 2020 Sep 21]. https://www.cnj.jus.br/cnj-renova-recomendacao-n-62-por-mais-90-dias-e-divulga-novos-dados.
8) Secretaria de Saúde do Distrito Federal. Epidemiologic bulletin for 01.05.2020: public health emergency COVID-19 within the Federal District [in Portuguese] [cited 2020 Sep 21]. http://www.saude.df.gov.br/wp-conteudo/uploads/2020/03/Boletim-COVID_DF-01-05-2020.pdf.
9) Prete CA, Buss L, Dighe A, Porto VB, Candido DS, Ghilardi F, et al. Serial interval distribution of SARS-CoV-2 infection in Brazil. J Travel Med. 2020:taaa115.
10) Lauer SA, Grantz KH, Bi Q, Jones FK, Zheng Q, Meredith HR, et al. The incubation period of coronavirus disease 2019 (COVID-19) from publicly reported confirmed cases: estimation and application. Ann Intern Med. 2020;172:577–82.
11) Backer JA, Klinkenberg D, Wallinga J. Incubation period of 2019 novel coronavirus (2019-nCoV) infections among travellers from Wuhan, China, 20-28 January 2020. Euro Surveill. 2020;25:2000062.