COVID-19関連追加(2021123日)NPIs効果の推定,Go To Travelとの関連

 

COVID-19に対する政府によるNPIsの効果の推定】

Brauner JM, et al. Inferring the effectiveness of government interventions against COVID-19. Science 15 Dec 2020:eabd9338.

https://doi.org/10.1126/science.abd9338.

Abstract

各国政府はCOVID-19パンデミックを公衆衛生的介入(NPIs: nonpharmaceutical interventionsによる制御を試みている.しかし,感染伝播を減少させるためのさまざまなNPIsの有効性は十分に理解されていない.我々は,20201月〜5月末までの期間で,欧州を含むいくつかの国におけるNPIsの実施に関する時系列データを収集した.集会規模の制限,ビジネスの閉鎖,教育機関の閉鎖からステイホーム命令に至るまで,NPIsの有効性を推定した.そのために,NPIの実施日と全国の症例数および死亡者数をリンクさせたベイズ階層モデル(Bayesian hierarchical model)を用いた.そして広範な実証的検証による結果が支持された.すべての教育機関を閉鎖し,集会を10人以下に制限し、対面ビジネス(face-to-face businesses)を閉鎖することで,それぞれ感染伝播が大幅に減少したステイホーム命令の追加効果は比較的小さかった

 

 

Main

COVID-19への対応は同調性に欠ける: 各国は異なる時期に異なる順序で異なるNPIsセットを実施した(Figure 1).

Figure 1: Timing of NPI implementations in early 2020.

 

Effectiveness of individual NPIs:

我々のモデルでは,Rtの減少率で表される各NPIの個別の有効性を推定することができた.これは,他のいくつかの不確実性の原因のうち,国ごとのNPIの有効性の違いを反映したものである.ベイズ予測区間は,平均有効性の標準誤差ではなく,国をまたいだ有効性の標準偏差に類似している.デフォルトのモデル設定では,各NPIに関連したRtの減少率(95%予測区間; Figure 2は以下のNPIと関連していた:  集会の制限1000人以下: 23%0-40%; 100人以下: 34%12-52%; 10人以下: 42%17-60%; リスクの高い対面ビジネスの一部を閉鎖: 18%8-40%; 非エッセンシャルであるほとんどの対面ビジネスの閉鎖: 27%(−3-49%; 学校と大学を併合した閉鎖: 38%16-54%; ステイホーム命令(他のすべてのNPIsに加えて追加効果): 13%(−5-31%.ほとんどの国で,これらのNPIは同日に実施されているか、または連続して実施されていたため,学校閉鎖と大学閉鎖による個別効果を強く分けることができなかったことに注意する(大学のみが閉鎖されたアイスランドとスウェーデンを除く(Figure S21も参照)).そこで,”学校と大学を併合した閉鎖”を1つのNPIとして報告した.

Figure 2: NPI effectiveness under default model settings.

 

いくつかのNPIsは頻繁に共起している、すなわち部分的に共線性(collinear※多重共線性multicollinearity)を持っていた.しかし,共線性が不完全であり,データセットが大きかったため,個々のNPIsの影響を分離することができた.各NPIsのペアについて,一方のNPIが他方のNPIなしで観測された日数は平均504日であった(Table S5).

Effectiveness of NPI combinations:

個々の推定値間の相関は弱かったが,複合NPIsの有効性を評価する際にはそれらを考慮に入れた.例えば,2つのNPIsが頻繁に共起している場合,各NPIの個別の有効性よりも複合有効性の方が,確実性が高い場合がある.

Figure 3は,我々のデータで最も一般的なNPIsのセットの複合有効性を示している.本研究のNPIsを組み合わせた場合,Rt77%減少した(67%85%国をまたいで,NPIsを実施しない場合の平均Rt(すなわち,R0)は3.3であった(Table S4この数値から,学校や大学,およびリスクの高いビジネスを閉鎖し,集会の規模を最大10人に制限することで,推定Rt1未満にすることができた可能性が高い

Figure 3: Combined NPI effectiveness for the 15 most commonly implemented sets of NPIs in our data.

 

 

Sensitivity and validation:

いくつかの代替モデル(structural sensitivity)結果を示すことで主要な仮定を検証し,Rtに影響を与える観察されていない要因による我々の推定値の交絡の可能性を検討した. 合計206の代替実験条件でNPIsの有効性を検討した(Figure 4A).

Figure 4: Median NPI effectiveness across the sensitivity analyses.

 

NPIの効果を,Rtにおける事後の減少中央値を< 17.5%17.5-35%> 35%と定義した小,中,大に分類した(Figure 4の縦線).NPIsのうち4つは,実験条件の大部分にまたがって,同じカテゴリーに分類された: 学校と大学の両方を閉鎖することは,実験条件の96%で大きな効果があり集会を10人以下に制限することは,実験条件の99%で大きな効果があったほとんどの非エッセンシャルであるビジネスを閉鎖すると,実験条件の98%で中程度の効果があったステイホーム命令(すなわち,他のNPIsに加えて)は,実験条件の96%で”効果が小さい”カテゴリーに入った3つのNPIsは,1つのカテゴリーにはあまり明確に分類されなかった: 集会を1000人以下に制限することは中〜小の効果(条件の81%で中程度)であり,一方で100人以下に制限することは中〜大の効果(条件の66%で中程度)であった.最後に,バー,レストラン、ナイトクラブなどのリスクの高い事業を閉鎖することは,中〜小の効果であった(条件の58%で中程度).集会を1000人以下に制限することは,実験条件間で効果の中央値の変動が最も大きかったNPIであったが(Figure 4A),100人以下に制限することとのNPIの部分的な共線性を反映している可能性がある.

すべての感度分析を集計すると,特定の仮定に対する感度が隠れてしまう可能性がある.NPI の効果の中央値を4つの感度分析のカテゴリーで表示し(Figure 4B-E),各個別の感度分析をsupplementaryに示す.結果の傾向は,これらのカテゴリー内でも安定している.

Discussion

我々はdata-driven approachを用いて,20201月〜5月末における41ヶ国で,7つのNPIsCOVID-19感染伝播に及ぼす影響を推定した.その結果,いくつかのNPIsは,COVID-19のアウトブレイクの緩和と抑制にNPIsが効果的であることを示す証拠が出てきていることと一致し,Rtの明確な減少と関連していることがわかった.さらに,我々の結果は,いくつかのNPIsが他のNPIsよりも優れていることを示している.正確な有効性の推定値はモデル化の仮定によって異なるが,11の感度分析における206の実験条件で概ね強固(robust)であった.

ビジネスの閉鎖集会の禁止は,どちらもCOVID-19感染伝播の減少に効果的であったように思われる.ほとんどの非エッセンシャルである対面ビジネスの閉鎖は,バー,レストラン,ナイトクラブなどの感染リスクの高いビジネスのみに影響を及ぼす標的型閉鎖よりもやや効果的であった.したがって,状況によっては,ターゲットを絞ったビジネスの閉鎖は有望な政策オプションとなりうる.集会を10人以下に制限することは,100人や1000人までの制限よりも効果が高く,より強固な効果が推定された.我々の推計は20201月から5月までのデータに基づいていることに注意してほしい.

我々のデータセットにある各国がステイホーム命令を導入したときはいつでも,基本的には常に他のNPIsを実施していたか、またはこの研究では他のすべてのNPIsがすでに実施されていた.我々は,これらの他のNPIsを個別に説明し,他のすべてのNPIsの効果に加えて,集団にステイホームを命じる効果を分離した.その結果,国がすでに教育機関を閉鎖し,非エッセンシャルなビジネスを閉鎖し,集会を禁止している場合には,ステイホーム命令を出すことによる効果は小さいことがわかった.対照的に,Flaxman(1)Hsiang(3)は,ステイホーム命令(あるいは”ロックダウン”)NPIsの効果には,複数のNPIsの効果を含んでおり,このNPIに大きな効果があることを示した.この結果は,一部の国では,他のNPIsを発出することで,ステイホーム命令を出さなくてもRt1未満に抑えることができた可能性(Figure 3)があることを示唆している

我々は,学校や大学の閉鎖閉校に伴って大きな効果があることがわかった.これは,モデル構造の違い,データのばらつき,疫学的仮定の違いにかかわらず,驚くほど強固(robust)であった(Figure 4).この効果は,我々の研究から除外されたNPIsをコントロールしても強固であった(Figure S9).我々のアプローチでは,学校や大学における感染伝播に対する直接的な効果と,パンデミックの深刻さを示す学校の閉鎖後に一般住民の行動がより慎重になったなどの間接的な効果を区別することはできない.さらに,我々が調査したほとんどの国では,学校と大学の閉鎖は同じ日に実施されていたか,あるいは連続して実施されていたため,我々のアプローチではそれらの個別の効果(学校と大学を分けた場合の効果)を区別することはできない(Figure S21さらに,我々の研究では,保育園や幼稚園の閉鎖の効果についての証拠は得られていない

感染伝播における児童(pupils)や学生の役割に関するこれまでの証拠は混在している.感染した若年者(約12-25歳)は無症状であることが多いが,高齢者と同程度の量のウイルスを排出しているようであるため(17,18),リスクの高い人に感染させる可能性がある.初期のデータでは,子どもや若年成人の発生率(incidence)が高齢者よりも著しく低いことが示唆されていたが,これが学校や大学の閉鎖によるものかどうかは不明である(19-22).対照的に,ヨーロッパ諸国では最近,中等教育(secondary school)および高等教育(higher education),特に後者に一致する年齢層に症例が集中しており,現在ではprimary schoolの年齢の子供だけでなく,より高い年齢層にも広がっている(23,24)primary schoolssecondary schoolsに比べて一般的に影響を受けにくく(20,25-28),おそらく12歳未満の子どもたちがSARS-CoV-2に感染しにくいという理由もあるだろう(29)

Limitation: @NPIの有効性は,他のNPIsの存在,国の人口統計,特定の実施内容などの背景に依存する可能性がある.したがって,我々の結果は,我々のデータの中でNPIsが実施された背景における有効性として解釈する必要がある.A観察されていないNPIsやマスク着用などの自発的な行動変化によってRtが減少した可能性がある.これらの潜在的交絡因子の影響が観察されたNPIsに誤った影響を与える可能性があるかどうかを調査するために,いくつかの追加分析を行ったところ,観察されていない因子の範囲に対して我々の結果が安定していることがわかった(Figure S9).しかし,この感度チェック(sensitivity check)では確実性は得られず,観察されていない因子の役割を調査することは重要な課題である.BNPI解除の効果を予測するために,我々の結果をqualificationなしに使用することはできない.例えば,学校や大学の閉鎖を併用することで感染伝播が大幅に減少したようだが,再開したからといって必ずしも感染が急増するわけではない.C検査,追跡,症例隔離などのいくつかの有望な介入についてのデータがない.これらの介入は費用対効果の高い伝染病対応の重要な一部になる可能性があるが,その実施に関する包括的なデータを得ることが困難であるため,我々はこれらの介入を含めなかった.また,他のNPIsとして公共生活は制限されていたので,公共空間におけるマスク着用の効果を推定することは困難であった.

 

 

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Go To Travelキャンペーンと旅行関連COVID-19症例】

Anzai A and Nishiura H. Go To Travel” Campaign and Travel-Associated Coronavirus Disease 2019 Cases: A Descriptive Analysis, July–August 2020. J. Clin. Med. 2021, 10(3), 398; https://doi.org/10.3390/jcm10030398.

Abstract

日本政府は2020722日から,ホテル料金の大幅割引や国内の旅行先での任意の消費に利用できるクーポンを発行するという,「Go To Travelキャンペーン」を開始した.本研究では,国内における旅行関連COVID-19症例の増加に観光キャンペーンが及ぼす可能性のある疫学的影響を記述することを目的とした.我々は,キャンペーン前とキャンペーン期間中の旅行関連症例(travel-associated cases)と観光事業関連症例(tourism-associated cases)の発生率を比較した.観光キャンペーン期間中の旅行関連COVID-19症例の発生率は,2020622日〜721日の対照期間と比較して3715日〜19日の対照期間と比較して1.5であった観光事業関連症例の発生率は,対照期間である2020622日〜721日,715日〜19日と比較して,それぞれ82-3であった.日本では8月中旬には第2の流行の波は減少に転じていたが,国内の観光客の増加が,「Go To Travelキャンペーン」の初期段階である722日〜26日における旅行関連COVID-19症例の増加に寄与したかもしれない.

Methods

Epidemiological Data:

本研究は,公開データ(サーベイランスデータ)を用いた記述疫学研究である.日本の都道府県から報告されたCOVID-19確定症例のプレスリリースデータセットを調査した.日本の47都道府県のうち,24都道府県から,確認された各症例の県境を越えた移動パターンに関する情報は常に提供されていた.すなわち,COVID-19症例の移動情報は,発症前7日以内(一部の都道府県では14日以内)に移動歴がある場合は報告された.これらの症例数は,「Go To Travelキャンペーン」実施前および実施中に取得されたものであった.

Scope of Descriptive Analysis:

202051日〜831日までに都道府県から報告されたCOVID-19症例を分析した.プレスリリースをスクリーニングした最新の時期は,202011月中旬であった.「Go To Travelキャンペーン」の影響を理解するために,キャンペーン前とキャンペーン期間中に感染した可能性のある人をグループ分けして比較する際に,症例の報告日(the date of reporting for cases)ではなく、感染の可能性のある日(the possible date of infection)を考慮した.感染の可能性のある時期を推測するために,2つのパターンを分析対象とした: @発病日が判明している全症例,ACOVID-19確定日が判明している全症例である.我々は,発症日から5日(= 平均潜伏期間[12])を差し引いた.また確定日(それぞれの症例のカレンダー日付を感染の想定日に換算した)から10日(= 平均潜伏期間と発症から報告までの平均期間[13]の和)を差し引いた.PCR検査の平均turnaround timeTAT)を1日とし,これを発症から報告までの遅延時間の一部とした.

接触歴については,発症前の県境を越えた移動歴で分類した; 以後,県境を越えた者を旅行関連症例(travel-associated cases)とする.旅行歴が判明している場合は,旅行目的(すなわち,ビジネス,家族訪問,観光事業(tourism/観光(sightseeing))によってさらに分類した.旅行関連症例には,県境を越えたことがある人と,県境を越えた人と接触したことがある人が含まれている.

Statistical Analysis:

発生率比(IRR: incidence rate ratioを用いて,「Go To Travelキャンペーン」期間中の旅行関連症例の発生率を,キャンペーン開始前の発生率と比較した.IRRとは,2つの期間を比較した発生率の比率であり,> 1の値はGo To Travelキャンペーン期間中の発生率がベースライン期間に比べて増加していることを示している.特に,旅行履歴に応じてIRRを算出するとともに,「Go To Travelキャンペーン」の目的である観光事業目的を含む旅行症例のIRRも算出した.対象期間(treatment period)は722日〜26日(5日間)と定義した(722日はキャンペーン開始日であり,キャンペーンは,2020723日〜26日の4日間の休日と重なった).以後,この期間を期間2とする.我々は,2つの異なる期間を対象期間として考えた: @622日〜721日,すなわちキャンペーン前の30日間(期間1a),A715日〜19日,すなわち キャンペーン前の5日間(期間1b)で,期間2と同じ曜日を含むように設定.「Go To Travelキャンペーン」は8月でも継続していたが,予算が決まっており,予算の上限に達した時点で終了した.722日からのキャンペーン第1弾の場合は,クーポンの引き換え期限日が2020831日に設定されていた.日本では8月中旬にお盆休みを迎えることから,キャンペーンの後期との比較のために,202088日〜831日(24日間)までの発生状況も期間3として検討した.

Results

202051日〜831日において24都道府県で報告されたCOVID-19確定症例は合計3978人であった.男性が57.3%2211人)を占め,119人は性別不明であった.患者の平均年齢は42.6歳であった.診断時に症状の有無が判明していたのは3060人(全体の76.9%)であり,その内訳は軽症2150人(症状が判明している症例の70.3%),無症状891人(29.1%)であった.

3978人のうち,県境を越えた旅行歴や県境を越えた他人との接触歴があったのは817人(20.1%)であり,これらを旅行関連症例(travel-associated cases)と定義した.旅行関連症例の平均年齢は36.2歳,残りの症例の平均年齢は44.2歳であった(Figure 1A).確定症例の報告月はFigure 1Bに示した.7月が2074人(52.7%),8月が1597人(40.5%)であった.旅行関連症例は7月が482人(23.2%),20208月が289人(18.1%)であった.

 

 

Figure 1: Age and time distributions for confirmed cases (n = 3978) of coronavirus disease 2019 (COVID-19) in 24 prefectures of Japan with consistent reporting of travel history from 1 May to 31 August 2020. (A,B). Age distribution of cases with and without travel history information (n = 3161 and n = 817, respectively). (C). Monthly count of confirmed cases, by travel history. Colored areas depict corresponding relative frequencies of cases.

Jcm 10 00398 g001

 

 

COVID-19の発生状況を旅行歴そして旅行目的別に期間1a622日〜721日),期間2,期間3で比較した(Figure 2).COVID-19確定症例は2750人で,発症日判明しているCOVID-19確定症例は1707人であった.発症日が判明している例を用いると,期間2IRRは期間1aと比較して3.3195%CI: 2.67-4.11)であった同様に,確定日を用いると,IRR2.9895%CI: 2.43-3.65)と推定された

Figure 2: Comparison of coronavirus disease 2019 (COVID-19) incidence before and during the Go To Travel campaign. (Left) Cases with known illness onset and (Right) cases with known date of COVID-19 confirmation. (Top) Comparison by travel history and (Bottom) by purpose of travel. Period 1 corresponds to Period 1a (22 June to 21 July 2020). Periods 2 and 3 correspond to 22–26 July and 8–31 August 2020.

Jcm 10 00398 g002

 

旅行目的に焦点を当ててみると,「Go To Travelキャンペーン」期間中に観光事業が増加していることが明らかになった.発症日が判明しているCOVID-19確定症例は期間1aでは30人,期間2では34人であった.同様に,診断日が判明しているCOVID-19確定症例は,期間1aでは35人,期間2では33人であった.その結果,発症日が判明している症例のIRR6.8095%CI: 4.16-11.11),診断日が判明している症例のIRR5.6695%CI: 3.52-9.10)と推定された

Figure 3は,COVID-19の発生状況を旅行歴,旅行目的別に期間1b715日〜19日),期間2,期間3に分けて比較したものである.合計では,発生日が判明している症例では1340人,診断日が判明している症例では2031人であった.判明している発症日を用いた場合,期間2IRRは,期間1bと比較して,1.4495%CI: 1.10-1.89)であった同様に,診断確定日を用いた場合,IRR1.4895%CI: 1.14-1.93)と推定された発症日が判明している旅行関連症例は,期間1bでは13人,期間2では34人であった; IRR2.6295%CI: 1.38-4.96)と推定された期間1bおよび期間2においてCOVID-19の確定日が判明している症例はそれぞれ19人および33人であり,IRR1.7495%CI: 0.99-3.05)と推定された

Figure 3: Comparison of coronavirus disease 2019 (COVID-19) incidence before and during the Go To Travel campaign. (Left) Cases with known illness onset and (Right) cases with known date of confirmation. (Top) Comparison by travel history and (Bottom) by purpose of travel. Period 1 corresponds to Period 1b (15 July to 19 July). Periods 2 and 3 correspond to 22–26 July and 8–31 August 2020.

Jcm 10 00398 g003

 

 

Discussion

この研究では,「Go To Travelキャンペーン」のキャンペーン前および期間中のCOVID-19の旅行関連症例の情報を含むサーベイランスデータを解析し,旅行関連症例および観光事業関連症例の発生率を比較した.キャンペーン期間中の旅行関連症例の発生率は,対照期間1a622日〜721日)の3,対照期間1b715日〜19日)の1.5であった特に観光事業関連症例の発生率は対照期間1a8,対照期間1b2-3であった日本での流行の第2波は8月中旬には減少に転じていたが,Go To Travelキャンペーン」期間中は旅行関連症例の発生件数が増加した

我々の知る限りでは,「Go To Travelキャンペーン」期間中に県境を越えたCOVID-19の旅行関連症例数が増加したことを示したのは本研究が初めてである.対照期間1a1b,および発症日とCOVID-19確定日が判明しているデータについて,IRRが明らかに1を超えていたことが示された特に,キャンペーン期間中に割合および発生率に関して,観光事業に関連した旅行関連症例が顕著に増加していたことが示されたこのことから,国内観光事業の充実が,少なくとも「Go To Travelキャンペーン」の初期である期間2において,COVID-19の旅行関連症例の増加に寄与していた可能性が考えられる

我々の記述分析では,観光事業キャンペーンと日本におけるCOVID-19の発生率との間の因果関係を決定的に同定することができないほど単純化されていた.特に,「Go To Travelキャンペーン」が4日間の休日期間中に開始されたことを認識しなければならないしたがって,全国の観光旅行者数が増加したことはキャンペーンだけに起因するものではない.もう一つ注意すべき問題は,東京や大阪など,調査期間中に都市部の都道府県で流行の強さが上昇していたことである[14,15].このような24都道府県における潜在的な傾向に対処し,因果関係をさらに明らかにするために,我々は、時系列データを用いた疑似実験的研究(quasi-experimental study)デザインを用いて、差分研究(difference-in-differences study)や中断時系列分析(interrupted time-series analysis)を含む一連の調査を実施している[16].その間に政策ワーキングペーパーが発表され,キャンペーンは感染拡大を強めることなくホテルの宿泊客数を増加させたことが示唆された[17].また,2020101日に開始された「Go To Travelキャンペーン」の別のラウンドのデータを分析する予定である.本研究は,発生データの記述分析を含めた迅速な報告であり,観光事業キャンペーンが伝染動態に影響を及ぼす可能性についてのさらなる洞察を提供することを意図している.2020年夏の間,英国では外食産業の支援を目的とした「Eat Out to Help Out」と呼ばれるキャンペーンが実施された[18]そのキャンペーンは国内旅行の促進を目的としたものではなかったが,このキャンペーンがイギリスでの局所的な伝染に影響を与えた可能性があると報告されている[19]

Go To Travelキャンペーン」を実施する政策決定は,流行活動の減少と社会経済活動へのプラスの影響が期待されたことに基づいて行われたが,地理的に広い範囲での人の移動性を高めることは,さらなる接触を促進し,それによって疾患の時空間的な広がりを増大させることになるのは当然である[20,21].日本で非常事態が解除された5月中旬(大阪では521日,東京では525日)には,当初の計画では旅行制限の緩和は8月に開始される予定であり,キャンペーンは当初その月中に開始される予定であった[22]しかし,東京と大阪で症例が増加し,国が流行の制御を取り戻そうとしていたにもかかわらず,キャンペーンのスケジュールは前倒しされた.政府の政策は,流行の制御と経済活動の回復のバランスをとる必要があり,その両方を管理することが観光キャンペーンを実施する正当な理由であった[23].そこで,感染症や公衆衛生の専門家が政府と協力して,各分野の感染症対策のガイドラインを策定し,予防行動(マスク着用,閉鎖空間における濃厚接触回避,手指の衛生管理など)によって感染を最大限に減らすためのアドバイスを行った.実際,このキャンペーンでは,旅行者とサービス提供者の双方に予防措置に関するガイダンスが含まれていた[24]それにもかかわらず,今回の調査結果は,これらの努力をもってしても,COVID-19旅行関連症例の増加を伴っていたことを示している

Limitation: @この研究のデータセットには,都道府県によって異なる可能性のある報告バイアスが含まれている.Aサーベイランスデータは逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応を用いて確認されたCOVID-19症例に依存しており,これらのデータは確認バイアスを含んでいる[27].若年者は高齢者に比べて移動が多く,若年者の感染重症度が高齢者に比べて限定的であることを考えると,旅行の絶対リスクは過小評価されている可能性がある.B観光事業キャンペーンの直接的な影響に加えて,間接的な影響(例えば,旅行制限の緩和による接触の強化など)をさらに調査すべきである.C観光事業キャンペーンの疫学的影響はまだ十分に定量化されていない.例えば,旅行による局所クラスターの増加を調査すべきであり,また遠隔地の県での流行の波の発生は,キャンペーンの疫学的な結果を示す可能性がある.

今後の課題は多く残されているが,この研究は,日本におけるCOVID-19の感染伝播動態に対する「Go To Travelキャンペーン」の疫学的影響についての重要な知見を提供していると考えられる.伝染病対策と経済活動の回復を両立させるための政策手段を同定するためには,追加のエビデンスが必要であることを強調する.

 

 

References

14) Tokyo Metropolitan Government. Updates on COVID-19 in Tokyo. Available online: https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/en/ (accessed on 29 November 2020).

15) Osaka Prefectural Government. Latest Updates on COVID-19 in Osaka. Available online: https://covid19-osaka.info/en (accessed on 29 November 2020).

16) Wing, C.; Simon, K.; Bello-Gomez, R.A. Designing Difference in Difference Studies: Best Practices for Public Health Policy Research. Annu. Rev. Public Health 2018, 39, 453–469.

17) Funashima, Y.; Hiraga, K. Where to Go: The Japanese Governments Travel Subsidy during COVID-19. SSRN Electron. J. 2020.

18) GOV.UK. Get a Discount with the Eat out to Help out Scheme. Available online: https://www.gov.uk/guidance/get-a-discount-with-the-eat-out-to-help-out-scheme (accessed on 29 November 2020).

19) Fetzer, T. Subsidizing the Spread of COVID19: Evidence from the UKs Eat-out-to-Help-out Scheme. Available online:

https://warwick.ac.uk/fac/soc/economics/research/workingpapers/2020/twerp_1310_-_fetzer.pdf (accessed on 21 January 2021).

20) Brownstein, J.S.; Wolfe, C.J.; Mandl, K.D. Empirical Evidence for the Effect of Airline Travel on Inter-regional Influenza Spread in the United States. PLoS Med. 2006, 3, e401.

21) Findlater, A.; Bogoch, I.I. Human Mobility and the Global Spread of Infectious Diseases: A Focus on Air Travel. Trends Parasitol. 2018, 34, 772–783.

22) Cabinet Secretariat. In Regards to Post Lifting of the Declaration of a State of Emergency. Available online: https://corona.go.jp/news/pdf/ikoukikan_taiou_0525.pdf (accessed on 22 November 2020). (In Japanese)

23) Cabinet Secretariat. Basic Policies for Novel Coronavirus Disease Control. Available online: https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_0525.pdf (accessed on 22 November 2020). (In Japanese)

24) Cabinet Secretariat. Guidelines for Preventing the Spread of COVID-19. Available online: https://corona.go.jp/prevention/pdf/guideline.pdf?20201106 (accessed on 22 November 2020). (In Japanese)

25) Ministry of Health, Labour and Welfare. Basic Policy Regarding Disclosure of Information. Available online: https://www.mhlw.go.jp/content/000652973.pdf (accessed on 3 January 2021). (In Japanese)

26) Tokyo Metropolitan Government. Bureau of Social Welfare and Public Health. Available online: https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/ (accessed on 5 January 2021). (In Japanese).

27) Böhning, D.; Rocchetti, I.; Maruotti, A.; Holling, H. Estimating the Undetected Infections in the Covid-19 Outbreak by Harnessing Capture–Recapture Methods. Int. J. Infect. Dis. 2020, 97, 197–201.