COVID-19関連追加(2021130-2)トイレはウイルス伝播を促進させるか

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【トイレはウイルス伝播を促進させるか】

Li YY, et al. Can a toilet promote virus transmission? From a fluid dynamics perspective. Published June 16, 2020. Physics of Fluids 32, 065107 (2020);

https://doi.org/10.1063/5.0013318.

Abstract

トイレで多く発生する糞便経口感染の経路を遮断することは,ウイルスの拡散を抑制する上で基本的に重要なことである.しかし,これまでのトイレの衛生的な安全性向上への取り組みは十分ではなかった.トイレで水を流すと,便器内に強い乱流(turbulence)が発生することは日常的な経験からも明らかである.このような乱流を利用して,ウイルスを含むエアロゾル粒子が便器外に排出されることは可能なのだろうか?本論文では,計算流体力学を用いて,トイレでの水洗時の流体の流れの特徴と,水洗がウイルスエアロゾル粒子の拡散に与える影響を探り,可視化することを目的とする.VOFVolume-of-fluid)モデルを用いて2つの一般的な水洗過程(single-inlet flushingannular flushing)をシミュレーションし, VOFdiscrete phase modelDPM)法を用いて水洗中のエアロゾル粒子の軌跡をモデル化した.シミュレーションの結果,ウイルス粒子の大規模な上方輸送(upward transport)が観測され,粒子の40-60%が便座の上に到達し,大規模なウイルス拡散につながることを確認した

Main要約>

TOILET MODEL STRUCTURES:

本論文では,Figure 1に示すように,一般的なsiphon toiletsの水洗過程に焦点を当てている.このFigureはそれぞれシングルポート型とダブルポート型の2つの簡略化された2次元siphon toiletsを模式的に表している.シングルポート型トイレではsingle-inlet flushingを,ダブルポート型トイレではannular flushingをシミュレートすることができる.Figure 1において,赤部分は液相を,青部分は気相を表している.Figure 1(a)(b)の白部分を除いた赤部分と青部分のみが,この2つのモデルの計算領域である.

 

 

Figure 1: Structures and overall dimensions of siphon toilets: (a) single-port toilet; (b) double-port toilet (units: mm).

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COMPUTATIONAL MODEL:

Assumptions:

トイレの水洗時の粒子の動きをシミュレーションするために,本論文ではいくつかの仮定を採用している: (1) エアロゾル粒子と空気との間には熱や物質の移動はない; (2) エアロゾル粒子の生成は無視する; (3) エアロゾル粒子の大きさなどの物性(physical properties)はシミュレーション中も一定である; (4) 温度は20℃と仮定している; (5) トイレ内の糞便の影響は無視する.

Simulation conditions, cases, solution, and process:

トイレモデルごとに2つのケースをシミュレーションする: (1)トイレの水洗の過渡状態,(2)水洗の影響を受けて移動する エアロゾル粒子の過渡状態の 2 つのケースをシミュレーションした.CFDシミュレーションと境界条件の詳細をTable Wに示し,2 つのトイレモデルのエアロゾル粒子分布の初期条件をFigure 3に示す.Figure 3(a)にシングルポート型トイレの粒子濃度を,Figure 3(b)にダブルポート型トイレの離散粒子分布を示す.2つのトイレの初期粒子分布は同等であり,粒子総数はそれぞれのモデルで6000個であることに注意する.エアロゾルウイルス粒子の臨界物理パラメータは,Gupta34)およびWong35)から得られている.

Aerosol particle34)35): 粒子径は8.6μm,粒子総数6000個,粒子密度1100kg/m3.

34) J. K. Gupta, C.-H. Lin, and Q. Chen, “Flow dynamics and characterization of a cough,” Indoor Air 19, 517–525 (2009).

35) L. T. Wong, H. C. Yu, K. W. Mui, and W. Y. Chan, “Drag constants of common indoor bioaerosols,” Indoor Built Environ. 24, 401–413 (2015).

 

 

Figure 3: Initial conditions of the aerosol particle distributions of the two toilet models shown (a) in the form of particle concentration for the single-port toilet and (b) as discrete particles for the double-port toilet.

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single-inlet flushingannular flushingの比較検討を行うために,両トイレモデルのシミュレーションを以下の手順で実施した: (1) AutoCAD を使用して幾何学モデルを構築; (2) CFD-ICEM を使用して境界タイプを設定してメッシュを生成; (3) Ansys-Fluent 19.2 を使用してトイレの水洗とそれに伴う粒子の動きをシミュレート; (4) データ抽出と解析を行い,2 つのモデルのシミュレーション結果を比較した.

RESULTS AND DISCUSSION:

Analysis of flushing process:

これら2つの水洗過程の動的映像をFigure 4およびFigure 5に示す(約2段階の水洗過程を見ることができる): (1)排水段階(1.7秒±0.1秒前); (2)後期排水段階(1.7秒±0.1秒後).この分類は,1.7秒±0.1秒後には,大部分の液体がボウル領域(bowl area)から排出されることに基づいている.

Figure 4: Single-inlet flushing process.

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Figure 5: Annular flushing process.

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Figure 6に水洗開始から0.6秒後のsingle-inlet flushingの渦度(vorticity)の大きさとY成分速度の等値線を示す.これはサイフォン現象(2つの水槽間を管でつないだときに,管の中が水で満たされると,2つの水槽の水位が同じになろうとする現象)の始まりであり,混合液の圧力と重量が連続的に増加して液相が下水管から流出していることを示している.左ポートから水が注がれると,ボウルの左壁に衝突し,はねた液体(splashing liquid)が右壁を洗浄し,その壁付近に渦が形成される.同時に,渦は慣性力の作用で壁面に沿って連続的に上方に移動する.したがって,Figure 6(a)に示すように,便座の上方の空気帯にも気流の渦が出現する.また,Figure 6(b)に示すように,空気渦(air vortex)の乱流(turbulence)により,空気帯における速度の大きさや方向に明らかな変化が見られる.定量解析を容易にするために,シングルポート型トイレ内の異なる位置でのY成分速度をFigure 7に示すが,Y成分速度の最大値は1.5m/sであり,渦の強度が最大となるY= 0.25mの位置で発生している.

 

 

Figure 6: Simulation results of single-inlet flushing at 0.6 s: (a) vorticity magnitude contours; (b) Y-component velocity contours and vectors.

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Figure 7: Y-component velocity distribution at different locations within the single-port toilet at 0.6 s.

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時間が経つにつれて後期に入り,ボウル内の液体の大部分が全て排出されサイフォン現象は終了する.Figure 8に典型的な1.8 秒における流れのダイナミクスを示す.液体の大部分はボウルから排出されたが,慣性力の下での液体と空気の相互作用は継続しており,Figure 8(b)に示すように,水洗中に最大の渦度376.12 s-1が発生する.これにより,強い求心力が発生し,この瞬間に領域全体の最大速度勾配(maximum velocity gradient)が発生する.非常に高い渦度は,主に液体がタンクから流出する際のポートからの気流の高速化によるものである.Figure 8(a)に示す等圧線(pressure contour)は,ベルヌーイの原理による渦度分布と類似した特徴を示しており,運動エネルギーの高い領域ほど圧力エネルギーが低くなる.Figure 8(c)には,ボウル内で時計回りに回転している巨大な気流の渦も示されている.Figure 8(c)に見られるように,回転速度は渦の中心が空洞を形成するのに十分に大きい.Figure 8(d)は,Y成分の絶対速度が最大となる位置が最も強い渦の近くに現れることを示している.Figure 9によると,Y成分速度の最大値は空洞の左側に位置するY= 0.3mの位置に現れ,最大値は4.8m/sまで増加しうる.

Figure 8: Simulation results for single-inlet flushing at 1.8 s: (a) pressure contours; (b) vorticity magnitude contours; (c) velocity magnitude contours and vectors; (d) Y-component velocity contours.

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Figure 9: Y-component velocity distribution at different locations within the single-port toilet at 1.8 s.

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Figure 10に示すように,第1段階に分類される1.4秒時のデータを抽出したところ,annular flushingでも同様の渦現象が見られた.Figure 10(b)に示すように,左右対称に配置された2つのポートから同時に水が注がれると,水封(water seal)に衝突し,混じった液体が壁の両側を交互に洗い流し,壁面付近に多数の渦が形成される.その中でも最大の渦度は 484.12 s-1 までであり,single-inlet flushingと比較して28.7%向上している.この最大値は右壁のポート付近に現れている.この最大の渦は,主に2つの高速気流とタンクから逆方向に流れてきた水が,すでにボウル(basin)にある液体と混ざり合うことで発生する.これにより強い求心力が発生し,Figure 10(d)に示すように,この時点で領域全体の最大速度勾配が発生している.Figure 10(c)から,最大の渦も時計回りに回転しており,その速度は十分に高く,中央領域に空洞が形成されていることがわかる,Figure 10(a)に示した等圧線も渦度分布と同様であり,ベルヌーイの原理にも従っている.Figure 10(d)に示すように,1.8秒時におけるsingle-inlet flushingの結果と同様に,Y成分の絶対速度が最も大きい位置が最も強い渦に近くであることを示している.Figure 11によると,Y成分速度の変動幅は12m/sにもなり,最大値が 5m/s に接近していることがわかった.これは,渦空洞の左側に位置するY= 0.2mで発生している.

 

 

Figure 10: Simulation results for annular flushing at 1.4 s: (a) pressure contours; (b) vorticity magnitude contours; (c) velocity magnitude contours and vectors; (d) Y-component velocity contours.

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Figure 11: Y-component velocity distribution at different locations within the double-port toilet at 1.4 s.

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Figure 12に示すように,ボウル内の大容量の液体が排出された状態で,annular flushingは後期段階(ここでは,1.8秒時におけるデータを抽出する)に入る.空気は衝突した水と強い相互作用が続いているため,Figure 12(a)に示すように,ボウル内にはまだ渦が存在しており,求心力が発生し続けている.Figure 12(b)によれば,渦度分布とともに速度勾配が変化する.Figure 12(a)に示すように,空気の渦の乱流は結果として,たとえ便座の上であっても,空気帯における速度の大きさと方向が明らかに変化する.

Figure 12: Simulation results for annular flushing at 1.8 s: (a) vorticity magnitude contours; (b) Y-component velocity contours and vectors.

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2つの水洗過程の流れのダイナミクスを比較すると,類似点と相違点が明らかになる.どのような種類の水洗であっても,水洗時にはボウル内に気流の渦が発生し,それによって発生する遠心力によって高い気流速度が発生する.その結果生じる乱流によって,トイレ領域の上方の空気帯の流速の大きさと方向が乱れることになる.そのため,高速気流によってエアロゾル粒子がボウルからトイレ上方の空気中の高い領域に排出され,ウイルスが室内に拡散して人の健康に影響を及ぼすと考えるのが妥当である.annular flushingでは,single-inlet flushingと比較して,第一段階に衝突エネルギーがより高い洗浄水が多く流入するため、Y成分速度が高くなり,より強い乱流が発生する.また,Y成分速度の最大値は,annular flushingではボウルの中央部で発生するが,single-inlet flushingではボウルの端部で発生することがわかった.これは,annular flushing モデルでは,水が2つの対向するポートから供給され,その結果,2つの水流がボウルの中央で衝突して高速の上昇流を発生させるという事実に起因しうる.

Particle movement analysis and discussion:

2つのトイレモデルの水洗過程におけるウイルス粒子挙動ダイナミクスをFigure 13Figure 14に示す.例外なく,どちらの水洗過程においても,大規模な上方への粒子輸送が観察されている.Figure 15one-shot flushingの過程で粒子がどの程度まで移動できるかを示すために,水洗後のtime periodにおけるsingle-inlet flushingの過程における粒子Y位置分布を表示している.Figure 15(a)に示すように,最も高い粒子のY位置は35秒で27.4cmFigure 15(b)に示すように70秒で36.8cmに達することがわかり,地面のY位置は−45cmと推定できるため,これらの粒子の実際の高さは35秒で72.4cm70秒で81.8cmとなり,水洗後の時間帯における上昇速度は0.27cm/sと推定できる.統計的な計算によると,70秒時において,ワンショットのsingle-inlet flushing2700個の粒子がトイレから排出されることになる.

 

 

Figure 13: Dynamic virus particle movement during single-inlet flushing.

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Figure 14: Dynamic virus particle movement during annular flushing.

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Figure 15: Discrete particle Y-position distribution for single-inlet flushing at a time of (a) 35 s and (b) 70 s.

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Figure 16は,長い時間が経過した後のエアロゾル粒子の巨大な拡散を示している.Figure 16(a)に示すように,計算領域内で最も高い拡散粒子のY位置は,35秒時で48.5cmに達することができ,この粒子の実際の最大の高さは93.5cmである.さらに,Figure 16(b)は,70秒時で拡散粒子の実際の最大の高さが106.5cmであることを示しており,たとえ前回の水洗からから長い時間が経過してもY成分速度が0.37cm/sとなり,single-inlet flushingの場合と比較して37%向上していることがわかる.この情報は計算領域に残っている粒子から抽出されたものであることに注意する.annular flushingで排出された粒子数は,35秒時において1511個(全体の25%)と計算されている.忙しい時間帯の家庭用トイレや人口密集地の公衆トイレのようなトイレを頻繁に使用する場合には,さらに高い速度になることが想像できる.統計的には,全エアロゾル粒子の60%近く(outlet 1から排出されるものを含む)が便座上方へ上昇すると推定される.これは,single-inlet flushingの場合に比べて33.3%も大きい.

 

 

Figure 16: Discrete particle Y-position distribution for annular flushing during the post-flushing period at a time of (a) 35 s and (b) 70 s.

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CONCLUSION

トイレは日常生活に欠かせないものであるが,使用方法を誤ると危険なものとなる.本論文では,CFDアプローチを用いて,トイレの水洗がどのようにしてウイルス伝播を促進するかを明らかにした.2つの異なるタイプのトイレ(single-inlet flushingannular flushing)の水洗過程をシミュレートし,特に水洗中の流体の流れ特性(fluid flow characteristics)とエアロゾル粒子の挙動を調査した.いくつかの驚くべき結論をまとめると以下のようになる.

どちらの水洗タイプでも強い乱流が発生することが確認されている

確かに便器のボウルからエアロゾル粒子を排出することができる5m/sもの上昇速度が発生する

全体の40-60%の粒子が便座上方に上昇して大規模な拡散を引き起こす可能性があり,その高さは地面から106.5cmに達する

水洗後の時間(最後の水洗から35-70秒後)でも,拡散粒子の上昇速度は0.27-0.37cm/sに達することができ,上昇を続ける

データ分析によると,同じ水量と同じ重力ポテンシャルエネルギー(重力による位置エネルギー)があれば,annular flushingの方がより多くのウイルスを拡散させることが示されている

我々は,トイレを使用する際に採用すべきいくつかの安全な手順を提唱する.

@流す前に便器の蓋をすることで,基本的にウイルス伝播を防ぐことができる.

A浮遊するウイルス粒子が表面に沈降している可能性があるため,便座を清潔にしてから使用する.

B水洗ボタンやドアハンドルにウイルス粒子が付着している場合があるので,水洗後は手をよく洗う.