COVID-19関連追加(202127日)接触感染についてNatureの記事

当院HP関連ファイル:

2020724日((2)の文献)

2020930-2

20201018日((13)の文献)

2020117日((10)の文献)⇒正式にアクセプトされた(以下)

 

 

【接触感染は稀である.それなのになぜまだ幅広く表面を清掃するのか?】

Lewis D. NEWS FEATURE. COVID-19 rarely spreads through surfaces. So why are we still deep cleaning? Jan 29, 2021. Nature 590, 26-28 (2021).

https://doi.org/10.1038/d41586-021-00251-4.

Workers disinfect a residential community on the street in Hebei Province of China

Workers spray disinfectant on a street in Shijiazhuang, China, in January 2020. Credit: Zhai Yujia/China News Service via Getty.

 

Emanuel Goldmanが昨年3月にNew Jerseyのスーパーマーケットに行った時,彼は何の危険も冒さなかった.COVID-19の報告が全米で飛び交っていたため,彼は汚染された表面を避けるために手袋をして,他の買い物客からのウイルスを含んだ小さな飛沫を吸い込まないようにマスクを着用していた.当時は手袋もマスクも推奨されていなかった.

それから,3月末には実験室の研究で,コロナウイルスSARS-CoV-2がプラスチックやステンレススティール上に数日間持続することが示された1).これをきっかけに,ドアノブから食料品に至るまで,あらゆるものを除染する方法について多くのアドバイスがなされた.それはまた,COVID-19の原因となるウイルスは,汚染されているfomitesとして知られている表面を介して広がることができるという2月に世界保健機関 (WHO) によって発行されたガイダンスを確認するように見えた.

5月までに,WHOや世界中の保健機関は,一般のコミュニティの場(家,バス,教会,学校,店舗など)では,特に頻繁に触れるものの表面を清掃し,消毒することを推奨していた.消毒剤の工場は,この需要に追いつくために24時間体制で稼働していた.

しかし,ニューアークのラトガース・ニュージャージー医科大学の微生物学者であるGoldman氏は,fomites周辺の証拠をより詳しく見ることにした.彼は,SARS-CoV-2が汚染された表面を介して人から人へと感染するという考えを裏付けるものはほとんどないということがわかった.彼は7月にLancet Infectious Diseases誌に鋭い論説を書き,表面によってウイルスが感染伝播するリスクは相対的にほとんどない(relatively little risk)と主張した2).それ以来,彼の信念は強まるばかりで,Goldman氏が手袋を捨てて以来ずいぶん時間が過ぎている.

他の多くの人も同様の結論に達している.実際,米国疾病対策予防センター(CDC)は5月に表面からの感染伝播についてのガイダンスを明確にし,このルートは”ウイルスが拡散する主たる経路とは考えられていない”と述べた.現在では,表面を介した感染伝播は”COVID-19の一般的な拡散経路とは考えられていない”としている.

パンデミック過程で証拠が蓄積されるにつれ,ウイルスに関する科学的な理解も変化してきた.アウトブレイクの研究や調査では,感染者による咳,会話,呼吸によって,大きな飛沫やエアロゾルと呼ばれる小さな粒子が放出されることで感染伝播の大部分が発生していることが指摘されている.これらは,近くにいる人によって直接吸い込まれることもある.表面感染伝播の可能性はあるが,大きなリスクはないと考えられている.

しかし,換気を改善させることよりも表面を清掃する方が簡単でありー特に冬場にはー,消費者は消毒プロトコルを期待するようになってしまった.つまり,政府,企業,個人は,幅広い洗浄の取り組みに膨大な時間とお金を投資し続けている.2020年末までに,表面消毒剤の世界売上高は45億米ドルに達し,前年比で30%を超える急増となった.地下鉄とバスを統括し,2020年には乗客の収入で数十億ドルを失ったニューヨーク都市交通局(MTA: Metropolitan Transit Authority)は,広報担当者によると,清掃と衛生の強化などを含むCOVID-19への対応に昨年48,400万ドルを費やしたという.

問題の一部は,専門家がfomitesを介した感染伝播の可能性を除外できないことであり,科学の変化に伴い,表面をどのように処理するかについての多くの保健機関からのガイダンスは不明確なものとなっている.11 月には,中国当局は輸入冷凍食品パッケージの消毒を必要とするガイドラインを導入した.そして,CDCSARS-C0V-2を殺す薬品(agents)の包括的なリストに人々を注目させて,述べる: ”多くの人が触れた表面やオブジェクトの頻繁な消毒は重要である.”

専門家は,手洗いを推奨するのは理にかなっていると言うが,一部の研究者は,表面に焦点を当てることに反発している.12月には,ブラックバーグのバージニア工科大学のエンジニアLinsey Marr氏がワシントンポスト紙の意見記事を共同で執筆し,人々に清掃の努力を省くように促している.”微小な飛沫(microscopic droplets)であるエアロゾル吸入による感染伝播が,支配的ではないにしても重要な感染伝播モードであることが明らかになった”と,空気媒介感染症の感染伝播を研究しているMarr氏は言う.表面をきれいにすることに過剰な注意を払うことは,換気や人々が呼吸する空気の除染にもっと時間を費やせる限られた時間と資源を奪うことになる,と彼女は言う.

Virus RNA can mislead:

コロナウイルスアウトブレイク当初は,他の感染症について人々が知っていたことから,エアロゾルではなくfomitesに注目が集まっていた.病院では,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,RSウイルス,ノロウイルスなどの病原体がベッドの手すりに付着したり,医師の聴診器によって人から人へと移ったりすることがある.人々がコロナウイルスから病気になり始めるとすぐに,研究者は,病室や検疫施設にウイルスが潜んでいる可能性がある場所をスワブで調べることを始めた.そして,あらゆる場所にウイルスがいるように見えた.

医療施設では,眼鏡やwater bottlesのような個人の所有物からウイルスRNAの痕跡が検出され,研究者はウイルスによって汚染されている主経路と特定した.ベッドの手すりや通気口も同様である.検疫された家庭では洗面台やシャワーからRNAが検出され,レストランでは木箸が汚染されていることが判明した.初期の研究では,汚染が何週間も持続している可能性があることが示唆されていた.クルーズ船であるダイヤモンドプリンセス号が明け渡されてから17日後,科学者たちは,COVID-19陽性反応が出た乗客/乗組員712人のキャビンの表面からウイルスRNAを発見した3)

An MTA cleaning contractor cleans and disinfects a New York City subway car

Sanitization of public transport in New York City cost hundreds of millions of dollars in 2020.Credit: Noam Galai/Getty.

 

 

しかし,ウイルスRNAの汚染は必ずしも警戒すべき原因ではない,とGoldman氏は言う.”ウイルスRNAはウイルスの死体に相当し,感染性はない.”

この問題に取り組むために,研究者たちは,様々な表面に数日間放置したコロナウイルスサンプルが実験室で培養した細胞に感染するかどうかの試験を開始した.4月に行われたある研究では,プラスチックやステンレススティールのような硬い表面では6日間; 紙幣では3日間; そしてサージカルマスクでは少なくとも7日間4),感染性が維持されることが示された.その後の研究では,皮膚には最大4日間生存可能な(viable)ウイルスが存在していたが,衣服では8時間以内であったことが発表された5).また,天然皮革や合成皮革で製本された図書館の本において8日後に感染性ウイルスが検出されたという報告もある6)

Unrealistic conditions:

この種の実験は,コロナウイルスが表面で生存できることを示しているが,これは人々がドアノブのような表面からコロナウイルスを受け取っていることを意味するものではない.Goldman氏らは,ウイルス生存に関する研究の多くは,実験室の外に存在する条件で試験していないため,これらの研究を深読みしすぎないように注意を促している.”これらの実験は,膨大な量のウイルスを使って始められたものであり,現実世界で遭遇するようなものではない.他の実験では,模擬唾液(mock saliva)を使用し,湿度や温度といった制御された条件を使用しているが,これらはすべて,実験と現実世界の条件の間の溝を広げている,とGoldman氏は言う.

研究室の外で生存可能なウイルスを探求したのはほんの一握りの研究に過ぎない.イスラエルのアシュタ・アシュドッド大学病院の感染症ユニットを率いるTal Brosh-Nissimov氏らは,病院の隔離ユニットと隔離ホテルの部屋における個人の所有物やや家具をスワブで採取した.2つの病院で採取したサンプルの半分と,隔離ホテルで採取したサンプルの3分の1以上がウイルスRNA陽性であった.しかし,ウイルス物質(viral material)はどれも実際に細胞に感染させることはできなかったと,研究者らは報告している7)

実際に,研究者たちは,fomitesだけでなく,あらゆる環境サンプルから生存可能なウイルスを分離するのに苦労してきた.唯一成功した研究8)では,COVID-19患者から少なくとも2メートル離れた場所から採取した病院の空気サンプルからウイルス粒子を増殖させた.

それにもかかわらず,科学者たちは絶対的な結論を出すことに警告を発している.”生存可能性(viability)を示すことができないからといって,ある時点で伝染力があるウイルスがないということにはならない”,と香港大学の疫学者Ben Cowling氏は言う.

他の病原体のヒト曝露研究は,呼吸器ウイルスの感染伝播についてのさらなる手がかりを提供している.1987年,ウィスコンシン大学マディソン校の研究者たちは,健康なボランティアを部屋に入れて,一般的な風邪ウイルスであるライノウイルスに感染した人たちとトランプをさせた9).健康なボランティアは顔を触らないように腕の動きを制限して,汚染された表面からウイルスを移さないようにしたところ,半数が感染した.制限されていないボランティアも同様に感染した.別の実験では,病気のボランティアが触って,咳をかけられたカードやポーカーチップを別室に運び,健康なボランティアに目や鼻をこすりながらポーカーをするように指示した.感染の唯一の経路は,汚染されたカードとチップを介して感染することであったが,誰も感染しなかった.これらの実験を組み合わせることで,ライノウイルスが空気を介して拡散するという強力な証拠が得られた.しかし,SARS-CoV-2は死に至る可能性があるため,このような研究は倫理的ではないと考えられる.

Cowling氏によると,おそらく稀ではあるが,表面を介した感染伝播を除外することはできないという.”我々の知る限りでは,それほど多くはないようである.”

Employees spray sanitizer and clean chairs in the library at a school in Karachi, Pakistan

Cleaning efforts involved sanitizing tables and chairs at a school in Karachi, Pakistan, in September 2020.Credit: Akhtar Soomro/Reuters.

 

環境中に残存するウイルスRNAレベルに基づく感染推定値は,このことを裏付けるようである.4月〜6月にかけて,当時マサチューセッツ州メドフォードのタフツ大学に在籍していた環境エンジニアのAmy Pickering氏らは,マサチューセッツ州のある町の屋内外の表面を毎週スワブで採取した.RNA汚染レベルと,ドアノブや横断歩道のボタンなどの表面に人々がどのくらいの頻度で触れたかに基づいて,彼女らのチームは汚染された表面に触れることによる感染のリスクは10,000人に5人未満と推測した10).これはエアロゾルを介したSARS-CoV-2感染伝播の推定値よりも低く,インフルエンザあるいはノロウイルスの表面感染伝播リスクよりも低い.

fomitesによる感染伝播はありうるが(possible),それは稀なことのようだ”,と現在カリフォルニア大学バークレー校に在籍しているPickering氏は言う.”感染伝播が起こるためには、その場所へ多くのもの(a lot of things)が落ちなければならない.”

これらは,初期の数ヶ月間のパンデミックを制御するための政府介入の世界的な比較において,共有された表面の清掃と消毒が感染を減らすために最も効果的でないものの1つにランク付けされている理由を説明することができるかもしれない11).ロックダウンを含むソーシャルディスタンスと渡航制限が最も効果的であった.

Messy data:

そのためウイルスがどのように広がっていくのかについて,疫学的なデータは錯綜している.パンデミックが始まって以来,COVID-19感染伝播に関する何百もの研究が発表されているが,汚染された表面からの感染(鼻水-口腔経路:  snotoral routeと呼ばれる)を報告しているのは1つだけだと考えられている.報告書によると,中国においてCOVID-19感染者が,手で鼻をかんだ後,アパートのエレベーターのボタンを押した.その後,そのビルの第2の住人が同じボタンに触れ,直後に爪楊枝でフロス(flossing: 歯間をきれいにすること)をしたことで,ボタンから口にウイルスを移したという12).しかし,各人に感染したウイルスのゲノム配列はなく,他の未知の人を介した感染伝播は否定できなかった.

他にも中国では,路上でウイルスを含む汚水を踏んだ後に感染し,自宅へ持ち込んだと考えられる8人の事例が報告されている13)

公表されているfomites感染伝播例は稀であるにもかかわらず,中国当局は輸入冷凍食品の消毒を義務づけている.天津市北部の港町にある冷凍食品会社の従業員が,ドイツから輸入された冷凍豚肉の汚染された包装を扱った後に感染したという,詳細が公表されていない報告書の後にガイドラインの変更が行われた.しかし,WHOや他の専門家は,このような方法のfood chainを介して人が感染する可能性があるという主張に異議を唱えている.

Cowling氏は,誰が誰に感染させたのか,感染した時期にどのような表面や空間を共有していたのかを注意深く追跡し,より詳細な調査が必要であると述べている.”我々が本当に重要視しているのは,家庭や職場,その他の場所での感染パターンを疫学的に調査することです”,とCowling氏は言う.”我々は,これまで十分な研究をしてきたとは思えない.”

The greatest threat:

コロナウイルス症例についての1年分のデータから,研究者は1つの事実が明らかだと言う.懸念の主な原因は表面ではなく,人である.多数の人が一度に感染し,一般的に混雑した屋内空間で行われる超拡散イベントから得られた証拠は,明らかに空気媒介感染伝播(airborne transmission)を示唆している,とMarr氏は言う.”汚染された表面による超拡散イベントを説明するためには,本当に複雑なシナリオを作らなければならない”,とMarr氏は言う.

表面からの感染伝播を除外することはできないため,手洗いは重要である,とMarr氏は言う.しかし,表面衛生よりも換気システムを改善したり,空気清浄機を設置したりすることの方が重要だとMarr氏は言う.”すでに空気に注意を払っていて,時間と資源が余っているならば,高頻度に触れる表面を拭くことが有用である可能性はある”,と彼女は言う.

家庭内でも緩和することができる,とPickering氏は言う.食料品を隔離したり,すべての表面を消毒することは,あまりにも行き過ぎである.”それは多くの作業を必要とし,それもおそらくそれほどあなたの曝露を減らすことはできない”,と彼女は言う.代わりに,濃厚接触者からの曝露を減らすために,マスク着用やソーシャルディスタンスだけでなく,合理的な手指衛生は努力を集中するより良い手段である.

WHO1020日にガイダンスを更新し,”感染した人がくしゃみ,咳をしたり,あるいはテーブル,ドアノブ,手すりなどの表面や物体に触れたりした後”にウイルスが拡散する可能性があるとしている.WHOの広報担当者は,Nature誌に”fomitesを介した感染伝播の証拠は限られている”と述べている.それにもかかわらず,SARS-CoV-2に感染した人の周辺でSARS-CoV-2 RNAが陽性であること,環境汚染が一貫して確認されていることを考えると,fomitesによる感染伝播は可能性がある(possible)経路と考えられる”と述べている.WHOは,”COVID-19ウイルス汚染の可能性を減らすためには,消毒の習慣(disinfection practices)が重要である ”と付け加えている.

CDCは,fomitesによってもたらされるリスクについての声明の矛盾についてのNatureによる問い合わせに答えなかった.

保健当局が直面している難問は,決定的に表面を介した感染伝播を除外することは困難であることだ,とMarr氏は言う.当局は,慎重にならないように人々に伝えることに消極的になることがある.”それが起こりうる場合,あなたは『ああ,それをしないように』とは決して言いたくない.そして,我々は予防原則に従うべきである”,と彼女は言う.

証拠が蓄積してきたにもかかわらず,一般の人々はパンデミックの初期の数ヶ月後に余分なレベルの消毒を期待するようになっていたかもしれない.ニューヨークMTA9月下旬と10月上旬に乗客を調査したときに,その4分の3は,清掃と消毒された交通機関を使用するときに安心を感じると述べた.

Goldman氏は,家を出るときに布マスクを着用し続けているが,汚染された表面からコロナウイルスを捉える可能性に関しては,彼は特別な予防措置を取ることはない.”我々が自分の身を守る方法の一つは,手を洗うことだ”,と彼は言う.”それはパンデミックがあろうとなかろうと適用される”.

 

 

References

1) van Doramalen, N. et al. N. Engl. J. Med. 382, 1564–1567 (2020).

2) Goldman, E. Lancet Infect. Dis. 20, 892–893 (2020).

3) Moriarty, L. F. et al. Morb. Mortal. Wkly Rep. 69, 347–352 (2020).

4) Chin, A. W. H. et al. Lancet Microbe 1, E10 (2020).

5) Harbourt, D. E. et al. PLoS Negl. Trop. Dis. 14, e0008831 (2020).

6) The REALM Project. Test 5: Natural attenuation as a decontamination approach for SARS-CoV-2 on textile materials (REALM, 2020); available at

go.nature.com/3t1eycg.

7) Ben-Shmuel, A. et al. Clin. Microbiol. Infect. 26, 1658–1662 (2020).

8) Lednicky, J. A. et al. Int. J. Infect. Dis. 100, 476–482 (2020).

9) Dick, E. C. et al. J. Infect. Dis. 156, 442–448 (1987).

10) Harvey, A. P. et al. Environ. Sci. Technol. Lett.

https://doi.org/10.1021/acs.estlett.0c00875.

11) Haug, N. et al. Nature Human Behav. 4, 1303–1312 (2020).

12) Xie, C. et al. BMC Public Health 20, 1202 (2020).

13) Yuan, J. et al. Clin. Infect. Dis. https://doi.org/10.1093/cid/ciaa1494.