COVID-19関連追加(2021323日)

【ニュージーランド(アオテアロア)におけるSARS-CoV-2

国境検疫および航空旅行中の感染伝播】

Eichler N, Thornley C, Swadi T, Devine T, McElnay C, Sherwood J, et al. Transmission of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 during border quarantine and air travel, New Zealand (Aotearoa). Emerg Infect Dis. 2021 May [date cited]. Published Mar 18, 2021.

https://doi.org/10.3201/eid2705.210514.

Abstract

ニュージーランド(アオテアロア)では,コロナウイルス感染症を撲滅するための戦略として,海外からの入国者は管理された隔離・検疫を受け,SARS-CoV-2の検査が義務付けられている.ゲノムおよび疫学データを組み合わせて,患者が14日間の隔離検疫を受け,2回の検査で陰性となった後,地域社会で確認されたコロナウイルス感染症の急性症例の起源を調べた.ゲノム配列解析と疫学的調査を組み合わせることで,国際/国内航空便を含む,このウイルスの複数の分岐した伝播経路と,人と人とが直接接触しないエアロゾル伝播の可能性を明らかにした.これらの結果は,ゲノムおよび疫学データを統合することで,アウトブレイクの調査に役立つことを示している.

Main

ニュージーランド(マオリ語でアオテアロア)では,COVID-19の撲滅を目標に掲げており,その結果,この国ではこの疾患の発生率が低く抑えられている(1-3).輸入リスクを最小化するための国境以降(postborder)の管理は,管理隔離検疫(MIQ: managed isolation and quarantine)が中心となっている.ほとんど例外なくニュージーランドに到着した外国人は,地域社会に出る前に指定された施設で14日間のMIQを受けることが義務付けられている.MIQ施設は商業用ホテルを再利用したもので,もっぱら帰国者の隔離と検疫に使用される.

MIQ期間中は,症状の有無にかかわらずCOVID-19感染者を特定するために,定期的な健康モニタリングに加えて,3日目と12日目にPCR検査を実施し,感染伝播を抑制するための対策がとられる.今回の調査以降,1日目の検査や出国前の検査も実施されるようになった.14日間の滞在期間を終え,SARS-CoV-2PCR結果が陰性で,無症状のままであれば,解除されることになっている.今回,20209月,最近のニュージーランドへの到着においてCOVID-19症例が確認されてことを報告する.

Index Case-Patients:

2020918日,ニュージーランドでCOVID-19症例が確認された.この症例は,最近インドから到着したばかりで,ニュージーランドのクライストチャーチにあるMIQ14日間の隔離を終了し(3日目と12日目に2回のSARS-CoV-2検査は陰性),その後,解除されていた.この患者を”症例患者G”と呼ぶことにする.

症例患者Gは,MIQから解除された他の数名と一緒に,政府チャーター機でニュージーランドのクライストチャーチからオークランドに向かった.この症例患者はその後,症状が現れ,4日後にSARS-CoV-2の陽性反応を認めた.症例患者Gの濃厚接触者は,その後,監視と検査を受けた(Table).今回の調査でSARS-CoV-2が陽性となった人は全員,この研究に参加することに口頭で同意している.

Travel from India to New Zealand:

症例患者Gは,2020827日にインドからニュージーランドに帰国した149人のニュージーランド国民または永住権保持者の集団の一人であった.クライストチャーチに到着した集団全体は,インドのデリーからフィジーのナンディを経由して,同じチャーター便(ボーイング747型機)で移動した; 乗客全員がフィジーで降機した.乗客のうち数名はフィジーに残り,そのうち3人は検疫期間中にSARS-CoV-2の陽性反応を示したが,今回の調査には含まれていない.当時,出発前のSARS-CoV-2検査は義務づけられておらず,検査を受けたと報告した乗客はいなかった.

Figure 1: SARS-CoV-2の国境検疫および航空旅行中における感染伝播の可能性の高い一連のイベントと関連する機内およびMIQの位置(20209月,ニュージーランド).症例Aの位置はおおよその目安である(Table).

Sequence of probable transmission events and associated relevant locations in-flight and MIQ for severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 during border quarantine and air travel, New Zealand, September 2020. Location of case A is approximate (Table). COVID-19, coronavirus disease; MIQ, managed isolation and quarantine.

このフライトでクライストチャーチに到着した人のうち,MIQ滞在中にSARS-CoV-2の陽性反応を認めたのは8人である.この8人の患者のうち,3人がゲノム上でリンクしていることが判明したので,これを症例患者ABCとする(Figure 1).ニューデリーからナンディへの最初のフライト(約18時間)では,症例患者ABC2列目以内に座っていた; それ以外の症例患者ではフィジカルディスタンスを保っていた(Table).このフライトの搭乗率は約35%で,乗客は機体全体に均等に着席していた.

症例患者Cが発症した時期は,インドからニュージーランドへのフライト中に症例患者AまたはBによって感染伝播したタイミングと一致した症例患者AまたはBは,フライト中またはフライト前に共通の感染源から感染した可能性がある.フライト中は乗客全員にフェイスマスクの着用が義務付けられており,乗務員は感染予防策を実施していた.対象となる乗客は一緒に旅行したことはなく,お互いに知り合いではなかった.クライストチャーチに到着すると,乗客はターミナル内でフィジカルディスタンスを保つために10人ずつのグループに分けられて降機し,各症例患者には新しいサージカルマスクが提供された.クライストチャーチに到着後,バスでMIQに移動した.バス搭乗時とバス内ではフィジカルディスタンスを置いてサージカルマスクを使用したが,特定の乗客にあらかじめ席を割り当てることはしなかった.

Table: Characteristics for 9 case-patients tested for transmission of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 during border quarantine and air travel, New Zealand, September, 2020*.

Evidence of Transmission in Hotel-Managed Isolation and Quarantine:

MIQ施設は商業用ホテルを再利用したもので,各部屋にはバスルームがあり,バルコニーはなかった.症例患者C12日目に陽性となり,施設内の隔離セクションに移された隔離セクションに移される前,症例患者Cの隣の部屋には,同じフライトでインドから帰国した大人と乳児がいた(Figure 1.大人も子供も14日間の検疫を終えていた.各人とも2回検査で陰性となり,症状の報告はなかったが,その後,地域社会に出てからSARS-CoV-2が陽性となった(この2人を,症例患者DEとする)我々は,この2人の症例患者はMIQ滞在中に感染したと考えている

症例患者CDEが到着してから症例患者CMIQの隔離セクションに移動するまでの期間をクローズド・サーキット・テレビで確認したところ,3人が同時に部屋の外に出ていたことはなかった.それにもかかわらず,ホテルの部屋の出入り口で行われた12日目の定期検査では,症例患者Cの部屋のドアを閉めた時間と症例患者DおよびEの部屋のドアを開けた時間の間には50秒あったことが映像で確認された.したがって,我々は,この事例では浮遊しているエアロゾル粒子(suspended aerosol particles)が感染経路である可能性があり,ホテルの廊下の密閉された換気のない空間によって,この事象がおそらく促進された(4)と考えた換気システムを調査したところ,問題の部屋は廊下に比べて”陽圧”になっていた.廊下に設置された共同ゴミ箱の使用によるfometesを介した感染伝播は,症例患者Dがゴミ箱の蓋に触れたのが,症例患者Cが触ってから20時間を超えて経過していたことから,感染経路としては可能性が低いと考えられた.

Domestic In-Flight and Household Transmission:

症例患者A(回復したと考えられた),DEGは,14日間のMIQ終了後,クライストチャーチからオークランドまでの85分間の政府チャーター国内線(ボーイング737型機)に搭乗した.乗客は全員マスクを着用することが義務付けられており,搭乗率は約50%であった.症例患者Gは,症例患者DEの真正面に座り,症例患者Aは離れた位置に座った(Figure 1.オークランド空港に到着すると,症例患者DEには症例患者Fと呼ばれる家庭内接触者が,症例患者Gには家庭内接触者(症例患者HIが出迎えた.これらの家庭内接触者は,最近ニュージーランド国外への渡航歴がなかったため,MIQに滞在していなかった.しかし,その後に,両接触者はSARS-CoV-2の陽性反応を示した(Figure 1

Genome Sequencing of SARS-CoV-2:

Figure 2: 20209月にニュージーランドで発生した9人の患者のSARS-CoV-2ゲノムの関係を示す系統樹.変異の数と,最も近い祖先のB.1.36.17系統(黒)の中にあるF.1クラスター(赤)を示している.スケールバーは各部位のヌクレオチド置換を示す.

Phylogenetic trees showing genomic relationship of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 genomes generated for 9 case-patients, New Zealand, September 2020. Shown are number of mutations, as well as the F.1 cluster (red) within the context of the closest ancestral B.1.36.17 lineage (black). Scale bar indicates nucleotide substitutions per site. MIQ, managed isolation and quarantine.

症例患者A-Iから採取したSARS-CoV-2陽性9サンプルのゲノムを,報告されているシークエンスプロトコル(5-7)に従って作成した

(https://github.com/ESR-NZ/NZ_SARS-CoV-2_genomics).これらのゲノムは,PANGO(8)のゲノム系統B.1.36.17に分類された(現在は祖先).このゲノム命名法の動的性質のため,ニュージーランドのこのクラスターは,現在では絶滅した系統F.1に分類されている(Figure 2).

我々は,これらのデータを,ニュージーランドでシーケンスされたウイルスゲノムと,20212月時点でGISAIDhttps://www.gisaid.org)で公開されているグローバルデータセットのB.1.36.17ゲノムと比較した(n= 1,994(9).ニュージーランドからの9個のSARS-CoV-2配列と、全世界の集団から一様にランダムサンプリングされた500個のB.1.36.17ゲノム(Appendix)を,MAFFTバージョン7FFT-NS-2アルゴリズムを用いてアラインメントした(10).シークエンスエラーの可能性があると判定された曖昧な部位はマスクした.IQ-TREEバージョン1.6.8(11)Hasegawa-Kishino-Yano(12)ヌクレオチド置換モデルを用いて,サイト間のレート変動をガンマ分布させて最尤系統樹を作成した.ModelFinder(13)を用いて,最も適合性の高いモデルを決定した.また,超高速ブートストラップ法(14)を用いて,ブランチサポートを評価した.

その結果,9人の患者全員から分離されたウイルスの間にゲノム上のリンクがあり,最大ゲノム距離は4つの一塩基多型であった(Figure 2このクラスターを世界的な状況の中に置くと,ニュージーランドにウイルスが1回だけ持ち込まれたという高い信頼性(1000回の繰り返しで100%のブートストラップノードサポート)が得られる(Figure 2SARS-CoV-2陽性で,インドから同じ便で到着した他の5人の患者のうち,1人はウイルスゲノムが異なる(F.1ではない)PANGO系統に属するという理由で、クラスターから決定的に除外された(Appendix).4つのサンプルは、ゲノムシーケンスに十分なRNAを含んでいなかった.

 

 

References

1) Jefferies  S, French  N, Gilkison  C, Graham  G, Hope  V, Marshall  J, et al. COVID-19 in New Zealand and the impact of the national response: a descriptive epidemiological study. Lancet Public Health. 2020;5:e612–23.

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