新型コロナウイルス感染症まとめver32021331日)

COVID-19の最初の12ヶ月間: 免疫学的洞察のタイムライン】

Carvalho, T., Krammer, F. & Iwasaki, A. The first 12 months of COVID-19: a timeline of immunological insights. Nat Rev Immunol (2021).

https://doi.org/10.1038/s41577-021-00522-1.

Introduction:

査読前のプレプリント論文へのアクセスが向上し,メディアからも取り上げられるようになったため,パンデミック初年度の主な発見の年表(Figure 1)における研究の年表には,公式発表日ではなく,プレプリントの日付がある場合はそれを使用することにした.扱ったトピックに関して年表の一貫性を保つために,特定のトピックに関する研究を紹介する際には,後から出てきた他の関連研究の議論も含めている.そのため,すべての文章が,研究が投稿または発表された時期に関して厳密な年代順に従っているわけではない.以下にはCOVID-19免疫学についてこれまでに学んだことのハイライトを,個人的な視点からある程度まとめた.

 

 

Figure 1: In the case of data that were posted as preprints before peer-reviewed publication, the timeline follows the date of the preprint but the reference list details the peer-reviewed journal publication. ACE2, angiotensin-converting enzyme 2; COVID-19, coronavirus disease 2019; SARS-CoV-2, severe acute respiratory syndrome coronavirus 2.

Fig. 1

January-February 2020:

Identification of SARS-CoV-2:

2019年の最後の日に,WHO中国事務所(WHO Country Office in China)に,湖北省武漢市で原因不明の新型ウイルス性肺炎症例のクラスターが発生したことが報告された.それから2週間も経たない2020110日,これらの症例の原因と考えられる新型コロナウイルスの最初のドラフトゲノムがブログ記事を介して公開され,その後GenBankに公開された(Accession number MN988668).この新型コロナウイルスは,現在までに報告されている中でコウモリウイルスRaTG13が最も近縁のウイルスであることが判明しており,コウモリに由来すると考えられている1)このウイルスは,後に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2SARS-CoV-2: severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)と呼ばれ,今世紀に入ってからヒトにアウトブレイクを起こした3番目のベータコロナウイルスである(Box 12002年〜2003年にかけて29ヶ国で発生したSARS-CoVのアウトブレイクは,全世界で9,000人未満の患者と約800人の死亡者によって収束した.2012年にサウジアラビアで初めて報告された中東呼吸器症候群(MERS: Middle East respiratory syndrome)のアウトブレイクは,人獣共通感染症由来の別のコロナウイルス(MERS-CoV)によって引き起こされた.この地域では,MERS感染者が引き続き報告されているが,その数は合計で3,000人に満たない状況である.

Box 1: Human coronavirus OC43 and the ‘Russian flu’ pandemic.

1889年と1890年に”ロシアかぜ”と呼ばれる呼吸器疾患のパンデミックが発生し,世界で約100万人の死者を出した.このパンデミックの原因は,A型インフルエンザウイルスであると推測されている.しかし,2005年に行われた研究では,ヒトベータコロナウイルスであるOC43が,”ロシアかぜ”が発生した時期に,近縁であるウシコロナウイルス(bovine coronavirus)から分岐したことが明らかになった159)このことから,”かぜ”の原因となり今でもヒトに循環している,OC43がこのパンデミックの原因となったことは十分に考えられる.興味深いことに,少なくとも1つのケースでは,ウシコロナウイルスがヒトに感染する可能性があることが示されている160).ヒトにおいて流行している他の3つのコロナウイルス,すなわちNL63229E(いずれもアルファコロナウイルス),HKU1(ベータコロナウイルス)も人獣共通感染症由来であると推測されている161)NL63および229Eに類似したウイルスがコウモリから発見されており162)163)164)HKU1に関連したウイルスがラットから発見されている165).このことから,SARS-CoV-2は,パンデミックを引き起こした最初のコロナウイルスではなく,アウトブレイクの頻度(2003年のSARS-CoV2012年以降のMERS-CoV)を考えると,最後のものではない可能性が高いことが示唆される.重要なのは,循環しているヒトコロナウイルスとその起源を研究することで,ヒト集団におけるSARS-CoV-2の未来とともに他のコロナウイルスによる将来起こりうるパンデミックについてより良い情報を得ることができることである

 

Identification of the viral entry receptor ACE2:

初期の重要な発見は,SARS-CoV-2アンジオテンシン変換酵素2ACE2を宿主細胞に侵入するための受容体として利用していることが判明したことであった.武漢ウイルス研究所のZhou1)は,20202月上旬、in vitroにおいてSARS-CoV-2が細胞に感染する能力は,以前からSARS-CoVの受容体であることが明らかになっていた細胞表面分子であるACE2の発現に依存していることを示した(ref.2)SARS-CoVACE2の相互作用は,SARS-CoVスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD: receptor-binding domainを介して行われることが知られていた.McLellan研究室では,すぐにこの相互作用の構造解析を行い,SARS-CoV-2RBDとヒトACE2の間の分子相互作用を明らかにした(ref.4)現在では,SARS-CoV-2感染によって誘発される多くの中和抗体がRBDに結合し,宿主細胞上のACE2との相互作用を阻害することで,ウイルスを効果的に中和することがわかっているACE2は宿主への感染を決定する因子でもあり,20203月には,ネコやフェレットなどのいくつかのペットや特定の実験動物においても,SARS-CoV-2複製が頻繁に行われることが明らかになった5)6)

Early descriptions of COVID-19:

武漢でCOVID-192020211日にWHOが発表した新しい疾患の名称)患者41人の最初の報告では,発症時の最も一般的な症状として,発熱,咳,筋肉痛,倦怠感が挙げられている7).すべての患者が肺炎を発症し,13人が集中治療室(ICU)での治療を必要とし,報告された2020124日までに6人が死亡した(ref.7).また,Huang7)は,患者41人のうち26人にリンパ球減少を認め,ICUに入院した患者はサイトカインおよびケモカイン,具体的にはIL-2IL-7IL-10,顆粒球コロニー刺激因子(GCSF; CSF3とも呼ばれる),CC-ケモカインリガンド2CCL2; MCP1とも呼ばれる)、腫瘍壊死因子(TNF: tumour necrosis factor)の血漿レベルが上昇していた.同日(2020124日),Zhuらは武漢で患者3人(うち1人は死亡)の気管支肺胞洗浄液(BALF)から新型コロナウイルスが分離されたことを報告した8)

Huang7)は,ヒト-ヒト感染伝播の可能性について懸念を示していたが,Chan9)による中国・深圳の家族クラスターの研究では,武漢から戻ったばかりの5人の感染者が,感染拡大地域に行っていない6人目の家族を感染させた可能性が高いことが示された.また,最初に発症した患者(ドイツ人ビジネスマン)が,中国・上海出身のビジネスパートナーと面会した事例では,COVID-19のもう一つの特徴である,前症候性感染(presymptomaticの可能性が示された10).武漢における確定症例425人の疫学分析によると,平均潜伏期間は5日強と推定された5).著者らは,201912月中旬以降,SARS-CoV-2のヒト-ヒト感染伝播が発生していると推定した(ref.11)最後に,これらの初期事例から得られた疫学的証拠により,COVID-19は,心血管・脳血管疾患,内分泌疾患,消化器疾患,呼吸器疾患,悪性腫瘍,神経疾患などの慢性疾患を併存疾患として持っている高齢男性が罹患しやすいことが示された12)2020130日,WHOSARS-CoV-2アウトブレイクを,”国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(a Public Health Emergency of International Concern)”と宣言した.

それゆえ,最初の報告から2ヶ月経たない20202月までに,この新しい疾患はCOVID-19と命名され,これまでのコロナウイルスのアウトブレイクとは異なる3つの重要な特徴が確立された: @効率的なヒト-ヒト感染伝播; A症状が出る前に,あるいは症状がなくても,ヒトがウイルスを感染させる可能性が高い; BSARS-CoV(平均潜伏期間4.0日)14)MERS-CoV(潜伏期間の範囲は4.55.2日)15)より長い平均5.7日という潜伏期間,である13)20202月末までに,COVID-19はすでに全世界で83,652人の患者を登録しており16),これは2002年〜2003年にかけて発生したSARSの全世界での患者数の約10倍である.

March 2020:

2020311日,WHOCOVID-19パンデミックを宣言した

Antibodies to SARS-CoV-2:

初期の想定では,ほとんどの急性呼吸器ウイルス感染と同様に,SARS-CoV-2に感染すると中和抗体反応が誘導されると考えられていた.SARS-CoV-2に対する抗体反応を示す最初のデータは,20202月初旬に発表されたZhou1)による重要な論文に含まれており,患者由来のウイルス分離株を特徴づけていた.その直後の20203月には,回復期血漿でウイルスが中和されることを一部示唆する追加データが発表された(refs.17, 18, 19, 20, 21).これらの結果は,20203月に,SARS-CoV-2感染者に由来するRBD特異的モノクローナル抗体が分離されたことでも確認された(ref.22).これらの抗体反応をよりよく特徴づけるための試薬やプロトコルが急速に作成され,世界的に共有された23).さらに,SARS-CoV-2に特異的な抗体の商業的な検査が可能になり始め19)24)-27),ウイルスの広がりや感染致死率を調べるための血清学的調査が行われるようになった.残念なことに,米国では当初,世界の多くの国で同様に市販検査薬が広く使用されていたのと同様に28),市販検査薬の販売を許可するためのFDAガイドラインが非常に緩く,性能の低い検査薬が氾濫し,血清学的調査による伝播率の推定に混乱が生じた.

Transcriptional profiling of patients with COVID-19:

20203月には,COVID-19の病態に関する重要な知見も得られた.Blanco-Melo29)は,SARS-CoV-2に対する転写反応を,cell line,フェレット,患者サンプルを用いて比較した.そして,他の呼吸器ウイルスと比較すると,SARS-CoV-2に対する宿主の免疫応答は,それと同時に高レベルのケモカインと炎症性サイトカインを誘導し,強固なI型およびIII型インターフェロン応答を立ち上げることができないことを発見した29)著者らは,このインターフェロン応答の欠如が持続的なウイルス複製を可能にし,重篤なSARS-CoV-2感染症につながると予測した.その後この予測は,動物モデルやヒトサンプルを用いた複数の研究によって確認された(July 2020, SeptemberOctober 2020を参照).

 

Early vaccine development:

SARS-CoV-2スパイクタンパク質,特にRBDは,中和抗体反応を誘導する能力があるため,ワクチン開発の主要なターゲットとなっている30)SARS-CoV-2のゲノム配列が明らかになってから2ヶ月以上が経過し,ようやく米国国立衛生研究所(NIH)のワクチン研究センターと米国の製薬・バイオテクノロジー企業であるModerna社によって設計されたスパイクタンパク質を標的とするワクチン(この場合はmRNAワクチン)の最初の臨床試験が2020316日にシアトルで開始された(ref.31)

April 2020:

Neurological symptoms associated with COVID-19:

肺以外にもCOVID-19の症状や合併症が起こることがわかってきて,20204月には神経症状の報告が相次いだ.20203月下旬,イタリア・ミラノの医師は,COVID-19入院患者59人のうち20人が味覚消失および嗅覚消失を認めたと報告した32)2020422日に発表された北イタリアからの患者202人の研究では,軽症COVID-19外来患者の64%が味覚消失および嗅覚消失を認めたことがわかった33).その後の研究では,スマートフォンアプリによる追跡調査では,SARS-CoV-2陰性者は22%であったのに対し,SARS-CoV-2陽性者の65%が味覚消失および嗅覚消失を認めていた34).武漢で行われたCOVID-19患者214人を対象としたレトロスペクティブ研究では,78人(36.4%)に神経学的合併症が見られ,重症の場合は急性脳血管障害,意識障害、骨格筋傷害が最も頻度の高い合併症であることが示された35).また,ARDSを発症したCOVID-19患者は,せん妄や脳症の合併率が高いとされている36)これらの神経症状の正確なメカニズムは不明だが,SARS-CoV-2による中枢神経系への感染と炎症が関与していると考えられる37)

Immunopathology of COVID-19 and immunomodulatory therapy:

免疫システムは,宿主の防御だけでなく,重症COVID-19の病態では,血球貪食性リンパ組織球症(HLH: haemophagocytic lymphohistiocytosis)やサイトカイン放出症候群(CRS: cytokine release syndrome)といった全身性の炎症症候群と類似していることが強調された38)39)IL-6HLHCRSの両方の病態に中心的な役割を果たしており,20204月初旬までにいくつかの研究で,COVID-19患者におけるIL-6レベルと有害な転帰との間に相関関係が示された(ref.40).また,Chen38)は,重症患者は中等症患者よりもIL-6濃度が有意に高いことを示した.

このようなCOVID-19HLHおよびCRSの類似性から,IL-6経路は,主に腫瘍学におけるキメラ抗原受容体T細胞誘発性CRSchimeric antigen receptor T cell-induced CRS)の治療におけるIL-6受容体を標的とするモノクローナル抗体(トシリズマブなど)の成功に基づいて,COVID-19におけるコンパッショネート治療介入と臨床試験のターゲットとなった41).しかし,20204月末には,Sanofi 社と Regeneron社は,重症COVID-19患者を対象としたIL-6受容体を標的とするモノクローナル抗体であるサリルマブの第II/III相試験を,致死的患者に対する高用量の治験に注力することを発表しつつ,中止した(ref.42)COVID-19患者におけるトシリズマブの有益な効果については,複数のコンパッショネートユース,観察研究,レトロスペクティブ研究で報告されているが,無作為化比較試験では生存率に対する大きな効果は示されていない43)しかし,最近行われた2つの臨床試験(20211月に報告)では,より良好な結果が報告されていることに留意する必要があるCOVID-19関連肺炎で入院し,まだ人工呼吸を行っていない患者389人を対象とした1つの研究では,機械式換気への移行または死亡の割合が,プラセボ群では19.3%であっが,トシリズマブ群では12.0%であった44).集中治療を受けているCOVID-19患者を対象とした2つ目の研究では,プラセボ群397人の死亡率が35.8%であったのに対し,トシリズマブ群350人では28%,サリルマブ群45人では22%であった45)これらの新しいデータに基づき,英国の医薬品・ヘルスケア製品規制庁(MHRA: the Medicines & Healthcare products Regulatory Agency)は202118日,COVID-19肺炎でICUに入院した患者の治療に,トシリズマブまたはサリルマブのいずれかを投与することを検討するよう組織に促す勧告を発表した46)

May-June 2020:

Multisystem inflammatory syndrome in children:

20205月まで,SARS-CoV-2に感染した子どもたちは,軽症また無症状であると考えられていた.しかし,SARS-CoV-2感染から回復した子どもたちの一部が,初感染から回復して46週間後に重症川崎病様の症状を呈する(当時はそのように言われた)という報告が,英国47)48),イタリア49),スペイン50),米国51)から相次いだ.川崎病は,中型動脈の血管炎で,5歳未満の小児に多く発症する.急性ウイルス感染によって誘発される自己反応性抗体が,炎症や血管傷害を引き起こす可能性を示唆する証拠もあるが,何十年にもわたる研究にもかかわらず,川崎病の原因は不明である52)しかし,小児におけるCOVID-19後の炎症亢進反応は,より高い年齢層(乳児から10代まで)に影響を及ぼし,腸管心筋などにより広範囲な症状を呈するという川崎病とは明確に異なる症状がある53).この疾患は,2020年に何度か名称が変更され,現在はMultisystem inflammatory syndrome in childrenMIS-Cと呼ばれている.MIS-Cと急性COVID-19や川崎病との比較(20208月にプレプリントで初投稿された)では,重要な違いが指摘されている.IL-17Aとそれに伴うシグナル伝達経路は川崎病を引き起こすが,MIS-Cは引き起こさない53).対照的に,MIS-C患者は,MAP2K2およびカゼインキナーゼファミリー(casein kinase family)の3つのメンバー(CSNK1A1, CSNK2A1, CSNK1E1)に対する明確な自己抗体を発現する53).さらに,20207月にプレプリントされた別の研究では,La(全身性エリテマトーデスやシェーグレン病の自己抗原)とJo-1(特発性炎症性ミオパチーの自己抗原)に対する抗体がMIS-C患者54)にみられ,この症候群の自己免疫的な性質を示唆している.また,MIS-C患者では,循環しているIgG+形質芽細胞が増加しており,ヒト心臓微小血管内皮細胞に結合できるIgGレベルが増加していることが示された55)

 

COVID-19 causes vascular damage in the lung:

20205月に初めて発表された剖検結果によると,重症のCOVID-19患者の呼吸器管には血管傷害の証拠があるとされている(ref.56).さらに,その後の研究で,BALF中の細胞によるブラジキニン(炎症性血管拡張物質)をコードする遺伝子の発現が増加していることが明らかになった.また,血圧,体液・電解質バランス,全身の血管抵抗を調節するレニン・アンジオテンシン系において,ACEの発現の減少,およびACE2,レニン,アンジオテンシン,キノーゲン,ブラジキニン受容体の発現が増加といった致命的なバランスの崩れが認められた57).また,COVID-19患者の剖検サンプルの微小血管内には,好中球浸潤と好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps)が認められた.好中球細胞外トラップの血管内凝集によって,影響を受けた血管が急速に閉塞し,微小循環が障害され,臓器傷害が生じる58)

Phase I clinical trial results for COVID-19 vaccines:

20205月,中国のワクチン企業であるCanSino Biologics社は,SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質59)を発現するアデノウイルス5型(Ad5)ベクターCOVID-19ワクチンの最初の臨床試験結果を報告した.このワクチンは安全性が高く,重篤な副反応は報告されず,ほとんどの被験者に特異的な抗体およびT細胞応答が誘導されることが示された.ただし,注意点として,Ad5に対する既存の免疫(抗ベクター免疫)の頻度が高く,これはin vitroでのT細胞応答の低下と相関していた59).また,20205月には,Moderna社が,自社のRNAベースのワクチンであるmRNA-1273が,安全性と免疫原性を兼ね備えていることをプレスリリースで発表した60).また,同月初めには,Pfizer社とBioNTech社が,4つのRNAベースのCOVID-19ワクチンのヒト第I/II相試験を開始することをプレスリリースで発表した61)重要なのは,この時点で,サイトメガロウイルス,HIV-1,狂犬病,ジカウイルス,インフルエンザウイルスなど,感染症に対するいくつかのmRNAベースのワクチンが第I/II相試験に進んでいたことである.発表された結果はほとんどなかったが,これらのワクチンの全体的な安全性プロファイルは,すでに許容範囲内であると考えられていた62)

Correlates of immune protection:

ワクチン研究の解釈は,ヒトにおけるベータコロナウイルス感染症に対する防御の明確な相関関係が欠如しているため,複雑である.20205月,Chandrashekar63)は,SARS-CoV-2の過去の感染によって,最初の感染から35日後に感染させた(challenge)アカゲザルが防御されたことを示した.しかし,9匹のうち4匹では,challeng後に上気道でウイルスRNAが検出された(そのレベルは急速に低下し,わずか2つのBALFサンプルのみでウイルスRNAが非常に一時的に検出されたが)ことから,著者らは完全な殺菌免疫(sterilizing immunity)を観察したわけではない; 防御は強い液性応答と相関していた63)Deng64)は,アカゲザルが一次感染から28日後のSARS-CoV-2の再チャレンジから完全に防御されることを示した.同じく20205月に発表された別の研究では,スパイクタンパクの6つの異なる変異をコードするSARS-CoV-2 DNAワクチンセットをアカゲザルで試験した.動物は筋肉内に接種され(アジュバントなし),3週目にブーストされた.そして6週目にSARS-CoV-2を感染させた(challenge).ワクチンを接種した動物は,鼻腔ぬぐい液とBALFの両方でウイルス量が有意に減少し,血清中和抗体価とウイルス量の間には逆相関が観察された65)

Cross-reactive immunity to SARS-CoV-2:

関心は,SARS-CoV-2に対する既存の免疫があるかどうか,そしてそのような既存の反応が防御免疫をもたらすかどうかに集中した.2020514日,Grifoni66)は,人々の約3050%SARS-CoV-2抗原に対する既存のCD4+T細胞媒介免疫が存在するという重要な研究結果を発表した; 交差反応性CD4+T細胞は,SARS-CoV-2スパイク,nsp14nsp4nsp6タンパク質に特異的であったこの研究と,その後の数ヶ月間に行われた他の研究66)-70)により,未曝露者におけるSARS-CoV-2に対するT細胞応答の大きさは,一般的に曝露者よりも低いことが示された.これらの既存のT細胞は,季節性ヒトコロナウイルス(HCOVs: human coronaviruses)に反応して産生されたものではないかと提案された.これらの研究は,一部のメディアによって,多くの人がSARS-CoV-2に対する免疫をすでに持っており,ひいては集団免疫が存在し,COVID-19から防御できるというメッセージの裏付けとして利用された.科学者たちは,混乱を解消するために、これらの研究結果とその意味を説明し,迅速に対応した71)

20205月にプレプリントとして初掲載されたNgらの研究72)では,英国でのパンデミック前の血清,特に616歳の小児と青年の血清から62%という高い血清有病率でSARS-CoV-2に対する交差反応性抗体が検出された.交差反応性抗体は,スパイクタンパクのS2ドメイン内の保存領域(conserved regions)を標的とし,in vitroで中和活性を持つことが判明した72).しかし,スコットランドにおけるHCOV-OC43HCOV-NL63またはHCOV-229E感染がPCRで確認された症例のパンデミック前の血清を調べた別の研究では,SARS-CoV-2に対する交差中和抗体は見られなかった(ref.73).さらに,米国ペンシルバニア州の小児および成人のパンデミック前の血清を対象とした別の研究では,これらの人々の約23%SARS-CoV-2スパイクおよびヌクレオカプシドタンパク質と交差反応する非中和抗体を持っていた.しかし,これらの抗体は,SARS-CoV-2の感染や入院に対する防御とは関連していなかった74)既存の交差反応性抗体やT細胞が、異なる年齢層や地域で防御効果をもたらすかどうかについては,さらなる研究が必要である

交差反応性獲得免疫に加えて,O'NeillNetea75)は,COVID-19を含む感染症と闘うために自然免疫を”訓練(trained)”できると主張した.結核に対する弱毒生ワクチンであるBCGbacillus Calmette-Guérin)を接種すると,結核だけでなく,関連性のない感染症による小児死亡率も低下する.この非特異的な効果は,自然免疫細胞の代謝およびエピジェネティックな再編成によって,転写が増加し,宿主の防御力が向上することによってもたらされる.現在,BCG接種がSARS-CoV-2感染に対する防御を寄与できるかどうかを検証するために,22件の無作為化臨床試験が行われている.

Dexamethasone effective as COVID-19 therapy:

COVID-19を対象とした無作為化臨床試験(RCTs)では,レムデシビルなどの各種抗ウイルス薬,回復期血漿,そしてトシリズマブ,ヒドロキシクロロキン,高用量ステロイドなどの抗炎症薬が対象となっている.残念ながら,これらの試験のすべてで,疾患重症度,入院期間,死亡率の低下に有意な効果が認められたわけではない.パンデミックの初期に広く使用されたヒドロキシクロロキンは,曝露前予防76),曝露後予防77)78),入院していない軽症患者79),軽症〜中等症患者80)81),中等症〜重症入院患者82)83)RCTにおいて,有意な効果がないことが示された.一方,下気道感染の証拠がある成人COVID-19入院患者を対象に,レムデシビルを静注した二重盲検無作為化プラセボ対照試験では,治療後15日目までの死亡率は,レムデシビルで6.7%,プラセボで11.9%29日目までの死亡率は,レムデシビルで11.4%,プラセボで15.2%であった(ref. 84)ただし,WHOSolidarity Trialでは,レムデシビルで治療を受けた患者の死亡率と入院期間のいずれにも有意な変化が認められなかったことに留意する必要がある85)

治療にとって心強いニュースは,入院患者に対するデキサメタゾンの有効性である.RECOVERY Collaborative Groupの試験では,患者2,104人がデキサメタゾン,患者4,321人が通常の治療に割り付けられた86).治療にとって心強いニュースは,入院患者に対するデキサメタゾンの有効性である.RECOVERY Collaborative Groupの試験では,患者2,104人がデキサメタゾン,患者4,321人が通常の治療に割り付けられた86)デキサメタゾンを最大10日間使用した結果,侵襲的機械式人工呼吸を行っていた患者と酸素吸入を行っていた患者の28日後の死亡率は,通常の治療よりも低下したしかし,呼吸補助を受けていない患者においては,デキサメタゾンが有益であるという証拠はなく,むしろ有害である可能性があることが示されたこれらの結果は,重症COVID-19の原因は免疫亢進(hyperimmune stimulationであり,免疫抑制療法は重症患者にのみ有効であるという考えを支持するものである.さらに,これらの結果は,ステージに応じたCOVID-19疾患への介入という概念を正式に示した87)

Antibody quality, longevity and protection:

20206月,Long88)は,無症候性感染者の40%8週間を超えると非定量的なアッセイで測定した(ほとんどの)抗nucleoprotein抗体価を失ったという報告を発表した.この研究では,中和抗体価はその期間を超えて,安定していることも示されたが,この研究はメディアで大々的に取り上げられ,人々をパニックに陥れた.さらに,少数の再感染例が報告されはじめた89)90).もちろん,これにより,感染は再感染を防ぐことができるのか,もしそうならば,どのようなタイプの免疫応答が防御と相関するのか,また,この反応がウイルス逃避変異によってどれほど容易に克服されるのかという疑問が生じた.20208月に発表されたプレプリントでは,漁船における,高い発病率を認めたSARS-CoV-2アウトブレイクで,SARS-CoV-2に対する中和抗体を持っていたすべての人が再感染から防御されたことが示され,中和抗体がヒトの防御の相関関係を示す最初の証拠となった91).最近の研究では,抗体が実際に再感染からの防御と相関していることが確認されている92)さらに,SARS-CoV-2抗体反応の持続性の問題については,20207月下旬から8月にかけて行われたいくつかの研究で取り上げられ,抗体反応は実際に正常で長期的に持続することが示された93)-99)

SARS-CoV-2のスパイクタンパクに特異的なB細胞を,発症後21日間,ある患者で分析したところ,たとえその患者の血清抗スパイク抗体価が高くても,少数の体細胞変異(somatic mutation)しか認められなかった100).他にもいくつかのグループが,SARS-CoV-2中和抗体の体細胞変異の頻度が低いことを報告している101)-103).このことは,胚中心への抗原のアクセスを制限するために,生殖細胞にコードされた(germline-encodedB細胞受容体配列がスパイクタンパクに対して十分に高い親和性を持っていることを示唆している.

20206月には,抗体治療にも重要な進歩があった.Regeneron Pharmaceuticals社のBaum104)は,開発中の治療用モノクローナル抗体と,これらのモノクローナル抗体が引き起こすウイルス逃避について,非常に詳細な論文を発表した.ほとんどのRNAウイルスでは,1つのモノクローナル抗体からの圧力のもとで,逃避変異株が比較的早く選択され,2つのモノクローナル抗体を使用することで,この問題を回避できることが,よく知られている.このことは,Regeneron社の研究でも確認されており,詳細なescape mutagenesisが示されている104)Regeneron社の研究には,2つの重要な意味があった.第一に,同社のモノクローナル抗体カクテルは,年内(20201121日)にFDAから緊急使用許可を得た.第二に,詳細なescape mutagenesisによって,後に出現することになる,例えば484位の変異(南アフリカ由来の変異株系統B.1.351に存在)やミンクのY453F変異といった自然の変異株を素早く理解することができた.

July 2020:

Immunopathology of COVID-19 better defined:

米国ニューヨーク州でCOVID-19患者1,484人のサイトカインレベルを測定した研究では,入院時に血清IL-6IL-8TNFレベルが高いことが,患者の死亡率の強力かつ独立した予測因子であることがわかった105)COVID-19患者では,非常に異質な(heterogenous)免疫型(immunotypes)が見られた.その中で,T細胞やB細胞の活性化がほとんど見られなかった患者は軽症であった対し,CD4+T細胞やCD8+T細胞の活性化が亢進していた患者は重症であった106).重症疾患は,サイトカインレベルの上昇と,エフェクターメモリーまたは疲弊した(ehausted)表現型を持つCD4+T細胞およびCD8+ T細胞の活性化が特徴であった106)BALF中のsingle-cell RNA-sequencing analysisでは,中等症COVID-19患者では,重症患者に比べてクローン的に拡大した(clonally expandedCD8+T細胞数が多いことが示された107).また,COVID-19患者のサイトカイン解析では,炎症惹起性(pro-inflammatory)サイトカインやケモカイン(CXCL10IL-6IL-10など),インフラマソーム依存性サイトカイン(IL-18IL-1β),インターフェロン(IFNα,IFNγ,IFNλ)が重症患者で増加していることが示された29)80)108)縦断的な分析から死亡率を予測するバイオマーカーのトップは,IL-18IFNαであった109).これらの可溶性因子(soluble factors)に加えて,重症COVID-19では,炎症性単球,形質芽細胞様好中球(plasmablast-like neutrophils110),好酸球109)の数が増加するなど,免疫細胞組成の調節不全(dysregulated immune cell composition)が特徴であった.すべての末梢血細胞型において,これらの顆粒球がCOVID-19患者の死亡率と最も関連していた(ref. 111)

Impact of COVID-19 on germinal centres:

Kaneko112)は,COVID-19死亡患者の胸部リンパ節を調べ,COVID-19に関連しない原因で死亡した患者の胸部リンパ節と比較した.COVID-19患者のリンパ節および脾臓は,対照群と比較してT細胞およびB細胞の総数が3分の1しかなく,胚中心(germinal centres)が欠損していた他の研究では,重症COVID-19患者におけるTFH細胞や胚中心反応の減少は再現されていないが,Kaneko112)は,胚中心の欠損はBCL-6+T follicular helperTFH)細胞の分化障害に起因し,TFH細胞数も大幅に減少していることを報告したWoodruff113)らの報告と同様に,Kaneko112)はまた,COVID-19の死後のリンパ節と脾臓のサンプルで,SLEなどの自己免疫疾患にも見られる濾胞外IgD-CD27-B細胞(extrafollicular IgDCD27 B cells)の増加を報告した.そして著者らは,重症COVID-19患者では,胚中心の欠損がTNFレベルの上昇と関連しているのではないかと推測している.一方,Juno114)は,SARS-CoV-2スパイクタンパクを認識する循環型TFH細胞のレベルは高いが,RBDを認識する循環型TFH細胞のレベルは非常に低いことを報告している.SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコード化した脂質ナノ粒子-RNAワクチンをマウスに投与した研究では,非常に効率的に胚中心を誘導し,抗原特異的TFH細胞を生成したことから,場合によってはワクチン接種が自然免疫よりも優れている可能性が示唆されている115)

August 2020:

Convalescent plasma therapy:

コンパッショネートユースとしての最初の薬の1つであった回復期血漿(Convalescent plasmaは,2020823日にFDAから緊急使用許可を受けた.20203月,Shen116)によって,ARDSを伴うCOVID-19患者5人が回復者血漿を投与され,3人の退院も含め,臨床的改善を示したことが報告された.しかし,重症または致死的COVID-19患者103人を対象とした回復期血漿の非盲検RCTは,20206月に報告されたように、有意な効果を示すことができなかった(ref. 117).さらに,インドで行われた中等症COVID-19患者464人を対象とした回復期血漿の多施設共同非盲検試験では,標準治療と比較して臨床的改善や28日死亡率の面で有益性を示すことができなかった118).しかし,この研究にはいくつかの限界があり,最も大きかったのは,ドナー血漿中の抗SARS-CoV-2抗体価を測定していないことだった118)20209月,米国ニューヨークのMount Sinai Hospitalで行われた重症または致死的COVID-19患者39人のレトロスペクティブ研究では,ドナー血清をスクリーニングして抗SARS-CoV-2スパイクIgG抗体価が1:320以上であれば,回復期血漿治療の効果があることが示された(ref. 119)これに関連して,軽症COVID-19症状の発症後72時間以内に,抗力価のSARS-CoV-2 IgGをもつ回復期血漿を高齢者に投与したRCTでは,重症呼吸器疾患を減少させることが示された120)

COVID-19に対するほとんどの治療法の有効性は,病期によって大きく異なることが示されている.疾患ステージに加えて,回復期血漿療法は,ドナー血清の抗体価が多様であること,中和抗体価の測定方法が標準化されていないこと,血漿の採取と輸血の両方に煩わしい要件があることなどにより,さらに複雑なものとなっている.2021115日、英国で実施されたRECOVERY試験では、無作為化した患者10,406人のうち死亡が報告された1,873人の暫定データに基づき,COVID-19入院患者の回復期血漿療法の募集を終了した(結果として,回復期血漿療法では,主要評価項目である28日死亡率に関して有意な差が認められなかった121)

September–October 2020:

Autoantibodies in adults with COVID-19:

MIS-Cの子供たちに加えて,COVID-19成人患者でも自己反応性抗体(autoreactive antibodiesが観察されている.例えば,抗核抗体や抗リウマチ因子抗体122),アネキシンA2annexin A2)に対する抗体など,リウマチ性疾患に見られる自己抗体レベルが上昇していることが示された(ref. 123).重篤COVID-19患者の循環B細胞(circulationg B cells)は,以前にSLEなどの自己免疫疾患の患者で確認された濾胞外B細胞(extrafollicular B cells)と表現型が似ている.興味深いことに,COVID-19患者の濾胞外B細胞の頻度は,炎症性バイオマーカー(CRPなど)や臓器障害と同様に,高い力価の中和抗体の早期産生と相関していた113)202012月,Wang124)は,Rapid Extracellular Antigen ProfilingREAP)という新しいツールを用いて,重症COVID-19患者において,抗体が標的とする幅広い自己抗原を特定した.これらには,中枢神経系,血管系,結合組織,心臓組織,肝組織,腸管に発現し,抗体を介する臓器障害を引き起こす可能性がある組織特異的な抗原に対する抗体と同様に,抗ウイルス免疫の性質に直接影響を与える可能性のあるサイトカイン,インターフェロン,ケモカイン,白血球に対する抗体が含まれている124)実際,COVID-19の長期的な症状を持つ人(long COVID)では,感染から数ヶ月後に自己抗体が見つかっている125).現在のところ,これらの自己抗体がどのくらいの期間持続するのか,自己免疫疾患につながるのか,あるいは自己抗体がlong COVIDの病因となるのかは不明である.

Importance of type I interferon in COVID-19:

我々は,夏の数カ月間に重症COVID-19の免疫病態について学んでいたが,疾患から防御する自然免疫応答については不明のままだった.特に,ウイルス複製と疾患制御における主要な自然ウイルスセンサー(innate viral sensors)と抗ウイルスサイトカイン(I型およびIII型インターフェロン)の役割は不明であった.2020924日に発表されたCasanovaらによる2つの研究では,I型インターフェロン誘導とシグナル伝達が,致死的なCOVID-19の予防に重要な役割を果たしていることが明確に示された彼らは、インターフェロンの誘導およびシグナル伝達における先天的な変異126),またはI型インターフェロンに対する中和抗体127)のいずれかが,患者を,生命を脅かすCOVID-19に傾けることを発見した

Zhang126)は,重症COVID-19患者659人のうち23人(3.5%)において,8つの遺伝子座(8 loci)に,I型インターフェロンの産生やそれに対する反応ができなくなるような有害な変異があることを発見した.一方,無症候性または軽症COVID-19患者534人のうち,これらの遺伝子座の1つ(IRF7)に機能喪失性ヘテロ接合変異(heterozygous loss-of-function mutation)を持つのは1人のみであった.TLR7の機能喪失変異を持つ4人の若い男性患者で重症COVID-19感染症が認められたという報告128)と合わせて、これら2つの研究は,自然センサー(innate)またはその下流のインターフェロンシグナル伝達経路の先天的なエラーが重症COVID-19と関連していることを示しているBastard127)は,重症COVID-19患者987人のうち135人(13.7%)にIFNα,IFNω,またはその両方に対する抗体があることを見出し,この知見は後に別の研究124)でも確認された.注目すべきは、患者の94%が男性であったことである.これらの自己抗体は,in vitroでインターフェロン中和活性を持っていた.対照的に,無症候性または軽症COVID-19患者663人では0人,健康ドナー1,227人ではわずか4人(0.3%)しか,I型インターフェロンに対する自己抗体を持っていなかった.これらの研究を総合すると,COVID-19におけるI型インターフェロンの欠如は壊滅的な結果をもたらすことを示している

これらの結果から,COVID-19におけるI型およびIII型インターフェロンは防御的な役割あるいは病原的な役割を示すという他の報告とどのように整合性がとれるのだろうか(Figure 2).インターフェロンはSARS-CoV-2の複製を強力に阻止するが,SARS-CoV-2は内因性インターフェロンの誘導やインターフェロン受容体のシグナル伝達を阻止する回避機構を備えている129)130)このような初期のインターフェロン応答の低下は,宿主の免疫反応のバランスを崩し,ウイルスを排除できなくなる29).多くの報告では,最終的には,このことによって重症COVID-19ではインターフェロンおよびインターフェロン刺激遺伝子が長期的に高レベルで保たれることが観察されている109)131)132)133)が,観察されていない他の報告もある134).さらに,IFNαの増加は,死亡率を示すバイオマーカーでもある109)これらの結果から,遅延し,そして長期にわたるI型およびIII型インターフェロン応答がCOVID-19の病態に関与していることが示唆される

対照的に,COVID-19を制御するためには,初期のインターフェロン応答が強固であることが不可欠であると考えられる.例えば,英国で実施された二重盲検プラセボ対照試験では,人工呼吸器を装着していないCOVID-19入院患者を対象に,吸入IFNβ1a11回,最大14日間)が評価された.プラセボを投与された患者50人と比較して,吸入IFNβ1aを投与された患者51人は,SARS-CoV-2感染症からの改善オッズが高く,回復も早かった135).これと一致するように,参加者127人を抗ウイルス薬併用療法(IFNβ1a1日おきに7日間皮下注射し,これにロピナビル・リトナビルを併用)またはロピナビル・リトナビル単独療法のいずれかに無作為に割り付けた非盲検第2RCTでは,併用療法群の方が,より迅速に臨床症状が改善し,ウイルス制御までの時間も早かった136)WHO Solidarity Trialの中間報告,すなわち入院中のあらゆる病期の患者をIFNβ1aの皮下投与または他の抗ウイルス薬に無作為に割り付けたオープンラベル試験では,インターフェロン治療が全死亡率,人工呼吸の開始,入院期間にほとんど影響しなかったことが示されており85)インターフェロン治療のタイミングとルートが鍵を握っているようだ.

Figure 2: A hypothetical figure showing how the timing of interferon responses might control innate and adaptive immunity to SARS-CoV-2.

a) SARS-CoV-2感染に対するI型インターフェロン応答が早期にかつ強固である場合,ウイルス量は速やかにコントロールされ,結果として軽症である.その後,正常レベルのT細胞とB細胞の反応が起こる.これは,若年者や少量ウイルス曝露後に起こる可能性がある.b) SARS-CoV-2感染早期にI型インターフェロン応答が遅延あるいは低下すると,ウイルス複製と拡散が起こる.重症COVID-19は,T細胞リンパ球減少を伴う.にもかかわらず,強い抗体反応が誘導される.感染後期に誘導されるI型インターフェロンは,病理学的反応の促進において有害の可能性がある.これは,高齢者や大量ウイルス曝露後に起こる可能性がある.c) 遺伝的または血清学的にI型インターフェロンが欠損している人では,SARS-CoV-2複製が阻止されず,重症から生命を脅かすCOVID-19を引き起こす.T細胞リンパ球減少が観察される.抗体反応の代償的な活性化が起こるが,疾患を制御するには不十分である.d) 組換えI型インターフェロンを用いた早期の曝露後予防(early post-exposure prophylaxis)は,SARS-CoV-2ウイルス量を減らし,回復を早めることができる.しかし,これは抗原量を減少させ,獲得免疫応答の低下につながる.

Fig. 2

 

 

November–December 2020:

Virus variants on the rise:

202011月と12月は,ポジティブあるいはネガティブな話題に関して,多くの動向があった.202011月初旬,デンマークのミンク飼育場でSARS-CoV-2アウトブレイクし,ヒトにも波及していることが報告された137).このウイルスは,スパイクタンパク質RBDに(他の変異に加えて)Y453Fの変異を導入することで,潜在的にミンクに適応したと思われた.デンマークではミンクの大規模な殺処分が行われ,その結果,RBDN439K変異を持つヨーロッパのクラスター5つの変異株を含むウイルス変異株が注目されるようになったのである.他の抗体は影響を受けないため,この2つの変異だけでワクチンの効果が損なわれるとは考えにくいが,Y453FN439Kはともに,いくつかのSARS-CoV-2特異的モノクローナル抗体による中和に影響を与えることが示されている104)

202012月には,variants of concernVOCとして変異株が追加された: 例えば,英国由来の変異株(B.1.1.7は,他の変異株よりも感染性が強いようで,英国やその他の地域で急速に広がっているこの変異株は,RBDN501Yやオープンリーディングフレーム8ORF8: open reading frame 8)の切断といった複数の変異を有している138).伝達性の上昇は非常に気になるところであるが,これまでの証拠から,現在のワクチンはB.1.1.7に対してかなりの防御レベルを維持していることがわかっている他のVOCとして,特に南アフリカ由来の変異体B.1.351は,RBD501位にも変異があり(他に417位と484位にも変異がある),特定のワクチンの中和能力と有効性を低下させることが示されている139)140).したがって,中和エピトープ数や,親和性の高い成熟した抗体クロノタイプがウイルス変異株に対応できることが示され141),疾患に対する防御には低い抗体価しか必要とされない可能性が高い142)-144)という事実にもかかわらず,いくつかのVOCは,ワクチン候補の感染および疾患抑制効果を低下させる可能性がある.これは,抗体逃避のための中和エピトープを大きく変化させるアミノ酸の顕著な変化(例えば,E484K)の結果であると考えられ,主にRBD周辺やスパイクタンパク質のN末端ドメインに集中している101)-103)147)148)

Phase III COVID-19 vaccine trial triumph:

202011月には,ワクチンに関する重要なアップデートもあった.まず,2020119日にPfizer社とBioNTech社が,mRNAワクチン候補のBNT162b2について90%を超える有効性の中間報告を行った(ref.149).続いて,20201116日には,Moderna社から,mRNAワクチン候補であるmRNA-1273の有効性が94.5%であるとの発表があった(ref.150).さらに20201210日,Pfizer社はBNT162b2について,ワクチン全体の有効性が95%6585歳の高リスク群での有効性が94%と,すべての主要エンドポイントを満たしたと発表した142)20201130日,Moderna社は,94.1%という最終的な有効性データを発表した143).そして2020128日には,AstraZeneca社によるウイルスベクターを用いたChAdOx1ワクチンの中間結果が発表され,2つのコホートでのワクチン全体の有効性は70.4%であった151)202011月〜12月にかけて,ウイルスベクターワクチンや不活化ワクチン候補のさらなるワクチン有効性データが発表され,有効性は8090%の範囲に収まっている152)-155).これらのワクチンの一部(Sputnik V, CanSino)は,第3相データが利用可能になる前から,ロシアと中国でそれぞれすでに使用されていた156)157).その後,米国ではPfizer社とModerna社のワクチンが緊急時の使用を認可され,英国ではPfizer社,Moderna社,AstraZeneca社のワクチンが使用を認可された.そして,これらのワクチンは202012月と20211月に他のいくつかの国で承認された.20211月下旬には,Novavax社のワクチンの第3相試験結果が英国で行われ,89.3%の有効性を示したと報告され140)Johnson & Johnson Janssen社のシングルショットワクチンでは66%の有効性を示したと報告された139)

3相臨床試験では,安全性に関する重大な問題は検出されなかったが,Pfizer社とModerna社の両ワクチンでは,最初は英国で,その後他の国でも展開される中で,アナフィラキシー反応が観察された.これらの重篤なアレルギー反応は,100万回のワクチン接種につき11件(Pfizer社)(※JAMAの医療従事者における報告では4.7件),2.5件(Moderna社)の割合で発生しているようで(米国疾病管理予防センター調べ),アナフィラキシーの既往歴がある場合に多く見られている.この現象のメカニズムは不明である.

ほとんどのケースで報告されているワクチンの有効性は,有症候性SARS-CoV-2感染の予防に関するもので,無症候性感染には適用されない非ヒト霊長類モデルから得られた結果によると,開発中のワクチンのほとんどは,肺を防御して疾患を防ぐとはいえ,上気道でのウイルス複製は防がない可能性がある158).ワクチンを接種した動物では,ウイルス複製は通常,対照動物に比べて低く,期間も短いが,それでも複製は起こる.Moderna社の第3相試験から得られた限られたデータは,ヒトにおけるこの点に初めて光を当てた.初回のワクチン接種後,ワクチン群ではプラセボ群に比べて無症候性感染症例が少なく,ワクチンが感染に対していくらかの防御を与えることを示唆しているPfizer社とModerna社の研究で明らかになったもう1つの重要な点は,ワクチンが最初の接種から,多くの患者において中和抗体価がまだ低いか,検出されない約10日後から予防効果を発揮し始めることであり142),疾患からの防御において高いレベルの抗体価は必要でないかもしれないことを示唆している

Concluding remarks:

COVID-19パンデミックは,人類に大きな課題をもたらした.公式発表によると,パンデミックが始まってから12か月間で,全世界で1億人近くがCOVID-19に感染し,200万人が死亡しているが,実際の数字はこれよりもはるかに高いと思われる.COVID-19は経済的にも壊滅的な影響を与えている.COVID-19は,黒人やラテン系の集団に大きな影響を与え,医療における根深い人種間の格差が浮き彫りになった.今回のパンデミックからは多くの教訓が得られ,将来のパンデミックに備えることができるだろう.SARS-CoV-2は,パンデミックを引き起こす最後のコロナウイルスではない可能性が高い.そして現在,ヒトにおいて流行しているコロナウイルスが最初にパンデミックを引き起こし,大量の死亡者を出した可能性が高い(Box 1).

COVID-19パンデミックは,人類に大きな課題をもたらした.公式発表によると,パンデミックが始まってから12ヶ月間で,全世界で1億人近くがCOVID-19に感染し,200万人が死亡しているが,実際の数字はこれよりもはるかに高いと思われる.COVID-19は経済的にも壊滅的な影響を与えている.COVID-19は,黒人やラテン系の集団に大きな影響を与え,医療における根深い人種間の格差が浮き彫りになった.今回のパンデミックからは多くの教訓が得られ,将来のパンデミックに備えることができるだろう.SARS-CoV-2は,パンデミックを引き起こす最後のコロナウイルスではない可能性が高い.そして現在,ヒトにおいて流行しているコロナウイルスが最初にパンデミックを引き起こし,大量の死亡者を出した可能性が高い(Box 1).COVID-19は,急性疾患に加えて,long COVIDと呼ばれる長期的な症状を引き起こす.ワクチン接種によってパンデミックが制御された後も,何百万人もの人々が長期的な身体衰弱に苦しむ可能性があり,疾患の基礎となる疾患メカニズム,long COVIDの免疫病態,そして他のウイルス感染後疾患の理解を深めていかなければならない.将来のパンデミックに備えるためには,感染症,免疫,ワクチンの科学的研究に投資することが重要になる.

このような状況の中,科学はかつてないスピードで進められ,ワクチンの開発,試験,承認は11ヶ月で行われた.これらは科学と免疫学にとって歴史的な瞬間である.しかし,女性や社会的地位の低い科学者もパンデミックの影響を大きく受け(Box 2),科学における公平性に関する長年の進歩に時計が逆戻りしてしまった.大規模なワクチン接種によるパンデミックの制御が始まる一方で,世界の若く,そして弱い立場の科学者を支援することで,パンデミックによって生じた格差を解消していかなければならない.

Box 2: The impact of the pandemic on scientific progress and disparity.

今回のパンデミックは,我々の生活に劇的な変化をもたらしただけでなく,科学の進め方にも大きな影響を与えた.それまで基礎科学を研究していた免疫学者やウイルス学者が,医師,看護師,疫学者,生物統計学者,コンピュータ科学者と協力して研究を進めた.このような”チームサイエンス”のアプローチにより,SARS-CoV-2; Figure 1)に対する免疫応答の鍵となる知見が次々に積み重ねられた.一方で,パンデミックの影響を受けたのは,若手研究者,女性,社会的地位の低い科学者であった.彼女/彼らは,育児や高齢者介護など,家庭でより多くの責任を負わなければならなかった.例えば,Elsevier社の全ジャーナルの20202月〜5月までの投稿原稿を,約600万人の研究者のデータが含まれている2018年と2019年の2月〜5月までの投稿原稿と比較した研究では,COVID-19によるロックダウン中,女性の投稿原稿は男性に比べて比例して少ないことがわかった.この格差は,キャリアのより進んだ段階の女性で特に顕著であった166)2020年に発表されたCOVID-19に関する研究論文のうち,女性が筆頭著者である割合は,2019年に同じジャーナルで発表された論文に比べて19%低かった(ref.167).ブラジルで行われた研究では,子供のいない男性の科学者は,予定通りに原稿を投稿できたか,あるいは締め切りを守れたかという点で最も影響を受けなかったのに対し,女性の科学者,特に黒人女性や幼い子供を持つ母親は,パンデミックの影響を最も大きく受けていた168).パンデミックの影響を受けた人たちのキャリアを促進するために積極的に何もしなければ,ジェンダーや特定の人種への不均衡な影響は,過去数十年間の学術界における平等な代表性に向けて進んできた時計の針を逆に進めることになってしまう.

 

References

以下pdfを参照.

s41577-021-00522-1.pdf