COVID-19関連追加(2021414日)

Oxford-AstraZenecaワクチンについてその5(血栓について)

ChAdOx1 nCoVワクチン接種後の血栓について】

Greinacher A, et al. Thrombotic Thrombocytopenia after ChAdOx1 nCov-19 Vaccination. N Engl J Med. Apr 9, 2021.

https://doi.org/10.1056/NEJMoa2104840.

Introduction

SARS-CoV-2に対するワクチンは,Covid-19のパンデミックに対抗するための最も重要な対策である.202012月〜20213月にかけて,欧州医薬品庁は,無作為化盲検比較試験に基づいて4つのワクチンを承認した.SARS-CoV-2に対するワクチンは,Covid-19のパンデミックに対抗するための最も重要な対策である.202012月〜20213月にかけて,欧州医薬品庁は,無作為化盲検比較試験に基づいて4つのワクチンを承認した.脂質ナノ粒子に封入したSARS-CoV-2のスパイクタンパク質抗原をコードする2つのメッセンジャーRNAベースのワクチン”BNT162b2”(Pfizer-BioNTech社)および”mRNA-1273”(Moderna社); SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質をコードする組換えチンパンジーアデノウイルスベクターワクチン”ChAdOx1 nCov-19”(AstraZeneca社)およびSARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質をコードする組換えアデノウイルス26型ベクターワクチン”Ad26. COV2.SJohnson & Johnson/Janssen社)である.202147日時点で,欧州連合(EU)では8,200万回を超えるワクチン接種が行われている; ドイツではワクチン接種者の約4分の1ChAdOx1 nCov-19ワクチンを接種していた1)20212月下旬から,ChAdOx1 nCov-19ワクチン接種後の患者に,血小板減少症を伴う異常な血栓イベントが数例観察された.

Index Case

従来健康であった49歳の医療従事者が,20212月中旬(0日目)にChAdOx1 nCov-19の初回接種を受けた.その後の数日間,軽度の症状(倦怠感,筋肉痛,頭痛)があったと報告された5日目からは,悪寒,発熱,嘔気,心窩部不快感を訴え,10日目に地域病院に入院した

臨床検査結果をTable 1に示す.血小板数は18,000/m3d-ダイマーは35mg/lであった(基準値, < 0.5).その他の血液検査の結果は,γ-グルタミルトランスフェラーゼとCRPレベルが上昇した以外は正常であった.鼻咽頭ぬぐい液のSARS-CoV-2逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は陰性であった.

 

 

Table 1: Laboratory Characteristics of the Index Patient.

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コンピュータ断層撮影(CT)では,門脈血栓症と末梢性肺塞栓症が認められた.患者は血小板製剤(platelet concentrate)を投与され,第三次病院に搬送された.到着時,心窩部不快感と嘔気があったが,その他は良好な状態であった(血圧, 125/88mmHg; 心拍数, 65/; 体温, 36.5℃).身体検査では,触診で中程度の心窩部痛があった以外は,特に問題はなかった.抗菌薬静注,鎮痛薬,低分子ヘパリン(エノキサパリン)4000単位を1回皮下投与した.

翌日,血小板数とフィブリノーゲンレベルは低下したままであり,d-ダイマーとアミノトランスフェラーゼレベルが上昇した.腹痛が悪化したため,CTを再撮影したところ,門脈血栓症が脾静脈,上腸間膜静脈にまで進行しており,さらに,下大動脈と両腸骨動脈にも小さな血栓が認められた.低用量の未分画ヘパリン(500IU/h)の静脈内投与が開始されたが,その後まもなく,突然の頻脈の発生と消化管出血の懸念があったため中止された.乳酸レベルは3.7mmol/lであり,患者は集中治療室に移された.再度CTを撮影したところ,腹水とともに,脾静脈血栓症による腸壁および膵臓の血流低下を伴うびまん性の消化管出血が認められた.赤血球および血小板輸血,プロトロンビン複合体製剤(PCC: prothrombin complex concentrates),リコンビナント第VIIa因子などの投与を受けたが,11日目に死亡した.診断された医学的所見に加えて,剖検では脳静脈血栓症が認められた.

Case Series

2021315日までに,ChAdOx1 nCov-19ワクチン接種後516日目から1つ以上の血栓性合併症を発症した,臨床データが入手できる患者が10人確認された.指標症例を含む患者11人の特徴をTable 2に示す.血栓イベントには,脳静脈血栓症(9人),脾静脈血栓症(3人),肺塞栓症(3人),その他の血栓症(4人)が含まれた; 10人のうち5人に複数の血栓イベントが発生した.この解析には,致命的な脳出血を呈した患者1人(患者11)が含まれている.脳神経病理解析の結果は本報告の時点では保留されており,脳静脈血栓症は否定できない; 死後の血清は血小板活性化抗体の検査に利用可能であった.

Table 2: Clinical and Laboratory Summary of 11 Patients with Available Clinical Information.

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これらの患者は,年齢は中央値36歳(range, 22-49),11人のうち9人が女性であった.すべての患者が血小板減少症を併発していた(血小板数のnadirは中央値約20,000/m3; range, 9000-107,000).患者1人にはvon Willebrand病,抗カルジオリピン抗体,Factor V Leiden(凝固第V因子遺伝子変異)の既往があった.また,症状の発現や血栓症の診断前にヘパリンを投与された患者はいなかった.この疾患が自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症(autoimmune heparin-induced thrombocytopenia)(ヘパリンや他の特定の陰イオンによって誘発され,ヘパリン非依存性血小板活性化を特徴とする血栓惹起性血小板減少症[prothrombotic thrombocytopenic disorder])に臨床的に酷似していることから,患者11人のうち4人から得られた血清は,血小板第4因子(PF4)−ヘパリンに対する血小板活性化抗体の即時調査に回された.患者14から得られた血清中の抗体の特徴を調べた後,残りの患者7人のうち5人から血清を入手した.さらに,当研究所では,ChAdOx1 nCov-19ワクチン接種に関連した血栓惹起性血小板減少症が疑われる患者の血清サンプルをさらに入手した(これらの患者に関する詳細な臨床情報は本報告の時点では得られていない).

 

HIT の発症機序は,免疫反応である.最も重要な抗原として,ヘパリンと PF4 の複合体がある.HIT の抗原となる PF4 は,血小板が刺激されるとその α 顆粒から放出される糖タンパクで,その表面は陽性荷電を示し,血中では分子からなる 4 量体を形成している.PF4 の生理的作用は十分に解明されていないが,その陽性荷電のため,陰性荷電をもつヘパリンと結合し,その抗凝固作用を中和する.血小板が活性化して PF4 が血中に放出されると,血管内皮のヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸と結合しているアンチトロンビンと置換し,内皮の抗血栓作用を妨げる.一部の PF4 は血小板表面と結合している.ここに陰性荷電を持つヘパリンが投与されると,PF4 とヘパリンは電気的に両者の電位が中和するまで結合し,PF4/ヘパリンの複合体を形成し,結合したヘパリンの作用により PF4 の立体構造に変化が起こり,PF4表面に新たな抗原決定基となるアミノ酸配列が露呈する.これが免疫原として,Ig 抗体(HIT抗体)を産生するこの HIT 抗体は,抗原である PF4/ヘパリン複合体と免疫複合体を形成し,その Fc 部分が血小板膜上の Fc 受容体と結合し,血小板の活性化と凝集反応を引き起こし,HIT 特有の血小板減少をもたらす.また,活性化血小板からは,凝固活性を強く示すマイクロパーチクルが産生され,凝固反応が促進する.そして,血管内皮のヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸と結合し抗原性状を獲得した PF4に対して,HIT 抗体が結合することで,血栓形成性に内皮が活性化され組織因子が発現する.最終的には凝固反応が加速されてトロンビンが多量に産生されて,‘トロンビンの嵐’がおこり血栓が発生する.ヘパリン投与を受けてから抗体が産生されるまで,最低でも4日かかるので,通常HITはヘパリン開始後514日の間に発生する.

 

Methods

血小板は,アデニン・クエン酸・ブドウ糖液Aadenine citrate dextrose solution A)による抗凝固を行った健康ボランティアの全血から精製した.ボランティアは,過去10日間の抗血小板薬服用およびワクチン接種はなかった.血小板の調製は,これまでに報告されている方法で行った2)3).実験のサブグループでは,血小板をChAdOx1 nCov-191:2000希釈)と一緒に緩衝液でプレインキュベートし,使用前に洗浄した.洗浄した血小板(75μl)を,FcγIIa受容体阻害抗体IV.3の存在下または非存在下で,緩衝液,低分子ヘパリン(レビパリン[Abbott]),PF4Chromatec)のいずれかとインキュベートした.いくつかの実験では,PF4依存性反応を阻害するために未分画ヘパリン(100IU/ml)を加え,あるいはChAdOx1 nCov-191:50希釈)をウェルごとに加えた.血清は,10mg/ml濃度の免疫グロブリン(Privigen IVIG[CSL Behring])の存在下で,PF4および血小板と同時にインキュベートした.最初の患者4人の血清を用いて測定条件を確立した後,我々の発見を検証するために,免疫測定で陽性となった別の24血清サンプルを調査した.我々は,この改良血小板活性化試験を”PF4-enhanced platelet-activation test”と呼んでいる.

直接的な抗体結合を測定するために,過去に報告されている二次抗ヒトIgGsecondary antihuman IgG4)によって測定された結合抗体と共に,PF4-ヘパリン酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA: enzyme-linked immunosorbent assay)とPF4 ELISA2つの免疫測定法を使用した.さらに,2つの血清サンプル抗体を,固定化(immobilizedPF4-ヘパリンおよび固定化PF4によってアフィニティ精製し,精製抗体をアッセイで検査した.

我々は,ELISAにおける反応性は,光学濃度単位に従って,強(2.00以上),中(1.00-1.99),弱(0.50-0.99)と定義した.PF4を用いた血小板活性化試験では,血小板が凝集するまでの経過時間に応じて反応性が評価された5).反応時間が短いほど血小板活性化が強いことを示した(強い活性化, 15; 中間の活性化, > 515; 弱い活性化, > 1530分).

Results

最初の解析では,11人の患者全員が中等度〜重度の血小板減少症,異常な血栓症(特に脳静脈血栓症, 脾静脈血栓症)を有していた(Table 2).また,d-ダイマーレベルの大幅な上昇(> 10.0mg/l)と,国際標準化比,部分トロンボプラスチン時間,フィブリノーゲンレベル値の1つ以上の異常の組み合わせにより,患者5人に播種性血管内凝固の証拠が認められた.フィブリノーゲンレベルが確認できた6人のうち4人は低フィブリノーゲン血症であった).

異なる管理戦略の結果を評価することは,本研究の目的ではないが,我々は,肺塞栓症と軽度血小板減少(血小板数, 107,000/m3)を呈し,播種性血管内凝固を伴わなかった患者2の臨床経過に注意した.この患者に治療量の低分子ヘパリンを3日間投与したところ,臨床的に改善し,血小板数も132,000/m3まで増加した; この時,PF4-ヘパリンELISAが陽性となったため,アピキサバン経口投与に変更し,臨床的にも検査的にも回復が続いた.

Table 2には,詳細な臨床検査が行われた最初の患者4人を含む,PF4-ヘパリンELISAの結果も示した.これらの患者から得られた血清は,PF4-ヘパリンELISA3.00単位を超える強い反応を示した(基準値, < 0.50; ヘパリン(100IU/ml)の添加により,すべての反応は0.50単位未満に抑制された.Figure 1は,血小板活性化アッセイによって評価した最初の患者4人の血清学的プロファイルを示している.4血清サンプルのうち3サンプルは,緩衝液コントロールで弱〜中程度の反応性を示し,これは低分子ヘパリンで阻害された; 患者2の血清は,他のボランティアの血小板と一緒に再検査したところ,PF4の存在下で強い血小板活性化を示した.すべての反応は,モノクローナル抗体IV.3と免疫グロブリン(10 mg/ml)によって遮断されたことから,血小板活性化は血小板のFcγ受容体を介して行われたことがわかった(Figure 1A).対照群では,血小板活性化は見られなかった(データは示していない).

多血小板血漿(PRP: platelet-rich plasma)から血小板を取り出し,洗浄緩衝液に再懸濁した後,ChAdOx1 nCov-19とプレインキュベート(1:2000)し,遠心分離して最終的な懸濁バッファーに再懸濁した場合,あるいは懸濁緩衝液にChAdOx1 nCov-19と同時にインキュベートした場合(1:50)に,血小板活性化が増強された.モノクローナル抗体IV.3は,試験した7サンプルすべてにおいて,PF4依存性の血小板活性化を遮断した.

Figure 1Bは,スクリーニング用PF4-ヘパリンELISAで陽性となった,臨床的にワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT: vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopeniaが疑われる患者24人から得られた血清サンプルにおける血小板活性化の結果を示している.緩衝液コントロールでは約半数(24サンプルのうち13サンプル)の血清サンプルが血小板活性化を示したのに対し,低分子ヘパリンではほとんどのサンプル(24サンプルのうち19サンプル)が遮断され,PF4の添加ではほぼすべてのサンプル(24サンプルのうち22サンプル)が血小板活性化を示した.1血清サンプルを除くすべてのサンプルが,高用量(high dose)のヘパリンで阻害された.

Figure 1Cは,28人の患者全員(患者1, 2, 3, 4, 5, 8, 9, 10, 11を含む)から得られた血清サンプルの,PF4-ヘパリンとPF4 ELISAの両方の結果において強い反応性を示しており,高用量のヘパリンで阻害された.固定化PF4または固定化PF4-ヘパリンのいずれかを使用してアフィニティ精製された抗体は,元の血清と同じ反応パターンを示した.言い換えれば,それらは,10μg/mlPF4存在下で血小板を強く活性化し,この効果は高濃度(high concentration)のヘパリンによって完全に阻害された.

 

 

Figure 1: Reactivity of Patient Serum on Platelet-Activation Assays and Immunoassays.

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パネルAは,本研究で評価した最初の4人のワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)患者から得られた血清サンプルの血小板活性化アッセイの結果を示している.各実験の4色は,4サンプルで得られた結果を示す; 値は平均値で表し,𝙸バーは標準誤差を示す.血小板活性化アッセイは,示されている他の試薬を含むmicrotiter plate1ウェルあたり75μlの洗浄血小板に,20μlの患者血清を加えることによって行われる.反応性は反応時間で半定量的に表され,反応時間が短いほど血小板活性化レベルが強いことを示す.反応時間が30分を超える場合は,バックグラウンドまたは臨床的に重要でない反応性を示す.アスタリスクは,血小板第4因子(PF4)存在下で他のボランティアの血小板と一緒に再検査したところ,強い陽性反応を示した外れ値の血清の反応性を示している.

パネルBは,VITT患者24人の血清を用いた血小板活性化アッセイの結果である.反応パターンは,最初に調査された4人の患者で観察されたものと類似している.血清は,緩衝液の存在下で変動する血小板活性化を引き起こし,ほとんどのサンプルでは,低分子ヘパリン存在下では阻害されたが,PF4の存在下では強く増強された; 対照的に,高レベルの未分画ヘパリンは,1血清サンプルを除くすべての血清サンプルで反応を阻害した.

パネルCは,PF4依存性の血小板活性化を示したVITT患者(パネルAおよびBに代表される28サンプルすべてを含む)から得られた血清のPF4-ヘパリンおよびPF4イムノアッセイの結果を示している.450nmのフィルターを備えたmicroplate readerを用いて得られた結果には,28回のPF4-ヘパリン酵素結合免疫吸着法(ELISA)実験(19回の実験ではヘパリンを100IU/ml添加)と10回のPF4 ELISA実験の結果がすべて含まれている.陰性結果のカットオフ値は0.50光学濃度単位.LMWHは低分子ヘパリン,UFHは未分画ヘパリン,IVIGは静注用免疫グロブリンを示す.

 

Discussion

ChAdOx1 nCov-19ワクチンを接種し,約12週間後に中等度〜重度の血小板減少症と血栓性合併症を発症した臨床像は,カチオン(陽イオン)性PF4とアニオン(陰イオン)性ヘパリンとの多分子複合体を認識する血小板活性化抗体によって引き起こされる有名な血栓性疾患である重症ヘパリン起因性血小板減少症(HIT: heparin-induced thrombocytopenia6)に臨床的に類似した疾患であることを示唆しているしかし,通常のHITの発生状況と異なり,これらのワクチン接種を受けた患者は,その後の血栓症と血小板減少症の発生を説明するためのヘパリンは投与されていなかった

近年,ヘパリン以外の誘因により,臨床的にも血清学的にもヘパリン起因血小板減少症に酷似した血栓促進を引き起こすことが認識されてきており,そのような誘因として、ある種のポリアニオン(多価陰イオン)性薬剤(例えば、ポリ硫酸ペントサン7), 血管新生阻害剤PI-88 8), 過硫酸化コンドロイチン硫酸8))が挙げられる.このような血栓促進症候群は,ウイルス・細菌感染症9)10)や膝関節置換術後など,ポリアニオン性薬剤への曝露がない場合にも観察されている11)12).これらの明らかな非薬理学的誘因である場合は,自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症(autoimmune heparin-induced thrombocytopenia)という用語で分類されている13).古典的なヘパリン起因性血小板減少症の患者とは異なり,自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症の患者は,通常ではない重度の血小板減少症,播種性血管内凝固(DIC: disseminated intravascular coagulation)の頻度の増加,および非典型的な血栓事象を示す.これらの患者の血清は,ヘパリン存在下(0.11.0IU/ml)でも,ヘパリン非存在下でも血小板を強く活性化する(ヘパリン非依存性血小板活性化).このような異常な抗体が,先行するヘパリン曝露を伴わない血小板減少症の患者に認められる場合,”spontaneous(自然発生的)”ヘパリン起因性血小板減少症候群13)14)という用語が使われている.ヘパリン曝露後にヘパリン起因性血小板減少症を発症した患者の中には,時にヘパリンの投与を中止して数日後に血小板減少症が発症する(遅発性ヘパリン起因性血小板減少症15)16)),あるいはヘパリンの投与を中止したにもかかわらず血小板減少症が数週間持続する(持続性または難治性ヘパリン起因性血小板減少症17)18))など,非典型的な臨床的特徴を示すことがある.また,これらの患者の血清には,ヘパリン非依存性血小板活性化作用という現象が観察される.

これらの自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症に類似した臨床的特徴は,ワクチン起因性免疫性血小板減少症の患者にも認められた.血清は通常,PF4-ヘパリンELISAで強い反応性を示した.さらに,血清は緩衝液存在下で様々な程度の血小板活性化を示したが,ほとんどの場合,PF4存在下で大きく増強された(Figure 1A, 1B.さらに驚くべきことに,ほとんどの血清は,低用量の低分子ヘパリン(抗Xa因子抗体1mlあたり0.2U)存在下で,活性化の増加ではなく抑制を示した.さらに,患者2人の固定化PF4または固定化PF4-ヘパリン上でアフィニティ精製された抗体は,PF4存在下でのみ血小板を強く活性化したPF4による血小板活性化の増強は,ヘパリン起因性血小板減少症の特徴でもあり19)20),この薬剤の有害反応の診断検査において,血小板活性化抗体の検出を増強するために用いられている21)これらの抗体が,ワクチン接種の強い炎症刺激によって誘導されたPF4に対する自己抗体なのか,それともワクチンによって誘導された抗体がPF4や血小板と交差反応したものなのか,今後の検討が必要である

我々は,ChAdOx1 nCov-19存在下で,患者血清と血小板との反応性の増強を観察したが,これはin vitroでのアーティファクトである可能性が高い.アデノウイルスが血小板に結合し22),血小板活性化を引き起こす22)23)ことはよく知られている.さらに,12週間前に投与された500μlのワクチンに含まれるアデノウイルスの量が,これらの患者で観察されたその後の血小板活性化に寄与するとは考えにくい.しかし,ワクチンと血小板の間,あるいはワクチンとPF4の間の相互作用が病態の一因である可能性があるこれらのPF4反応性抗体の一つの可能性は,ワクチンに含まれる遊離DNAfree DNAかもしれない.我々は以前,DNARNAPF4と多分子複合体(multimolecular complexes)を形成し,ヘパリン起因性血小板減少症患者の抗体と結合すること,また,マウスモデルにおいてPF4-ヘパリンに対する抗体を誘発することを示した24).残念ながら,他のCovid-19ワクチンは我々が検査のために使用することはできなかった.

今回の結果は,いくつかの重要な臨床的意味を持つ.

@一部の患者では,ワクチンを接種してから約520日後に脳や腹部などの静脈/動脈血栓症が発症する可能性を臨床家は認識すべきである.このような反応が血小板減少を伴う場合は,先行するCovid-19ワクチン接種による有害作用の可能性がある.現在のところ,この反応はドイツではワクチン接種者の約25%,オーストリアでは約30%に使用されているChAdOx1 nCov-19ワクチンでのみ報告されている.

Aヘパリン起因性血小板減少症の患者におけるPF4-ヘパリン抗体を検出するELISAは広く利用可能であり,PF4に対する抗体に関連したワクチン接種後の血小板減少症や血栓症の可能性について患者を調査するために使用することができる25)最近ヘパリンに曝露していない患者で得られたELISAの強い陽性結果は,顕著な異常であると考えられる

B我々は,これらの抗体がPF4を認識し,PF4の添加により血小板活性化アッセイでの検出性が大幅に向上することを示した.何百万人もの人々へのワクチン接種は,ワクチン接種とは無関係の血栓イベントが背景にあると複雑になるため,PF4に対する血小板活性化抗体がワクチン接種後に形成されるというこの新しいメカニズムを通して起こるワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症の診断を確定するために,PF4依存性ELISAPF4-dependent ELISA)またはPF4増強血小板活性化アッセイ(PF4-enhanced platelet-activation assay)を使用することができる.静脈用免疫グロブリンの投与や抗凝固療法の開始などの治療方針の決定は,実験室での診断を待つ必要はないが,これらの異常な血小板活性化抗体の検出は,症例の特定や本ワクチンおよび他のワクチンの将来的なリスク・ベネフィット評価に大いに関係するだろう.

Figure 2は,この新しい血栓性血小板減少性疾患を管理するための診断および治療戦略の可能性を示しているFcγ受容体を介した血小板活性化を阻害するために,高用量の免疫グロブリンを静脈内投与することが1つの考慮事項である.この推奨は,重度の自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症の治療において,高用量の静注用免疫グロブリンにより血小板数が急速に増加し,凝固性亢進が緩和される現象に類似している12)26)

我々は,患者の抗体による血小板活性化を阻害するためには,臨床的に容易に達成できる用量の免疫グロブリンを追加することが有効であることを見出した.特に患者が重度の血小板減少症や脳静脈血栓症などの血栓症を呈している場合には,高用量の静注用免疫グロブリンにより血小板数を上昇させることで,臨床医の抗凝固療法開始への抵抗感を和らげることができるかもしれない.

自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症との類似性を考慮すると,抗凝固薬の選択肢には,機能検査によってヘパリン依存性血小板活性化作用が除外されていなければ,ヘパリン起因性血小板減少症の管理に用いられる非ヘパリン系抗凝固薬を含めるべきである27).最後に,ヘパリン起因性血小板減少症との混同を避けるため,この新しい疾患をワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT: vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopeniaと命名することを提案する.

Figure 2: Potential Diagnostic and Therapeutic Strategies for Management of Suspected Vaccine-Induced Immune Thrombotic Thrombocytopenia.

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25) Gesellschaft für Thrombose und Hämostaseforschung e.V. Updated GTH statement on vaccination with the AstraZeneca COVID-19 vaccine, as of March 22, 2021

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26) Warkentin TE. High-dose intravenous immunoglobulin for the treatment and prevention of heparin-induced thrombocytopenia: a review. Expert Rev Hematol 2019;12:685-698.

27) Cuker A, Arepally GM, Chong BH, et al. American Society of Hematology 2018 guidelines for management of venous thromboembolism: heparin-induced thrombocytopenia. Blood Adv 2018;2:3360-3392.

 

 

 

 

 

 

ChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種後の血栓症と血小板減少】

Shultz NH, et al. Thrombosis and Thrombocytopenia after ChAdOx1 nCoV-19 Vaccination. N Engl J Med. Apr 9, 2021. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2104882.

Introduction

欧州医薬品庁(EMA: European Medicines Agency)は,Covid-19に対する5つのワクチンを承認しており,全世界で6億回以上の接種が行われている1).ノルウェーでは,施設入居している高齢者と,Covid-19患者と密接に接触する医療従事者に,BNT162b2 mRNA Covid-19ワクチン(PfizerBioNTech社)が優先的に接種されている.また,Covid-19患者と密接に接触していない65歳未満の医療従事者には,ChAdOx1 nCoV-19ワクチン(AstraZeneca社)が接種されている.このワクチン接種が一時停止された2021320日時点で,ノルウェーでは合計132,686人がChAdOx1 nCoV-19ワクチンの1回目の接種を受け,2回目の接種を受けた人はいなかった2)

ChAdOx1 nCoV-19の初回接種を受けてから10日以内に,32歳から54歳までの医療従事者5人が,通常ではない部位の血栓症と重度の血小板減少症を呈したそのうち4人はmajorな脳出血を発症した.ここでは,オスロ大学病院に入院したこれらの患者5人にみられたワクチン起因性の重度の血栓症と血小板減少の症候群について述べる.

Case Reports

(1)患者137歳の女性で,nCoV-19ワクチン接種の1週間後に頭痛を呈した.翌日,救急外来を受診したところ,発熱を認め,頭痛は継続していた.彼女には重度の血小板減少症が認められた(Table 1).頭部CTでは,左横静脈洞およびS状静脈洞に血栓が認められた.血小板数が少なかったため,低用量のダルテパリン(2500IU/日)を投与した.翌日,臨床症状が悪化し,新たにCTを撮影したところ,massiveな小脳出血と後頭蓋窩の脳浮腫が認められた.血小板輸血と減圧開頭術が行われた.手術中にmassiveかつ制御不能な浮腫が生じた.患者は術後2日目に死亡した.

(2)患者242歳の女性で,ChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種の1週間後に頭痛を認めた.病状は急速に悪化し,3日後に救急外来を受診した際には意識レベルの低下が認められた.血小板数は14,000/m3であった.ADAMTS13活性は正常であった。CT静脈造影では,横静脈洞およびS状静脈洞の閉塞を伴う静脈血栓症と,左半球の出血性梗塞が認められた.頭蓋骨半切除術(hemicraniectomy)が行われ,ダルテパリンを12500IU投与が開始された.その後,複数回の血小板輸血を受けた.8日目にはメチルプレドニゾロン(体重1kgあたり1mg/日)と免疫グロブリン(体重1kgあたり1g/日)の静注が行われた.その後,血小板数は増加した(Figure 1).しかし,集中治療室(ICU)において2週間後,15日目に頭蓋内圧上昇および重度の出血性脳梗塞により死亡した.

(3)患者332歳の男性で,ChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種の7日後に背部痛を訴えて救急外来を受診した.喘息以外の既往症はなかった.出血の臨床症状や神経学的な障害は認められなかった.血液検査では重度の血小板減少が認められた(Table 1).胸腹部CT検査では,複数の門脈分枝に血栓が認められ,左肝内門脈と左肝静脈が閉塞していた.さらに,脾静脈,奇静脈,半奇静脈にも血栓が認められた.脊椎の造影磁気共鳴画像(MRI)では,いくつかの胸椎と椎体静脈に低信号領域が認められ,静脈灌流が損なわれていることが示唆された.免疫グロブリン(1kgあたり1g2日間)とプレドニゾロン(1kgあたり1mg1日)の静脈内投与を行った.ダルテパリンを5000IU(初日に1回,2日目に2回)投与した(血小板数が正常に戻った後,1日あたり200IU/kgに増量)(Figure 1).腹部CT検査では血栓の一部が消失していた.ワルファリンとプレドニゾロン漸減とともに,12日目には健康状態は良好で退院した.

(4)患者4は,従来健康だった39歳の女性で,ChAdOx1 nCoV-19ワクチンを接種したが,ワクチン接種の8日後に腹痛と頭痛を訴えて救急外来を受診した.軽度の血小板減少が認められた.腹部超音波検査は正常であり,彼女は帰宅した.その後,頭痛が増強し,2日後に救急外来を再受診した.脳静脈造影CTでは,深部および表在性脳静脈にmassiveな血栓が認められ,右小脳出血性梗塞を発症していた.血小板数は70,000/m3であった.彼女に発熱は認めず,感染症の兆候はなく,神経学的な障害も認めなかった.ダルテパリン(1日あたり200IU/kg),プレドニゾロン(1日あたり1mg/kg),免疫グロブリン(1日あたり1g/kg2日間)の静脈内投与を開始した.血小板数は2日以内に正常化した(Figure 1).フォローアップの静脈CTでは,患部の脳静脈洞に再開通が認められた.10日後の退院時には症状は消失していた.抗凝固療法はダルテパリンからワルファリンに変更され,プレドニゾロンの投与は漸減しながら継続された.

(5)患者5は,ホルモン補充療法を受けている高血圧の既往歴のある54歳の女性で,ChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種から1週間後に,起床後に左半身の片麻痺を含む脳卒中の症状で救急外来を受診した.血小板数は19,000/m3で,頭部CTでは右前頭葉出血が認められた.血小板輸血の後,当院に転院し,メチルプレドニゾロン(1日あたり1mg/kg)と免疫グロブリンの静注(1日あたり1g/kg2日間)による治療が開始された.造影静脈CTでは,全体的な浮腫と血腫の増大を伴うmassiveな脳静脈血栓症が認められた(Table 1, Figure S1).入院から4時間後に,5000 IUの未分画ヘパリンを投与した後,血管内治療(血栓除去術)によって静脈の再開通を認めた.その際,右瞳孔散大が観察されたため,直ちに減圧的頭蓋骨半切除術が行われた.その2日後,制御不能な頭蓋内圧上昇のため,治療を中止された

 

 

Table 1: Characteristics of the Patients.

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Figure 1: Platelet Count Responses to Treatment.

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Methods

IMMUNOASSAYS AND FUNCTIONAL AND SEROLOGIC TESTING:

患者血清における,poly(vinyl sulfonate) (ヘパリンアナログ)と複合体を形成した血小板第4因子(PF4)に対する抗体は,高濃度ヘパリンを用いた確認阻害試験を含め,製造会社の指示に従ってLIFECODES PF4 IgG酵素結合免疫吸着法(ELISA)(Immucor社)を用いて検査した(希釈率, 1:50).ELISAにおける血清の連続希釈も行われた3).また,患者血清は,Multiplate分析装置(Dynabyte Medical社)4)5)を用いたヘパリン起因性多重電極凝集測定法による機能検査でも評価された.ここでは,血小板を凝集させる血清の能力を,生理食塩水の存在下,高濃度(96IU/ml)および低濃度(0.96IU/ml)の未分画ヘパリンの存在下で測定した.

SARS-CoV-2のスパイクおよびヌクレオカプシドタンパク質に対する血清抗体を,Roche Elecsysプラットフォームと,完全長の組換えタンパクに対するIgG抗体を対象とした自社製ビーズベースアッセイを用いて測定した6)

Results

LABORATORY TESTING:

すべての患者で入院時にd-ダイマー値が上昇していた。国際標準化比(INR)と活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)は正常範囲内であった.フィブリノゲン値は患者2では正常値より低く,患者4と患者5では正常値よりやや低かった(Table 1).CRPは,患者1,患者3,患者5で中等度に上昇していた.プロテインC,プロテインS,アンチトロンビンによる血栓症のスクリーニングは陰性であった.抗リン脂質抗体が検出されたのは患者3のみで,抗カルジオリピンIgG抗体値が43 IgG phospholipidGPL)単位とわずかに上昇していた.補体タンパク質(C1q, C4, C3)および活性化産物(sC5b-9)値は,すべての患者で正常範囲内であった.溶血の兆候が見られた患者はおらず,ADAMTS13活性が評価された1人の患者は正常であった.

PLATELET IMMUNOLOGIC TESTING:

5人の患者全員から,PF4-ポリアニオン複合体に対する高レベルのIgG抗体が検出された.これは,ELISAで測定した光学密度が2.9から3.8の範囲で非常に高かったことからもわかる.この反応性は,すべてのサンプルにおいて,ヘパリンによって効率的に阻害された(Figure 2).典型的なヘパリン起因性血小板減少症の患者の血清の機能的活性を、我々の患者血清の機能的活性と比較した.ヘパリン起因性血小板減少症の患者の血小板は,低濃度(low levels)ヘパリンを添加しないと活性化されず,高濃度(high levels)ヘパリンによって血小板凝集が効率的に減少した(Figure 3患者1,患者3,患者4,患者5の血清中の血小板は,ヘパリンを添加しなくても明らかに活性化されていた.患者2の血小板凝集曲線はS字曲線(sigmoid curve)ではなく,結論は出ないと考えられた.血小板凝集は,患者3と患者4では高用量(high-dose)ヘパリンによって効率的に阻害されたが,患者1と患者5では阻害効果が低かった

Figure 2: IgG PF4–Polyanion Detection in Serum.

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Figure 3: Platelet-Aggregating Potential of Serum in Functional Testing.

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COVID-19 SEROLOGIC TESTING:

5人の患者は全員,SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体が陰性であった.したがって,過去にSARS-CoV-2に感染した可能性は極めて低いと考えられた.スパイクタンパク質に対する抗体のレベルはアッセイによって異なるが,5人の患者全員の少なくとも1つのアッセイで抗スパイク結合が検出された.このばらつきは,抗スパイクワクチンの反応が初期段階にあったことを反映していると考えられる

Discussion

Covid-19ワクチン接種後710日目に発生した,血小板減少を伴う重度の静脈血栓塞栓症の5人を報告する.そのうち4人は頭蓋内出血を伴う重度の脳静脈血栓症で,3人は致命的な転帰をたどった.血栓性血小板減少性紫斑病および免疫性血小板減少性紫斑病は,それぞれ溶血がなく,血小板輸血に対する反応が良好であったことから,疑われなかった.5人の患者に共通していたのは,PF4-ポリアニオン複合体に対する高レベルの抗体であった.したがって,これらの症例は,自然発生的な(spontaneous)ヘパリン起因性血小板減少症のワクチン関連変異型であり,我々はこれをワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT: vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopeniaと呼ぶことにした.

すべての患者は,PF4-ポリアニオン複合体に対する抗体のレベルが顕著に高かった.光学密度の値は研究間で直接比較できないかもしれないが,献血者の57%に検出可能なPF4-ヘパリン抗体があることは注目に値する; しかし,典型的な献血者では,光学密度が1.6よりも高い値になることはほとんどない7).さらに,典型的なヘパリン起因性血小板減少症の患者では,光学密度が2を超えることはまれである8)ほぼすべての健康な成人は,PF4-ヘパリン複合体に特異的なB細胞のリザーバー(reservoir)を持っており,これらのB細胞による”ヘパリン起因性血小板減少症”「様」の抗体産生は,免疫制御メカニズムによって抑制されている9)10)

典型的なヘパリン起因性血小板減少症の患者の血小板凝集とは対照的に,我々の患者の血小板凝集は生理学的レベルのヘパリンにあまり依存しておらず,高用量ヘパリンによる阻害にもあまり感受性がなかった.患者14は,採血前に低分子ヘパリンを投与されていたため,PF4と低分子ヘパリンが結合した抗体を含む複合体が循環している可能性を否定できない.このような複合体は,一般的に高濃度の未分画ヘパリン(96IU/ml)の存在下で壊されるが,すべての症例でこれが観察されたわけではない.さらに,患者5はヘパリンの投与を受けていなかった.これらの結果を総合すると,これらの患者の血清には,自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症の患者血清に関して報告されているもの8)と同様の特異抗体の混在とともに免疫複合体が含まれていたことになる.当院の患者の血清にPF4と単独で結合する抗体が含まれていたかどうかはまだ判明していない.

今回の結果は,これら5人の患者に共通する病態生理的基盤を示しており,ChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種後に,自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症に類似した症候群が一部の人に生じる可能性があることを認識するべきである血栓症と免疫システムの関連性を示すことによって,ワクチン接種が本症候群の引き金になったのではないかという見方が強まった

これらの症例では,生命を脅かす血栓症や血小板減少症に対して低分子ヘパリンによる抗凝固療法を開始した後に,初めて特徴的な抗体が確認された(Figure 1).抗体の結果を手にした臨床医は,通常はヘパリンが投与されるこの症候群に対して,どの抗凝固薬を投与すべきかというジレンマに直面した.しかし,免疫グロブリン静注とプレドニゾロンの併用を開始した後,血小板数は増加しており,血栓症が進行していることを示唆する臨床的証拠はなかった.さらに,ヘパリンあるいは低分子ヘパリンに代わる抗凝固薬の投与は,進行中の脳内出血を悪化させる可能性があるという重大な懸念があった.フォンダパリヌクスは,低分子ヘパリンよりも半減期が長く,そして第Xa因子阻害薬に対する十分に報告されている逆転戦略(reversal strategy)も利用できない.注目すべきは,低分子ヘパリンによる治療を継続したにもかかわらず,すべての患者で血小板数が増加し続けたことである(Figure 1この結果は,自然発生的な(spontaneous)ヘパリン起因性血小板減少症に対して高い効果を示す免疫グロブリン静注11)による早期治療の有効性を反映していると考えられる

今回の報告のような重症患者の治療は常に困難である.今回の結果から得られた最も重要な示唆は,ワクチン接種後に予期せぬ症状を呈した患者に対し,医師は,確認のための機能検査を含むPF4-ポリアニオン抗体ELISAをオーダーする閾値を低く設定すべきということである.

VITTは,まれではあるが,健康な若年成人に壊滅的な影響を与える新しい現象であり,徹底したリスク・ベネフィット分析が必要である.今回の研究結果から,VITTChAdOx1 nCoV-19ワクチンの安全性を調査した過去の研究12)で示された結果よりも頻繁に発生している可能性があることが判明した

 

 

References

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