COVID-19関連追加(2021419日)

伝播を防ぐための屋内の空気交換について

【屋内空気交換とSARS-CoV-2伝播への可能性のある影響】

Allen JG, et al. Indoor Air Changes and Potential Implications for SARS-CoV-2 Transmission. JAMA. Published online April 16, 2021.

https://doi.org/10.1001/jama.2021.5053.

建物は,麻疹,インフルエンザ,レジオネラ菌などの感染症のアウトブレイクと関連してきた.SARS-CoV-2では,屋内で過ごした時間と3人以上のアウトブレイクの大部分が関連しており,SARS-CoV-2の遠距離空気媒介性伝播(室内であっても6フィートを超える範囲と定義)が発生していることが確認されている1)

屋内の呼吸器エアロゾル濃度をコントロールして,感染性因子の空気媒介性伝播を減らすことは非常に重要であり,発生源制御(マスク着用,フィジカルディスタンス)と工学的制御(換気とろ過)によって達成することが可能である2).工学的制御に関しては,ほとんどの建物の運用方法に重要な欠陥がある.それは,病院を除く屋内空間の換気とろ過に関する現行の基準が,感染制御のために設計されたものではなく,最低限の設定ということである.いくつかの組織や団体が外気換気率を増やすことを呼びかけているが,現在までのところ,具体的な換気やろ過の目標値に関するガイダンスは限られている.本稿では,外気の換気を増やし,ろ過を強化することで,SARS-CoV-2の遠距離空気媒介性伝播を制限する根拠を説明し,目標を提案する.

SARS-CoV-2の遠距離空気媒介性伝播を減らすためには,1時間に46回の空気の交換(4 to 6 air changes per hour)を目標とすることが提案されている.その方法としては,外気の換気,MERV13Minimum Efficiency Rating Value 13)以上のフィルターを通した再循環空気,HEPAHigh-efficiency Particulate Air)フィルターを備えたポータブル型空気清浄機の使用などがある.

SARS-CoV-2dose-responseが不明であることや,主な伝播経路について科学的な議論が続いていることにもかかわらず,これらの提案を裏付ける証拠がある.第一に,SARS-CoV-2は,主に感染者の呼出された呼吸エアロゾル(exhaled respiratory aerosolsから伝播する.大きな飛沫(> 100μm)は6フィート以内であれば重力によって空気中から落下する可能性があるが,人は発声,呼吸,咳の際にその1/100の大きさ(100倍小さい)の小さなエアロゾル(< 5μm)を呼出する小さいエアロゾルは,30分から数時間空中に留まり(stay aloft for 30 minutes to hours),6フィートをはるかに超えて移動することが可能である1).第二に,様々な種類の空間(レストラン,ジム,合唱の練習,学校,バスなど)におけるSARS-CoV-2アウトブレイクがよく知られており,人々がフィジカルディスタンスを置いていたとしても,屋内で時間を共有し,換気レベルが低かったことが共通している3)

第三に,これらの提案は,曝露科学(exposure science)と吸入量リスク低減(inhalation dose risk reduction)の基本に基づいている.換気量とろ過量(ventilation and filtration rates)を多くすることで,屋内の空気から粒子を迅速に取り除くことができ,それによって曝露の強さと呼吸エアロゾルが室内に滞留する時間を減らすことができる.第四に,このアプローチは,伝播リスクを最小化するために病院で使用されているものと一致している(eTable in the Supplement).第五に,換気と感染症の関係についてのレビューでは,麻疹,結核,ライノウイルス,インフルエンザ,SARS-CoV-1の伝播に換気の減少が関連していることを示す観察疫学研究を引用して,換気が感染伝播に重要な役割を果たしていることを示す証拠の重みがあるとしている4)-6).この3つのレビューはいずれも,このテーマに関する研究論文の数が少なく,観察データの限界を指摘している.さらに最近では,米国国立アレルギー・感染症研究所(the National Institute of Allergy and Infectious Diseases)がCOVID-19対策の一環として十分な換気の重要性を指摘しており2),米国疾病対策センター(CDC: the Centers for Disease Control and Prevention)と米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE: the American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)は、全体的なリスク低減戦略の一環として,換気量の増加とろ過の強化を支持している.

Current Indoor Air Ventilation Measures and Standards:

現在,ほとんどの屋内空間の換気基準はASHRAEによって定められている7).これらの基準は,感染症対策というよりも,人からの臭いなどの生体排出物(bioeffluents)を希釈し,基本的なレベルの屋内空気質(air quality)を実現することを目的として設計されている8)

換気量(ventilation rate)の表現には複数の慣例があるが(例えば, total volumetric flowvolumetric flow per person and areaoutdoor air ventilation rates),医療環境では,1時間あたりの空気交換率(ACH: air changes per hourが用いられ,この単位で表現されるのが一般的である.

ACHに関する既存の最低基準は,建物の種類によって異なる(eTable in the Supplement).例えば,換気量の主な基準設定機関であるASHRAEによると,ほとんどの家庭で発生する必要最低限の総ACHは外気の0.35ACHであり,学校はその約10倍の換気量を想定して設計すべきであるが,実際にはほとんどの学校がこれを満たしていないとしている9)目標値を46ACHに引き上げるという提案は,病院で設定されている,感染制御戦略としてのACHを強調するACHと一致する

Current Air Filtration Measures and Standards:

外気からの換気に加えて,呼吸器エアロゾルは空気ろ過によっても除去することができる.したがって,ろ過された空気は,1時間あたりの等価空気交換率(ACHe: equivalent air changes per hourで考えることができ,外気からのACHに加えることができる.

クリーンエア供給率(CADR: clean air delivery rateとは,フィルターの効果とフィルターを通過する空気の量によって決まる,空間に供給される清浄空気(クリーンエア)の量を表す用語である.ポータブル空気清浄機では,その効果を表すためにCADRを使用するのが一般的である.例えば,HEPAhigh-efficiency particulate air)フィルターを搭載したポータブル空気清浄機の場合,0.3μmのエアロゾルの99.97%を捕捉することができる.一般的にフィルターの有効性は,フィルターの性能が最も劣るエアロゾルのサイズ(0.3μm)に基づいて報告されているが,HEPAフィルターは,0.3μmより大きい(または小さい)エアロゾルをさらに高い割合で捕捉する.

CADR指標は,屋内に供給されるウイルスフリーエア(virus-free air)のACHを推定するのに使用できるので価値がある.推定ACHeは,[CADRft3/min)×60min]を部屋の容積(ft3)で割って算出される8フィートの天井を持つ500平方フィートの部屋でCADR300の機器は,4.5ACHを供給することになる.※1m3=35.3ft3

この考え方は,中央機械式換気システムや室内換気システムで再循環させる空気にも適用できる.しかし、ほとんどの中央機械式システムはHEPAフィルター用に設計されていない.一般的には,0.31μmの粒子を約15%13μmの粒子を約50%310μmの粒子を約74%捕捉する低グレードのフィルター(例えば,MERV8)が使用されている4)感染対策のためには,可能な限りMERV13フィルターにアップグレードすべきで,これによって,0.31μmの粒子を約6613μmの粒子を約92310μmの粒子を約98捕捉することができる.これらのMERV値は,HEPAフィルターの場合と同様に,室内の全体的なクリーンエア供給率の推定に適用することができる.しかしHEPAフィルターに関してはほぼ100%の捕捉効率を使用するが,どのMERVフィルターを使用するにしても,低い捕捉効率に合わせて計算を調整する必要がある.機械式システムのフィルターをアップグレードすることは,同じ部屋や同じ局所換気ゾーン内で空気を再循環させるシステムを使用している建物では特に重要である.

Practical Design Considerations When Increasing Air Exchange and Filtration:

どのような建物であっても,空気の換気とろ過の方法を変更するには,いくつかの重要かつ実用的な設計上の検討事項がある.

第一に,空気交換率を増やすには,より多くの空気を移動させるためのコストや,この大量の空気を冷暖房するためのコストなど,トレードオフの関係にある.このような追加コストは,エネルギー効率の高いシステムや,空間が(人によって)占有されているときに空気を送る”スマート(smart)”なシステムを使用することで抑えることができる.また,必要に応じて自然換気(例えば,窓を開ける)を行うことで,換気を増やすためのコストを最小限に抑えることができる.

第二に,屋内の換気とろ過を改善しても,エアロゾルの遠距離伝播(すなわち,6フィートを超える)にしか効果がなく,接触伝播にはあまり影響しない.屋内では,高い空気交換率を達成しても,発生源対策,および密接な接触に関する対策であるマスク着用が重要である.

第三に,容積流量方式(volumetric flow approach)による換気よりも1時間あたりの空気交換率(ACH)を重視することは,天井高が通常12フィート未満の小さな部屋で最も有効である天井の高い空間(例えば,体育館,アトリウム)では,エアロゾルは広い空間に希釈され,面積あたりまたは1人あたりの容積流量(volumetric flow per area or per person)は,エアロゾル放出率にも影響する占有者密度とその活動レベルを考慮したより適切な指標となる

第四に,空気交換率は,パンデミック時に想定されるような典型的なシナリオや占有密度の低いシナリオで有効である.人数制限が大きい場所および狭い空間において,設計以上の人数が加わった場合には,それに応じて換気を増やす必要がある

第五に,レストランのように常にマスクを着用しない場所では,ACH目標値を高くし,従業員は高効率のマスクを着用し,飲食中以外において客は常にマスクを着用し,室内にいる全員が物理的に6フィート以上離れるなど,さらなる戦略が必要である

第六に,COVID-19パンデミックの現状において,空気媒介性伝播を減らすためには,これらの考慮されている設計は重要であるが,空気の換気とろ過の改善は,仕事や学校の欠席率の低下,認知機能テストの成績向上,頭痛や疲労感などのシックハウス症候群の症状の減少との関連性があるため10),今後も建物で継続的に使用することを検討すべき戦略である

Conclusions

ACHと空気のろ過を増やすことは,単純だが重要なコンセプトであり,SARS-CoV-2やその他の呼吸器感染症の屋内および遠距離における空気媒介性伝播リスクを減らすために導入することができる.換気を増やす,ろ過を強化するというクリーンな建物の管理は基本的なことであるが,見落とされがちなリスク低減戦略の一部であり,現在のパンデミックを超えて利益をもたらす可能性がある.

 

References

1) National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. Airborne Transmission of SARS-CoV-2: Proceedings of a Workshop—in Brief. National Academy of Sciences; October 2020.

2) Lerner  AM, Folkers  GK, Fauci  AS.  Preventing the spread of SARS-CoV-2 with masks and other low-tech interventions.   JAMA. 2020;324(19):1935-1936.

3) The Lancet COVID-19 Commission Task Force on Safe Work, Safe School, and Safe Travel. Six priority areas. The Lancet COVID-19 Commission; 2021.

4) Li  Y, Leung  GM, Tang  JW,  et al.  Role of ventilation in airborne transmission of infectious agents in the built environment: a multidisciplinary systematic review.   Indoor Air. 2007;17(1):2-18.

5) Sundell  J, Levin  H, Nazaroff  WW,  et al.  Ventilation rates and health: multidisciplinary review of the scientific literature.   Indoor Air. 2011;21(3):191-204.

6) Luongo  JC, Fennelly  KP, Keen  JA,  et al.  Role of mechanical ventilation in the airborne transmission of infectious agents in buildings.   Indoor Air. 2016;26(5):666-678.

7) American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers. ANSI/ASHRAE standards and guidelines to address COVID-19. Accessed April 9, 2021.

8) Persily  A.  Challenges in developing ventilation and indoor air quality standards: the story of ASHRAE Standard 62.   Build Environ. 2015;91:61-69.

9) Fisk  WJ.  The ventilation problem in schools: literature review.   Indoor Air. 2017;27(6):1039-1051.

10) Allen  J, Macomber  J.  Healthy Buildings: How Indoor Spaces Drive Performance and Productivity. Harvard University Press; 2020.