COVID-19関連追加(2021420日)

SARS-CoV-2の空気媒介性伝播を支持する10の科学的根拠】

Greenhalgh T, Jimenez JL, Prather KA, et al. Ten scientific reasons in support of airborne transmission of SARS-CoV-2. Lancet. Apr 15, 2021.

https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00869-2.

WHOが資金提供し,20213月にプレプリントとして発表されたHeneghanらのシステマティックレビューには、次のような記述がある.”SARS-CoV-2の回収できるウイルス培養サンプルがないため,空気媒介性伝播について確固たる結論を出すことができない”1).この結論と,このレビューの結果が広く伝わっていることは,公衆衛生上の影響を考えると懸念がある.

感染性ウイルスが,大きな呼吸器飛沫を介して主に拡散する場合の重要な対策は,直接接触を減らすこと,表面を清潔にすること,物理的な衝立,フィジカルディスタンスを置くこと,飛沫が飛ぶ距離内でのマスクの使用,呼吸器系の衛生,そして,医療におけるいわゆるエアロゾル発生手技の際にのみ高品質の保護具を着用することである.このような対策は,屋内と屋外を区別する必要はない.なぜなら,伝播における重力によるメカニズムは,どちらの環境でも同様であるからである.しかし,感染性ウイルスが主として空気媒介性伝播する場合,感染者による呼気,発声,叫び声,歌唱,くしゃみ,咳の際に発生するエアロゾルを吸い込むことによって感染する可能性がある.ウイルスの空気媒介性伝播を防ぐには,感染性エアロゾルの吸入を避けるために,換気,空気ろ過,人混みや屋内での滞在時間の短縮,屋内でのマスクの使用,マスクの品質や装着感への配慮,医療従事者やフロントラインで働く人へのより高度な防護などの対策が必要となる2).呼吸器ウイルスの空気媒介性伝播を直接実証することは困難である3).そのため,空気中の病原体の検出を目的とした研究の結果が一定しなくても,全体の科学的根拠がそうでないことを示していれば,病原体が空気媒介性伝播しないと結論づける根拠としては不十分である.空気中の活性がある,あるいは生存可能な病原体の捕捉を含まない数十年にわたる丹念な研究は,かつては飛沫によって伝播すると考えられていた病気が空気媒介性であることを示した4)SARS-CoV-2の感染伝播経路は主に空気媒介性であるという仮説5)は,10の証拠によって総合的に裏付けられる.

@SARS-CoV-2伝播の大部分は,超拡散現象(superspreading events)によってもたらされたものであり,実際,このような現象がパンデミックの主要な要因となっている可能性がある6).合唱コンサート,クルーズ船,食肉処理場,介護施設,矯正施設などにおける人の行動や相互作用,空間の広さ,換気などの詳細な分析の結果,SARS-CoV-2の空気媒介性伝播には,飛沫やfomitesでは十分に説明できないパターン,すなわち,長距離伝播や後述する基本再生産数(R0)の過分散が認められた6).このような事象が多発していることは,エアロゾル伝播の優位性を強く示唆している.

A隔離ホテルで,隣り合った部屋にいても,お互いに顔を合わせたことがない人同士のSARS-CoV-2の長距離伝播が報告されている7).歴史的には,地域社会における感染伝播が全くない場合のみ,長距離伝播を証明することが可能であった4)

B咳やくしゃみをしていない人からのSARS-CoV-2の無症状あるいは前症状感染伝播は,世界中の感染伝播の少なくとも3分の1,おそらく最大で59%を占めると考えられ,SARS-CoV-2が世界中に広まる主な要因となっていることは8),主な感染経路は空気媒介性伝播であることを支持する.直接的な測定によると,発声は何千ものエアロゾル粒子を発生させ,大きな飛沫はほとんど発生しないことがわかっており9),これは空気媒介性経路を支持する.

CSARS-CoV-2伝播は屋外よりも屋内の方が高く10),屋内換気によって大幅に減少する5).この2つの観察結果は,主な感染伝播経路が空気媒介性経路であることを支持する.

D院内感染は,接触・飛沫対策が徹底され,エアロゾルではなく飛沫を防ぐように設計された個人防護具(PPE)が使用されている医療機関で記録されている11)

E活性化(viableSARS-CoV-2が空気中で検出されてきた.実験では,SARS-CoV-2は空気中で半減期は1.1時間で,最大3時間感染性を維持した12).エアロゾル発生手技が行われていないCOVID-19患者の病室から採取された空気サンプル13)や,感染者の車から採取された空気サンプル14)でも,活性化SARS-CoV-2が確認されている.他の研究では,空気中で活性化SARS-CoV-2を検出できなかったが,これは当然のことである.空気中のウイルスを採取することは技術的に困難である.その理由として,微粒子を採取するためのいくつかのサンプリング方法の有効性の限界,採取中のウイルスの脱水(viral dehydration),衝撃力によるウイルスの損傷(活性化の低下につながる),採取中のウイルスの再エアロゾル化(reaerosolisation),サンプリング装置内でのウイルスの滞留などが挙げられる3).主に空気媒介性疾患である麻疹と結核は,室内の空気から培養されたことはない15)

FSARS-CoV-2は,COVID-19患者のいる病院のエアフィルターや建物のダクトで確認されている; そのような場所にはエアロゾルのみが到達する可能性がある16)

Gケージに入れられた感染した動物が,別のケージに入れられた未感染の動物とエアダクトを介して接続された研究では,エアロゾルのみで十分に説明できるSARS-CoV-2感染伝播が示されている17)

H我々の知る限り,SARS-CoV-2が空気媒介性伝播するという仮説を否定する強力かつ一貫した証拠を示した研究はない.感染者と空気を共有してもSARS-CoV-2感染を回避した人もいるが,この状況は,感染者間のウイルス排出量の数桁のばらつきや,環境(特に換気)条件の違いなど,さまざまな要因が重なって説明できる(could18).個人差や環境の違いにより,少数の一次感染者(特に,換気の悪い屋内の混雑した環境で高濃度のウイルスを排出している人)による二次感染が大部分を占めていることが,数ヶ月の質の高い接触者追跡データによって支持されている19)20)SARS-CoV-2の呼吸器ウイルス量には大きなばらつきがあることから,SARS-CoV-2R0は麻疹(推定, 1522)より低い(推定約2.521)ため空気媒介性伝播しないという議論には反論がある.平均値であるR0は,感染者の中でも少数の人しか大量のウイルスを排出しないという事実を考慮していないからである.R0の過分散(overdispersion)は,COVID-19において十分に報告されている23)

I他の主な感染経路,すなわち呼吸器飛沫やfomitesを支持する証拠は限られている9)24)SARS-CoV-2の呼吸器飛沫伝播の証拠として,近距離にいる人同士の感染が容易に起こるであることが挙げられている.しかし,空気を共有した際に遠距離から伝播する例がある一方で,ほとんどの例では,感染者からの距離が離れるにつれて呼気エアロゾルが希釈されることで説明できる可能性が高い9)

近距離伝播には大きな呼吸器飛沫やfomitesが必要であるという誤った仮定は,歴史的に何十年もの間,結核や麻疹の空気媒介性伝播15)25)を否定するために用いられてきた.これは,エアロゾルや飛沫の直接測定を無視した医学的ドグマとなっており,エアロゾルや飛沫を直接測定することによって,呼吸器活動で生成されるエアロゾルの数が圧倒的に多いことが判明し,またエアロゾルと飛沫の粒径の境界の認識が,正確な境界である100μmではなく,5μmといういかに恣意的なものであったかという欠陥が明らかになっている15)25).呼吸器飛沫はエアロゾルよりも大きいので,より多くのウイルスが含まれているのではないかと主張されることがある.しかし,粒子径によって病原体の濃度が定量化された疾患では,より小さいエアロゾルは,飛沫に比べると病原体の濃度がより高いという結果が出ている15)

Conclusions

一部の空気サンプル中にSARS-CoV-2の直接的な証拠が存在しないことをもって,空気媒介性伝播の存在を疑うのは科学的な誤りであり,全体的な証拠の質と強さを見落としていると提言する.SARS-CoV-2は空気媒介性伝播によって広がるという一貫した強力な証拠がある.他の伝播経路の寄与もありうるが,空気媒介性経路が最も優位である可能性が高いと我々は信じている.公衆衛生機関は,それに応じて,さらに遅れることなく行動すべきである.

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