COVID-19関連追加(2021423日)

ワクチンブレイクスルーについて

SARS-CoV-2変異株のワクチンブレイクスルー感染】

Hacisuleyman E, et al. Vaccine Breakthrough Infections with SARS-CoV-2 Variants. N Engl J Med. Apr 21, 2021.

https://doi.org/10.1056/NEJMoa2105000.

Summary

 SARS-CoV-2の新たな変異株が臨床的に懸念されている.BNT162b2Pfizer-BioNTech社)またはmRNA-1273Moderna社)ワクチンの2回目の接種を2週間以上前に受けた417人のコホートにおいて,ワクチンによるブレイクスルー感染を起こした女性2人を確認した.2人ともワクチンの有効性が確認されたにもかかわらず,Covid-19症状が発症し,ポリメラーゼ連鎖反応検査でSARS-CoV-2が陽性であった.ウイルスシーケンスの結果,臨床的に重要と思われる変異,すなわちE484Kが女性1人に,3つの変異(T95Idel142-144D614G)が両人に検出された.これらの結果は,ワクチン接種後にウイルス変異株に感染すると,疾患になる可能性があることを示しており,ワクチン接種者における感染の予防と診断,および変異株の特徴を明らかにするための継続的な取り組みを支持するものである.

 

Introduction

SARS-CoV-2感染症は,2020年末までにCovid-19は,8,300万症例を引き起こしたが,ワクチンや抗体療法の承認と展開により,多大な進歩を遂げている.これらの戦略は,ウイルススパイクタンパク質に向けられているが,特にS遺伝子におけるウイルス変異株の出現により,その継続的な有効性が脅かされている.

このような懸念から,感染性,病原性,現在のワクチンを回避する変異株の能力を理解するために,感染者のウイルスDNAの検査およびシーケンスは強化されてきた.ニューヨーク市では,ウイルス変異株が増加しているという問題がある.2021330日時点で,新規感染者において占める割合が72%を超える変異株のほとんどは,英国で初めて確認されたB.1.1.7変異株(感染者の26.2%)と,ニューヨーク市で初めて確認されたB.1.526変異株(42.9%)である1).懸念される2つの領域(two areas of concern relate to the ability of variants)は,ワクチン誘発性免疫を回避し,無症候性感染(それによってウイルスの拡散を促進する)あるいは疾患を引き起こす変異株の能力に関するものである.どちらも重要であり,それぞれ独立して考慮する必要があるが,いずれもほとんどわかっていない.

我々は,2回のワクチン接種を完了した2人が,その後に注目すべきいくつかの置換基を持つSARS-CoV-2変異株にブレイクスルー感染したことを報告する患者1は,1回目のワクチン接種によりスパイクタンパクに対する強い抗体反応が得られたという証拠があるにもかかわらず,ロックフェラー大学で行った唾液PCRスクリーニングにより,2回目の接種(ブースターワクチン接種)の19日後に感染が確認されたまた,患者22回目の接種の36日後に感染が確認された

Methods

2020年初秋より,ロックフェラー大学キャンパスの全従業員および学生(約1400人)を対象に,唾液PCR検査が少なくとも週1回実施された.

少なくとも2週間前にBNT162b2Pfizer-BioNTech社)またはmRNA-1273Moderna社)ワクチンの2回目の接種を受けた従業員417が,2021121日〜317日において検査を受け,そしてその後も毎週検査が続けられた

唾液PCR検査は,ターゲット遺伝子はN1N2cycle thresholdCt)が40未満で陽性と判断された.

PATIENT HISTORIES:

患者1は,重症Covid-19のリスク因子を持たない健康な51歳の女性で,2021121日にmRNA-1273ワクチンの1回目の接種を受け,219日に2回目の接種を受けた.彼女は日常的な予防策は厳守していた.2回目のワクチンを接種した10時間後に,全身の筋肉痛を認めたが,これらの症状は翌日には回復した.310日(2回目のワクチン接種から19日後),喉の痛み,鼻閉,頭痛が生じ,その日のうちにロックフェラー大学で行ったPCRSARS-CoV-2 RNAが陽性となった.311日,嗅覚消失を認めた.症状は1週間以上経って徐々に回復した.

患者2は,重症Covid-19のリスク因子を持たない健康な65歳の女性で,119日にBNT162b2ワクチンの1回目の接種を受け,29日に2回目の接種を受けた.接種した腕に生じた痛みは2日間続いた.33日,ワクチン未接種のパートナーがSARS-CoV-2陽性反応を示し,316日,患者2は倦怠感,鼻閉,頭痛を認めた.317日,患者2は不調を訴え,ワクチン接種完了から36日後SARS-CoV-2 RNAが陽性となった.症状は320日より改善傾向を示した.

Results

唾液サンプルの連続PCR検査は,両患者の罹患前および罹患中に実施された(Table S3).診断時のPCR検査では,患者1では唾液1mlあたり約195,000コピー,患者2では唾液1mlあたり約400コピーのウイルス量に相当するCt値が示された(Figure S1).この患者2人の唾液サンプルから得られたRNAを逆転写し,SARS-CoV-2S遺伝子を標的PCRで増幅した後,シーケンスを行った.この検査では,初期に中国武漢で同定されたオリジナル配列と比べると,臨床的に問題となる可能性が示唆されているいくつかの変異を含む,多くの相違点が明らかになった.患者1ではE484K(一般的に誘発される中和抗体に対する耐性をもつ4)5))とD614G,患者2ではD614GS477Nがこれらの変異に該当した(Table 1).

 

 

Table 1: Clinically Relevant Mutations in the S Gene and Corresponding Results in Patients 1 and 2.

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患者1の発症から4日後に採取した血清サンプルについて,SARS-CoV-2に対する中和抗体をpseudotype neutralization assay3)で分析した.その結果,中和抗体力価が極めて高いことが判明した(Figure 1).これらのデータは,臨床経過と相まって,この患者がワクチン接種によって中和抗体を獲得した可能性を強く示唆している

Figure 1: Evidence of Vaccine Efficacy in Patient 1.

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パネルAは,患者1におけるSARS-CoV-2pseudotype neutralization assay7)の結果を示す.ワクチン未接種者の単位で規格化した相対発光量(RLU: Relative luminescence units)を示す.𝙸バーは95%信頼区間を示す.パネルBは,感染後1.3ヶ月8)および6.2ヶ月9)に回復した患者,mRNA-1273またはBNT162b2ワクチン2回接種者4),および患者1(ワクチン接種および感染後)から得られた血清中和抗体力価を示す.感染から1.3ヶ月後に回復した患者の50%中和試験(NT50: 50% neutralization testing)力価は,mRNA-1273またはBNT162b2ワクチン2回接種者との間に有意差は認めなかった.赤いバーは幾何平均値を示す; 患者1は高い中和活性(平均[±SD] NT50, 3209±760)を示した.血清中和抗体力価の平均値は,3回の独立した実験から得られたもので,それぞれ重複して実施した.NSは有意でないことを示す.

 

患者1の変異株をさらに詳しく調べるために,抽出した唾液から得られたRNAを用いて,全ウイルスゲノムシーケンスを行った.この解析により,標的増幅法によってS遺伝子に見られた配列変化が確認され,今回の感染は,既知のVOC(英国で最初に確認されたB.1.1.7変異株およびニューヨーク市で最初に確認されたB.1.526変異株)とは異なるが,関連性のあるSARS-CoV-2変異株によるものであることが示唆された(Figure 2, 3

Figure 2: Phylogenetic Tree.

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患者1clade分析では,clade 20B20Cの間で最も近い一致が見られた.英国で最初に同定されたSARS-CoV-2変異株(B.1.1.7)はclade Bであり,ニューヨークで最初に同定された変異株(B.1.526)はclade 20Cである.

Figure 3: Phylogenetic Comparisons of SARS-CoV-2 Variants.

赤ラインは患者1を示す.

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そこで我々は,患者1から採取した血清を用いて,野生型ウイルス,E484K変異,B.1.526変異株に対する血清の有効性をさらに検討したところ,血清はそれぞれに対して同等の有効性を示したFigure 4これらのデータから,患者1の抗体反応はこれらの変異株を認識していたが,それでもブレイクスルー感染を防ぐには不十分であったと考えられる

Figure 4: Neutralization Assays for Antibodies to the Wuhan-Hu-1 Isolate, the E484K Variant, and the B.1.526 Variant.

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野生型(Wuhan-Hu-1分離)ウイルス,E484K変異株,およびニューヨークで最初に同定されたB.1.526変異株(L5FT95ID253GE484KD614GA701V置換を含む)のPseudotype neutralization assaysを,患者1から得た血清サンプルを用いて実施した.3回の独立した実験の平均値と標準偏差(𝙸 バー)を示した.B.1.526変異株におけるE484K置換は,単独でも,他の置換と合わせても,患者1の血清による中和に対して,野生型ウイルスよりも有意に抵抗性ではなかった

 

 

Discussion

患者12回目のワクチンを接種してから19日後,患者22回目のワクチンを接種してから36日後に,Covid-19を発症した両者とも,ワクチンブーストに対する臨床反応と一致する履歴を持っていた患者1では,発症まもなくに高レベルの中和抗体力価が証明された.発症前とワクチン接種後にベースラインとなる抗体検査を行うことが理想的であったが,ブースターショットが完全に効果を発揮する前に感染した可能性も残っている.臨床履歴,経過、測定された中和抗体力価を考えると,患者2人はワクチンに対して有効な免疫応答を示した可能性が高いと我々は結論づけた.これらの患者は臨床的には軽症であったが,変異株が進化し続ける中で,ワクチンを接種したにもかかわらず重症化することがあるのかどうかを確認することは非常に重要である10)これらの観察結果を総合すると,我々は,ワクチンのブレイクスルー感染によって臨床症状が認められたと考えているさらに,患者1のデータは,変異株に対する中和抗体が高いレベルであるにもかかわらず,ウイルス変異株への感染が高ウイルス量をもって維持されることを示している

SARS-CoV-2シーケンスの結果,患者2人はいずれもウイルス変異株に感染していた.また、標的PCR増幅法(targeted PCR amplification)により配列変異を迅速に同定したところ,どちらの配列も既知のcladeに正確に適合しないことがわかった.患者1のいくつかの変異(T95Idel144E484KA570DD614GP681HD796H)はB.1.526T95IE484KD614G6)と共通しており,3つの変異は患者2T95IG142Vdel144F220IR190TR237KR246TD614G変異が検出された)と共通していた.また,ウイルスの全ゲノムシーケンスを行ったところ,標的PCRでは同定されなかったグアニン-シトシンリッチ領域(guaninecytosinerich region)に存在するD796Hを含む,さらにいくつかの置換が検出された.これらの置換は,回復期血清11)に対する感受性を低下させる可能性があり,武漢,英国,ニューヨークで最初に同定されたcladeと比較して,唯一のノンコーディング変化(noncoding changes)を持っている可能性がある.

患者1の全ゲノムシーケンスの詳細な解析が行われたが,我々はこの患者の変異株が1人にしか存在しなかったため,Pango系統であると結論づけることはできなかった12).系統樹上で最も近いリンクは,英国で最初に同定された変異株(B.1.1.7)とニューヨークで最初に同定された変異株(B.1.526)だったが,かなりの違いが認められた(Figure 2, Figure 3).これが,最近B.1.1.7系統と武漢で最初に同定された”野生型(wild-type)”系統との間の組み換えについて報告されたような13)B.1.1.7B.1.526との間の組み換えによるものかどうかは,興味深いところである.あるいは,共通の置換が収斂進化(しゅうれんしんか, convergent evolution)の結果である可能性もある.

これらの見解は,連邦および州レベルで行われている米国国民へのワクチン接種の緊急性の重要性を決して損なうものではない.また,変異株に対する防御を強化するために,新しいワクチンブースター(およびpan-coronavirus vaccine)を推進する取り組みも支持されている.20211月,Moderna社は,南アフリカで初めて確認された,アンジオテンシン変換酵素2受容体結合ドメイン(RBD)に3つの変異(E484KN501YK417N)を含むSARS-CoV-2の新しい変異株を標的とした臨床活動を発表した.

これらの見解は,連邦および州レベルで行われている米国国民へのワクチン接種の緊急性の重要性を決して損なうものではない.また,変異株に対する防御を強化するために,新しいワクチンブースター(およびpan-coronavirus vaccine)を推進する取り組みも支持されている.20211月,Moderna社は,南アフリカで初めて確認された,アンジオテンシン変換酵素2受容体結合ドメイン(RBD)に3つの変異(E484KN501YK417N)を含むSARS-CoV-2の新しい変異株を標的とした臨床活動を発表した. 最近の研究では,南アフリカで最初に同定された変異株(B.1.351)に対しては,自然感染やワクチン接種によって誘導された中和抗体に対して部分的な耐性を獲得している可能性があり,ワクチン接種の効果が低下していることがわかっているため14)15),これらの取り組みは非常に重要である.同時に,今回の観察結果は,ワクチン接種と可能性のあるウイルスエスケープ変異株の自然選択の間で進行している”競争”の重要性を強調する.この重要な時期には,無症候性感染者への連続検査,ワクチン接種や感染症データベースの公開と分析(ニューヨーク市でデータを収集しているものなど),さまざまなハイリスクの人から得たSARS-CoV-2 RNAの迅速なシーケンスなど,緩和策を何重にも維持する必要があることを,今回のデータは示している.

 

References

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(https://www1.nyc.gov/assets/doh/downloads/pdf/covid/covid-19-data-variants-031621.pdf. )

2) Frank MO, Blachere NE, Parveen S, et al. DRUL for school: opening pre-K with safe, simple, sensitive saliva testing for SARS-CoV-2. April 16, 2021

(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.04.03.21254873v1.) preprint.

3) Schmidt F, Weisblum Y, Muecksch F, et al. Measuring SARS-CoV-2 neutralizing antibody activity using pseudotyped and chimeric viruses. J Exp Med 2020;217(11):e20201181-e20201181.

4) Wang Z, Schmidt F, Weisblum Y, et al. mRNA vaccine-elicited antibodies to SARS-CoV-2 and circulating variants. Nature 2021 February 10 (Epub ahead of print).

5) Weisblum Y, Schmidt F, Zhang F, et al. Escape from neutralizing antibodies by SARS-CoV-2 spike protein variants. Elife 2020;9:e61312-e61312.

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9) Gaebler C, Wang Z, Lorenzi JCC, et al. Evolution of antibody immunity to SARS-CoV-2. Nature 2021;591:639-644.

10) Centers for Disease Control and Prevention. COVID-19 vaccine effectiveness research. 2021

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12) Rambaut A, Holmes EC, O’Toole Á, et al. A dynamic nomenclature proposal for SARS-CoV-2 lineages to assist genomic epidemiology. Nat Microbiol 2020;5:1403-1407.

13) Jackson B, Rambaut A, Pybus OG, Robertson DL, Connor T, Loman NJ. Recombinant SARS-CoV-2 genomes involving lineage B.1.1.7 in the UK. Virological. March 2021

(https://virological.org/t/recombinant-sars-cov-2-genomes-involving-lineage-b-1-1-7-in-the-uk/658.)

14) Stamatatos L, Czartoski J, Wan Y-H, et al. mRNA vaccination boosts cross-variant neutralizing antibodies elicited by SARS-CoV-2 infection. Science 2021;25:eabg9175-eabg9175.

15) Planas D, Bruel T, Grzelak L, et al. Sensitivity of infectious SARS-CoV-2 B.1.1.7 and B.1.351 variants to neutralizing antibodies. Nat Med 2021 March 26 (Epub ahead of print).