COVID-19関連追加(2021528日)ワクチンブレイクスルーについてその2

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2021423

【ワクチンブレイクスルー感染におけるVOCの過剰な存在】

McEwen AE, et al. Variants of concern are overrepresented among post-vaccination breakthrough infections of SARS-CoV-2 in Washington State. medRxiv. Posted May 25, 2021.

https://doi.org/10.1101/2021.05.23.21257679.

Abstract

当院で検出されたワクチンブレイクスルー症例20人において,20人すべて(100%)にVOCvariants of concern)による感染が認められCtの中央値は20.2IQR= 17.1-23.3であった.当研究所でシーケンスされた同時期の5174サンプルと比較すると,ブレイクスルー感染においてVOCは有意に濃縮されていたp< 0.05).

Methods

この研究は,ワシントン大学(UW)のInstitutional Review Boardの承認を得ている.UW Virology LabUWVL)では,臨床検査のために受領した検体のSARS-CoV-2全ゲノムシーケンスを日常的に行っている.この研究では,SARS-CoV-2に対する完全ワクチン接種を受けた患者(Pfizer社またはModerna社のワクチンの2回目接種から2週間を超えている)で,その後RT-PCRによって陽性と判定されたものを症例と定義した.対照群は,UWVLでシーケンスされた症例サンプルと同時期にWA州で採取されたサンプルで構成された.SARS-CoV-2は,緊急時の使用が許可されているUW CDCの研究所で開発された検査,Hologic Panther FusionまたはRoche Cobas SARS-CoV-2検査のいずれかを用いて,過去に報告されたようにRT-PCRで検出した[5]Swift Biosciences社のmultiplexed amplicon sequencing panel[6]またはIllumina COVIDSeqIllumina Inc, USA)を用いて,Ct< 36の検体すべてに対してシーケンスを試みた.コンセンサス配列は,過去に報告があるcustom bioinformatics pipelineを用いてアセンブルした

(https://github.com/greninger-lab/covid_swift_pipeline,[6])SARS-CoV-2ゲノムシーケンスのうち,不完全なもの(長さ29kbp未満)や低品質なもの(Ns10%を超える)は除外した.PANGOLIN (Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak LINeages,

https://pangolin.cog-uk.io/)およびNextClade (https://clades.nextstrain.org/)を用いて,SARS-CoV-2の系統およびcladeを割り当てた.アミノ酸の変化はNextCladeに従ってアノテーションを行った.解析と計算はRで行った.VOCに応じた症例分布の有意差は,Fishers exact testを用いて判定した.

 

 

Results

20212月より,ワクチン接種後のブレイクスルー感染に関する調査の一環として,UW Medicine hospitalsおよび提携先にSARS-CoV-2のゲノムシーケンスが依頼された.本研究では,女性13人,男性6人,性別不明1人の計20のシーケンスが行われた.年齢は2665歳(中央値= 43, IQR= 28-58)で(Supplementary Table 1),Ct値は16.0035.86(中央値= 20.2, IQR= 17.1-23.3であった.これらの検体は,2021223日〜427日の間に採取されたものである.対照群は,ワクチンブレイクスルーコホートと同時期にUWVLでシーケンスされたゲノム(n= 5174)で構成された(Supplementary Table 1).

Supplementary Table 1:

Supplementary Table 1:

 

ワクチンブレイクスルー20人のうち,8人(40%)がB.1.1.71人(5%)がB.1.3512人(10%)がB.1.4278人(40%)がB.1.4291人(5%)がP.1と,すべてがVOCvariants of concern)に分類されたFigure 1A, Supplementary Table 2.一方,同じ期間にUWVLでシーケンスされたWA症例の68%VOCで,B.1.1.731%B.1.3511%B.1.4273%B.1.42927%P.17%であった(Figure 1B).全体的に,VOCはブレイクスルー症例に比例して過剰に存在し,ブレイクスルーにおけるすべてのVOCsの頻度は対照群に比べて1.47倍に増加していた(95% CI [1.45, 1.50], p= 0.001.変異株B.1.427B.1.429B.1.1.7は,対照群と比較して,ブレイクスルー症例ではそれぞれ3.38倍(95%CI [0.90, 12.71], p= 0.119),1.51倍(95%CI [0.88, 2.59], p= 0.203),1.29倍(95%CI [0.75, 2.20], p= 0.468)の頻度であった(Supplementary Figure 1, Supplementary Table 2).変異株の全体的な分布は,ブレイクスルー群と対照群で有意に異なっていた(p= 0.001, Fisher's Exact test, Supplementary Table 2).ワクチン接種者の抗体による中和効果が低いと報告されている変異株(P.1, B.1.351, B.1.427, B.1.429)は,ブレイクスルー症例の60%,対照症例の36.7%で確認され,1.63倍の変化が見られた(95%CI [1.14, 2.34], p= 0.037

Supplementary Figure 1: Heat map showing relative frequencies of variants of concern breakthrough vs. control cases.

 

Supplementary Table 2:

Supplementary Table 2:

 

 

Figure 1: Variants of concern are overrepresented in vaccine breakthrough SARS-CoV-2 genomes.

A) Cumulative number of breakthrough cases and their Pangolin lineages. B) Proportions of lineages for UWVL sequences collected during the same time period. Relative risk of vaccine escape for each VOC (C) and spike amino acid change (D). Error bars represent 95% confidence intervals. *p<0.05, **p<0.01 (Fisher’s Exact Test). VOC: variant of concern (total), VOC-WT: variant of concern without reduced neutralization, VOC-R: variant of concern with reduced neutralization.

 

ブレイクスルー群とコントロール群のスパイクにおける個々の変異の発生状況を比較した.W258Lという1つの変異は,ブレイクスルー症例で15.22倍(95%CI[3.91, 59.10], p= 0.008)と濃縮されていたが(Figure 1D),2人にしか存在しなかった.その他の変異では,ブレイクスルー症例で有意な濃縮を示したものはなかった.

併存疾患やワクチンの種類と接種日などの臨床データは,対象者の一部(n= 19)で入手できた(Supplementary Table 3).すべての患者がmRNAベースのワクチンを接種した(BNT162b2 14, mRNA-1273 5人).18人のうち15人に症状を認めたが,入院を必要とした患者はいなかった.検体は,ワクチン接種後平均67.7日で採取された(range= 39-112, sd= 18.1).

Supplementary Table 3: Breakthrough Cases.

 

 

Discussion

今回の研究では,SARS-CoV-2の懸念される変異株(VOC: variants of concern)が,同期間にワシントン州の一般人口において循環した症例と比較して,ワクチンのブレイクスルー症例に過剰に存在することが判明した.ブレイクスルー症例では有意に濃縮された単独VOCはなかったが,サブグループ解析の結果,in vitroで抗体中和能の低下を示した変異株(B.1.351B.1.427B.1.429P1)が,中和能の低下とは関係のないB.1.1.7 VOCと比較して過剰に存在していることがわかった.また,今回報告された20例のワクチンによるブレイクスルー症例は,CDCが最近報告したシカゴの介護施設の職員と入居者を対象とした22例のブレイクスルー症例と比較して,ウイルス量が大幅に増加していた[7]

B.1.427/B.1.429変異株は,20207月にカリフォルニア州ロサンゼルス郡で初めて確認され[8],すぐに同州で循環するウイルスのドミナントとなった. これらの変異株は,202012月にワシントン州で初めて確認され,調査期間中の症例の30%を占めていた.B.1.427/B.1.429変異株は,受容体結合ドメイン(RBD)にL452RN末端ドメイン(NTD)にS13CW152Cという重要なスパイクタンパク質の変化を特徴としている.

B.1.427/B.1.429変異株は,20207月にカリフォルニア州ロサンゼルス郡で初めて確認され[8],すぐに同州で循環するウイルスのドミナントとなった. これらの変異株は,202012月にワシントン州で初めて確認され,調査期間中の症例の30%を占めていた.B.1.427/B.1.429変異株は,受容体結合ドメイン(RBD)にL452RN末端ドメイン(NTD)にS13CW152Cという重要なスパイクタンパク質の変化を特徴としている.最近の研究では,ワクチン接種者や回復者の血漿から得られたB.1.427/B.1.429変異株に対する中和抗体価は,野生型に比べて27倍減少することが示唆されている[8,9].同様に,ブラジルで確認されたP.1変異株や南アフリカで確認されたB.1.351変異株も,抗体中和効率がそれぞれ45倍,540倍に低下している[10,11]P.1B.1.351はいずれも対照群では稀であり,P.16%B.1.3511%未満であった.一方,英国で初めて確認されたB.1.1.7変異株は,感染性を約50%増加させることが知られているが,ほとんどの研究では野生型と同様に効率よく中和されるか,あるいは最小限の減少にとどまっている[11-13]B.1.1.7は,調査期間中に当地域で循環していた主要な変異株であった.B.1.1.7という背景にE484Kが導入されると中和効率が低下することが示されているが[14],この変異は今回のブレイクスルーB.1.1.7症例には認められなかったため,我々はこの株は野生型と同等の中和効率を有すると考えている.これらのデータは,in vitro中和アッセイにより,ワクチン接種者から抗体を獲得できない可能性の高い変異株を予測できることを示唆している.

抗体中和抵抗性につながると考えられている変異の多くは,スパイクタンパク質の受容体結合ドメインに生じている[15].注目すべきことに,対照群では208人中50人(24.03%)であったのに対し,B.1.427症例2人のうち2人が受容体結合ドメイン以外のスパイク変異W258Lを有していた.W258Lは,いわゆる「NTD抗原スーパーサイト(NTD antigen supersite)」に存在する.受容体結合ドメインに結合する抗体は異なるエピトープを標的とする可能性があるが,抗体中和に対して脆弱な単一部位がNTDに存在している(a single site of vulnerability to antibody neutralization exists in the NTD[16]NTDの変化が抗体中和効率に与える影響については,ほとんど研究されていない.今回のデータは,抗体中和のresidenceに関するin vitro研究に,W258LのようなNTDの変化を含めるべきであることを示唆している.

本研究は,ワクチンブレイクスルー群の対象者数が少ないというlimitationがあり,臨床データが不足しているため,対照群における追加のブレイクスルー症例の存在を除外することはできない.さらに,今回のブレイクスルーコホートは,感染および健康管理によって確認された医療従事者がほとんどであった.一方,UWVLからの配列は,州全体からサンプリングされ,病院,診療所,地域の検査場など,さまざまな検査場からのサンプルが含まれている.

今回の研究では,ブレイクスルー症例20人すべてに,矛盾なく系統が割り当てられた.これは,ワクチン接種した人に認められた新たな変異株が,clade 20B20Cの間に位置することを示した最近の研究[2]とは対照的であり,ウイルスの進化が中和抗体耐性を促進するのではないかという懸念が生じる.ワクチン接種後のブレイクスルー症例のサーベイランスを継続することで,新規またはブースターのSARS-CoV-2ワクチンに含めるためのVOCを同定できる可能性がある.

 

References

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