COVID-19関連追加(2021710日)免疫逃避とMAVS阻害

MAVSMitochondrial antiviral signaling)タンパク質は,ミトコンドリアの外膜上に存在する膜タンパク質.RNAウイルスが感染した細胞で,RNA受容体を介して結合し,細胞の応答を活性化.

SARS-CoV-2MAVSを標的にして免疫逃避する】

Zotta, A., Hooftman, A. & O’Neill, L.A.J. News Views. SARS-CoV-2 targets MAVS for immune evasion. Nat Cell Biol (2021).

https://doi.org/10.1038/s41556-021-00712-y.

SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質は、シグナル伝達アダプタータンパク質MAVSとの直接的な相互作用により,抗ウイルス性のI型インターフェロン応答を抑制することが新しい研究で明らかになった.このプロセスを標的とすることは,COVID-19に対する免疫力を高めるための有用な治療戦略となるかもしれない.

Main

COVID-19は,SARS-CoV-2によって引き起こされる呼吸器疾患であり,近年の治療法の進歩やいくつかのワクチンの使用が承認されているにもかかわらず,依然として世界的な公衆衛生上の大きな問題となっている1).多くの研究が,SARS-CoV-2感染に対して免疫システムがどのように反応するかに焦点を置いている(ref. 2)抗ウイルスI型インターフェロン(IFN)誘導は重要な反応でありRIG-IなどのRNA受容体によるウイルスの一本鎖RNAの感知によって引き起こされると考えられる3)SARS-CoV-2 RNAは,スパイク糖タンパク質(S),膜タンパク質(M),イオンチャネルエンベロープタンパク質(E),ヌクレオカプシドタンパク質(NP)の4つの構造タンパク質で構成されるウイルス粒子内に含まれており,ウイルスの侵入と複製に関与している4)Sタンパク質は,呼吸器上皮のアンジオテンシン変換酵素2ACE2)受容体に結合し5),ウイルスの宿主細胞への侵入に関与する.NPは,新しいビリオンへのRNAのパッケージング(packaging of RNA)に関与している.NPに他の役割があるかどうかはわかっていない.Nature Cell Biology誌の本号で,Wang6)は,NPが,RIG-Iによって活性化される重要なシグナル伝達アダプターであるミトコンドリア抗ウイルスシグナルタンパク質(MAVS: mitochondrial antiviral-signalling protein)を阻害し,ウイルスに対する宿主の防御反応を制限することができると報告している.彼らは,このプロセスをあるペプチドで阻害できることを示し,COVID-19の免疫力を高め,病態を抑制する新しい治療法の可能性を示唆している(Figure 1).

 

 

Figure 1: SARS-CoV-2 nucleocapsid protein (NP) represses MAVS signalling and IFN-β release.

SARS-CoV-2 NPは,MAVSのポリユビキチン化と凝集を阻害し,下流のTBK1-IRF3を介したIFN-βのアップレギュレーションと放出を抑制する(左図)宿主のアセチルトランスフェラーゼやNIP-Vのような干渉ペプチドがNPを標的にすると,NPの液滴形成(NP droplet formation)が阻害され,NPによるMAVSの抑制が妨げられる.これにより,IFN-βの放出が促進され,抗ウイルス免疫とウイルスの除去が促進される(右図).

Fig. 1

 

この研究では,まず,NPが相分離(phase separation)を起こして微小液滴を形成し,感染HeLa細胞内でウイルスRNAと共局在することを示した.NPの二量体化ドメイン(DD: dimerisation domainは,液滴形成とRNAの結合に不可欠であることがわかった.

次に,抗ウイルス反応に対するNPの効果を調べた.著者らは,IFNsのほか,RIG-IMAVSについても調べた7)HEK293細胞にNPをトランスフェクションすると,センダイウイルス(SeV: Sendai virus)や水胞口炎ウイルス(VSV: vesicular stomatitis virus)の感染に伴うIFN-β発現が完全に阻害され,DDを必要とする効果が得られた.NPの発現は,5-pppRNARIG-Iを介して作用する)やPolyI:C)(二本鎖RNAと同様にTLR3によって検出される)によるIFN-βの誘導も阻害した.DDを欠損したNPを含む遺伝子組み換えVSVを感染させたマウスは,intact NPを含むVSVNP-VSV)に比べて,肺,肝臓,脾臓のウイルス量が少なかった.これは,NPがそのDDドメインを介してIFN-βの誘導を制限し,ウイルスの複製を促進した可能性が高い

RIG-Iによるシグナル伝達経路には,プロテインキナーゼTBK1およびIKKεと,これらのキナーゼが活性化する転写因子IRF3IRF3IFNの転写を制御している)が関与している.それぞれのキナーゼはリン酸化されて活性化する; それらはIRF3をリン酸化し,IRF3は二量体化して核に移動する7)8)NPのトランスフェクションは,TBK1およびIKKεとIRF3のリン酸化を抑制するとともに,SeVによって引き起こされるIRF3の二量体化と核内移行を抑制することが示されたまた,これらの抑制効果は,DDを必要とした

MAVSTBK1およびIKKε活性化の鍵となるシグナルであり,次にこれを調べた.MAVSは,E3リガーゼTRIM31によるK63結合ポリユビキチン化を受け,凝集してTRAF3TRADD,そしてTRAF6をリクルートすることが知られている(ref. 9).共免疫沈降実験(co-immunoprecipitation experiments)では,NPMAVSの間の直接的な相互作用が示された.この相互作用には,MAVSCARDとプロリンリッチ領域(proline-rich region)が必要であった.NPは,MAVSRIG-Iの間の相互作用,およびRIG-ITRIM31の間の相互作用を中断させる(disrupt)ことが示されたまた,MAVSは相分離を起こして微小液滴を形成するが,このプロセスもNPによって中断されることがわかったさらにNPは,TRIM31によるMAVSK63結合ポリユビキチン化を阻害し,MAVSへのTBK1IKKεのリクルートを障害した

この結果を受けて,著者らは,感染細胞が何らかの方法でNPを標的にしているのではないかと考えた.その結果,関連ウイルスであるSARS-CoVMERS-CoVNPに保存されているDDの隣の残基であるK375で,NPがアセチル化されることが明らかになった.このアミノ酸が宿主アセチル化酵素CREB-binding proteinによってアセチル化されると,NPの相転移が阻害され,NPMAVSシグナルやIFN-β応答を阻害することができなくなる.したがって,感染細胞は,NPの抑制効果を制限するメカニズムを持ち,感染に対抗することができると考えられる.

SARS-CoV-2のようなRNAウイルスは,ウイルス変異株を生み出す変異率が高い10).著者らは次に,報告されているSARS-CoV-2変異株のうち,K375QK375NK375Eなど,NPに変異を示す変異株の特徴を調べた.これらの変異は,K375のアセチル化を模倣したもので,NPの相分離と二量体化を減衰させるそして,これらの変異株NPsによるMAVSの凝集を抑制し,IFN-β産生を制限する能力を阻害する.これらのNP変異株を発現させた組み換えVSVを感染させたマウスは,NP-VSVを感染させたマウスに比べてウイルス量が少なかったことから,NPの変化によりこれらの変異株の病原性が低下していることが示唆された.

最後に著者らは,MAVSとの相互作用に関与するNP DDの領域を標的とした干渉ペプチドを設計した.NIP-Vと名付けられたこのペプチドは,in vitroおよびin vivoにおいて,NPの液滴形成とウイルス量を抑制し,NP-VSV感染に伴うIFN-βシグナルを増強することが示された.ヒト化ACE2トランスジェニックマウスにNIP-Vを注射し,SARS-CoV-2を感染させた.その結果,肺でのIfnb1およびIsg56の発現が増加し,脾臓および肝臓でのSARS-CoV-2ゲノムRNAレベルが低下するなど,抗ウイルス反応が上昇した.また,このモデルでは,SARS-CoV-2感染に伴う重篤な肺傷害も,NIP-Vの投与によって軽減された.

今回の研究は,SARS-CoV-2によるある免疫逃避メカニズムを提供した.SARS-CoV-2in vitroでもin vivoでも低レベルのIFNを誘導することが知られているので,これはIFN産生を制限する主要なメカニズムである可能性がある10)NPタンパク質のDDは,MAVSとの液相相互作用を促進し,感染細胞のIFN応答を抑制する宿主アセチルトランスフェラーゼによるNPのアセチル化や,干渉ペプチドによるNPの標的化は,抗ウイルス免疫を高める(boost

MAVSのプリオン様凝集は,SARS-CoV-2 NPの液-液相分離によって制御されており,ここには複雑な生化学的現象が存在する.したがって,重要な問題は,このプロセスが治療標的になりうるかどうかである.おそらく,ペプチドアプローチを模倣した小分子,あるいは修飾ペプチドを用いることになるだろう.NPのアセチル化の制御に関する情報は,他の治療的アプローチに役立つ新たな知見を提供するかもしれない.SARS-CoV-2の他のタンパク質と比較して,NPのこの効果がSARS-CoV-2による免疫逃避の主要なメカニズムであるかどうかを調べるには,さらなる調査が必要である.この研究は,他のウイルス研究にも役立ち,免疫逃避戦略としてMAVSをどのように標的にするかを明らかにするかもしれない.また,いくつかのSARS-CoV-2変異株(今回は毒性の低い変異株)に関する興味深い情報もあり,SARS-CoV-2の進化の軌跡を理解する上で役立つかもしれない.今回の研究では,SARS-CoV-2が免疫を標的とする洗練されたメカニズムが明らかになり,COVID-19に対する抗ウイルス免疫を高めるための全く新しいアプローチにつながる可能性がある.

 

References

1) Huang, C. et al. Lancet 395, 497–506 (2020).

2) Paces, J., Strizova, Z., Smrz, D. & Cerny, J. Physiol. Res. 69, 379–388 (2020).

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6) Wang, S. et al. Nat Cell Biol.

https://doi.org/10.1038/s41556-021-00710-0.(2021).

7) Dutta, S., Das, N. & Mukherjee, P. Front. Microbiol. 11, 1990 (2020).

8) Liu, B. et al. Nat. Immunol. 18, 214–224 (2017).

9) Blanco-Melo, D. et al. Cell 181, 1036–1045.e9 (2020).

10) Majumdar, P. & Niyogi, S. Epidemiol. Infect. 149, e110 (2021).