COVID-19関連追加(2021712日)mRNAワクチンについてその22

mRNA-1273によるVITT症例報告,それについての反論)

 

mRNA-1273によるVITT症例報告】

Sangli S, et al. Thrombosis With Thrombocytopenia After the Messenger RNA–1273 Vaccine. Annals of Internal Medicine. June 29, 2021.

https://doi.org/10.7326/L21-0244.

Background

SARS-CoV-2ワクチンのうち,AstraZeneca社のChAdOx1ワクチン(1, 2)Johnson & Johnson/Janssen社のAd26.COV2.Sワクチン(3)という組換えアデノウイルス・ベクターを用いた2つのワクチンを接種した後に,血小板減少を伴う血栓症が報告されている.この症候群は,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT: heparin-induced thrombocytopenia)と類似しており,血小板減少症を伴うワクチン起因性血小板減少症(VITT: vaccine-induced thrombosis with thrombocytopenia)または血栓を伴う血小板減少症候群(TTS: thrombocytopenia with thrombosis syndrome)として知られている.我々の知る限り,メッセンジャーRNAmRNA)技術を用いたSARS-CoV-2ワクチン接種後にVITTTTSが発生したという報告はない(4)

Objective

Moderna社のmRNA-1273ワクチン接種後にVITTあるいはTTSを発症した患者を報告する.

Case Report

高血圧症と高脂血症を有する65歳の男性が,1週間にわたる両側下肢の不快感,断続的な頭痛,2日間の呼吸困難を訴えて当院を受診した.発症10日前に2回目のmRNA-1273ワクチン接種を受けていた彼は過去のヘパリン投与歴はなかった

胸部CTでは,大きな両側性の急性肺塞栓症と右心室拡張が認められた.下肢ドップラー検査では,両下肢に急性深部静脈血栓症が認められた.患者は重度の血小板減少症(14×109 cells/L)を呈していた(Table, Figure)(18ヶ月前に171×109 cells/Lが記録されていた).

 

 

Figure: Summary of clinical events.

Anti-PF4 = anti–platelet factor 4; OD = optical density.

https://www.acpjournals.org/na101/home/literatum/publisher/acp/journals/content/aim/0/aim.ahead-of-print/l21-0244/20210628/images/medium/l210244ff1.jpg

 

Table: Results of Selected Studies.

Table.

 

 

我々は血小板減少症のため全身性抗凝固療法は行わず,下大静脈フィルターを留置した.我々はまた,骨髄生検を行った.免疫介在性血小板減少症と考えられたため,我々は免疫グロブリンを2回静注した後,デキサメタゾン40mg4日間静注した.血小板輸血により血小板数が69,000×109 cells/Lに増加したため,未分画ヘパリン療法を開始した.

その3日後,患者は急性臀部血腫を発症し,ヘパリンの投与を中止した.血小板減少症が持続したため,HITの評価を行った.酵素結合免疫吸着法(ELISA)による抗血小板第4因子/ヘパリンIgGは強陽性であった(2.669 OD[光学密度: optical density], 基準値は0.399 OD未満).患者血清と正常血小板を用いた血小板活性化アッセイ(platelet activation assay)では,低濃度のヘパリンでセロトニンが放出され,高濃度では阻害されることが示され,HITと一致した.その12時間後に,彼は急性脳症(acute encepalopathy)を発症した.頭頸部CT血管造影で脳静脈洞血栓症が認められ,CT静脈造影で確認された.下肢深部静脈血栓症の進行と新たな上肢深部静脈血栓症が認められた.我々は,ビバリルジン(※現時点では本邦未承認の直接トロンビン阻害薬)を0.02mg/kg/hで投与し,血漿交換を開始した.その3日後,患者は急性臀部血腫を発症し,ヘパリンの投与を中止した.血小板減少症が持続したため,HITの評価を行った.酵素結合免疫吸着法(ELISA)による抗血小板第4因子/ヘパリンIgGは強陽性であった(2.669 OD[光学密度: optical density], 基準値は0.399 OD未満)患者血清と正常血小板を用いた血小板活性化アッセイ(platelet activation assay)では,低濃度のヘパリンでセロトニンが放出され,高濃度では阻害されることが示され,HITと一致した.その12時間後に,彼は急性脳症(acute encepalopathy)を発症した.頭頸部CT血管造影で脳静脈洞血栓症が認められ,CT静脈造影で確認された.下肢深部静脈血栓症の進行と新たな上肢深部静脈血栓症が認められた.我々は,ビバリルジン(※現時点では本邦未承認の直接トロンビン阻害薬)を0.02mg/kg/hで投与し,血漿交換を開始した.それにもかかわらず,患者はショック,乳酸性アシデミア,そして緊急に両側の筋膜切開が必要な下肢コンパートメント症候群を発症,悪化した.同日,血液培養を行い,バンコマイシンとセフェピムによる治療を開始しました.24時間以内に,血液培養からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出された.その後も症状は悪化し,家族は安楽死を選択し,compassionate extubation後に死亡した。死後,入院中に採取した,ヘパリン投与前の血清は,抗血小板第4因子/ヘパリンIgGOD 2.855)が強陽性であった.

Discussion

振り返ると,この患者はVITTまたはTTSの基準(5)を満たしていた.彼は,ワクチン接種後510日で血小板減少症と血栓症を発症した.血栓の分布,特に脳静脈洞血栓症は,VITTまたはTTSに特徴的であった.凝固およびその他の関連する精密検査(work-up)のほとんどが本症候群と一致していた.我々は,SARS-CoV-2感染症,その他の感染症,免疫性血小板減少症,血栓性血小板減少性紫斑病など,他の原因を特定することはできなかった.これらの所見は,米国疾病予防管理センターおよびBrighton CollaborationによるVITTまたはTTSの暫定的な症例定義を満たす.また,ヘパリン投与前の採血でELISAによる抗血小板第4因子抗体が陽性であったことから,VITTまたはTTSの可能性が高まった.本症例のVITTまたはTTSを支持する証拠は強固であると考えられるが,非典型的なHITまたはヘパリン投与の記録がないHITを除外することはできない.

もし,我々がもっと早くVITTTTSを疑っていたら,患者への対応は違ったものになっていただろう.現在のガイドライン(5)に従えば,免疫グロブリン静注,デキサメタゾンに加えて,ビバリルジン(または推奨される他の非ヘパリン系抗凝固剤)を早期に投与し,血小板輸血を避け,そして血小板活性化抗体(platelet-activating antibodies)の血清学的検査(2)をより広範に行っていただろう.

要約すると,何百万人もの人々がmRNA技術を用いたCOVID-19ワクチンを接種していることに留意することが重要と我々は考えている.今回の報告は,これまでに報告された唯一のVITTまたはTTSの可能性がある症例であり,このような稀な事象は,たとえ追加の報告によって確認されたとしても,これらのワクチンの恩恵を受けることを妨げるべきではない(such a rare event, even if confirmed by additional reports, should not prevent persons from receiving the benefits of these vaccines).また,今回の報告は,アデノウイルス・ベクターがVITTTTSの唯一の原因であるとする仮説を複雑にしている.

References

1) Schultz NH ,  Sørvoll IH ,  Michelsen AE , et al. Thrombosis and thrombocytopenia after ChAdOx1 nCoV-19 vaccination. N Engl J Med. 2021;384:2124-2130. [PMID: 33835768] doi:10.1056/NEJMoa2104882

2) Greinacher A ,  Thiele T ,  Warkentin TE , et al. Thrombotic thrombocytopenia after ChAdOx1 nCov-19 vaccination. N Engl J Med. 2021;384:2092-2101. [PMID: 33835769] doi:10.1056/NEJMoa2104840

3) Muir KL ,  Kallam A ,  Koepsell SA , et al. Thrombotic thrombocytopenia after Ad26.COV2.S vaccination [Letter]. N Engl J Med. 2021;384:1964-1965. [PMID: 33852795] doi:10.1056/NEJMc2105869

4) Cines DB ,  Bussel JB . SARS-CoV-2 vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia [Editorial]. N Engl J Med. 2021;384:2254-2256. [PMID: 33861524] doi:10.1056/NEJMe2106315

5) American Society of Hematology. Thrombosis with thrombocytopenia syndrome (also termed vaccine-induced thrombotic thrombocytopenia). Updated 29 April 2021. Accessed at www.hematology.org/covid-19/vaccine-induced-immune-thrombotic-thrombocytopenia on 26 May 2021.

 

 

 

 

 

 

 

Editorial: それは本当にVITTなのか?】

Pishko AM, Cuker A. Thrombosis After Vaccination With Messenger RNA–1273: Is This Vaccine-Induced Thrombosis and Thrombocytopenia or Thrombosis With Thrombocytopenia Syndrome? Annals of Internal Medicine. June 29, 2021.

https://doi.org/10.7326/M21-2680.

ワクチン起因性血栓・血小板減少症(VITT)は,血小板減少症を伴う血栓症症候群とも呼ばれ,2種類のアデノウイルスベースのSARS-CoV-2ワクチン(AstraZeneca[ChAdOx1]またはJohnson & Johnson[Ad26.COV2.S])のうち1種類を接種した後に,健常者が発症する,稀であり,生命を脅かす可能性のある疾患である(1).本症候群は,中等度から重度の血小板減少と血栓を特徴とし,一般的にワクチン接種後5日〜30日後に発症する.特に脳静脈洞や脾静脈などの非典型的な部位における血栓症がこの疾患の特徴である(1)

VITTのメカニズムはまだ解明されていないが,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と似ているようで,異なる点もある.VITTでもHITでも,IgG抗体が血小板表面の血小板第4因子(PF4)に結合し,その結果,血小板が広範囲に活性化される.実際,PF4とポリアニオン(polyanion)の複合体に対する抗体(”HIT抗体”)は,ELISAにより,VITTの確定症例のほとんどで検出されており,典型的には高力価(> 1.0光学密度[OD]単位)である(1).しかし,HITとは異なり,VITTは先行するヘパリン曝露がなくても発症し,VITT抗体はPF4と結合して血小板を活性化するのにヘパリンの存在を必要としない.

VITTの真の発生率は明らかになっていないが,非常に稀なケースと思われる.最も多く報告されているのは,ChAdOx1ワクチンを接種したノルウェー人,約130,000人のうちの5例である(2).一方,米国疾病予防管理センターでは,Ad26.COV2.Sワクチンを接種した800万人以上において28例が確認されている(3)

この論文でSangliらは,Moderna社のSARS-CoV-2メッセンジャーRNAmRNA-1273ワクチンの2回目の投与後に壊滅的な血栓症が発生したことを報告している(4).これまで,米国だけでmRNA-1273ワクチンは11,000万回,Pfizer-BioNTech mRNAワクチン(BNT162b2)は13,500万回を超えて(202157日現在)接種しているにもかかわらず,いずれのmRNAワクチン後にもVITTが確認された症例はない(3).本症例は,ヘパリン投与歴のない重度の血小板減少症と血栓症を発症するという,Brighton CollaborationによるVITTの症例定義に合致している(5)(著者とのやりとりで、発症前100日間にヘパリン製剤への曝露がなかったことが確認された.)また,国際血栓止血学会による最近のガイダンスに記載されている,D-ダイマーレベルの上昇とELISAによる高力価HIT抗体という追加診断基準も満たしている(6).今回の症例をVITTとした著者の判断には,我々は全面的に賛成であり,このような症例の治療を遅らせることは推奨しない.しかし,今回の症例をmRNA-1273ワクチンによるものとするには,十分な注意が必要である.

VITTの可能性のある症例を評価する際に,他に考慮すべきことはあるだろうか?第一に,無症候性集団におけるHIT抗体の上昇の頻度は低いが,ゼロではない.研究者らは,アデノウイルス(ChAdOx1)またはmRNABNT162b2)ワクチンを接種した後の健常者の約7%において,PF4とポリアニオンの複合体に対する弱陽性(0.51.0 OD単位, 基準範囲は0.5 OD単位未満)の抗体価を検出した(7).これらの無症候性者の抗体は,いずれも血小板を活性化するものではなかった.したがって,HIT抗体弱陽性をVITTの唯一の診断基準とすべきではない

今回の症例では,ELISAによる抗PF4とポリアニオン抗体価が2.0 OD単位を超える強陽性であった.この検査結果は,確かにVITTの疑いを高める.しかし,VITTは,ヘパリン投与歴のない高力価HIT抗体,血栓症,血小板減少症を伴う唯一の疾患ではない.Spontaneous HITは,ヘパリン曝露を伴わずに起こる”自己免疫性HIT”のサブタイプで,2008年にWarkentinGreinacherによって初めて報告された(8).その文献上では33例しか報告されていない稀な疾患である(8)Spontaneous HITは,整形外科手術後に最も頻繁に発生するまた,感染症に関連して内科患者でも報告されている(8)Sangliらは,この患者が最近の整形外科手術を受けていないことを確認した.この患者が入院前に何らかの感染症にかかっていたかどうかは確認できなかったが,血液培養の結果,来院から約1週間後にメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が陽性となっていた(4)もし,この感染症が入院時に存在していたとしたら,VITTと感染症をきっかけとしたspontaneous HITとを区別することは不可能であろうmRNA-1273ワクチンがVITTを誘発する可能性があるかどうかを判断するためには,いくつかの規制当局や公衆衛生機関が行っているような継続的な監視が必要である.

VITTの重大性は,たとえ稀であっても,軽視されるべきではない.VITTで報告されている血栓症のうち,脳静脈洞血栓症は,出血性転換(hemorrhagic conversion)の傾向があり,血小板減少の状況下で抗凝固療法が困難であることから,最も懸念されている.しかし,ワクチン接種の潜在的なリスクは,COVID-19自体の全体的な罹患率や死亡率と照らし合わせて解釈する必要がある.実際,最近の解析では,VITTの特徴的で非常に恐れられている症状である脳静脈洞血栓症でさえ,COVID-19入院患者(100万人あたり207.1人)の方が,アデノウイルスベースのSARS-CoV-2ワクチン接種後(100万人あたり0.93.6人)よりもはるかに頻繁に発生したことが報告されている(9)

全体的に見て,何億回と投与されたワクチンの中で,1件の症例報告から,この致命的な血栓症とmRNA-1273ワクチンの関連性を立証することは困難である.承認後の継続的な監視が最も重要である.臨床医は,適切な状況下でVITTに注意を払うべきである.なぜならば,迅速な認識と治療が転帰を改善する可能性が高いからだ.

VITTが最初に報告されてから3ヶ月の間に,いくつかのグループがこの疾患の診断と治療に関するガイダンスを作成した.一般的には,ヘパリンの使用を控え,非ヘパリン系抗凝固剤を使用し,免疫グロブリンを静脈内投与する(10).血小板輸血は,重篤な出血や緊急手術の必要性がない限り,一般的には避けるべきである.臨床医や科学者がこの稀な疾患を認識し,証拠に基づいた診断と治療のガイドラインを作成した驚くべきスピードは,承認後のワクチンの安全性監視に対する国民の信頼を高める.我々は,SARS-CoV-2ワクチンの安全性に確信を持っており,ワクチンに関連した有害事象を報告し,それに基づいて行動しようとする科学界の意欲に勇気づけられている(We remain confident in the safety of the SARS-CoV-2 vaccines and are encouraged by the willingness of the scientific community to report and act on suggestions of any vaccine-associated adverse events).

References

1) Cines DB ,  Bussel JB . SARS-CoV-2 vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia [Editorial]. N Engl J Med. 2021;384:2254-2256. [PMID: 33861524] doi:10.1056/NEJMe2106315

2) Schultz NH ,  Sørvoll IH ,  Michelsen AE , et al. Thrombosis and thrombocytopenia after ChAdOx1 nCoV-19 vaccination. N Engl J Med. 2021;384:2124-2130. [PMID: 33835768] doi:10.1056/NEJMoa2104882

3) Shimabukuro T. Update: thrombosis with thrombocytopenia syndrome (TTS) following COVID-19 vaccination. Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP); 2021. Accessed at

www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2021-05-12/07-COVID-Shimabukuro-508.pdf on 17 June 2021.

4) Sangli S, Virani A, Cheronis N, et al. Thrombosis with thrombocytopenia after the messenger RNA–1273 vaccine. Ann Intern Med. 29 June 2021. [Epub ahead of print]. doi:10.7326/L21-0244

5) Brighton Collaboration. Interim case definition of thrombosis with thrombocytopenia syndrome (TTS). Accessed at

https://brightoncollaboration.us/thrombosis-with-thrombocytopenia-syndrome-interim-case-definition on 14 June 2021.

6) Nazy I ,  Sachs UJ ,  Arnold DM , et al. Recommendations for the clinical and laboratory diagnosis of VITT against COVID-19: communication from the ISTH SSC Subcommittee on Platelet Immunology. J Thromb Haemost. 2021;19:1585-1588. [PMID: 34018298] doi:10.1111/jth.15341

7) Thiele T ,  Ulm L ,  Holtfreter S , et al. Frequency of positive anti-PF4/polyanion antibody tests after COVID-19 vaccination with ChAdOx1 nCoV-19 and BNT162b2. Blood. 2021. [PMID: 33988688] doi:10.1182/blood.2021012217

8) Warkentin TE ,  Greinacher A . Spontaneous HIT syndrome: knee replacement, infection, and parallels with vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia. Thromb Res. 2021;204:40-51. [PMID: 34144250] doi:10.1016/j.thromres.2021.05.018

9) Bikdeli B ,  Chatterjee S ,  Arora S , et al. Cerebral venous sinus thrombosis in the US population, after adenovirus-based SARS-CoV-2 vaccination, and after COVID-19. J Am Coll Cardiol. 2021. [PMID: 34116145] doi:10.1016/j.jacc.2021.06.001

10) International Society on Thrombosis and Haemostasis. ISTH interim guidance for the diagnosis and treatment on vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia. Accessed at

https://cdn.ymaws.com/www.isth.org/resource/resmgr/ISTH_VITT_Guidance_2.pdf on 14 June 2021.