COVID-19関連追加(2021813-2)早期の吸入ステロイドについてのCOMMENT

当院HP関連ファイル:

2021412日(STOIC

2021811日(PRINCIPLE

COVID-19早期における吸入コルチコステロイドの使用】

Mangin D, Howard M. The use of inhaled corticosteroids in early-stage COVID-19.

Lancet. Aug 10, 2021.

https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01809-2.

COVID-19に直面した臨床家の絶望感と,その治療法の選択肢の少なさから,臨床現場では、根拠の乏しいデータや仮説に裏付けられた最後の手段(last- resort approaches)がとられてきた.データに基づいた臨床の必要性は,後に有害であることが明らかになったヒドロキシクロロキンの使用の初期の拡散1)2),後に有益であることが明らかになった3)経口コルチコステロイドの初期の使用回避からも明らかである.現在では、このウイルス性疾患に有害でないように,データを収集し,使用を自制する(restraint)という,通常の慎重なアプローチに変わりつつある.

PRINCIPLEやより早期のRECOVERYなど,優れたデザインの実用的なパンデミック研究プラットフォームが登場し,実践に役立てられている.PRINCIPLEは,プライマリケアでのCOVID-19管理に焦点を当てているが,これは非常に重要である.

パンデミック初期に,慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息の患者ではCOVID-19感染症の発生率が低いという疫学データが発表され,吸入コルチコステロイドが何らかの効果をもたらすのではないかと推測された.小規模な非盲検試験では,入院していない患者にも効果がある可能性が示唆された4).吸入コルチコステロイドが有益であることを示すもっともらしいメカニズムはあるが,慎重になるべき2つの理由がある: RECOVERY試験では,経口ステロイドは,重症患者には有効であるが,重症度の低い患者には有効性がなく,有害である可能性があることが示された3).また,COPD(慢性閉塞性肺疾患)や喘息の患者が感染した場合,吸入コルチコステロイドの使用は転帰の悪化と関連することが集団研究で示唆されている5)6).このように一貫性のない結果が出ているため,地域社会で早期COVID-19のハイリスク患者のケアに深く関わっているプライマリケア担当者は,吸入コルチコステロイドの潜在的な有益性と有害性について確信が持てないでいる

The Lancet誌に報告されたLy-Mee YuらによるPRINCIPLE試験の新しい解析結果7)は,早期COVID-19における吸入コルチコステロイドの使用に関する最大規模の試験のデータを提供している.主要アウトカムの対象者は,吸入ブデソニドと通常ケアを受けた833人と,通常ケアのみを受けた1126人であった.平均年齢は64.2歳(SD 7.6),1959人の参加者のうち1805人(92%)が白人,1015人(52%)が女性,1581人(81%)が併存疾患を有していた.当初,試験の主要アウトカムは入院または死亡だったが,英国の入院率が予想よりも低かったため,解析前に変更された(ただし,試験における入院または死亡の割合は,サンプルサイズの計算で推定された5%よりも高かった).また,自己申告による最初の回復までの時間が共主要アウトカム(coprimary outcome)として追加された.その結果,65歳以上の患者および50歳以上で合併症を有するCOVID-19患者に吸入コルチコステロイドを早期に使用することで,自己申告による最初の回復までの時間が中央値で2.94日(95%ベイズ信頼区間[BCI: Bayesian credible interval]1.19-5.11)短縮された(ブデソニド群では11.8[95%BCI 10.0-14.1]であったのに対し,通常ケア群では14.7[12.3-18.0]と推定された).入院または死亡のアウトカムは,主要解析集団において事前規定した優越性の閾値(superiority threshold)を達成しなかった(ブデソニド群787人のうち72人(9%vs 通常ケア群1069人のうち116人(11%; モデル推定値6.8%[95%BCI 4.1-10.2] vs 8.8%[5.5-12.7], オッズ比0.75[95%BCI 0.55-1.03]).自己申告による回復アウトカムにバイアスがかかっている可能性は否定できないプラセボは使用されておらず,また,主要およびその他の副次アウトカムでは,自己申告による質問が使用されている(これらは信頼性や妥当性が事前にテストされた手段(instruments)に基づいていない)ことを考慮すると,十分に説明された吸入薬のプラセボ効果によって,効果の大きさが大きくなった可能性があるかもしれない

吸入コルチコステロイドによる自己申告回復までの時間を短縮する用量反応と効果のメカニズムについては,不可解な点が残っている: RECOVERY試験では,重症度の低い患者群では,全身性ステロイドの使用がプラセボよりも悪い結果になることが示され,PRINCIPLE試験の吸入コルチコステロイドは,全身に吸収されるのに十分なほど高用量であった.個々の症状に対する吸入コルチコステロイドの効果の違いについて発表されたデータは興味深いものであった: 注目すべきことに,予想されたように,呼吸器症状よりも消化器症状と筋肉痛に関して群間の差が大きかった.また,患者の気分の良さを示すグローバル自己評価(global self-rating of how well patients felt)の群間差は28日目までにほぼ消失し,そしてすべての症状が軽減するまでの時間も群間差がなかったが,主観的な心理的幸福度を示すWHO-5 Well-Being Indexの群間差は28日目でも残っていたことが注目された.疾患経過,特にCOVID-19後の持続的なmorbidityへの影響を明らかにするためには,より長期の追跡調査が有用であろう.

PRINCIPLE試験のデータに基づけば,COVID-19早期に,試験母集団(COVID-19症状が継続している65歳以上または50歳以上で特定の合併症を有する人)に類似した患者で,吸入コルチコステロイドの使用を検討することは妥当であると思われる(PRINCIPLEの吸入ブデソニド群の参加者の80%が、吸入コルチコステロイドを少なくとも1週間使用した)PRINCIPLEにおける様々なサブグループ解析では,対象となる集団の中で,どのような特定の患者や疾患の特徴が有効性を予測する可能性が高いのか,何のヒントも得られなかったこれらの試験データは,合併症(comorbidities)のリスクが低い若年層(65歳未満で合併症を持たない人や50歳未満の人)への使用を支持するものではないこの試験の参加者ではワクチン接種が一般的ではなかったため,重要な疑問は,疾患重症度や経過が異なる完全ワクチン接種集団において,どのような効果が見られるかということである

我々は,最近行われた2つの実用的な(pragmaticCOVID-19治療試験プラットフォームを通じて、アプローチの重要な変化を目の当たりにしている: 産業界ではなく政府が資金を提供し(PRINCIPLE Fundingは,National Institute of Health Research and United Kingdom Research Innovation)(ちなみにSTOICNational Institute for Health Research Biomedical Research Centre and AstraZeneca),製品のマーケティングではなく,臨床医の緊急のニーズに基づいて重要な問題に答え,臨床的均衡(clinical equipoise, 科学的妥当性)の範疇でデータを提供する試験であるーこの重要性を過小評価したり見失ったりしてはならない.

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References

1) Johnston C Brown ER Stewart J et al.

Hydroxychloroquine with or without azithromycin for treatment of early SARS-CoV-2 infection among high-risk outpatient adults: a randomized clinical trial.

EClinicalMedicine. 2021; 33100773

2) Department of Health and Human ServicesPublic Health ServiceFood and Drug AdministrationCenter for Drug Evaluation and ResearchOffice of Surveillance and Epidemiology

Pharmacovigilance memorandum. Hydroxychloroquine and chloroquine: all adverse events in the setting of COVID-19.

https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2020/OSE%20Review_Hydroxychloroquine-Cholorquine%20-%2019May2020_Redacted.pdf

Date: May 19, 2020

Date accessed: July 29, 2021

3) Horby P Lim WS Emberson JR et al.

Dexamethasone in hospitalized patients with COVID-19.

N Engl J Med. 2021; 384: 693-704

4) Ramakrishnan S Nicolau Jr, DV Langford B et al.

Inhaled budesonide in the treatment of early COVID-19 (STOIC): a phase 2, open-label, randomised controlled trial.

Lancet Respir Med. 2021; 9: 763-772

5) Schultze A Walker AJ MacKenna B et al.

Risk of COVID-19-related death among patients with chronic obstructive pulmonary disease or asthma prescribed inhaled corticosteroids: an observational cohort study using the OpenSAFELY platform.

Lancet Respir Med. 2020; 8: 1106-1120

6) Aveyard P, Gao M, Lindson N, et al. Association between pre-existing respiratory disease and its treatment, and severe COVID-19: a population cohort study. Lancet Respir Med 9: 909–23.

7) Yu L-M Bafadhel M Dorward J et al.

Inhaled budesonide for COVID-19 in people at high risk of complications in the community in the UK (PRINCIPLE): a randomised, controlled, open-label, adaptive platform trial.

Lancet. 2021; (published online Aug 10.)

https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01744-X