新型コロナウイルス感染症まとめver3-32021829日)空気媒介性伝播のレビュー

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【呼吸器ウイルスの空気媒介性伝播】

Wang CC, et al. Airborne transmission of respiratory viruses. Science  27 Aug 2021:

Vol. 373, Issue 6558, eabd9149. https://doi.org/10.1126/science.abd9149.

Main

呼吸器ウイルスは,感染者の咳やくしゃみから発生する大きな呼吸器飛沫(large respiratory droplets)が,可能性のある宿主の眼や鼻、口などの粘膜に付着する(飛沫伝播: droplet transmission),あるいはそれらが表面に沈着し,宿主が触れることによって粘膜に移る(fomite伝播: fomite transmission)感染)という,主として大きな呼吸器飛沫を介して拡散すると考えられてきた.これらの飛沫は,感染者から12メートル以内の地面に落ちると考えられてきた(多くの公衆衛生機関が呼吸器ウイルスに感染した人からの安全な距離を推奨する際の重要な前提となっていた).一方,あまり一般的ではないと考えられている空気媒介性伝播(airborne transmission)は,感染性エアロゾルや「飛沫核: droplet nuclei」(空気中で蒸発した飛沫)を吸入することを指し,その大きさは5μm未満であり,感染者から12mを超えて離れた場所を移動すると定義されているエアロゾルとは,液体,固体,半固体の微小粒子であり,非常に小さいため,空気中に懸濁したままであるものをいう(aerosols are microscopic liquid, solid, or semisolid particles that are so small that they remain suspended in air.呼吸器エアロゾルは,健常者でも呼吸器感染者でも,呼吸,会話,歌唱,叫び声,咳,くしゃみなど,あらゆる呼気活動の際に発生する(1-4)

これまでの空気媒介性伝播の定義では,エアロゾルが感染者の至近距離(at close range)で吸入される可能性が無視されていた.呼気エアロゾルは,放出した人に近いほど濃度が高くなるため,曝露の可能性が高くなる.また,エアロゾルと飛沫の大きさの違いは,従来の5μmではなく,空気力学的な挙動(aerodynamic behavior)で区別するため,最近では100μmに更新することが提案されている(5-7).具体的には,100μmは,静止した空気中に5秒を超えて懸濁し(remain suspended)(1.5mの高さから),感染性のある人から1mを超えて移動し,吸入できる最大の粒子を表している.感染性のある人が咳やくしゃみをしたときに発生する飛沫は,<0.5mの近距離でも感染を伝える可能性があるが,発声などの呼気活動によって発生するエアロゾルの数やウイルス量は,飛沫に比べてはるかに多くなる(8-10).エアロゾルは,空気中に滞留したり,換気不良空間に蓄積したり,近距離および遠距離でも吸入されるのに十分に小さいため,現在の呼吸器疾患対策プロトコルにエアロゾル対策を盛り込むことが急務となっている.COVID-19パンデミックでは,主に飛沫やfomiteによる伝播を防ぐことに重点が置かれてきたが,空気媒介性経路を防ぐための対策を追加するには,より多くの証拠が必要とされている.

呼吸器疾患の蔓延におけるさまざまな感染様式の相対的な重要性については,何世紀にもわたって議論されてきた.20世紀以前は,呼吸器感染症は,感染者が放出する「疫病粒子(pestilential particles)」によって広がると考えられていた(11, 12)1900年代初頭,チャールズ・チャピン(Charles Chapin)は,呼吸器疾患の主な伝播経路は接触であり,飛沫(droplet)伝播(spray-borne transmission)は接触伝播の延長線上にあると主張し,空気媒介性伝播に関するこのような考え方を否定した(13)チャピンは,空気による伝播に言及すると,人々が怖がって行動しなくなり,衛生習慣が失われることを懸念したチャピンは,至近距離(close range)の感染を飛沫伝播と同一視し,エアロゾル伝播が近距離(short distances)でも起こるという事実を無視したこの根拠のない仮定が疫学研究で広まり(14),それ以来,呼吸器ウイルスの伝播を抑制するための緩和策は,飛沫やfomiteによる伝播を制限することに重点が置かれるようになった(15).これらの戦略の中には,エアロゾル伝播の抑制にも部分的に有効なものがあり,その有効性が飛沫伝播を証明するものであるという誤った結論に至っている.

飛沫伝播が主流であると推測されているが,多くの呼吸器ウイルスの空気媒介性伝播を裏付ける強固な証拠がある; ヒトライノウイルス(hRV(9, 26-28),アデノウイルス,エンテロウイルス(29),重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV(30, 31),中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV(32)SARS-CoV-2(33-36)など(Table 1).A型インフルエンザウイルスは,家庭内での伝播を対象としたある研究では,空気媒介性伝播が伝播の約半分を占めると推定されている(20).ライノウイルスの伝播に関するヒトチャレンジ研究では,エアロゾルが主要な伝播様式である可能性が高いと結論づけられている(26).ハムスターやフェレットのSARS-CoV-2感染は,直接接触や飛沫伝播による影響を排除するように設計された実験構成において,空気を介して伝播することが示されている(33, 37, 38).インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,RSV,ヒトメタニューモウイルス,hRVに感染した際の呼吸器排出物を分析したところ,さまざまなサイズのエアロゾル中にウイルスゲノムが存在していることが明らかになった.SARS-CoV-2 RNAが検出され,0.25>4μmの範囲のエアロゾルから感染性ウイルスが回収されている(34, 35, 40-44).インフルエンザウイルスRNAも,感染者から呼出された微細なエアロゾル(fine aerosols)(5μm以下)と粗いエアロゾル(coarse aerosols)(>5μm)の両方で検出されており、微細なエアロゾル粒子に含まれるウイルスRNAの方が多いことがわかっている(23).実験室での研究によると,エアロゾル化したSARS-CoV-2の半減期は約13時間であることが分かっている(45-47)世界保健機関(WHO)と米国疾病予防管理センター(CDC)は,20214月と5月にそれぞれ,ウイルスを含んだエアロゾルの吸入が,近距離(short range)と遠距離(long range)の両方でSARS-CoV-2を拡散させる主要な様式であることを公式に認めた(48, 49)

Table 1: Airborne transmission of respiratory viruses.

Representative evidence of airborne transmission for various respiratory viruses and their basic reproduction number. Cells with dashes indicate not applicable.

呼吸器病原体の曝露に関する数学的モデリングによると,感染性のある人から2m以内のほとんどの距離では,伝播は短距離エアロゾルの吸入によって支配され,会話時には0.2m以内,咳時には0.5m以内にいる場合にのみ飛沫が支配的となる(50).逸話的な観察(anecdotal observations)では,近接距離(close proximity)における麻疹ウイルス(16-18)や結核菌(51,52)の感染は,これまで飛沫のみが原因とされてきたが,近距離(short range)でのエアロゾルによる伝播も含まれる.これまで飛沫によって伝播するとされてきた呼吸器疾患の多くは,空気媒介性伝播が重要であるか,あるいは支配的であると考えられるため,さらなる研究が必要である.

COVID-19パンデミックの初期には,麻疹に比べて相対的に低い基本再生産数(R0)を根拠に,飛沫やfomitesが主な伝播経路であると考えられていた(53-55)Table 1).R0とは,均一な感受性を持つ集団において,一次感染者が引き起こす二次感染者の平均数である.この議論は,すべての空気媒介性疾患は感染性が強いに違いないという長年の信念(a long-standing belief)の上に成り立っているしかし,空気媒介性疾患のR0値は様々であり,その平均値は様々な要因によって変化するため,このような仮定に科学的根拠はない.例えば,結核(R0, 0.264.3)は間違いなく空気媒介性細菌感染症だが(obligate airborne bacterial infection(56)COVID-19R0, 1.48.9)よりも伝播性が低いとされている(57-59)空気媒介性伝播に影響を与える要因としては,サイズの異なる呼吸器粒子中のウイルス量,エアロゾル中のウイルスの安定性,各ウイルスの用量反応関係(dose-response relationship)(特定の曝露経路で一定数のウイルスに曝露した場合の感染確率)などが挙げられるさらに,R0は平均であり,COVID-19は大きく過剰分散(overdispersed)しているため,ある条件の下では感染性が強いことを意味する.疫学調査によると,SARS-CoV-2の場合,1020%の感染者がその後の感染の8090%を占めることがわかっており,二次発病率(曝露した人が感染する割合)の異質性(heterogeneityが浮き彫りになっている(60-63)

COVID-19に関する研究が進み,SARS-CoV-2の空気媒介性伝播の優位性を示す豊富な証拠が得られている.この経路は,特定の環境条件,特に換気が不良である屋内環境で優位になり(6, 34, 35, 41, 42, 45, 50, 64-68),この観察結果は,換気の影響を受けるのはエアロゾルだけであること(大きな飛沫や表面ではなく)を示唆する.さらに,屋内と屋外の伝播率の顕著な違いは,空気媒介性伝播でしか説明できない.なぜなら,換気ではなく重力による沈降の影響を受ける大きな飛沫は,どちらの環境でも同じように振る舞うからである(69).疫学的分析,気流モデルのシミュレーション,トレーサー実験,レストラン(36),食肉加工工場(70),クルーズ船(71),合唱団リハーサルでの歌唱中(64),教会での長距離感染(72)などの様々な組み合わせにより,fomitesや飛沫よりもエアロゾルが最も可能性の高い感染経路であることが示唆されている.これらのイベントに参加したほとんどの人が,汚染された同じ表面に触れる,あるいは感染者の咳やくしゃみから発生した飛沫を至近距離(at close range)で曝露するといった,感染を引き起こすのに十分なウイルス量に遭遇する可能性は極めて低い.しかし,これらの屋内イベントに参加するすべての人に共通しているのは,同じ部屋で共有された空気を吸入しているということである.超拡散イベントに共通するのは,屋内,混雑,曝露時間が1時間以上,換気不良,発声,適切なマスクを着用していないことなどを含む(36).飛沫伝播は,0.2m以内の距離で会話をしている場合にのみ支配的であり(50)SARS-CoV-2が汚染された表面を介して伝播する可能性は低い(73-75)ことを考えると,超拡散イベントは,エアロゾルを伝播経路に含めなければ説明できない.

呼吸器ウイルスの空気媒介性伝播を防止するための効果的な指針や政策を確立するためには,そのメカニズムをよく理解することが重要である.空気媒介性伝播が起こるためには,エアロゾルが生成され,空気を介して輸送され,感受性の高い宿主に吸入され,呼吸器管に沈着して感染が開始される必要がある.ウイルスは,これらの過程で感染性を維持しなければならない.この総説では,ウイルスを含んだエアロゾルの生成,輸送,沈着に関わるプロセスと,これらのプロセスに影響を与える重要なパラメータについて説明し,効果的な感染制御対策を考える上で重要な情報を提供する(Fig. 1)

 

 

Fig. 1: Airborne transmission of respiratory viruses.

Phases involved in the airborne transmission of virus-laden aerosols include (i) generation and exhalation; (ii) transport; and (iii) inhalation, deposition, and infection. Each phase is influenced by a combination of aerodynamic, anatomical, and environmental factors. (The sizes of virus-containing aerosols are not to scale.)

 

 

Generation of virus-laden aerosols

呼気活動は,異なるメカニズムで呼吸器管(respiratory tract)内の異なる部位からエアロゾルを生成する.呼吸,発声,咳などの動作によって生成されるエアロゾルは,エアロゾルのサイズ分布や気流の速さが異なり(76, 77),その結果,各エアロゾル粒子が運ぶことのできるウイルスの種類や量,空気中での滞留時間,移動距離,そして最終的にエアロゾルを吸い込んだ人の呼吸器管内の沈着部位が決定される(78)感染者が放出するエアロゾルには,ウイルス(39, 79-81)のほか,電解質,タンパク質,界面活性剤,呼吸器表面を覆う液体中のその他の成分(82, 83)が含まれている可能性がある(Fig. 2

Fig. 2: Physicochemical properties of virus-laden aerosols.

The behavior and fate of virus-laden aerosols are inherently governed by their characteristic properties, including physical size, viral load, infectivity, other chemical components in the aerosol, electrostatic charge, pH, and the air-liquid interfacial properties.

Sites of aerosol formation:

呼吸器エアロゾルは,生成される部位によって,肺胞エアロゾル細気管支エアロゾル気管支エアロゾル喉頭エアロゾル口腔エアロゾルに分類される(3, 84, 85)細気管支エアロゾルは,通常の呼吸時に形成される(3)呼気の際に,細気管支の内腔表面を覆っている液体の膜が破れ,小さなエアロゾルが発生するこのようなエアロゾルは,空気-液体または空気-粘液の界面を不安定にするせん断力(shear forces)によって生成される呼吸器の気流(respiratory airflow)は,特に上気道の大きな内腔では高流速下で乱流となることが多く,気管支や細気管支では層流(laminar flow)に移行する(76, 86-88)喉頭エアロゾルは,発声時の声帯の振動によって発生する(3)声帯が重なり(apposition)によって液体橋(liquid bridges)が形成され,それが呼気の際に破裂してエアロゾルとなる一方,>100μmの飛沫は,主に口腔内の唾液から生成される(3).エアロゾル放出率(emission rates)は,歌唱や叫びなどの活動時の気流速度や発声量に応じて増加する(9, 89, 90)

Number and size distributions:

呼気エアロゾルのサイズは,エアロゾルの空力特性(aerodynamic characteristics)だけでなく,その沈着動態や感染部位を決定するため,その運命を左右する最も影響力のある特性の一つである.呼吸器エアロゾルのサイズ分布は,1890年代以降,光学顕微鏡,高速度写真,さらに最近ではレーザーを用いた検出技術など,さまざまなアプローチで研究されてきた(1, 2, 91).初期の研究では,<5μmのエアロゾルを検出できない測定技術や分析方法が用いられていたが(1, 92),空気力学的走査型移動粒子径測定装置(aerodynamic and scanning mobility particle sizing systems)などの現在の装置では,より小さなエアロゾルの検出が可能になっている.呼吸器エアロゾルは,0.1μm0.20.8μm1.51.8μm3.55.0μm付近にピークを持つmutimodalな粒度分布を示し,それぞれが異なる生成部位,生成プロセス,呼気活動を表している(2, 8, 9, 85, 91, 93)modal sizeが小さいほど,エアロゾルの発生源が呼吸器管の深いところにあることを示している(the smaller the modal size, the deeper the aerosols originate in the respiratory tract).会話では145μm,咳では123μmを中心としたより大きい様式(mode)が,主に口腔や唇から発生している(3)呼気エアロゾルの数は,呼吸,会話,咳などのほとんどの呼吸活動において,<5μmが多く,<1μmも多く含まれている(8, 9)全体として,会話では,>100μmの飛沫に対して,<100μmのエアロゾルが1001000倍生成される(3)

通常の呼吸では,呼出された空気(exhaled air1リットルあたり最大7200個のエアロゾル粒子が放出されることが示されている(9, 93)呼吸の間に排出されるウイルスを含んだエアロゾル数は,個人差が大きく,病期,年齢,BMI,既往症などに左右される(94, 95)一般的に、小児の肺は発達途上であり,エアロゾルを形成する細気管支や肺胞の数が少ないため,小児は成人に比べてウイルスを含んだエアロゾルの排出量は少ない(96).エアロゾルの形成に関わるプロセス,特にエアロゾルを形成するために分解する傾向に影響を与える気道を覆う液体(fluid lining the airwaysの特性は,呼出されるエアロゾル数に重要な役割を果たす(94).ある研究では,1分間の発声で少なくとも1,000個のエアロゾルが発生すると報告されている(97)咳は短時間でより多くのエアロゾルを発生させることができるが,特に臨床症状が見られない感染者による,連続した呼吸や発声に比べて散発的(more sporadic)であるしたがって,感染者の呼吸や発声などの継続的なvocalizationは,頻度の低い咳よりも,ウイルスを含んだエアロゾルの総量が多くなると可能性が高いだろう

Viral content of aerosols:

エアロゾルのウイルス量は,空気媒介性伝播の相対的な寄与を決定する重要な要素である.しかし,空気媒介性ウイルス(airborne viruses)は濃度が低く,サンプリング中に破損や不活性化しやすいため,空気媒介性ウイルスをサンプリングして検出することは困難である.空気サンプルはしばしば,高感度の定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR: quantitative polymerase chain reaction)や定量的逆転写PCRqRT-PCR: quantitative reverse transcription PCR)法によって,ウイルスゲノムの存在を分析することが多い.しかし,ゲノム物質(genomic material)が存在するだけでは,ウイルスに感染性があるかどうかはわからない.ウイルスのviabilityは,ゲノム物質,核タンパク質,カプシド,エンベロープなどの完全性(integrity)と機能に依存する.空気中のウイルスを培養しようとして失敗した研究もあるが,液体凝縮回収装置(liquid condensation collection device)などのより穏やかな方法(gentle methods)を用いることで,エアロゾル中のインフルエンザウイルスやSARS-CoV-2など,多数のviableな呼吸器ウイルスを検出することが可能になった(35, 40, 98)

呼気や屋内の空気サンプルからは,アデノウイルス(29, 99),コクサッキーウイルス(100),インフルエンザウイルス(22, 23, 98, 101),ライノウイルス(9, 26-28),麻疹ウイルス(16, 17)RSV(25, 102)SARS-CoV(31)MERS-CoV(32, 103)SARS-CoV-2(34, 35, 40-44)など,多くのウイルスが分離されてきた(Table 1).COVID-19患者2人がいた病室の空気中のSARS-CoV-2濃度は,1リットルあたり674TCID501リットルあたりの組織培養感染量の中央値: median tissue culture infectious dose per liter)であった(35).エアロゾル粒子の異なるサイズ間でのビリオンの分布は,その生成部位,生成メカニズム、および生成部位での感染の重症度に関連しており,ウイルスごとに異なる(104).一般的には,臨床検体(喀痰や唾液など)中のウイルス濃度は,呼吸器液(respiratory fluid)から発生する飛沫やエアロゾル中の濃度に直結すると推測されている.つまり,ウイルス量は飛沫やエアロゾルの初期体積に比例すると考えられている(viral load scales with the initial volume of droplets and aerosols(50, 55, 71).しかし,A型またはB型インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,コロナウイルス,hRVRSVに感染した人の呼気から採取したエアロゾルと,さまざまな環境で採取した空気をサイズごとに分けてみると,ウイルスはより小さなエアロゾルに濃縮されることがわかった(10).インフルエンザ患者の呼吸,会話,咳の間に採取したサンプルでは,ウイルスRNAの半分以上が45μm未満のエアロゾルから検出された(23, 104, 105).いくつかの呼吸器ウイルスを対象とした研究では,大きなエアロゾルよりも小さなエアロゾル(<5μm)にウイルスRNAが多く含まれていた(39).診療所で測定した環境エアロゾル中のインフルエンザウイルスとRSVの分布を調べたところ,A型インフルエンザウイルスRNA42%4μm以下のエアロゾルに含まれていたが,RSV RNA9%しか含まれていなかった(102).また,診療所,保育所,飛行機内のエアロゾルを採取した研究では,A型インフルエンザウイルスRNAは半数を超えて2.5μm未満のエアロゾルに含まれていた(106).ある研究では,COVID-19患者の一部は,呼気中に1時間あたり最大105107SARS-CoV-2ゲノムコピーを放出するが,一方他の患者は検出可能なウイルスを呼出しないことがわかった(107)産生されるエアロゾルの数とそのウイルス量の両方に大きな個人差があることが,COVID-19伝播の過剰分散(overdispersion(これは超拡散イベントには欠かせない要素である)に寄与しているかもしれない(108)

感染性ウイルスは小さなエアロゾルに多く含まれているが,ある数のウイルスに曝露したときの感染確率(probability of infection)を規定する用量反応関係(dose-response relationship)はまだ解明されていない.感染しやすい宿主の場合,最小感染量(minimum infectious dose)はウイルスの種類と呼吸器管内の沈着部位によって異なり,肺の奥深くに沈着するより小さなエアロゾルを吸入すれば,感染を開始するために必要なウイルスの量はより少なくて済む可能性がある.インフルエンザウイルスの研究では,ヒトの感染開始に必要な量をPFUplaque-forming units)で表すと,エアロゾルを吸入した場合は,鼻腔内播種(intranasal inoculation)した場合の100分の1程度であることが示されている(101).エアロゾル中のウイルス量や感染性ビリオンの分布を粒子径の関数として,様々な人や疾患病期で評価することができれば,呼吸器ウイルスの空気媒介性伝播についての理解が深まると考えられる.

Virus-laden aerosols in the environment

エアロゾルの物理的特性は,空気中の輸送に影響を与える.呼吸器エアロゾルの最初の流速(velocity)は,エアロゾルが呼吸器管でどのように生成され,どのように放出されるかに依存する; たとえば,咳は,発声よりも速い流速(higher velocities)で放出される飛沫やエアロゾルを生成する(109).エアロゾルの輸送は,気流や環境特性,エアロゾル自体の物理的特性の組み合わせによって制御される.エアロゾルは,慣性,ブラウン運動,および重力,電気泳動、熱泳動などの外力によって流線(steamline)から発散(diverge)することがある.このような運動は,表面に沈着することによって空気中から除去されることにもつながる.空気中のウイルスの寿命は,物理的な輸送と生物学的な不活性化の関数であり,これらは温度,湿度,紫外線(UV: ultraviolet)などの環境因子の影響を受ける

空気中に残る(remain airborne)呼気エアロゾルのサイズは,蒸発(evaporation),凝固(coagulation),および/または沈着(deposition)の結果,時間とともに変化する.水性エアロゾル(aqueous aerosols)からの水の蒸発は,通常,Hertz-Knudsen方程式(110)で表される.しかし,呼吸器エアロゾルには,タンパク質,電解質,その他の生物種などの不揮発性成分が含まれているため,蒸発速度は純水よりも遅くなる(111).蒸発の際,エアロゾルは,位相,形態,粘度,pHなどの変化を受けるが、これらはすべて,実際の呼吸器エアロゾルではなく、シミュレーションで研究されている(83, 112).エアロゾルの物理的特性の変化は,含まれるウイルスの輸送や運命に影響を与え,それに伴うエアロゾルの化学的特性の変化は,ウイルスのviabilityに影響を与える(113)また,ウイルスを含む空気中のエアロゾルの全体的なサイズ分布は,時間とともに変化するこれは,より大きなエアロゾルが地面あるいは他の表面に沈降して除去され,分布の中央値がより小さなサイズにシフトするためである(114)

ウイルスを含んだエアロゾルの空気中での滞留時間(residence timeは,その拡散範囲を決定する上で非常に重要である.他の力(forces)がない場合,特定サイズのエアロゾルの滞留時間は,粘性抗力(viscous drag force)と重力のバランスから生じる終末沈降流速(terminal settling velocity)(up)に関連しており,層流(laminar flow)にさらされている小粒子に対するストークスの法則で説明されている(115, 116)

ここで,dpはエアロゾル粒子の直径,gは重力加速度,ρpはエアロゾル粒子の密度,Ccは粒子径が気体分子の平均自由行程と同程度になったときに生じるすべりによる空気抵抗の減少を考慮したカニンガムのすべり補正係数,ηは空気の動的粘度である.

そこで,周囲の空気が静止していると仮定して,特定の大きさのエアロゾルが地面に到達するまでの沈降時間を推定することができる(Fig. 3静止した空気中では,5μmのエアロゾルが1.5mの高さから地面に沈降するのに33分かかるのに対し,1μmのエアロゾルは>12時間も空中に懸濁することができる(suspended in air(116).しかし,ほとんどの現実的な環境では,周囲の気流の流速を考慮に入れる必要がある.さらに,呼吸器エアロゾルが呼出されると,これらの粒子は,独自の速度と軌道を持つ呼気中の高湿度プルームに含まれ,これも最終的な到達可能距離と方向を決定する役割を果たす(86).ウイルスを含んだエアロゾルの移動距離は,エアロゾルサイズ,エアロゾルを運ぶ流れの最初の流速,その他の環境条件(屋外の風速や,自然換気や暖房・換気・空調(HVAC)システムによって引き起こされる室内の気流(air currents)など)に左右される(117, 118)呼気エアロゾルの濃度は,発生源(感染者)の近くで最も高く,呼吸器プルーム(respiratory plume)が周囲の空気と混ざることで距離とともに低下する(50, 119)

 

 

Fig. 3: How long can aerosols linger in air?

Residence time of aerosols of varying size in still air can be estimated from Stokes’ law for spherical particles (116). For example, the time required for an aerosol of 100, 5, or 1μm to fall to the ground (or surfaces) from a height of 1.5 m is 5 s, 33 min, or 12.2 hours, respectively.

咳や発声の際に発生する呼気エアロゾルの軌跡と蒸発については,計算モデルを用いて研究されている(117, 120)大きな飛沫はすぐに最大水平距離に達し,数m以内に地面や表面に落下する傾向があるが,エアロゾルは数秒から数時間にわたって懸濁し,長距離を移動し,換気不良空間では空気中に蓄積される(117).ウイルスを含んだエアロゾルの流れの多相性は,特に咳のように気流の流速が速い呼気(exhalations with higher airflow velocities)の場合,流体動態やエアロゾルの移動距離に大きく影響する(121)

Environmental factors that affect aerosol transmission

エアロゾル中のウイルスの生存率(持続性,安定性,感染性の保持とも呼ばれる)は,回転ドラムを用いて実験的に測定するのが一般的であり,静止したチャンバーに比べてエアロゾルを長く懸濁させることができる.ウイルスの崩壊は,first-order kineticsで説明することができる.

ここで,Cは時刻tにおける感染性ウイルスの濃度,Coは感染性ウイルスの最初の濃度,kは不活化速度定数(inactivation rate constant)である(122).不活化速度定数は,ウイルスによって異なり,温度,湿度,紫外線,ウイルスがエアロゾル化した呼吸器液の化学組成など,多くの要因に依存する(45, 46, 123).このような依存性,特に呼吸器液組成(respiratory fluid composition)に依存するため,異なる研究結果を比較することは困難である.99.99%の不活化に必要な時間は,数時間から数ヶ月と様々である(124)崩壊速度は半減期で定量化でき,実験室で生成されたエアロゾル中のSARS-CoVSARS-CoV-2では約13時間である(125-127)

Temperature:

エアロゾル中のウイルスの生存と伝播には,温度が非常に重要であり(125, 128, 129),ウイルスを構成するタンパク質,脂質,ゲノム物質の安定性に影響を与える可能性が高い.上気道は肺よりも数度低い温度に保たれており(130),上気道での複製能力が高まっていることが示唆されている(131)SARS-CoV(132)SARS-CoV-2(133),インフルエンザウイルス(134)は,低温になるほどより安定するが,これはおそらく,(アレニウス方程式に支配されるように)崩壊速度が遅くなり,エンベロープウイルスのリン脂質の秩序(ordering of phospholipids)が強くなるためである.疫学的証拠や動物実験によると,上気道に感染することが知られている呼吸器ウイルスの伝播は,より低温が望ましいことが示唆されている(128, 135)

Relative humidity:

エアロゾルの蒸発速度と平衡サイズを調節することにより,相対湿度(RH)はエアロゾルの輸送と,エアロゾルに含まれるウイルスのviabilityに影響を与える(113, 114, 129)呼吸器エアロゾルは、飽和環境から低いRHに移行する際に,呼吸器管から周囲の空気に放出されて蒸発する蒸発プロセスは数秒で終わると予想される(114, 136)周囲のより低いRHでは,蒸発はより迅速に起こり,より小さな平衡サイズ(equilibrium size)で平衡化する(136)80%を下回るRHでは,呼吸器エアロゾルは,元のサイズの2040%である最終的な直径に達する(129)

インフルエンザウイルス,風邪の原因となるヒトコロナウイルス,RSVなどの症例の季節性は,少なくとも部分的にはRHに起因している(134)RHに対するウイルスの感受性は,環境中のウイルスの持続性および/または免疫防御に対するRH関連効果によって影響を受けるかもしれない.粘膜繊毛クリアランスは,低いRHではそれほど効率的ではない(134).動物実験では,インフルエンザウイルスの伝播は低RHで有利であることが示されている(135, 137); しかし,2009年のパンデミックインフルエンザAウイルス(H1N1)をより生理学的に現実的な培地(medium)で研究した結果,ウイルスは20100%の幅広いRH範囲で非常に安定して感染性を維持したと報告されている(138).また,11種類の空気媒介性ウイルスのRHに対する感受性を調べた研究では,一部のRNAウイルスは低RHで最もよく生存するが,その他のウイルスは高RHでよりよく生存することがわかった(139)RHと飛沫およびエアロゾル中のウイルスviabilityの関係は,そのウイルスに特徴的であり,ウイルスの固有の物理化学的特性と周囲環境の両方によって調節される(113, 129, 139)Fig. 2

UV radiation:

紫外線照射(irradiation with UV light)は,インフルエンザウイルス(127, 140)SARS-CoV,その他のヒトコロナウイルス(141)など,空気媒介性ウイルスを不活性化するための効果的なアプローチとして古くから確立されている.培地中のSARS-CoV-2(142)やエアロゾル中のSARS-CoV-2(47)は,地上の太陽光に含まれる波長の紫外線によって急速に不活性化される.紫外線はゲノム物質にダメージを与え,ウイルスを不活性化させる(143).とはいえ,紫外線消毒ランプ(UV disinfection lamps)の使用時には,目や皮膚に直接触れないように注意しなければならない.

Airflow, ventilation, and filtration:

気流は,ウイルスを含んだエアロゾルの輸送に強く影響する(81).エアロゾルは,重力によって急速に沈着する飛沫とは対照的である.呼気中のエアロゾルは,呼気が環境よりも暖かいために上昇する傾向があり(50),その軌跡は身体の熱プルーム(thermal plumeにも影響される(81).屋外では気流が大きいほど拡散しやすくなるが,屋内では周囲の壁や天井によって気流が制限される.換気量(ventilation rate)と気流のパターンは,屋内環境におけるウイルスの空気媒介性伝播に重要な役割を果たす(144-146).ライノウイルスの伝播に関する研究では,換気量が少ないと,屋内でウイルスを含んだエアロゾルに曝露リスクが高まることが示されている(27, 28).高層マンションで発生したCOVID-19アウトブレイクは,1本の送風管で接続された垂直方向に並んだユニットに沿って発生しており,空気の共有に伴う空気媒介性伝播のリスクを実証している(147).換気量を改善して,換気不足の建物の二酸化炭素濃度を3200ppmから600ppmに下げる(換気量を1人当たり1.7リットル/秒から24リットル/秒に増やすことに相当)と、結核の二次発病率がゼロになったことが示されている(146)

屋内環境の気流は,換気システムの種類(窓やドアを開けた自然換気か,送風機を使った機械換気か,あるいはそれらのハイブリッドか),気流パターン,空気交換率(air change rate),空気ろ過などの補助システムなど,換気システムの設計と運用状況によって左右される(145, 148)Fig. 4).WHOは最近,1人当たり毎秒10リットルの換気量を推奨している(149).また,0.3μm以上のエアロゾル粒子を99.97%以上除去できる携帯型高効率微粒子空気(HEPA: high-efficiency particulate air)清浄機を適切に配置することも,特に換気やユニバーサルマスキングと組み合わせることで,感染性エアロゾルの曝露を減らすのに有効である(150-152).換気やろ過は,ウイルスを含んだエアロゾルを除去するのに役立つが,拡散やエアロゾル吸入のリスクを減らすためには,正しく実施しなければならない(93, 151).ある研究では,エレベーター,教室,スーパーマーケットにおいて,無症候性感染者によるCOVID-19の空気媒介性伝播リスクを,現場での測定と数値流体力学(CFD: computational fluid dynamics)シミュレーションを組み合わせて定量的に評価し,不適切な換気によって,他の部屋の場所よりもリスクがはるかに高いホットスポットが形成される可能性があることを示した(93)さらに,屋内での咳やくしゃみによる飛沫の飛散(droplet spray)を防ぐために設計された物理的なプレキシガラス障壁(physical plexiglass barriers)は,気流を妨げ,さらには高濃度のエアロゾルを呼吸ゾーン(breathing zone)に閉じ込める可能性があり,SARS-CoV-2の伝播を増加させることが示されている(153)

Fig. 4: Factors affecting indoor airborne transmission.

Whereas the motion of large droplets is predominantly governed by gravity, the movement of aerosols is more strongly influenced by airflow direction and pattern, type of ventilation, and air filtration and disinfection.

空気媒介性感染のリスクと換気量(ventilation rate)との相関関係は,ウイルス輸送の箱型モデル(box model)とWells-Riley感染モデルで評価できる(17, 64)

ここで,Pは感染確率(probability of infection),Nは感染確定例数(number of confirmed infection cases),Sは感受性例数(number of susceptible cases),Iは感染させる者の数(number of infectors),qは量子(quanta)(感染量: infectious dose)発生量(quanta/時間),pは感受性者の肺換気量(立方メートル/秒),tは曝露時間(時間),そしてQは屋内換気量(立方メートル/秒)である.Wells-Riley法を用いたモデルを,ある合唱団の練習におけるCOVID-19大規模コミュニティアウトブレイクに適用したところ,症候性指標症例が1人あり,参加していた61人のうち53人が感染した(二次発病率87%).その結果,換気が不良であったことに加えて,混雑した会場,大きな発声,長時間の活動などが二次発病率の高さにつながったと結論づけられた(64).合唱団の練習では,顔を合わせる機会は限定され,手指の消毒に細心の注意が払われていたため,fomiteや飛沫伝播が主要な寄与であることは否定された(64).今後は,さまざまな条件下で許容される最低限の換気量や,換気の種類が伝播のリスクに及ぼす影響についての研究が必要である.

Deposition of virus-laden aerosols

吸入されたウイルスを含んだエアロゾルは,宿主の呼吸器管に沈着する可能性がある.気道の解剖学的構造,呼吸パターン,呼吸器管におけるエアロゾル輸送の空気力学(aerodynamics),吸入エアロゾルの物理化学的特性など,多くの解剖学的,生理学的,空気力学的要因が沈着パターンに影響を与えるが,エアロゾルサイズが沈着部位を決定する上で再び中心となる.ウイルスが感染性を維持し,適切な受容体が存在する場合には,沈着部位で感染が開始される可能性がある.

最大100μmのエアロゾルを吸入することができるエアロゾルは,そのサイズに応じて,慣性による衝突(inertial impaction重力による沈降(gravitational sedimentationブラウン拡散(Brownian diffusion静電気による沈降(electrostatic precipitation遮断(interceptionなど,いくつかの重要なメカニズムの一つに基づいて,呼吸器管の異なる領域に沈着する(154, 155) Fig. 5A吸入時には,ほぼ飽和状態の呼吸器管で吸湿成長するため(hygroscopic growth),吸入されたエアロゾルのサイズが大きくなることがある(156).国際放射線防護委員会(ICRP)は,ヒトの肺構造に基づいて,エアロゾルサイズの関数として沈着効率を定量化するモデルを開発した(157)Fig. 5B).>5μmのエアロゾルは,主に慣性による衝突と重力による沈降により,主に鼻咽頭部に沈着する(8795%(115); <5μmのエアロゾルもそこに沈着するが,肺のより深い部位に侵入して肺胞内腔に沈着することもある(115, 157, 158)ブラウン拡散は,細気管支および肺胞領域における<0.1μmの吸入粒子の主な沈着メカニズムである(78, 116, 159)自然に静電気を帯びたエアロゾルは,気道壁に引き寄せられる可能性がある(160).沈着部位に細胞受容体が存在すれば,感染が開始される可能性がある.感染効率は,呼吸器管に沿った細胞受容体の分布とウイルス-宿主間の相互作用によってさらに支配される.

 

 

Fig. 5: Size-dependent aerosol deposition mechanisms to sites in the respiratory tract.

(A) Main deposition mechanisms and corresponding airflow regimes in different regions of the human respiratory tract. Large aerosols tend to deposit in the nasopharyngeal region as a result of inertial impaction, whereas small aerosols tend to deposit in the tracheobronchial and alveolar regions on the basis of gravitational sedimentation and Brownian diffusion. An enlarged view of tracheobronchial and alveolar regions illustrates the deposition mechanism. (B) The deposition efficiency of aerosols at different regions of the respiratory tract as a function of aerosol diameter based on the ICRP lung deposition model is shown (116). The majority of large aerosols deposit in the nasopharyngeal region; only aerosols that are sufficiently small can reach and deposit in the alveolar region.

疾患のある肺では,気道の表面構造の変化や粘液による閉塞のため,エアロゾルの沈着が正常な肺とは異なる可能性がある(161).喘息の気道における呼吸器上皮の表面特性の変化や,慢性閉塞性肺疾患(COPD)による気道狭小化(airway narrowing)は,吸入エアロゾルの気流や空気力学的挙動を変化させ,その結果,エアロゾルの沈着動態や沈着部位を変化させる(162, 163)沈着は一般的に健常者よりもCOPD患者の方が多い; 気管支への沈着は喘息や慢性気管支炎の患者の方が多い(154)

ウイルスは小さなエアロゾル(<5μm)に多く含まれているため,下気道(lower respiratory tract)のより奥深くまで移動し,下気道に沈着するSARS-CoV-2は,上気道に比べて下気道でのウイルス量が多く,より長くウイルスが持続することが報告されている(164, 165)現在のスクリーニングでは,スワブを使って鼻咽頭や口腔からサンプルを採取するのが一般的であるため,下気道で感染が始まると,患者の診断に技術的な課題が生じる

Discussion

空気媒介性伝播は,呼吸器ウイルス疾患の伝播に寄与する経路として,長い間,十分に評価されてこなかった.その主な理由は,ウイルスを含んだエアロゾルの生成と輸送プロセスの理解が不十分であることと,逸話的な観察結果が誤って伝えられていることにある.SARS-CoV-2の空気媒介性拡散の優位性を示す疫学的証拠は,時間の経過とともに増加し,特に強くなっている.まず,屋内と屋外の伝播の違いは,重力で動く飛沫は屋内でも屋外でも同じ動きをするため,飛沫伝播では説明できない.屋外に比べて屋内での伝播が多いことから,空気媒介性伝播の重要性が指摘されている(63).屋内での伝播と超拡散クラスタにおける換気不良の関与は実証されているが,これはエアロゾルの場合にのみ当てはまるもので,飛沫伝播やfomite伝播は換気の影響を受けないからである.SARS-CoV-2の長距離空気媒介性伝播(long-range airborne transmission)は,感染伝播が非常に少ない国の隔離ホテル(166)や大規模な教会(72)で観察されている.

新たな呼吸器ウイルスが出現した場合,リスクを軽減し,感染拡大を防ぐためには,すべての伝播様式(空気媒介性,飛沫,fomite)を認める,より包括的なアプローチが必要である.空気媒介性伝播を認識して対策を追加する前に,サンプリングしたエアロゾルの感染性を示す直接的な証拠が必要とされるため,人々は潜在的なリスクにさらされている(69)SARS-CoV-2,インフルエンザウイルス,およびその他の呼吸器ウイルスの伝播経路に関する従来の定義にとらわれなければ,<100μmのエアロゾルによる伝播の方が,非常に至近距離(very close proximity)にいる人の粘膜に吹き付けられたまれにしかない大きな飛沫による伝播よりも,はるかに一貫性があると言える.最近,WHO(48)や米国CDC(49)SARS-CoV-2の空気媒介性伝播を認めたことで,この伝播経路に対する防御策を近距離・遠距離の両方で実施する必要性が強まっている.

空気媒介性伝播のメカニズムを十分に理解した上で,エアロゾルによる伝播は至近距離で最大となることを認識すると,飛沫とエアロゾルの両方に対する予防策や緩和策(距離を置くことやマスクなど)が重複していることが明らかになるが,近距離および遠距離の両方でエアロゾルによる伝播を緩和するためには,特別な配慮が必要である.具体的には,換気,気流,マスクの装着と種類,空気のろ過,紫外線消毒などに注意を向けるとともに,屋内と屋外の環境を区別して対策を講じる必要がある.まだまだ知見は増え続けているが,呼吸器ウイルスの空気媒介性伝播をより確実に防ぐための防護策を追加するには十分な知見があり,「飛沫予防策」は置き換えられるものではなく,むしろ拡大されるものであることを指摘する.

SARS-CoV-2に感染しても,検査時に無症候性である人の割合は高い(167, 168)SARS-CoV-2に感染した人の約2045%は,感染経過を通して,無症候性のままであるが,一部の感染者は前症候性の段階を経て,感染数日後に発症する(168, 169)SARS-CoV-2の感染性は,発症2日前〜発症後1日にピークとなる(170).また,インフルエンザウイルスやその他の呼吸器ウイルス感染でも,高い無症候性感染率が報告されている(171-173)空気媒介性伝播は,特に唾液中のウイルス量が少ない可能性が高い無症候性の人や軽度の症状の人にとっては,効率的な伝播経路ではないとする研究もあるが(55),前症候性の人のウイルス量は,症候性患者と同程度である(174, 175).症状のない感染者による発声,歌唱,呼吸の際に発生する感染性ウイルスを含んだエアロゾルに曝露しないような管理を行うことが重要である.これらの人々は,自分が感染していることを知らないため,一般的に社会活動を続け,空気媒介性伝播を引き起こしている.

ユニバーサルマスキングは,ウイルスを含んだエアロゾルを遮断するための効果的かつ経済的な方法である(67).モデルシミュレーションによると,マスクは無症候性伝播を効果的に防ぎ,COVID-19の発症,死亡を減らす(176).マスクの配分を最適化することが重要である(177).サージカルマスクは,感染者が空気中に放出する5μm未満のエアロゾルにおけるインフルエンザウイルス,季節性ヒトコロナウイルス,ライノウイルスを最大で100%減少させることが示されている(減少がみられない人もいる)(104, 178); マスクは飛沫を制限するのに効果的である(179).異なる生地を組み合わせたマスクや多層構造のマスクは,漏れなく適切に装着することで,0.510μmの粒子を最大90%遮断することができる(179).マスクの素材と皮膚の間にわずかな隙間があると,全体のろ過効率が大幅に低下してしまう.2.5μm未満のエアロゾルでは,相対的な漏れ面積が1%の場合,ろ過効率が50%低下する(180).ある研究では,モデルウイルスを用いてN95マスク,サージカルマスク,布製マスクのウイルスろ過効率を比較したところ,N95マスクと一部のサージカルマスクの効率は99%を超えたことがわかった; テストしたすべての布製マスクの効率は少なくとも50%であった(181)SARS-CoV-2を含むエアロゾルを遮断するためのN95マスク,サージカルマスク,コットンマスクの有効性が,対面式マネキンを使って調査された.その結果,感染性SARS-CoV-2の遮断には,N95マスクが最も高い効果を示した(182).ほとんどすべてのマスクは,少なくともある程度の保護効果があるが,100%の効果はない.医療現場では,医療用マスク(エアロゾルではなく飛沫用に設計されている)や眼の保護具にもかかわらず,SARS-CoV-2の伝播が発生している(183-185).このことは,特にリスクの高い屋内環境では,空気媒介性伝播に対して適切な個人用保護具(PPE)を使用し,複数の介入を重ねる必要があることを示している.

医療施設は,呼吸器ウイルスに感染した患者を収容する可能性が高い.そのため,医療従事者には,空気媒介性曝露を低減するための適切なPPEを提供する必要がある.屋内にいる人は,特に換気不良で,ウイルスを含んだエアロゾルがたまりやすい混雑した屋内環境では,高濃度のウイルスを含んだエアロゾルに曝露する可能性が高くなる(93).飛行機,電車,バス,船,クルーズ船など,相対的に狭い密閉された空間で,換気が必ずしも最適ではない場所を移動する際には,常に予防策を講じる必要がある.多くの研究では,屋外環境での空気媒介性伝播のリスクは屋内環境よりも大幅に低いことが示されている(186); しかし,屋外での伝播リスクは,至近距離の状況(close proximity situations),特に長時間にわたる会話,歌唱,あるいは叫ぶ行為では存在する.屋外での伝播リスクは,新しいSARS-CoV-2変異など,ウイルスの寿命や伝達性が高まると上昇する可能性がある(187, 188).ウイルスを含んだ排水や病院の糞便のエアロゾル化も,潜在的な屋外曝露リスクとなり,これを過小評価すべきではない(189)

効果的な換気システムを導入することで,感染性ウイルスを含んだエアロゾルの空気媒介性伝播を減らすことができる.十分な換気量を確保し,再循環を避けるなどの戦略が推奨される(190, 191).二酸化炭素センサーは,呼気蓄積の指標として使用することができ,換気をモニターして最適化するための簡単な方法となる(192, 193).エアロゾルセンサーは,HEPAおよびHVACのエアロゾルろ過効率の評価にも使用できる.換気の種類や気流の方向,パターンも考慮する必要があるが,最低限の換気量を46/時とし,二酸化炭素濃度を700800ppm未満に維持することが推奨されている(148, 194)HVACシステムの空気ろ過の効率を上げたり,独立型HEPA清浄機を導入したり,上階の部屋に紫外線消毒システムを導入することで,ウイルスを含んだエアロゾルの濃度をさらに下げることができる(47, 127, 140, 141, 195)

また,感染者の近くではエアロゾルの濃度が非常に高くなるため,飛沫伝播の緩和策であるフィジカルディスタンスをとることも,エアロゾルを吸入する機会を減らすのに有効である(50)WHOや多くの国の公衆衛生機関は,フィジカルディスタンスを1mまたは2mに保つことを推奨しているが,この距離では,その範囲を超えて移動するエアロゾルを防ぐのに十分ではない.もし大きな飛沫(large droplets)が支配的であれば,距離をとるだけでSARS-CoV-2伝播を効果的に抑えることができた.超拡散イベントで繰り返し示されているように,空気媒介性伝播は換気不良空間で,占有者が感染性のある空間の空気を吸入することで起こる(18, 36, 62, 64, 71).さらに,距離を置くことは,呼吸プルームの最も集中した部分から人々を遠ざけるのに役立つが,距離を置くだけでは伝播を止めることはできず,換気やろ過,感染性エアロゾルを放出している人の数,閉鎖空間で過ごす時間など,他の対策を考慮しなければ十分ではない(196).特定の環境下に存在する無症候性(前症候性を含む)の感染者の数が不明であることは,呼吸器疾患対策における新たな課題である.空気媒介性伝播リスクを低減するためには,換気,ろ過,および上階の部屋の紫外線消毒によってエアロゾル濃度を低減する工学的対策が依然として重要な戦略である.

呼吸器ウイルスの空気媒介性伝播に関する認識が高まっているにもかかわらず,さらなる調査が必要な問題が数多くある.例えば,エアロゾルや飛沫中のウイルス濃度をサイズの関数として直接測定し,新たな感染を引き起こす可能性を調べる必要がある.さまざまなサイズのエアロゾル中のウイルスの寿命については,体系的な調査が必要である.エアロゾルや飛沫によってもたらされるウイルス量と感染の重症度との関係を定量化するためには、さらなる研究が必要である; この関係性はウイルスの種類によって大幅に異なる可能性が高い.また,疾患重症度がエアロゾルサイズや数,呼吸器管に沈着した部位と相関するかどうかを調べることも重要である.さらに多くの研究が必要であるが,空気媒介性伝播がSARS-CoV-2をはじめとする多くの呼吸器ウイルスの拡散の主要な経路であることは明白な証拠である.換気,気流,空気ろ過,紫外線消毒,マスクの装着などを中心に,短距離と長距離の両方でエアロゾル伝播を軽減するための予防措置を講じなければならない.これらの介入は,現在のパンデミックを終息させ,将来のパンデミックを防ぐための重要な戦略である.屋内空気質を改善するために提案されたこれらの対策は,COVID-19のパンデミックをはるかに超えた健康上のメリットをもたらす,長期にわたる改善につながるものであることに留意する必要がある.

References

省略.

eabd9149.full.pdf

 

 

 

 

 

 

空気媒介性伝播(空気感染)の定義とは?

 

WHOModes of transmission of virus causing COVID-19: implications for IPC precaution recommendations. Scientific brief (29 March 2020)には,

Airborne transmission is different from droplet transmission as it refers to the presence of microbes within droplet nuclei, which are generally considered to be particles <5μm in diameter, can remain in the air for long periods of time and be transmitted to others over distances greater than 1 m.」と記載があり,たしかに<5μmとある.

 

一方,CDCGuideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings (2007)の,”Modes of transmission””I.B.3.b. Droplet transmission”には,

Droplet size is another variable under discussion. Droplets traditionally have been defined as being >5 µm in size. Droplet nuclei, particles arising from desiccation of suspended droplets, have been associated with airborne transmission and defined as ≤5 µm in size 105) ,  a reflection of the pathogenesis of pulmonary tuberculosis which is not generalizeable to other organisms.

(懸濁した飛沫が乾燥してできた粒子である飛沫核は,空気媒介性伝播との関連性が指摘されており,大きさが5μm以下のものと定義されている105)これは肺結核の病態を反映したものであり,他の生物に一般化できるものではない)とある.

 

105)の文献は,Duguid JP. The size and duration of air-carriage of respiratory droplets and droplet nucleii. J Hyg (Lond) 1946;44:471-9.であり,非常に古いものである.

Pdf: jhyg00188-0053.pdf

 

また, I.B.3.c. Airborne transmission”には,「Airborne transmission occurs by dissemination of either airborne droplet nuclei or small particles in the respirable size range containing infectious agents that remain infective over time and distance (e.g., spores of Aspergillus spp, and Mycobacterium tuberculosis).」(空気媒介性伝播は,空気媒介性飛沫核または呼吸可能なサイズの小さな粒子のいずれかが播種することで起こり,その中には時間や距離を超えて感染性を維持する感染体が含まれる(例: アスペルギルス属の胞子や結核菌).)とある.

 

 

 

 

 

 

Infection Prevention and Control of Epidemic- and Pandemic-Prone Acute Respiratory Infections in Health Care

Geneva: World Health Organization; 2014.

WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee.

 

Bookshelf_NBK214359.pdf