COVID-19関連追加(202197日)silent hypoxemiaについて

★当院HP関連ファイル:

202044日(低酸素性肺血管攣縮の消失など)

202119-2

202195

COVID-19によるsilent hypoxemiaが医師を悩ませる理由】

Tobin MJ, et al. Why COVID-19 Silent Hypoxemia Is Baffling to Physicians. Am J Respir Crit Care Med. June 15, 2020.

https://doi.org/10.1164/rccm.202006-2157CP.

Case Report Vignettes

患者MD64歳の男性で,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2SARS-CoV-2)に陽性反応を示し,コロナウイルス症(COVID-19)と診断された.経鼻カニューレで6L/minの酸素を投与していたが,パルスオキシメトリで測定した酸素飽和度(SpO2)は68%,動脈血ガスでは酸素分圧(PaO237mmHg,二酸化炭素分圧(PaCO241mmHg,酸素飽和度(SaO275%であった.問診では,彼は一貫して呼吸困難を否定した.診察では,彼は快適で,呼吸補助筋を使っていなかった.併存疾患は,糖尿病,高血圧,冠動脈疾患とバイパス手術,左頸動脈内膜剥離術,腎移植などであった.

患者RM74歳の男性で,SARS-CoV-2が陽性となり,COVID-19と診断された.リザーバーマスクで15L/minの酸素吸入を行っていたが,SpO262%,動脈血ガスではPaO236mmHgPaCO234mmHgSaO269%であった.問診では,彼は一貫して呼吸困難(飲酒時を含む)を否定した.診察では,彼は快適で,呼吸補助筋を使っていなかった.併存疾患はなかった.

患者EFは,58歳の男性で,SARS-CoV-2が陽性となり,COVID-19と診断された.HFNCで酸素吸入を行っていた彼のSpO276%,動脈血ガスはPaO245mmHgPaCO238mmHgSaO283%であった.問診では,彼は一貫して呼吸困難を否定した.診察では,彼は携帯電話を使用し,快適に過ごしていた.併存疾患はなかった.

Background

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は,”多数のCovid-19患者が,血液中の酸素濃度があまりにも低い状態で病院に到着し,本来ならば意識を失う,あるいは臓器不全の寸前であるはずなのに,なぜか意識清明で,会話も可能で,呼吸困難がない”ことを医学的な謎としている(1).科学的に,血液中の酸素濃度が極端に低くても患者が不快を感じないのは,生物学の基礎に反していると判断されている(2).ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した30年の救急医療経験を持つDr. Levitanは,”私が出会ったCovid肺炎患者の大部分は,トリアージ時に酸素飽和度が著しく低く,生命維持に支障をきたしているように見えたが,彼らは携帯電話を使っていた...危険なほど酸素レベルが低いにもかかわらず,見た目の窮迫は相対的に少なかった”と述べている(3).このようにニュースメディアで大きく取り上げられているにもかかわらず,医学雑誌ではこの話題が取り上げられていない.

COVID-19患者の酸素測定値と呼吸困難の欠如が医師にとって不可解な理由には,低酸素の呼吸中枢への影響,低酸素に対する換気反応に対するPaCO2の影響,呼吸困難を誘発する低酸素閾値,80%未満のSpO2の精度の限界,酸素解離曲線シフト,低酸素レベルの耐性,低酸素血症の定義など,いくつかの要因がある.

Dyspnea and Control of Breathing

呼吸器ウイルス感染は,典型的には炎症を引き起こし,感覚受容体を刺激して,呼吸中枢への求心性インパルス(afferent impulses)の伝達を誘発する(4).ウイルスが肺胞に影響すると,低酸素血症を引き起こす可能性がある(5).いずれの状況においても,呼吸困難の存在は,生理学的には驚くべきことではない.驚きが生じるのは,感覚受容体を介する求心性インパルスや低酸素血症によって呼吸中枢が大きく刺激されても,患者が呼吸困難を発症しなかった場合のみである(6)

不快な呼吸は,患者本人のみが認識できるものであり,純粋に主観的な症状である(6).介護者は一般的に,身体的徴候(頻呼吸,頻脈,顔の表情)を呼吸困難と同一視している.これは間違っている.患者は不快感に対する行動的な反応に大きな違いがある.痛みと同様に,身体徴候は患者の不快感を過大評価したり過小評価したりする可能性がある(7)

呼吸中枢はCO2に対して非常に敏感である(7)PaCO2がわずかに増加するだけで、急速に分時気量(e)が増加する; PaCO210mmHg増加すると,数分間も耐えられないほどの呼吸器系の不快感(respiratory discomfort)が生じる(8)異常な肺メカニクス(肺機能)も呼吸困難を引き起こすが,高二酸化血症(hypercapnia)よりはかなり少ない(7)

低酸素血症は,延髄に信号を送る頸動脈小体(carotid bodies)を刺激することで呼吸困難を生じさせる(9)その結果,呼吸中枢の出力が増加し,それが横隔神経と横隔膜に伝わり,V˙eの増加を引き起こす(10)延髄中枢の活動の高まりは,同時に大脳皮質にも伝達される.呼吸困難の不快な感覚をもたらすのは,この大脳皮質への投射(随伴発射: corollary discharge)である(7)

低酸素に対する換気反応は双曲線(hyperbolic curve)として特徴づけられる(11)PaO290mmHgから60mmHgに低下してもV˙eは変化せず,PaO2がさらに低下するとV˙eが指数関数的に増加する(Figure 1Moosavi(12)は,低酸素に対する換気反応を誘発するのに必要な低酸素量は,呼吸困難を誘発するのに必要な量と同等であることを観察した.呼気終末Po260mmHg未満になると、半数の被験者のみ呼吸困難が強くなった(12)低酸素に対する換気と呼吸困難の反応は,優位なPaCO2prevailing PaCO2)に大きく影響される重度の低酸素血症は,背景のPaCO239mmHgを超えた場合にのみ,効果的な換気の増加を引き起こす(12, 13)

 

 

Figure 1: 健常者の等二酸化炭素性低酸素血症(isocapnic hypoxia)の進行に対する換気反応.肺胞酸素濃度(PaO2)が60mmHgに低下するまではV˙eにほとんど変化が見られず,その後の反応は非常に急峻なものとなる.各データポイントは,連続した3回の呼吸におけるPaO2V˙eの平均値を表す.参考文献11の許可を得て引用している.STPD= standard temperature and pressure dry

我々は,58人の病院勤務医,救急医,集中治療専門医を対象に,silent hypoxemiaまたは "happy hypoxia"(新聞で使われている用語)と思われる患者を見たことがあるかどうかを非公式に調査した.37人の回答者のうち,15人は有用なデータを提供しなかった.19人の患者に動脈血ガス測定が行われたが,そのうち16人の患者はPaO260mmHg未満でも医師に呼吸困難はないことを伝えていた患者16人のうち7人は,O260mmHg未満で,PaCO2濃度が39mmHgを超えており(range, 41-49),呼吸困難を引き起こすことが予想された; 我々は,これらの患者はsilent hypoxemiaの可能性が高いと考えた(患者MDのヴィネットを参照)9人の患者はPaCO2濃度が39mmHg未満(range, 29-37)であり,呼吸中枢を鈍らせる可能性があった; 我々は,これらの患者をsilent hypoxemiaとは分類していない(患者RMと患者EFのヴィネットを参照).

COVID-19患者では,高齢で糖尿病患者が不均等に多い(14).この2つの要因は,低酸素に対する呼吸器制御システムの反応を鈍らせる.65歳を超える高齢者では,低酸素に対する換気反応が50%低下する(15, 16).低酸素に対する呼吸困難反応が換気反応と平行していることを考えると(12),高齢COVID-19患者はsilent hypoxemiaになりやすいと考えられる.silent hypoxemiaの可能性がある7人の患者のうち,2人を除いて全員が64歳以上であった(age range, 59-85).糖尿病では,低酸素に対する換気反応が50%を超えて低下する(17, 18)また,糖尿病患者では、呼吸感覚(respiratory sensations)を感知する能力が1.8倍低下している(19).さらに混同しやすい要因として,個人間で呼吸駆動力(respiratory drive)に大きな差があることが挙げられる(20).高二酸化炭素血症や低酸素血症に反応して呼吸する化学的駆動力(chemical drive)は,被験者ごとに300600%もの差がある(20-23)低酸素血症でも呼吸困難にならない患者がいるのは,このような呼吸駆動力(respiratory drive)の大きなばらつきが原因となっている

Hypoxemia as a Threat to Life

医師は低酸素血症を恐れており,8085%の酸素飽和度を生命の危機と見なす.我々は,低酸素血症が呼吸パターンに及ぼす影響を調べる実験にボランティアとして参加した; パルスオキシメータは1時間以上にわたってSpO280%と表示され,SpO280%90%の違いを感じることはできなかった(24).呼吸の制御とオキシメータの精度に関する調査では,深刻な状況になることなく,被験者はSpO275%(12)または一時的に45%(25)を経験している.デンバー近郊のエバンス山の頂上にドライブに行った観光客は,長時間にわたって酸素飽和度65%を経験する; 多くの人は快適に過ごすが,一部の人は呼吸困難を感じる(25)

Pulse Oximetry

パルスオキシメトリは,皮膚に光を当て,オキシヘモグロビンと還元型Hbの光吸収の変化を測定することにより,SaO2を推定する(26)パルスオキシメトリで推定した飽和度(SpO2)は,CO-オキシメータで測定した真のSaO2と±4%程度の差がある場合がある(5).パルスオキシメトリは,SaO2 80%未満の場合には精度が大幅に低下するが,その理由の1つは,ヒトによる校正データの入手が困難であること(および企業秘密や特許保護による情報の保護)である.上記の例では,3人の患者すべてにおいて,SpO2は真のSaO27%過小評価していた.低気圧室で非常に低い酸素濃度で曝露された被験者では,結果的にPaO221.627.8mmHgになった(27)当ファイルに和訳あり).パルスオキシメトリによるSpO2と真のSaO2の平均差と一致限界は-5.8±16%で,SpO240%未満と表示された場合,同時に表示されたSaO2値の80%10%高かった (一部は30%高かった) (28) (Figure 2)

Figure 2: 低気圧室(PaO2, 21.627.8mmHg)で重度の低酸素血症にさらされた健常者における,パルスオキシメトリによる推定酸素飽和度(SpO2)と血液ガス分析によるSaO2の関係を示す散布図.各被験者は異なる記号で表されている.破線は同一直線(line of identity),実線は回帰直線である.文献28から許可を得て引用した.

 

 

パルスオキシメトリの信頼性は,健常ボランティアに比べて重症患者では低くなる.重症患者では,SpO2SaO295%の一致限界は±4.02%であり,SpO2SaO2の経時的な差は再現性がなかった(29).パルスオキシメトリは,白人患者よりも黒人患者の方が,精度が低い(SpO2SaO2の差が4%以上ある場合の検出精度が2.45倍低い)(30)COVID-19患者の酸素化レベルが生命維持に耐えられないレベルという主張は,パルスオキシメータが低い酸素飽和度では本質的に不正確であり,重症患者や皮膚の色素沈着によってさらに影響を受けることを介護者が認識していないために生じたものと思われる

Shifts in Oxygen Dissociation Curve

酸素解離曲線シフトも交絡因子の一つである.COVID-19で顕著な発熱は,酸素解離曲線を右にシフトさせ,PaO2が一定であればSaO2は低くなる(Figure 3.体温が37℃の場合,PaO260mmHgpHおよびPaCO2が正常な場合)であれば、SaO291.1%となる.体温が40℃に上昇すると,SaO285.8%5.3%減)になる(31).また,PaO240mmHgの場合,温度37℃ではSaO274.1%,温度40℃ではSaO264.2%9.9%減)となる(31).このような変化は,化学受容体の刺激に変化がなくても,大幅なdesaturationもたらす(頸動脈小体はPaO2にのみ反応し,SaO2には反応しないため)(9)silent hypoxemiaに寄与するもう一つの要因である.

Figure 3: 温度37℃(連続線)および40℃(破線),pH7.40一定,Pco2: 40mmHgにおける動脈血酸素分圧(PaO2)とヘモグロビン酸素飽和率(SaO2)との関係Kelman[31]のデジタルサブルーチンで作成).PaO260mmHgのとき,SaO237℃で91.1%となり,40℃では85.8%に減少する.PaO240mmHgのとき,SaO237℃で74.1%40℃で64.2%に減少する.

 

Mechanism of Silent Hypoxemia

COVID-19患者にはいくつかの異常な所見が見られることから,このウイルスが呼吸器制御システムに特異的な影響を与えている可能性がある.

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞受容体であるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)は,化学受容体が酸素を感知する部位である頸動脈体に発現している(32)また,ACE2受容体は鼻粘膜にも発現している.COVID-19患者の3分の2には嗅覚消失および嗅覚低下が見られ(33),嗅球(olfactory bulb)はある種のコロナウイルスが脳に侵入する際の通路となっている(34)SARS-CoV-2が嗅球を介して脳にアクセスし,嗅覚消失および嗅覚低下と呼吸困難の関連性に寄与しているかどうか(33)COVID-19の呼吸困難反応の低下にACE2受容体が役割を果たしているかどうかは,まだ確定していない.

Science(2)では,silent hypoxemiaと肺血管内の血栓の発生を関連付けている.COVID-19患者では血栓形成の増加が指摘されている(35)肺血管内の血栓は重度の低酸素血症の原因となり,呼吸困難は肺血管の閉塞とその結果(consequences)に関連している(36)また呼吸困難は,肺血管内のヒスタミンの放出やjuxtacapillary receptorsの刺激によっても生じる.しかし,肺血管内の血栓が呼吸困難の鈍化(silent hypoxemiaの発生)を引き起こす生物学的メカニズムは存在しない.

Definition of Hypoxemia

Stedman's Medical Dictionaryでは,低酸素血症を「無酸素状態ではないが,動脈血の酸素化が正常でない状態」と定義している(37).しかし,臨床家はPaO2 と年齢の間には逆の関係があることに留意する必要がある.PaO266mmHg であっても,80歳では正常である場合がある(38, 39)1990年代には,低酸素血症は一般的に低PaO2と見なされ,FiO2は考慮されなかった(40, 41).例えば,Pierson は,機械式換気を受けている急性呼吸窮迫症候群の患者が 100%酸素を投与され,PaO2 80mmHg であっても,低酸素血症と表示してはならないと規定した(42)

もちろん,低酸素血症の純粋な本質主義的定義はなく、単なる用法でしかない(40).現在の名目主義的な低酸素血症の定義を考えると,Piersonと同じように低酸素血症を捉えている医師はほとんどいないと思われる.COVID-19患者を担当している医師を対象とした非公式の世論調査では,「何リットルの酸素が供給されているかなどの酸素必要量は求めていない」と明記した.しかし,回答者の77.3%は補助酸素量についてかなり詳細に述べており,36.4%SpO290%以上であれば低酸素血症であると見なした.より詳細な調査が必要だが,現在の医師は患者に供給される酸素量で低酸素血症を定義することが一般的であるようだ.

低酸素血症の重症度を補助酸素に基づいて判断することは,本質的に問題がある.なぜならば,患者が挿管されているか,室内気でない限り,FiO2を推定することは不可能である.経鼻カニューレを2L/minで使用した場合,FiO224%から35%の範囲になる(43).低酸素血症のリスクを最小限に抑えるために,医師はしばしば生理的必要量をはるかに超える量の酸素を処方する.酸素解離曲線の上方が平坦であることを考えると,パルスオキシメトリの測定値95%は,PaO260200mmHgであることを意味する(26, 44)

COVID-19の最も重篤な症例では低酸素血症が中心であることを考えると,低酸素血症の定義が広く受け入れられていないことが,この疾患に関連する混乱や反論の一因になっているのではないかと考えられる.

COVID-19は多くの驚きをもたらしたが,医師が困惑するような特徴も,長年にわたって確立されてきた呼吸生理学の原則(45)に照らし合わせれば,それほど不思議ではない.

References

省略.

27)の文献.

【高度からの空中投下を想定した場合の酸素システムの故障による急性低酸素血症】

Ottestad W, et al. Acute hypoxia in a simulated high-altitude airdrop scenario due to oxygen system failure. J Appl Physiol (1985). 2017 Dec 1;123(6):1443-1450.

https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00169.2017.Epub 2017 Aug 24.

HAHOHigh-Altitude High Opening)は,パラシュートによるジャンプを高度で行う軍事作戦で,酸素の補給を必要とするため,酸素装置が故障した場合,隊員は急性低酸素血症に陥る危険性がある.この研究は,酸素供給が停止した場合の潜在的な結果を評価し,急性の重度低気圧性低酸素血症の生理を調べるために,ノルウェー陸軍によって開始された.低気圧室で,酸素を補給せずに,30,000フィート(9,144m)まで減圧(decompression)し,その後1,000フィート/分(305m/分)の降下速度で地上まで再加圧(recompression)するHAHOシミュレーションを実施した.9人の被験者を対象とした.低酸素曝露の間,繰り返し動脈血ガス分析を行った.さらに,パルスオキシメトリ,脳オキシメトリ(cerebral oximetry)および血行動態変数をモニターした.desaturationは急速に進行し,動脈血酸素分圧は,ボランティアにおいて急性低酸素血症時に今まで報告された中で最も低値となった.9人において,PaO2はベースラインの18.4(17.3-19.1)kPa138.0(133.5-143.3)mmHgから180(60-210)秒後に3.3(2.9-3.7)kPa24.8(21.6-27.8)mmHgの最小値まで低下した[中央値(範囲)]低二酸化炭素血症を起こす過換気は,動脈血酸素飽和度と脳オキシメトリ値を増加させ,重度の低酸素血症への耐性を向上させる可能性があった(Hyperventilation with ensuing hypocapnia was associated with both increased arterial oxygen saturation and cerebral oximetry values, and potentially improved tolerance to severe hypoxia1人の被験者は,心拍数とcardiac indexが急激に低下し,低酸素曝露下で4分後に意識を失った.本研究は,HAHOシナリオを模擬した酸素システム障害の生理学的および臨床的結果を調査した初めての研究である.獲得した知識は,HAHOの訓練や運用時に有効なリスク・ベネフィット分析を行う上で非常に価値がある.この研究で報告された動脈血酸素分圧は,これまでに報告された急性低酸素血症の中で最も低いものである.

 

⇩再掲.

COVID-19患者におけるHappy Hypoxiaそして悲しくも無視された

”急性血管窮迫症候群: Acute Vascular Distress Syndrome”について】

Jounieaux V, et al. On Happy Hypoxia and on Sadly Ignored “Acute Vascular Distress Syndrome” in Patients with COVID-19. Am J Respir Crit Care Med. Published Aug 19, 2020.

https://doi.org/10.1164/rccm.202006-2521LE.

happy hypoxiaとしても知られるsilent hypoemiaの問題に関するTobinらの論文(1)は呼吸困難の生理学的機序についての素晴らしいレビューである.著者らは,血液ガス,肺障害,年齢,疾患との関連で,呼吸困難の定義とメカニズムについて言及している.また、低酸素の定義および効果,経皮的酸素飽和度の不正確さ,酸素解離曲線の特性,COVID-19患者における低酸素血症のメカニズムについても論じている.我々は,Tobinらによって想起されたすべての生理学的概念が,単独あるいは複合的に,低レベルのPaO2に対する呼吸反応の鈍化およびそれに付随する正常の感覚(feeling of normality)や呼吸困難の欠如(absence of dyspnea)という主観的な感覚に寄与している可能性があることに同意するこれらの様々な要因の中でも,我々は,低酸素飽和度下における酸素飽和度と動脈血酸素分圧の相関性が低いことがhappy hypoxiaを説明できるとは考えていない.なぜなら、論文のビネットに示されているように,患者はパルスオキシメトリ(SpO2)によって測定される低酸素飽和度だけでなく、非常に低いPaO2レベル(TobinらのFigure 1によれば,20 L/minをはるかに超える換気レベルにつながっているはずである)を有しているにもかかわらず,呼吸困難を一貫して認めていなかったからである.同様に,年齢と糖尿病は低酸素に対する換気反応に鈍化効果があることが知られているが,happy hypoxia患者の多くは50代または60代であり,ここでは年齢の影響は大きくないと予想され,糖尿病ではない.同様に、呼吸困難が主観的なものである場合,20 L/min以上のV'e(分時換気量)レベルは,明らかな補助筋の使用を必要とし,呼吸回数が増加するが,これらはhappy hypoxia患者にはみられない.

happy hypoxia現象の主な理由は,hypocapnia(低炭酸ガス血症)の存在であると提示したいと思う我々は数年前に,低炭酸ガス血症が呼吸中枢に強力な制動効果をもたらすことを示したが,これは健常者の非常に低いSpO2レベルへの反復曝露に対する反応を完全に無効にすることができる(2)Tobinらが主張しているようにhappy hypoxiaを低炭酸ガス血症のない患者に限定すべき理由は見当たらない.ところで,低炭酸ガス血症とそれに伴うアルカローシスは,酸素解離曲線を左にシフトさせる傾向があり,発熱による右へのシフトを相殺する.

呼吸困難を伴わない低炭酸ガス血症の理由として,Tobinらが言及しないが,我々が最も適切な説明をしていると考えているものが以下である: すなわち,右から左への肺内シャントの存在である(3)SARS-CoV-2は,肺の血管増殖(vascular proliferation)を誘発することが知られており,解剖学的研究と放射線学的研究の両方で実証されている(4,5).我々は、放射線学的な肺病変を伴わないCOVID-19患者1人において,造影剤を用いた心エコー検査により、遅発性の右から左への肺内シャント(late right-to-left intrapulmonary shunt)を実証した(未発表の観察).この右左シャントは低酸素血症を誘発し,正常な換気の増加につながるが,確実にPaCO2を減少させる.そしてCO2O2よりも拡散性が高い.したがって,低炭酸ガス血症が進行し,それ以上の換気の増加がなくなり,呼吸努力の増強がなく,したがって呼吸困難が生じないことを説明することができる.これがSARS-CoV-2の初期障害であり,acute vascular distress syndromeの頭文字をとって「AVDS」と呼ばれるようになったのである(6).肺病変が顕著になり,GGOあるいはconsolidationを示すようになると,低酸素血症は悪化するが,低炭酸ガス血症は少なくなり,その結果,PaCO2の正常化と呼吸困難感が出現する.

結論として,COVID-19患者の多くで低酸素症の存在と呼吸困難の欠如の両方を説明する重要な因子として,肺内シャントを検討する時期に来ていると我々は考えている.

 

 

Figure 1: The ventilatory response to progressive isocapnic hypoxia in a healthy subject.

(文献(1)より)

References

1) Tobin MJ, Laghi F, Jubran A. Why COVID-19 silent hypoxemia is baffling to physicians. Am J Respir Crit Care Med 2020;202:356–360.

2) Jounieaux V, Parreira VF, Aubert G, Dury M, Delguste P, Rodenstein DO. Effects of hypocapnic hyperventilation on the response to hypoxia in normal subjects receiving intermittent positive-pressure ventilation. Chest 2002;121:1141–1148.

3) Ackermann M, Verleden SE, Kuehnel M, Haverich A, Welte T, Laenger F, et al. Pulmonary vascular endothelialitis, thrombosis, and angiogenesis in Covid-19. N Engl J Med 2020;383:120–128.

4) Lang M, Som A, Mendoza DP, Flores EJ, Reid N, Carey D, et al. Hypoxaemia related to COVID-19: vascular and perfusion abnormalities on dual-energy CT. Lancet Infect Dis [online ahead of print] 30 Apr 2020; DOI: 10.1016/S1473-3099(20)30367-4.

5) Rodenstein D, Jounieaux V, Mwenge B, Mahjoub Y. Happy hypoxia does not defy basic biology. 2020 [accessed 2020 Oct 2]. Available from:

https://science.sciencemag.org/content/368/6490/455/tab-e-letters.

6) Mahjoub Y, Rodenstein DO, Jounieaux V. Severe Covid-19 disease: rather AVDS than ARDS? Crit Care 2020;24:327.

 

 

 

 

 

 

 

1)の文献の著者らによる,その返答.

Reply to Jounieaux et al

https://doi.org/10.1164/rccm.202007-2940LE.August 19, 2020

Dr. Jounieauxらが我々のPerspective(1)に対してコメントしてくれたことに感謝する.彼らはいくつかの点を指摘しており,特にCOVID-19感染症の病態生理における肺内シャントの重要性を強調している.ウイルス性呼吸器感染症の患者に低酸素血症が見られても,それが華麗な(florid)浸潤を伴うものであれ,弱々しい(feeble)浸潤を伴うものであれ,驚くことではない.低酸素血症のメカニズムについては,最近の論説(2)で取り上げているので,今回のperspectiveでは触れなかった.このperspectiveの焦点は,重度の低酸素血症(例えば,我々の患者M.D.PaO237mmHg)の患者に呼吸困難が見られないことであった(1)Jounieaux(3)は、2002年の研究で,PaCO229.3mmHgから34.1mmHgの間であれば,低酸素に対する換気反応が抑制されると報告した実際には,閾値はもっと高く,PaCO239mmHgでは低酸素に対する反応は見られない(4)したがって,PaO237mmHg(酸素飽和度71%に相当)の患者でも,PaCO239mmHg(またはそれ未満)であれば,呼吸困難を訴えることはないと予想される(1)Jounieauxらは,我々がパルスオキシメトリの問題がhappy hypoxiaの主な説明であると考えていることを主張している.我々はそんなことは言っていない.医師は,パルスオキシメトリが酸素飽和度85-100%では非常に正確であることを認識しているが,酸素飽和度80%未満ではパルスオキシメトリが10%以上も低い誤った測定値を示すことを多くの医師は知らない(1).パルスオキシメトリは低酸素血症が疑われる患者を評価するための最初の手段であることを考えると,この低酸素血症の重症度を誇張する傾向は,COVID-19の患者を評価する医師を当惑させる要因の一つであると考えられる.パルスオキシメータが低酸素飽和度を表示している場合,可能な限り動脈血ガス測定を行うことが重要であるJounieauxらは,我々のperspectiveFigure 1(低酸素に対する換気反応のプロット)を参照して,低レベルのPaO2では,V'E> 20L/minになると主張している.これは,正常二酸化炭素の人のPO2が〜51mmHgのときに起こる(1)PaCO240mmHg未満であれば,重度の低酸素症でもV'Eは変化しない(4)Jounieauxらは,V'E0.20L/minであれば,呼吸補助筋の動員を促すと主張している.Campbellは古典的な研究で,二酸化炭素再呼吸時(during carbon dioxide rebreathing)に胸鎖乳突筋の活動が始まるのはV'E41-105L/minに達してからであることを示した(5)COVID-19は,政治的,社会的,生物学的,臨床的に多くの課題を提起しているが,新しいラベル(acute vascular distress syndrome)を作っても,これらの問題を解決することはできないだろう.COVID-19患者の一部では肺内シャントが低酸素血症の原因となっているが,低酸素血症に対する呼吸中枢の反応や患者が呼吸困難を訴えるかどうかはシャントによって決まるわけではない.我々のperspectiveは,COVID-19患者のhappy hypoxiaのメカニズムについて困惑を示す医師(新聞記事に引用されている)に理解を与えるために書かれたものである(1)我々は,呼吸器制御システムの作動に影響を与える生理学的変数,酸素解離曲線を右にシフトさせる発熱,酸素飽和度80%未満でのパルスオキシメトリの信頼性の低さ,低酸素血症という言葉の意味についての(臨床医の間での)解釈の違いなど,いくつかの原因が考えられることを挙げた(1).我々は,混乱および動揺した医師が,呼吸仕事量の増加が見られず,酸素飽和度は低いが生命を脅かすほどではない患者に気管内チューブを挿管する(人工呼吸を行う)など,患者のケアに悪影響を与える行動をとってしまうことを懸念している(1, 6).我々は,患者の体内で働く生物学的プロセスの科学的な理解に基づく臨床上の決定が,より合理的なケアをもたらし,傷害を引き起こす可能性が低くなることを期待している.

 

References

1) Tobin MJ, Laghi F, Jubran A. Why COVID-19 silent hypoxemia is baffling to physicians. Am J Respir Crit Care Med 2020;202:356–360.

2) Tobin MJ. Basing respiratory management of COVID-19 on physiological principles. Am J Respir Crit Care Med 2020;201:1319–1320.

3) . Jounieaux V, Parreira VF, Aubert G, Dury M, Delguste P, Rodenstein DO. Effects of hypocapnic hyperventilation on the response to hypoxia in normal subjects receiving intermittent positive-pressure ventilation. Chest 2002;121:1141–1148.

https://doi.org/10.1378/chest.121.4.1141.

4) Moosavi SH, Golestanian E, Binks AP, Lansing RW, Brown R, Banzett RB. Hypoxic and hypercapnic drives to breathe generate equivalent levels of air hunger in humans. J Appl Physiol (1985) 2003;94: 141–154.

https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00594.2002.

5) Campbell EJM. The role of the scalene and sternomastoid muscles in breathing in normal subjects; an electromyographic study. J Anat 1955;89:378–386.

6) Tobin MJ, Laghi F, Jubran A. Caution about early intubation and mechanical ventilation in COVID-19. Ann Intensive Care 2020;10:78.

 

 

 

 

 

 

 

上記3)文献をに再掲.

【間欠的陽圧換気を行っている健常者の低酸素血症に対する反応における低二酸化炭素性過換気の影響】

Jounieaux V, et al. Effects of Hypocapnic Hyperventilation on the Response to Hypoxia in Normal Subjects Receiving Intermittent Positive-Pressure Ventilation. CHEST. VOLUME 121, ISSUE 4, P1141-1148, APRIL 01, 2002.

https://doi.org/10.1378/chest.121.4.1141.

Abstract

Objective

低酸素血症に対する換気反応(VRH: ventilatory response to hypoxia)が低二酸化炭素によって消失するのではないかという仮説を確認する.※V˙はVドット(Vの上に点)とする.

Methods

健常者4人を対象に,鼻マスクを用いた間欠的陽圧換気(nIPPV: nasal mask intermittent positive-pressure ventilation)を行った.分時換気量(V˙ed)を徐々に増加させ,呼気終末二酸化炭素分圧(Petco2: end-tidal carbon dioxide pressure)を無呼吸閾値未満に下げた.その後,酸素飽和度の低下を誘発するために,異なる低二酸化炭素レベルで窒素を添加し、低酸素ラン(N2ラン)(hypoxic run, N2 run)を行った.各N2ランにおいて,横隔膜筋活動の再出現,および/または有効分時換気量(V˙e)の増加,および/またはマスク圧力トレーシングの変形をVRHとみなし,トレーシングが変化しない場合はVRHなしとした.VRHを誘発するN2ランでは,低酸素血症に対する閾値反応(TRh: threshold response to hypoxia)を,換気の変化の開始に対応する経皮的酸素飽和度と定義した.

Results

37回のN2ランを行った(覚醒時に7回,睡眠時に30回のN2ラン).重度の低二酸化炭素血症(Petco2 27.1 ± 5.2 mmHg)ではVRHは認められなかった一方,有意により高いPetco2レベルで行われたN2ランではVRHが認められた(Petco2 34.0 ± 2.1 mmHg, p< 0.001二酸化炭素抑制閾値とされる29.3mmHg未満のPetco2レベルでは,著明なdesaturation64%まで)でもVRHは発生しなかったVRHを誘発した16回のN2ランでは,Petco2TRhの間,およびTRhV˙edおよびV˙eの両方との間に相関関係は認められなかった.

Conclusions

nIPPV中のVRHは二酸化炭素濃度に大きく依存し,重度の低二酸化炭素血症では確実に消失する