COVID-19関連追加(2021104-2

BNT162b2接種後の水痘帯状疱疹ウイルス髄膜炎

【免疫正常患者にBNT162b2 mRNA COVID-19を接種して水痘帯状疱疹ウイルス髄膜炎を発症した1例】

Maruki T, Ishikane M, Suzuki T, Ujiie M, Katano H, Ohmagari N. A case of varicella zoster virus meningitis following BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccination in an immunocompetent patient. International Journal of Infectious Disease. Sep 26, 2021.

https://doi.org/10.1016/j.ijid.2021.09.055.

Abstract

免疫正常患者において,BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種後に,水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による髄膜炎を発症した症例を報告する.発熱,頭痛,stiff neckなどの特徴的な症状に加え,脳脊髄液のポリメラーゼ連鎖反応でVZVが陽性であったことから最終的に診断した.この現象は他にも報告されている; 今回は世界で13例目,免疫正常患者では7例目の報告であり,COVID-19ワクチン接種後の注意深い観察が必要であることを示している.

 

Introduction

201912月以降,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2SARS-CoV-2)感染を原因とするコロナウイルス感染症2019COVID-19)が世界的に大きな健康上の脅威となっている(Hayakawa et al., 2020)mRNAベースのBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチンは,許容できる安全性プロファイルで高い有効率を示している(Polack et al., 2020).日本では,全国規模のBNT162b2 mRNAワクチン接種キャンペーンが開始され,高いワクチン受容性を持って異例の速さで展開され,2021613日時点で,人口の14.0%n= 17,580,587)と4.9%n= 6,104,732)がそれぞれ1回目と2回目のワクチン接種を受けている(Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan, 2021)

ワクチン接種は最も重要なCOVID-19感染症予防・対策の一つとして期待されているが(Polack et al., 2020),イスラエル,フィンランド,スペインで水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化が数例報告されている(Furer et al., 2021; Rodríguez-Jiménez et al., 2021; Tessas et al., 2021).ここでは、BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種後にVZV髄膜炎を発症した症例を報告し,その潜在的なメカニズムについて考察する.

Case Report

IgA腎症をもつ71歳の女性が,初回のBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種の翌日から1週間続く発熱と頭痛を訴えて来院した.IgA腎症で定期的に通院しているが,免疫抑制剤を使用したことはなかった.彼女は,小児期に水痘の既往があったが,帯状疱疹ウイルスのワクチン接種歴はなかった.入院時は意識清明,体温38.1℃,血圧122/78mmHg,心拍数91bpm,呼吸回数16/分,経皮的動脈血酸素飽和度98%(室内気)であった.身体検査では,stiff neckjolt accentuationKernig's signが認められた.しかし,明らかな神経変性所見はなかった.ワクチン接種後5日目に,臍の右側および背中に痛みを伴う小水疱と紅斑が発生した(Figure 1).血液検査の結果,CRPは正常レベル(0.04 mg/dL),白血球数は,リンパ球減少はなく(23%)正常レベル(4,860 cells/μL)であった.また,VZV IgM抗体が1.92 IU/mLVZV IgG抗体が≧128 IU/mLであった.注目すべきことに,この患者はHIV陰性であった.脳脊髄液(CSF)検査の結果,初圧は正常(160 mmH2O),白血球数はリンパ球優位(95.8%)で高値(289 cells/μL),タンパク質レベルは高値(295 mg/dL),グルコースレベルは正常(60 mg/dL)であった.

Figure 1: Vesicles and erythematous patches of varicella zoster virus infection.

Skin lesions with crusting and vesiculation, and surrounding erythema (white arrow) affecting the abdomen (A) and back (B) in the Th10 dermatome.

VZV髄膜炎の最終診断は,迅速イムノクロマトグラフィー(腹部の小水疱を検査)とCSFポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の陽性結果(1.86×106 /μL)に基づいて行われた.この患者の皮疹は1ヶ所に限定されていたため,厳密には播種性帯状疱疹の診断基準を満たしていないと考えられる.しかし,髄膜炎と皮疹の存在のため,院内感染予防対策マニュアルに基づき,個室を用いた標準感染対策,接触感染対策,空気感染対策を実施した.これらの感染対策は皮疹が痂皮化するまで続けられた.SARS-CoV-2 PCRは鼻腔スワブ,髄液ともに陰性であった.アシクロビルの点滴治療を開始したところ,入院3日目には発熱は消失し,頭痛も改善した.入院14日目には合併症もなく退院した.1回目接種では致命的なアレルギー症状が出なかったため,当院の方針に基づいて退院後に2回目接種を勧めた.なお,本報告書に記載された患者の臨床的詳細については,書面によるインフォームド・コンセントが得られている.

 

 

Discussion

我々は,BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチンの初回接種を受けた直後にVZV髄膜炎を発症した患者を経験した.ワクチン接種とVZV髄膜炎の関連性は偶然のものかもしれないが,この症例は以下の3つの理由で注目される.

第一に,BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種後にVZVが再活性化した症例が,これまでに世界中で数例報告されている(Furer et al., 2021; Rodríguez-Jiménez et al., 2021; Tessas et al., 2021)我々の症例と同様に,合計6人の患者を含む過去の報告の2つでは,免疫正常患者のワクチン接種後にVZVの再活性化が起こった(Rodríguez-Jiménez et al.2021; Tessas et al.2021); 別の報告では,自己免疫性炎症性リウマチ疾患の患者でVZVの再活性化が起こっているこれらの過去の事例では,ワクチン接種からVZV再活性化までの期間は1日〜16日で,VZVの再活性化は1回目または2回目ワクチン接種後に報告されている(Furer et al., 2021; Rodríguez-Jiménez et al., 2021; Tessas et al., 2021).このことは,BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチンを接種した集団において,VZVの再活性化が生じる可能性があることを示唆している.

第二に,SARS-CoV-2に感染した患者は,自然にVZVの再活性化を起こすことが報告されている(Xu et al., 2020).インターロイキン-6TNF-α,インターロイキン-12などの炎症促進性サイトカインが大量に放出されるサイトカインストームによって,CD4+T細胞の機能を混乱し,そして過剰な活性化を促され,場合によってはその後のCD8+T細胞の疲弊が促されることが,SARS-CoV-2に関連したVZV再活性化のメカニズムの一つである可能性がある(Zheng et al., 2020)

第三に,A型肝炎,インフルエンザ,狂犬病,日本脳炎など,COVID-19以外の疾患を予防するためのワクチン接種でも,VZVの再活性化が起こる可能性がある(Bostan and Yalici-Armagan, 2021).したがって,この新しいBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチンは,長期的には自然感染で観察されたのと同じ効果をもたらす可能性が考えられる.

Limitation: @この報告はこれまでのところ唯一の症例報告である.ABNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種後のVZV髄膜炎は偶然の可能性がある.しかし,同様の症例の裏付ける証拠(Furer et al., 2021; Rodríguez-Jiménez et al., 2021; Tessas et al., 2021)により,BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチンに関連したVZVの再活性化を否定することはできない.mRNAワクチンによる免疫調節異常は,リンパ球減少のない免疫正常患者でもVZV再活性化を引き起こす可能性がある(Rodríguez-Jiménez et al., 2021; Tessas et al., 2021)

Conclusions

BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種後にVZV髄膜炎を発症した免疫正常患者1例を経験した.このような報告はこれまでに数例しかないが,これらの症例は,ワクチン接種後に発生する潜在的な現象として,VZVの再活性化(髄膜炎を含む)の可能性を注意深く監視する必要があることを示唆している.COVID-19ワクチン接種と接種後のVZVの再活性化との関係について,さらなる研究が必要である.