COVID-19関連追加(2021106日)

ワクチンブレイクスルー感染についてその12(イスラエルの院内感染アウトブレイク)

【高度なワクチン接種集団におけるSARS-CoV-2デルタ変異による

院内感染アウトブレイク(イスラエル,20217月)】

Shitrit P, et al. Nosocomial outbreak caused by the SARS-CoV-2 Delta variant in a highly vaccinated population, Israel, July 2021. Eurosurveillance. Sep 30, 2021.

https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.39.2100822.

イスラエルは,SARS-CoV-2に対するコミルナティ(BNT162b2 mRNA, BioNTech-Pfizer, Mainz, Germany/New York, United States (US))ワクチンの高水準の完全接種を達成した最初の国の一つである.20215月〜6月中旬にかけて,55%を超える国民が完全ワクチン接種した状態で,新規患者数は100万人あたり2人未満に減少し,社会的な制限もなく,非常に高いワクチン有効性が示された[1,2]6月中旬以降,SARS-CoV-2デルタ変異ウイルス(Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak (Pango) lineage designation B.1.617.2 and AY.* sublineage)に起因する症例の急激な増加が見られ,7月中旬までにイスラエルで分離されたウイルスの95%を超えていた[3].この変異ウイルスは,アルファ変異ウイルス(B.1.1.7およびQ.*亜系統)より高い伝染性を持つと評価されている[4]

我々は,1人の同定できないCOVID-19患者から始まったCOVID-19のアウトブレイクの調査を行い,サージカルマスクを着用している人を含むワクチン接種者の間で広範囲かつ急速に院内感染が広がったことを報告する.

Setting

Meir Medical Centerには780のベッド(病床)があり,ほとんどの部屋は34人の患者を収容し,ベッド間の分離カーテンパーテーションで1m離れている.20203月からは,患者にサージカルマスク着用を呼びかけている.使用には一貫性がないものの,患者とスタッフが接触する場では双方に徹底された.COVID-19専用病棟では,専任スタッフが完全な個人防護具(PPE)を着用して勤務した: N95マスク,フェイスシールド,ガウン,手袋,ヘアカバー.

Outbreak investigation

接触者調査は,訓練を受けた感染管理者によって行われ,院内感染の疑いがある場合や,スタッフのCOVID-19診断でSARS-CoV-2PCR陽性が確認された場合に開始された.すべての曝露者を対象に,SARS-CoV-2 PCR検査を行った.PCR検査でSARS-CoV-2陽性と判定された者はすべてCOVID-19症例とした.すべてのデータはリアルタイムで収集され,症例に曝露したすべての患者および関係者,最後の陰性SARS-CoV-2検査,症状の有無,発症日,病気の家族の有無,ワクチン接種の有無と接種日が含まれた.曝露された者は全員,SARS-CoV-2 PCR検査を受けた.複数の患者がCOVID-19症例として確認された場合は,陽性症例との面識の有無にかかわらず,病棟のすべてのスタッフと患者がスクリーニング検査を受けた.最初のスクリーニングで陰性と判定された曝露患者は全員,曝露後7日目に再スクリーニングを受けた.特定された症例はすべて,COVID-19専用病棟に移されるか,臨床状態に応じて退院した.

指標症例は,完全ワクチン接種した70歳代の血液透析患者であった7月中旬,発熱と咳を訴えてA病棟に入院し,他の3人の患者と同室になった.入院日には,症状がうっ血性心不全を悪化させるbloodstream infectionの可能性があると考えられた(誤解された)ため,指標症例のSARS-CoV-2の検査は行われなかった.入院期間中,同室の患者1人とともに透析室で1日おきに透析が施行された.入院から4日後,SARS-CoV-2 E遺伝子のPCRによって(定量サイクル(Cq)値が13.59),指標症例はCOVID-19と診断され,B病棟のCOVID-19専用病棟に移された同日,A病棟にいたこの指標症例の同室者3人全員にSARS-CoV-2スクリーニング検査を行ったところ陽性であったため,彼らは専用病棟に移された,あるいは退院した

接触調査では,A病棟透析室(指標症例の接触者)症例11日滞在した後のC病棟が対象となった.この調査により、SARS-CoV-2 PCRによるCOVID-19症例は,指標症例を含む患者16人,スタッフ9人,家族2人の合計27であった

COVID-19と診断された症例は,診断当日にB病棟のCOVID-19病棟に移されたが,当時の当院ではCOVID-19患者の数が少なかったため,混合病棟として運営されていた.病棟の半分はCOVID-19患者専用とし,完全なPPEを着用した専任スタッフを配置し,半分は通常の病棟とした.指標症例は,1年前にCOVID-19から回復し,イスラエルのガイドライン[5]に従って1回のワクチン接種を受けた医療従事者(HCW)が転院日に治療を行った.転院日から3日後,このHCWは通常病棟で3人の患者に接触し,そのうち2人が2日後にCOVID-19症状を発症し,SARS-CoV-2検査が陽性となった.B病棟での接触調査の結果,SARS-CoV-2 PCRによるCOVID-19症例は,前述のHCWを含むスタッフ10人,上記3人を含む患者8人,家族1人の合計19であった

ワクチン接種率96.2%(接種者238/曝露者248人)の集団において,曝露した患者およびスタッフ全員の計算上の発病率は,スタッフが10.6%16/151人)患者が23.7%23/97人)であった

Sequencing and analysis

シーケンスおよび患者データは,Israel National Consortium of SARS-CoV-2 sequencingから入手した.FASTQファイルの処理,参照ゲノム(NC_045512.2)へのマッピング,コンセンサスFASTA配列の構築は,以前に報告された方法で行った[6].すべてのシーケンスデータはGISAID [7]に寄託され,利用可能である.系統樹はNextStrainAugur pipelineを用いて構築し,auspice[8]で可視化した.

今回のアウトブレイクでは,ABC病棟および透析部門のスタッフと患者を含む12人について,入手可能な全ゲノムSARS-CoV-2配列を用いて系統樹解析を行った(Figure).C病棟の症例11を除き,全員がDelta変異ウイルスに感染しており,疫学的にも系統的にも同じアウトブレイクにつながっていた症例11C病棟で確認された3人のスタッフは,このアウトブレイクの一部とは見なされなかったC病棟の3人のスタッフは,症例1と症例11の両方に曝露していたため,感染源を確認することができなかった

Figure: Whole genome-based phylogenetic tree of SARS-CoV-2 Delta isolates, nosocomial outbreak, Israel, July 2021 (n=12).

The tree was constructed using Nextstrain’s Augur pipeline and visualised with Auspice [8]. The numbers represent the Patient numbering used in the manuscript text and Table.

Figure

Demographic and clinical information

今回のアウトブレイクで診断された42人のうち,38人はコミルナティワクチンを2回完全接種,1人は1回接種,3人はワクチン未接種であった.年齢の中央値は55歳(四分位範囲(IQR: 36-77.5)で,24人が女性だった.患者が23人,スタッフが16人,家族が3人だった.2回目ワクチン接種からブレイクスルー感染までの期間の中央値は177日(範囲111-194であった診断日に症状を呈していたのは24人のみであったが,その後の数日間で36人に症状を認めたスタッフ(年齢中央値: 33; 範囲: 22-48歳)は全員,無症候性または軽症であった患者(年齢中央値: 77; 範囲: 42-93; 2回目接種から感染までの時間中央値: 176; 範囲: 143-188日)のうち,8人が重症化し,6人が重篤化してそのうち5人が死亡したTable.患者の年齢層はスタッフよりもかなり高く,すべての患者が糖尿病(n= 9),高血圧(n= 16),虚血性心疾患(n= 12),うっ血性心不全(n= 7),認知症(n= 5),BMI> 30n= 8),慢性腎不全(n= 11; そのうち6人が透析)などの併存症を持っていた.8人の患者が免疫不全であった.

 

Table: Case data, nosocomial COVID-19 outbreak, Israel, July 2021 (n=23).

Na: not applicable; NA: not available.

診断日のCq中央値は19.9IQR: 17.8-25.1)で,症候性感染者(中央値: 18.2, IQR: 15.7-21.7)は,無症候性感染者(中央値: 22, IQR: 18-28)よりも低かったが,その差は統計的には有意ではなかった.

Ethical statement

本研究の臨床データはアウトブレイク調査によるものである; したがって,Meir Medical Center倫理委員会による倫理的承認は免除された.bioinformatics workは,ヘルシンキ宣言ガイドラインに従って実施され,Sheba Medical Center institutional review board7045-20-SMC)で承認された.本研究では,臨床サンプルの残りを使用し,解析では匿名の臨床データを使用したため,患者の同意は免除された.

Discussion

我々は,高度なワクチン接種者の間で発生したDelta変異ウイルスを含むCOVID-19院内感染アウトブレイクを調査した.曝露者の発病率は,曝露者のワクチン接種率は96.2%であったが,患者で23.3%,スタッフで10.3%に達した.さらに,サージカルマスクを着用していた2人,またN95マスク,フェイスシールド,ガウン,手袋を含む完全なPPEを使用した1人の間で,おそらくはいくつかの伝播が発生したと考えられる.

Bernalらが最近発表した論文では,Delta変異ウイルスに対するコミルナティワクチンの完全接種の有効性は,Alpha変異よりは低いが,高かった(88% vs 93.7%[9].これはイスラエルでの経験ではない.イスラエルは,高いワクチン接種率にもかかわらず,20216月以降,患者が急増加した[1]

ブレイクスルー感染の報告は増えているが[10-12],この報告ではいくつかの点を強調する.世界共通の高いワクチン接種率が集団免疫をもたらし,COVID-19アウトブレイクを防ぐという仮定に疑問を呈する.これは野生型SARS-CoV-2ウイルスの場合にも当てはまると思われるが,今回のアウトブレイクでは,曝露集団の96.2%がワクチンを接種していた.感染は急速に進み(多くの症例は曝露2日以内に発症した),ウイルス量も多かった.また,SARS-CoV-2変異ウイルスとワクチンとの間にミスマッチが生じて,免疫が減弱する可能性がある場合は,ワクチンとフェイスマスクの組み合わせによって必要な防御を行うべきという考え方もある.スタッフ間の伝播の中には,マスクなしで発生した可能性もあるかもしれないが,フィンランドで発生したアウトブレイクで経験したように,患者とスタッフ間の伝播はすべてマスク着用者とワクチン接種者の間で発生していた[12].防御策が最適に実施されなかった可能性も否定できないが,2021年夏の伝播性はこれまでの18ヶ月間の経験とは異なる.これがDelta変異ウイルスのCqの低さと高い伝播性に起因するのかどうかは明らかではない.特筆すべきは,我々の症例,特に感染した”患者”では,ワクチン接種からの期間がかなり長くなっていることである最も短い間隔は142日(5ヶ月)で,我々が報告した感染した患者の多くは重症化した.イスラエルのデータによると,夏にCOVID-19症例が増加した主な理由はまさに免疫の減弱であり,2回目接種から5ヶ月後に3回目のワクチンを接種すれば,おそらく傾向が逆転することが示唆されている[13,14]

Conclusions

今回の院内感染アウトブレイクは,ワクチンを2回接種したマスク着用者の間において,SARS-CoV-2デルタ変異の伝播性が高かったことを示した併存疾患のない人にはまだ防御効果があるとはいえ,免疫の減弱を示唆しているしかし,特にCOVID-19重症化リスク因子を持つ人では,3回目のワクチン接種が必要になるかもしれない.特にリスクの高い環境では,マスクを適切に使用することが推奨される.

 

References

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2) Dagan N, Barda N, Kepten E, Miron O, Perchik S, Katz MA, et al. BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine in a nationwide mass vaccination setting. N Engl J Med. 2021;384(15):1412-23. 

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5) Ministry of Health. Vaccination guidelines for recovered individuals. Jerusalem: Ministry of Health. [Accessed: 18 Mar 2021]. Hebrew. Available from:

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