COVID-19関連追加(2021107日)

沖縄への2時間の国内線フライトにおけるSARS-CoV-2伝播

20203月,日本・沖縄への2時間の国内線フライトにおけるSARS-CoV-2伝播】

Toyokawa T, et al. Transmission of SARS-CoV-2 during a 2-h domestic flight to Okinawa, Japan, March 2020. Influenza and Other Respiratory Viruses. Oct 3, 2021.

https://doi.org/10.1111/irv.12913

Background

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)を原因とするコロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に急速に拡大している.感染者が民間航空機で移動する可能性がある.そこで本研究では,国内線でCOVID-19の乗客に曝露した乗客および客室乗務員を対象,フェイスマスクの使用,フィジカルディスタンス,およびCOVID-19との関連を調査・検証することを目的とした.

Outbreak detection:

2020326日,沖縄県の保健所に,那覇市在住の30代男性がSARS-CoV-2ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査で陽性となり,COVID-19と診断したと医師から連絡があった.324日に採取された鼻咽頭スワブによるPCRの結果,Ct値は18.8であった.彼は,320日に関西のA県に旅行した.323日に発熱と咳が発生した.症状があったにもかかわらず323日にBX市から2時間の国内民間航空便でフェイスマスクを着用せずに那覇に戻ってきた.搭乗者および客室乗務員のSARS-CoV-2感染の有無を調査したところ,クラスター感染が判明した.本報告では,323日のフライトに搭乗した乗客・乗員のSARS-CoV-2感染クラスタリングの調査と,フェイスマスクの使用,フィジカルディスタンス,SARS-CoV-2感染の獲得リスクの関連性について報告する.

Methods

本観察研究では,2020323日に日本の那覇市に向かう機内でCOVID-19に曝露した乗客と客室乗務員を調査した.二次発病率を算出した.SARS-CoV-2の全ゲノムシーケンスを用いて,このクラスタリングにおける確定症例間の感染連鎖を特定した.COVID-19確定症例と,指標症例と乗客の座席が近いこと,および/またはフェイスマスクの使用との関連を,ロジスティック回帰を用いて推定した.

Setting:

飛行機はエコノミークラス177席のボーイング737-800であった.HEPAフィルターを備えた空気再循環システムを搭載していた.我々は,この飛行機のHEPAフィルターは,2020215日に交換されていることを確認した.同機には,指標症例,他の乗客141名(座席占有率80.2%),客室乗務員4人,パイロット2人の合計148人が搭乗した.航空会社に確認したところ,フライトの遅延はなく,乗客および乗務員はボーディングブリッジを使用して乗降した.

 

Investigation of the index case, passengers, and flight attendants:

調査開始当初は,患者から2列目以内に座っていた乗客を追跡した.しかし,他県の保健所からPCR検査で陽性となった症状のある乗客が報告されたため,Figure 1の「初期調査」と「追跡調査」のように接触者の追跡を拡大した.初期調査では,2020326日〜46日にかけて,全乗客141人のうち82人に聞き取り調査を行った.搭乗者には,SARS-CoV-2感染の可能性があることを電話で通知し,フライトから14日後の46日まで,自己隔離と自己監視をお願いした.何らかの症状が出た場合は,最寄りのCOVID-19相談センターに相談するよう助言した.また,航空会社に対し,客室乗務員にも同様の案内をするよう要請した.

Figure 1: Flowchart showing the selection process of the study subjects on board the airplane with the index case of coronavirus disease.

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Case definition:

確定症例(confirmed case)とは,症状や徴候の発現の有無にかかわらず,2020323日〜46日の間に,機内の乗客または客室乗務員のSARS-CoV-2感染が確認された症例とした.また,2020323日〜46日の間に,この便に搭乗していた乗客または客室乗務員が急性呼吸器疾患(37.5℃以上の発熱と,呼吸器疾患の徴候・症状(咳,喉の痛み,鼻汁・鼻閉,息切れなど)を発症したが,PCR検査を受けなかった例を疑い症例(probable case)と定義した.発症日は,疫学データに基づく確定症例または疑い症例において,最初の症状が発生した日とした.二次発病率は,確定症例数を,指標症例を除く乗客・客室乗務員数で割って算出した

Results

このフライトに搭乗していた146人(フライト中にキャビンスペースを共有していなかった2人のパイロットを除く)の年齢中央値は26歳(範囲, 385歳)で,そのうち74人(50.7%)が男性だった.これらの人々のうち,14人の確定症例および6人の疑い症例が確認された(Figures 2 and 3; Table 1

Figure 2: Schematic diagram of the seat assignments of passengers traveling on Boeing 737-800 from City X, Prefecture B, to Naha, Okinawa, Japan, on March 23, 2020. SNV, single nucleotide variation.

 

 

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Figure 3: Day of symptom onset for confirmed and probable cases of coronavirus disease (COVID-19) among passengers of Boeing 737–800 from City X, Prefecture B, to Naha, Okinawa, Japan, on March 23, 2020 (N=21)

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Table 1: Timeline of the onset of illness and diagnosis of 15 confirmed cases of COVID-19 transmitted on the flight to Naha, Okinawa, Japan, on March 23, 2020 (N=15).

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Notes: For each case, the day of symptom onset is shown in red, and the day of testing positive for SARS-CoV-2 using reverse-transcription polymerase chain reaction is shown in yellow. The passengers in seats 25F and 25G lived together (blue box), and the passengers in seats 14B, 14F, 14G, and 14H lived together (green box).

Abbreviations: COVID-19, coronavirus disease; NA, not available; SARS-CoV-2, severe acute respiratory syndrome coronavirus 2.

 

また,各自治体が実施した疫学調査によると,COVID-19確定症例14人のうち,指標症例およびフライト中に確認された他の症例以外にCOVID-19確定症例との密接な接触歴が確認されなかった.さらに,確定症例14人のうち12人のウイルスのゲノム配列を決定することができた: そのすべてが指標症例のゲノム配列と同一であり,ヨーロッパに関連した日本の分離株の子孫(Pangolin lineage B.1.113)と分類されたものあるいは1ヌクレオチドだけが異なるものであった(Table 2したがって,今回のアウトブレイクは,機内での曝露による可能性が最も高いと考えられる

Table 2: Summary of the single nucleotide variation alleles of SARS-CoV-2 isolates in this study.

Abbreviation: GISAID, Global Initiative on Sharing All Influenza Data.

 

確定症例14人のうち,14B14F14G14H25F25Gに着席していた2つの家族集団があった.潜伏期間と全ゲノム解析の結果から,2つのシナリオが考えられる; すなわち,2人の家族(14B14F)が指標症例または14Fに座っていた乗客から直接感染した,あるいはCOVID-19を発症した最初の家族は指標症例から直接感染し,その後14Bに座っていた患者に感染した可能性である.同様に,25F25Gに座っていた乗客は,両方とも指標症例いから直接感染していた可能性がある.あるいは,家族の中で最初にCOVID-19を発症した25Fの乗客が,25Gの乗客に感染を伝播させた可能性もある.二次発病率は,9.7%であったもし疑い症例も含めると,二次発病率は13.8%となるCOVID-19確定症例14人が202031日〜23日の間に居住していた7県の確定症例については,沖縄県を含む3県で累計20130人,1県で3人,その他の3県では疑い症例の報告はなかった.

Table 3に示すように,フェイスマスクの不適切な使用または不使用,および指標症例から2列目以内の席の乗客の相対リスクおよび95%信頼区間(CI)は、それぞれ2.4695%CI: 0.75-8.094.695%CI: 1.28-16.64.895%CI: 1.46-15.8であったフェイスマスクの不使用は,指標症例から2列目以内の席であることを調整した後,独立したリスク因子として同定された

Table 3: Association of the use of face mask and maintaining distance from the index patient with SARS-CoV-2 positivity.

Abbreviations: CI, confidence interval; OR, odds ratio.

a Confirmed and probable cases.

b Adjusted for wearing a face mask and maintaining distance from the index case, simultaneously.

 

Discussion

・今回の調査結果から,SARS-CoV-22時間のフライト中に指標症例から他の人に伝播したことが示唆された.疫学・ゲノミクス解析の結果から,感染呼吸器飛沫や感染微小エアロゾル(micro-aerosols)を介して機内で伝播した可能性が示唆された.また,今回の報告により,乗客や客室乗務員がフライト中はフェイスマスクを使用することの有効性が確認された.

・航空機の換気システムにはHEPAフィルターが使用されているため,機内での感染,特にエアロゾル伝播の可能性は低い14)-16).国際的には,確定症例から2列以内に座っている乗客を,飛沫感染の危険性から濃厚接触者とする,いわゆる2列ルール(two-row rule)が,航空機搭乗者の接触者を特定するために適用されている17).しかし,人に感染するコロナウイルスであるSARSや中東呼吸器症候群ウイルスを含む伝播は,感染飛沫だけでなくエアロゾルを介しても可能である18)19).最近の報告では,SARS-CoV-2の空気媒介性伝播(airborne transmission)の危険性が指摘されており,米国疾病予防管理センター(CDC)は,SARS-CoV-2の空気媒介性伝播による拡大についてのガイドラインを更新し,飛沫感染(droplet transmission)だけでは拡大を説明できないとしている20)-24).今回のフライトでCOVID-19を発症した乗客のほとんどが指標症例から2列以上離れた席に座っていたことから,このクラスターが感染微小エアロゾルにある程度起因している可能性がある.

・このCOVID-19の時代には,機内でのユニバーサルマスキングポリシーを議論しなければならない.我々の研究では,飛行機での移動中にフェイスマスクを使用することで,SARS-CoV-2感染のリスクが効果的に減少した.最近の研究では,マスクの着用は,感染者から他人へのウイルスの拡散を防ぐだけでなく,個人の保護にも有効であるとするものもある36)-38)IATAが指摘したように9),これまでに発表されたほとんどの報告書2)-8),および我々の研究では,マスク着用などの対策が実施される前の流行の初期段階において,COVID-19の機内伝播の可能性が指摘されている.

Limitation: @乗客の情報は電話インタビューによって得られたものであり,リコールバイアスが除外できない.Aすべての乗客を調査することができず,また,すべての無症状の乗客についてSARS-CoV-2感染の有無を抗体検査で評価することができなかったため,COVID-19を発症した乗客を見逃し,このイベントの影響を過小評価している可能性がある.B19人の乗客が追跡調査を受けられなかったが,この損失は乗客の間で無作為に分配されたものであり,疾患の状態とは無関係であると考えている.したがって,追跡調査不能は今回の調査結果に疫学的に重要な影響を与えるものではなかった.Cフライト中ではなく自宅の家族内で感染した可能性がある確定症例をカウントし,疑い症例に分類された乗客全員がSARS-CoV-2に感染していると仮定したことで,発病率を過大評価した可能性がある.DSARS-CoV-2に感染した人は,フライト中の機内で座っている間に感染したわけではない.旅行中の行動,親しい人との接触,飛行機の座席や通路,トイレ,手荷物受取所,空港の出発ロビーやラウンジなどの汚染された表面などが,指標症例への曝露の機会となる可能性があった.E今回のイベント発生時に航空機内の換気システムがどの程度機能していたかについては評価していない.

 

References

省略.