COVID-19関連追加(20211110日)

SARS-CoV-2 Delta variantのスパイクタンパク質による膜融合と免疫逃避】

Zhang J, et al. Membrane fusion and immune evasion by the spike protein of SARS-CoV-2 Delta variant. Science. Oct 26, 2021.

https://www.science.org/doi/10.1126/science.abl9463.

Abstract

SARS-CoV-2Delta variantは,それまでに流行していた変異体を凌駕し,世界的に優勢な株となっている.本研究では,SARS-CoV-2の全長スパイク(S)三量体構造,機能,抗原性を報告するとともに,G614AlphaBetaの各variantと比較した.Delta Sは、低レベルの細胞受容体ACE2でより効率的に膜融合することができ,その疑似ウイルスは他の5つのvariantよりも標的細胞へより速く感染し,そのために伝播性が高くなっていると考えられる.それぞれのvariantは,Sタンパク質のN末端ドメインの抗原表面に異なる再構成を示すが,受容体結合ドメイン(RBD)には局所的な変化しか生じないため,治療用抗体の標的としてはRBDの方が適している

 

Main

SARS-CoV-2は,COVID-19パンデミックの原因ウイルスである(1).最初のアウトブレイクの原因となったWuhan-Hu-1(1)は,第一世代のワクチン開発の基礎となった株である.我々は以前,2つの初期のVOCsvariants of concernAlphaおよびBetaの特徴を明らかにした(2).インドで最初に検出され,B.1.617.2系統としても知られているDelta variant(3)は,すぐにVOCとして特徴づけられ,数ヶ月のうちに他のvariantsを凌駕して世界的に支配的な株となった.その伝播性は,Wuhan-Hu-1の約2倍と推定されている(4, 5)Delta variantによる感染は,潜伏期間が短く,PCR検査で最初に陽性となったときのウイルス量は,以前のvariantsに比べて約1000倍になるようだ(6).より重症疾患を引き起こすかどうかはまだ不明だが(7, 8),第一世代のワクチンによる免疫に対してある程度の抵抗性を持つ(9-12).別のVOCであるGammaB.1.1.28またはP.1系統)は、ブラジルや他のいくつかの国で広がっている(13, 14).また,インドで最初に報告された第3variantであるKappaB.1.617.1系統)は,VOIvariant of interest)のままであるが,その急増(surge)は限られたものであった(15, 16).介入戦略の指針とするためには,variantsの伝染性と免疫逃避の増加の分子メカニズムを理解することが重要である.

SARS-CoV-2は,エンベロープ型のプラス鎖RNAウイルスで,その脂質二重層と標的細胞膜を融合して宿主細胞に侵入する.この融合反応は,ウイルスにエンコードされた3量体スパイク(S)タンパク質が,宿主のアンジオテンシン変換酵素2ACE2)に結合することで促進される.Sタンパク質は一本鎖の前駆体(single-chain precursor)として産生され,宿主のfurin様プロテアーゼ(furin-like protease)によって受容体結合断片S1と融合断片S2に処理する(processinto)(fig. S1(17)Sタンパク質は,宿主細胞表面のACE2と結合した後,S2にある第2の細胞プロテアーゼによって開裂され(S2'サイト; fig. S1(18)S1解離(S1 dissociation)とS2リフォールディング(S2 refolding)のカスケードが開始され,膜融合が促進される(19, 20)S1には4つのドメインがある: S1には,NTDN-terminal Domain),RBDReceptor-Binding Domain),2つのCTDC-terminal Domain)の4つのドメインがあり,融合前のS2の中央らせん束構造を保護しているRBDは、受容体にアクセスできない「down」の状態と、受容体にアクセスできる「up」の状態をとることができる(21); その動きによってウイルスは重要な受容体結合部位を宿主の免疫応答から守ることができる(21, 22)

Sタンパク質に関する集中的な研究により,SARS-CoV-2の侵入経路に関する知識は大幅に進歩した(23-26).ここでは,DeltaKappaGammaの各variantsの全長Sタンパク質を特徴づけ,低温電子顕微鏡(cryo-EM)でその構造を決定した.Delta Sタンパク質の構造,機能,抗原性を,GammaKappa,および以前に解析されたAlphaBeta(2)と比較することで,SARS-CoV-2の最初のアウトブレイク以来,最も感染性の強い形態である,伝播性が高まり,免疫逃避が強化されているメカニズムについて,分子レベルでの洞察が得られる.

Membrane fusion by Delta S is substantially faster than that of other variants:

GammahCoV-19/Brazil/AM-992/2020),

KappahCoV-19/India/MH-NEERI-NGP-40449/2021),

DeltahCoV-19/India/GJ-GBRC619/2021)の各変種に由来する配列を持つ完全長Sタンパク質の特徴を明らかにするため(fig. S1),我々はそれぞれの発現構築体(expression constructs)をHEK293細胞にトランスフェクトし,その融合活性を親株の全長S構築体(G614またはB.1 variant(27)との融合活性を比較した.すべてのSタンパク質は同等のレベルで発現した(fig. S2A).細胞を採取した時点では他のvariantsの約40%の開裂率と比較して,Kappa SS1S2の間において<5%の開裂率であり,furin開裂部位の近くにあるP681R変異(DeltaKappaに見られる)がfurin処理を増加させないことを示唆しているDeltaにおける開裂の程度は,親株のそれとは大きく変わらない(fig. S2A).これらのSタンパク質を産生する細胞は,予想通り,ACE2発現細胞と効率よく融合した(fig. S2B).Kappa Sの融合活性は,低トランスフェクションレベルでは他のSタンパク質の約50%であり,これはおそらくfurinによる開裂が少ないためであるが,高トランスフェクションレベルではその差は小さくなった(fig. S2B

より効率的な融合がDelta Sの伝播性を説明しているかどうかを検証するために、SACE2のいずれも高レベルでトランスフェクトして,細胞間融合アッセイ(cell-cell fusion assay)によるタイムコース実験を行った(fig. S3A).我々は,G614AlphaBetaGammaDeltaKappaの間で融合活性に大きな違いは見られなかったしかし,Delta S発現細胞は,他のvariantsよりも,特に長い時間経過後に,ネガティブコントロールであるHEK293細胞とより効率的に融合したFig. 1A and fig. S3BHEK293細胞は,最小レベルの内因性ACE2を発現しており,我々の標準的な2時間融合プロトコルでACE2発現構築体をトランスフェクトしていない場合,ネガティブコントロールとして使用される(28)HEK293細胞に少量のACE2を導入しても同じパターンが再現されたが,ACE2トランスフェクションレベルが増えると差は小さくなったFig. 1B and fig. S3Cこれらのデータは,Delta Sが他のvariantsよりも効率的にACE2の低レベルを発現する宿主細胞に侵入できることを示唆している

Fig. 1: More efficient membrane fusion by the Delta variant than other variants.(A) Time course of cell-cell fusion mediated by various full-length S proteins, as indicated, with HEK293 cells with no exogenous ACE2. (B) Cell-cell fusion mediated by various full-length S proteins with HEK293 cells transfected with low levels (0 to 0.25 ng) of ACE2 expression constructs. (C) Time course of infection HEK293-ACE2 cells by MLV-based, pseudotyped viruses using various SARS-CoV-2 variant S constructs containing a CT deletion in a single cycle. Infection was initiated by mixing viruses and target cells, and viruses were washed out at each time point as indicated. The full time course and concentration series are shown in fig. S3. The experiments were repeated at least three times with independent samples giving similar results.

 

 

我々は,粒子への組み込みを容易にするために,細胞質尾部切断S構造体(cytoplasmic tail-truncated S constructs)を発現するマウス白血病ウイルス(MLV)ベースの疑似ウイルスを用いて(29, 30),同様のタイムコース実験を行った.感染は,ウイルスと標的細胞を混合することで開始し,各時点でウイルスを洗浄した(wash out).Delta variantは,感染性を最大値で規格化した場合,最初の60分で他のウイルスよりも急速に感染が確立したFig. 1C.他のウイルスは時間の経過とともに追いつき,8時間後には最大レベルに達した(fig. S3D).Deltaを含むいくつかのウイルスは,洗浄を行わなかった場合の測定値が8時間後の測定値よりも低いことが再現され,これはレポーター遺伝子の発現を低下させる細胞毒性と一致する.

これらの結果を総合すると,Delta variantは,我々がテストした他のvariantに比べて,より効果的な付着(more effective attachment)やより速い融合動態(faster fusion kinetics)によって、標的細胞に大幅に迅速に感染できることが示唆される

Biochemical and antigenic properties of the intact S proteins from the variants:

我々は,GammaKappaDelta variantの全長Sタンパク質にC末端strep-tagを付加し(fig. S4A),Wuhan-Hu-1S三量体で確立した手順(28)で発現・精製した.Gammaタンパク質は3つの異なるピークで溶出し, Coomassie-stained SDS-PAGE analysisで示されるように,それぞれ融合前のS三量体(prefusion S trimer),融合後のS2三量体(postfusion S2 trimer),解離したS1単量体(dissociated S1 monomer)に対応していた(28)fig. S4B).融合前の三量体は,Wuhan-Hu-1タンパク質のプロファイルと同様に,全タンパク質の<40%を占めており,この三量体はあまり安定していないことが示された.Kappaタンパク質は,融合前の三量体に対応する1つの主要なピークで溶出したが,leading sideには大量の凝集体があり,trailing sideには大きなショルダー(shoulder)があることから,このタンパク質もコンフォメーションが不均一(heterogeneous)であることが示唆された.さらに,タンパク質の大部分は未開裂のままであり(fig. S4B),P681R変異があるにもかかわらず,furinによる開裂が非効率的であることが確認された.対照的に,Deltaタンパク質は,ほとんど凝集も解離もなく,融合前の三量体の単一の対称的なピークで溶出し,我々が調べたすべての全長Sタンパク質の中で最も安定した三量体の調製物(the most stable trimer preparation)であると思われる(fig. S3B(31)Negative stain EMでこれらの結果を確認した(fig. S5).SDS-PAGE analysisの結果,Delta三量体のピークは主に開裂されたS1/S2複合体を含んでおり,その開裂レベルはG614Beta Sタンパク質と非常に似ていたことから(2, 31)P681Rfurin開裂にほとんど影響を与えていないことを示している

これらのS三量体の抗原性を解析するために,我々はCOVID-19回復者から分離した可溶性ACE2タンパク質およびS指向性モノクローナル抗体(S-directed monoclonal antibodies)との結合をbio-layer interferometryBLI)で測定した.選択された抗体は,S三量体上の異なるエピトープ領域を認識した(抗体が結合を競う定義として,RBD-1RBD-2RBD-3NTD-1NTD-2S2と名付けられた)(fig. S6A(32)Gamma variantは,ACE2のオリゴマーの状態にかかわらず,G614 親ウイルスよりも受容体に強く結合した(Fig. 2, fig. S6B, and table S1).これは,RBDに変異(K417TE484KN501Y)があるためと考えられる.ACE2KappaDeltaに対する親和性(affinities)はG614Gammaの三量体の親和性の中間で,KappaGammaに近く,DeltaG614に近かった(ただし,二量体のACE2へのDeltaの結合は除いて.これは他のvariantsよりも予想外に高いoff-rateを示した)(Fig. 2.これらのデータは,Kappa RBDGamma RBDよりもわずかに高いACE2親和性を示したことを除いて,S三量体の代わりに単量体のRBD調製物(preparations)を用いて大部分で確認された(fig. S6B and Table S1).ACE2Delta RBDからはGamma RBDKappa RBDよりも急速に解離しなかった; Delta三量体のACE2二量体に対する親和性が他の変異体よりも明らかに弱いのは,ACE2の結合がS1解離を引き起こすことで説明できる可能性がある.これらの結果から,Gamma variantRBD変異は受容体認識を高め,KappaL452RE484Q)とDeltaL452RT478K)の変異はACE2親和性にあまり影響を与えないことが示唆された二量体のACE2は,他のどのvariantからよりも,Delta S三量体からS1解離を誘導するのに,より効果的であると思われる

Fig. 2: Antigenic properties of the purified full-length SARS-CoV-2 S proteins. Bio-layer interferometry (BLI) analysis of the association of prefusion S trimers derived from the G614 “parent” strain (B.1) and the Gamma (B.1.1.28), Kappa (B.1.617.1) and Delta (B.1.617.2) variants with soluble ACE2 constructs and with a panel of antibodies representing five epitopic regions on the RBD and NTD (see fig. S4A) (32). For ACE2 binding, purified S proteins were immobilized to AR2G biosensors and dipped into the wells containing ACE2 at various concentrations. For antibody binding, various antibodies were immobilized to AHC biosensors and dipped into the wells containing each purified S protein at different concentrations. Binding kinetics were evaluated using a 1:1 Langmuir model except for dimeric ACE2 and antibody G32B6 targeting the RBD-2, which were analyzed by a bivalent binding model. All KD values for multivalent interactions with antibody IgG or dimeric ACE2 and trimeric S protein are the apparent affinities with avidity effects. The sensorgrams are in black and the fits in red. Binding constants highlighted by underlines were estimated by steady-state analysis as described in the Methods. RU, response unit. Binding constants are also summarized here and in table S1. All experiments were repeated at least twice with essentially identical results.

 

 

全ての抗体はG614三量体に対して適度な親和性を持っていた(Fig. 2, fig. S6B, and table S1).Gamma variantは,2つのRBD-2抗体G32B6C12A2,および1つのNTD-1抗体C83B6との結合を失ったが,NTD-1抗体C12C9とは親和性をやや低下させて結合を維持しており,これら2つのNTD-1抗体は重複するが異なるエピトープを標的としていることが示唆された(32).残りの抗体に対する親和性は,G614三量体と同じであった.Kappa三量体の結合は,いくつかの抗体に対して非現実的なほど遅いoff-ratesを示し(Fig. 2 and fig. S6B),これはおそらく凝集とコンフォメーションの不均一性によると推測される.RBD-2抗体やNTD-1抗体C83B6との結合は定性的に大幅に低下していたが,別のNTD-1抗体C12C9との結合は野生型か,あるいは増強されていた(Qualitatively, it had substantially weakened binding to the RBD-2 antibodies and the NTD-1 antibody C83B6, but with wildtype or even enhanced affinity for another NTD-1 antibody C12C9).Delta Sは,2つのNTD-1抗体との結合が失われただけで,RBDを標的とした抗体を含む他の抗体との親和性はほとんど変化しなかった(Fig.2, Fig.S6B, and table S1).また,BLIデータは,フローサイトメトリーで測定した膜結合S三量体の結合結果とほぼ一致した(fig. S7).

我々は次に,これらの抗体および三量体の可溶性ACE2(33)の中和の強さ(neutralization potency)を,HIVベースの疑似ウイルスアッセイにおいて,S variantsによる感染を阻止する程度を測定することで解析した.ほとんどの抗体の中和の強さは,膜結合あるいは精製したSタンパク質に対する結合親和性と相関していた(table S2).C81D6C163E6は,それぞれNTD-2S22つの非中和性エピトープを認識している; それらはいずれの疑似ウイルスも中和しなかった.このように,GammaおよびKappa variantsの変異は,Delta variantの変異よりも抗体感度に大きな影響を与えている

Overall structures of the intact S trimers of the Delta, Kappa and Gamma variants:

我々は,DeltaKappa,およびGamma variantの未修飾の配列を持つ完全長のS三量体の低温電子顕微鏡構造を,確立された手順に従って決定した(2, 8, 31)3D分類では,DeltaおよびKappaの三量体はそれぞれ3つの異なるクラスに分類され,それぞれ1つの閉じた融合前コンフォメーション(prefusion conformation)と2つのone-RBD-upコンフォメーション(one-RBD-up conformations)を表していた.Gamma三量体では2つのクラスがあり2つの,2つのone-RBD-upコンフォメーションを表していた.これらの構造は,3.14.4Å分解能で精密化された(figs. S8 to S14 and table S3).親G614 S三量体(parental G614)の構造と比較しても,全長variant Sタンパク質の全体的な構造に大きな変化は見られない(Fig. 3 and fig. S15(31)S1/S2境界にあるfurin開裂部位(残基682-685)は,P681R置換を含めて,これらのマップでは見えなかった.

Fig. 3: Cryo-EM structures of the full-length SARS-CoV-2 S proteins from the Delta, Kappa and Gamma variants.(A to C) The structures of the closed prefusion conformation and two one-RBD-up conformations of the Delta S trimer are shown in ribbon diagram with one protomer colored as NTD in blue, RBD in cyan, CTD1 in green, CTD2 in light green, S2 in light blue, the 630 loop in red and the FPPR in magenta. (D to F) The structures of the closed prefusion conformation and two one-RBD-up conformation of the Kappa S trimer are shown in ribbon diagram with the same color scheme as in (A). (G) and (H) The structures of the two one-RBD-up conformations of the Gamma S trimer are shown in ribbon diagram with the same color scheme as in (A). All mutations in the three variants, as compared with the original virus (D614), are highlighted in sphere model. (I) Structures, in the Delta closed trimer, of segments (residues 617-644) containing the 630 loop (red) and segments (residues 823-862) containing the FPPR (magenta) from each of the three protomers (A), (B) and (C). The position of each RBD is indicated. Dashed lines indicate gaps in the chain trace (disordered loops).

 

 

我々は,FPPR(融合ペプチド近位領域[fusion peptide proximal region]; 残基828-853)と630ループ(残基620-640)が制御要素(control elements)であり,これらの位置のシフトがSの安定性および構造再編成(structural rearrangement)を調節することを提案してきた(28, 31)DeltaおよびKappa variantでは,FPPR630ループの配置(configurations)は,G614三量体での分布とほぼ一致している: すべてのFPPRRBD-downコンフォメーションにおいて構造化されている一方で,1つのFPPR630ループのペアのみがone-RBD-upコンフォメーションにおいて順序付けられている.閉じた状態(closed state)のDelta SFPPR残基841-847の密度が弱いのは,おそらくはCTD1RBDがわずかに(1-2Å)下方にシフトしているためで,FPPR packingが弱くなっている可能性がある(fig. S15).3つの独立したデータセットから,Gamma Sには閉じたコンフォメーション(closed conformation)を表すクラスは確認されず(fig. S12),これはこのコンフォメーションがGamma Sでは十分に占められていないことを示唆しているが,1つのFPPR630ループのペアはGammaone-RBD-upコンフォメーションで構造化されており,おそらくは受容体と結合する前に開裂したS三量体を安定化させている.これら3つのvariantsにおけるone-RBD-up構造の違いは,up-RBDとその隣のプロトマー(protomer)のNTDcentral threefold axisからどの程度離れているかという点だけである(fig. S15).Asn343でのN-linked glycanは,RBD openingを促進するゲートの役割を担っていると考えられている(34).この密度は,すべての新しいvariantsのマップ,特にDeltaKappaにおいて,G614のマップよりも強くなっている(fig. S16).このglycanの遠位端は隣接するRBDに接触してリング状の密度(ring-like density)を形成し,three-RBD-downコンフォメーション(three-RBD-down conformation)を安定化させているようだ.しかし,なぜGamma融合前三量体(Gamma prefusion trimer)は解離し,Kappa三量体は凝集しやすく,Delta三量体が最も安定しているのかは不明である.

Structural consequences of mutations in the Delta variant:

Delta S三量体の構造とG614三量体のクローズドコンフォメーション(closed conformation)を重ね合わせ,S2領域で並べると(fig. S15),3つの点変異(T19RG142DE156G)と2つの残基欠失(F157delR158del)を含むNTDに最も顕著な違いがあることがわかった.2つのNTDを並べると(Fig. 4A and 4B),これらの変異は,N-linked glycanN149)を含み,NTD-1エピトープ(35-38)の一部を形成する,143-154ループの形を変え,それをウイルス膜から遠ざける.また,それらの変異によって,N末端部分と173-187ループも再構成され,NTD-1エピトープ付近の抗原表面が大幅に変化し,NTD-1抗体による結合や中和が失われていることと一致している(Fig. 2, fig. S6, and table S2L452RT478K2つの変異を持つDelta RBDには,大きな構造の再編成は見られないFig. 4Cこれらの残基はACE2との接触面にはなく,受容体の結合にはほとんど影響しない(fig. S17(39)今回テストしたほとんどの抗RBD抗体によるDelta variantの結合も中和も変化しなかったことから,この2つの残基も主要な中和エピトープには含まれていないことが示唆されるS2HR1heptad repeat 1)におけるD950N置換(この付近には,融合前コンフォメーション[prefusion conformation]におけるS2プロトマー間のpackingを安定化させる可能性のある複数の荷電残基[charged residues]ペアが存在する)による明らかな構造改変は見られなかった(Fig. 4D).

Fig. 4: Structural impact of the mutations in the Delta S. (A) Superposition of the NTD structure of the Delta S trimer in blue with the NTD of the G614 S trimer (PDB ID: 7KRQ) in yellow. Locations of mutations T19R, G142D, E156G, and deletion of F157 and R158 are indicated and these residues are shown in stick model. The N-terminal segment, 143-154, and 173-187 loops are rearranged between the two structures and highlighted in darker colors. (B) Top view of the panel (A). (C) Superposition of the RBD structure of the Delta S trimer in cyan with the RBD of the G614 S trimer in yellow. Locations of mutations L452R and T478K are indicated and these residues are shown in the stick model. (D) A close-up view of superposition of the Delta S2 in light blue with the S2 of the G614 S trimer in yellow near residue 950. Locations of the D950N mutation and charged residues in the vicinity including Lys947, Arg1014, and Glu1017 from the protomer A and Glu773, Lys776, Glu780, and Arg1019 from the protomer B are indicated. All these residues are shown in the stick model.

Structural impact of the mutations in the Kappa and Gamma variants:

Kappa NTDには,2つの変異(E154KQ218H)のみが存在する(Fig. 5A).Glu154は,G614三量体におけるArg102と塩橋(salt bridge)を形成している(31); E154K置換は結果として,Arg102との好ましくない相互作用を起こし,Kappa三量体の近くに乱れた173-187ループを生じさせるかもしれない(possibly).残基218は表面に露出しており,中和エピトープとは反対側にある.Q218Hは,210-217ループと173-187ループの再編成に寄与しているかもしれない(Fig. 5A).Kappaには2つのRBD変異(L452RE484Q)があり(Fig. 5B),ドメインの全体的な構造は変化していない.Glu484は,RBD-ACE2複合体においてACE2 Lys31と塩橋を形成している(fig. S17(40, 41)E484Q置換は塩橋を失うが,Gln484ACE2 Lys31の間の水素結合(hydrogen bonds)がそれを補い,ACE2結合親和性のわずかな増加を説明している可能性がある.L452Rは,ACE2結合に大きな影響を与える可能性は低い(fig. S17S2における変異H1101Dは局所的な変化をほとんど起こさず(fig. S18A),V1264Lは我々の構造において見ることができない(not visible).

Fig. 5: Structural impact of the mutations in the Kappa and Gamma S proteins. (A) Superposition of the NTD structure of the Kappa S trimer in blue with the NTD of the G614 S trimer in yellow. Locations of mutations E154K and Q218H, as well as Arg102 that forms a salt bridge with Glu154 in the G614 structure are indicated and these residues are shown in the stick model. The 173 to 187 loop in the G614 trimer is highlighted in a darker color; it becomes disordered in the Kappa trimer. (B) Superposition of the RBD structure of the Kappa S trimer in cyan with the RBD of the G614 S trimer in yellow. Locations of mutations L452R and E484Q are indicated and these residues are shown in the stick model. (C) A view of superposition of the NTD structures of the Gamma (blue) and G614 (yellow; PDB ID: 7KRR) S trimers in the one-RBD-up conformation. Locations of mutations L18F, T20N, P26S, D138Y and R190S, as well as N-linked glycan attached to Asn20 in the Gamma structure are indicated and these residues are shown in stick model. (D) Superposition of the RBD structure of the Gamma S trimer in cyan with the RBD of the G614 S trimer in yellow. Locations of mutations K417T, E484K and N501Y are indicated and these residues are shown in the stick model.

 

 

変異(L18FT20NP26SD138YR190S)によって引き起こされたGamma NTDにおける構造変化は,EMマップで明らかになった(fig. S14).R190Sを除くすべての変異は,N末端セグメントの近傍にあり,その拡張構造の再構成に寄与している(Fig. 5C).N末端セグメントの新しいコンフォメーションは,ほとんどの既知のS三量体構造において乱れている70-76ループを安定化させているようだ(21, 28, 42)T20Nは新しいグリコシル化部位(glycosylation site)を作り,GammaにおいてはAsn20が実際にグリコシル化されている(Fig. 5C).これらの変化は明らかに143-154ループおよび173-187ループもシフトさせており(fig. S18B),Gamma NTDの抗原表面の相対的な大規模な再編成につながっている.Gammaにおける3つのRBD変異(K417TE484KN501Y)もまた,主要な構造の再編成をもたらさない(Fig. 5D).N501Yは受容体結合親和性を高めるが,K417TおよびE484KACE2とのイオン性相互作用(ionic interactions)が失われるため、相殺される可能性がある(fig. S17(2, 43-46)K417TおよびE484Kは,おそらくはRBD-2エピトープを標的とする抗体によるGammaの結合および中和が失われる原因となっていると考えられる(45, 47, 48)CTD2におけるH655Yは局所の構造を変化させなかったが(fig. S18C),開裂されたS2N末端付近に位置しており,Gamma S三量体を不安定にする役割があることが示唆される.最後に,T1027IS2における大きな変化をもたらさず(fig. S18D),V1176Fは乱れた領域にある.

 

SARS-CoV-2Delta variantは,それまで主流であったAlphaWuhan-Hu-1株よりも約60%伝播性が高い)(49-51)を含むvariantsから急速に置き換わっている.このように,Deltaデルタはヒト細胞内で増殖する能力を高めたと思われる.その説明として,RBDの変異により受容体との結合が強化されたこと(52)S1/S2境界付近のP681R置換によりfurin開裂効率が向上したこと(53, 54)RNAポリメラーゼの変化によりウイルス複製が増加したことなど,いくつかの仮説が提案されている.我々は,Deltaに特徴的なウイルス複製装置の変異(例えば,nsp12におけるG671S)がゲノムRNAの産生を増加させる可能性は否定できないが,感染患者の>1,000倍のウイルス量を達成するためには,成熟したビリオンへのウイルスの集合に他の多くの要因が必要となるかもしれない.我々は,Delta Sの三量体あるいはDelta RBD断片のいずれにおいても,ACE2との結合における有意な増加は検出しなかったし,Delta Sでは,他のどのvariantsよりも効率的な開裂が観察されなかった.実際,G614AlphaBetaDeltaでは既にfurin開裂が非常に効率的に行われており(2, 31, 54),それは,これらのvariantsではもはや律速段階(rate-limiting step: 一番反応速度の遅い箇所)ではないのかもしれない.

我々は,これまでDelta variantにしか見られなかった2つの特性を明らかにし,その伝播性を説明することができた.第一に,Delta Sタンパク質が細胞表面に飽和レベルで発現している場合,それらの細胞は,他のどのvariantの細胞よりも,低レベルのACE2を産生する標的細胞とより効率的に融合する(2)ACE2の発現レベルが増えると,variants間の違いは減少する第二に,Delta S構造体を含む疑似ウイルスは,他のvariantsよりも迅速にACE2を発現している細胞に侵入するこれらのデータから,Delta Sタンパク質は,低レベルの受容体を発現している細胞に侵入するための融合ステップ(fusion step)を最適化するように進化してきたことが示唆されるこの最適化により,Delta Sタンパク質が相対的に短時間の曝露で伝播し,より多くの宿主細胞に迅速に感染することで,潜伏期間が短く,感染の間のウイルス量がより多くなる理由が説明できるかもしれない.注意点としては,今回の実験はすべてin vitroで行われたものであり,より臨床に近い環境で今回の結果を確認するためには,本物のウイルス(authentic viruses)を用いた追加の研究が必要であることが挙げられる.

RBDNTDは,中和抗体が標的とするS三量体の2つの主要部位である(32, 36, 55, 56)今回調べた3つの株は,異なるvariantsが異なる戦略を用いてNTDをリモデリングし,宿主免疫を逃避しうることを改めて示している特筆すべき点は,NTDの機能は特定の構造要素や配列を必要としないことである: なぜなら,表面ループ(surface loops),コア構造におけるβ鎖(β strands in the core structure),さらには一部のN-結合型糖鎖(N-linked glycans)は,ウイルスの感染性を損なうことなく,さまざまな方法で再構成できるからである対照的に,RBDの全体的な構造は,すべてのvariantsの間で厳密に保存されており,再発する表面変異(reoccurring surface mutations)はいくつかの部位に限られているようで,受容体結合における重要な役割と一致している我々はしたがって,治療用抗体やユニバーサルワクチンは,NTDを標的にしない方がよいと考えるなぜなら,ウイルスが抗NTD抗体から逃避することは,ウイルスにとってほとんど負担にならないからである

 

References

省略.