COVID-19関連追加(20211113日)

SARS-CoV-2に対する鼻粘膜免疫応答の年齢による違い

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COVID-19における小児と成人の違い: 我々の目の前にあるもの(It’s Right Under our Nose)】

Morrell ED, Mikacenic C. Differences Between Children and Adults with COVID-19: It’s Right Under our Nose. Am J Respir Cell Mol Biol. Nov 5, 2021.

https://doi.org/10.1165/rcmb.2021-0455ED.

 

COVID-19の最も興味深い点の一つは,なぜ小児の疾患が成人に比べて著しく軽いのかという点である.これは,RSVrespiratory syncytial virus)やインフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスでは,小児は成人に比べて重症疾患を示すことが多いのと対照的である(1).当初,小児では鼻上皮細胞におけるACE2SARS-CoV-2のウイルス侵入に必要な受容体)やTMPRSS2(ウイルス侵入を促すスパイクタンパク質を開裂する宿主側プロテアーゼ)の発現が少なく,組織への感染が制限されているという仮説があった.しかし,複数の分子生物学的研究により,小児と成人では上皮細胞におけるACE2TMPRSS2の発現が同様であることが示されており(2, 3),また,疫学的研究により,小児は成人と同様の割合で生きたウイルスを保有していることが示されている(4-7).また初期の仮説として,小児は成人に比べてSARS-CoV-2に対する初期の抗体応答がより強固であるかもしれない.それは他のヒトコロナウイルスへの曝露がより多いことによる可能性がある(すなわち「交差反応性」抗体),というものがある(1).これは結果として,成人に比べて小児のウイルスクリアランスはより早く、より効率的であることにつながるかもしれない.しかし,SARS-CoV-2に対する血清中和抗体価や,他のヒトコロナウイルスに対する抗スパイクタンパク質抗体価の測定値は,成人と比較しても小児では差がないようだ(8)SARS-CoV-2感染に対する小児と成人の反応の違いについて,現在提案されているモデルの1つは,小児の方がウイルス制御に寄与する初期の自然免疫応答がより積極的(aggressive)(最終的にその後の獲得全身免疫反応が弱くなる可能性)なのではないかというものである(2, 3, 8)

ここでKochらは,SARS-CoV-2に感染した小児と成人の鼻粘膜におけるI型およびII型インターフェロン(IFN)応答は同様であるが, T細胞受容体(TCR)シグナル,T細胞の活性化,および好中球の走化性は,感染した小児に比べて,感染した成人では誇張されている可能性があるとする知見を発表した(9).著者らは,SARS-CoV-2に感染した小児(n= 36)と成人(n= 16)の鼻粘膜掻爬から得られたbulk-RNA-seqシグネチャーの横断解析を行った.小児の年齢の中央値は1.9歳で,サンプルはすべて入院後に採取された(ほとんどが入院後5日以内).成人のうち,入院を必要としたのは2人(年齢の中央値は32歳)のみであった.両群とも,補助酸素を使用している対象者の割合は低かった.また,比較のために、RSVn= 24)とインフルエンザ(n= 9)に罹患した小児のbulk-RNA-seqシグネチャーも解析した.これらの小児の臨床的特徴は,SARS-CoV-2コホートとは大きく異なっており(RSVとインフルエンザの患者はすべてICUに入院し,少なくともHFNCでサポートされていた),主に免疫媒介性ウイルス応答の陽性コントロールとして使用された.

重要なのは,著者らはまず,小児と成人では,感染の有無にかかわらず,鼻粘膜上皮細胞と免疫細胞の混合集団におけるACE2およびTMPRSS2発現に差がないという先行研究(23)を検証したことである.彼らは次に,ウイルス感染に対するヒト反応においてIFNシグナルが重要な役割を果たしていることから,T型およびUIFN遺伝子セットシグネチャーに注目した.その結果,SARS-CoV-2に感染した小児と成人の間で,小児と成人の両方において,IFNシグネチャーはSARS-CoV2のウイルス読み取り(viral reads)と高い相関関係があったが,I型およびIIIFN発現シグネチャーに違いは見られなかった.最後に彼らは,SARS-CoV-2に感染した小児と成人の間で発現が異なる737個の遺伝子について,遺伝子オントロジーおよび遺伝子セットエンリッチメント解析を行った.この研究では、同様のウイルス量をもつ無症候性/軽症の小児と成人の間で,直接比較するという新しい試みがなされたTCRシグナルやT細胞の活性化に関与する遺伝子は,小児と比べて成人に多く見られた同様に,IL-8などの好中球の移動に関与する遺伝子は成人に豊富であり,一方IL-18などの他の免疫メディエーターは小児に豊富であった.これは、成人に比べて小児では早期の自然免疫応答が活発(brisk)であることを示唆する他の研究(2, 8)とは対照的であり,この研究ではより軽症疾患の患者に焦点を当てたことで一部説明できるかもしれない.

この研究の主な強みの1つは,登録された対象者の広範な臨床フェノタイピングにある.SARS-CoV-2感染症のトランスレーショナルリサーチの大きな問題点は,患者の疾患経過中のサンプル採取時期が明確でないことと,分子/細胞レベルの測定値とアウトカムの間の関連性における主要な臨床的交絡因子の報告が不足していることである.この研究では,ほとんどの小児が発症してから10日前後に採取され,重症度も低かった.この研究の主な限界は,無効所見(null findings)(ACE2TMPRSS2IFN応答に小児と成人の間で差がない)に基づいて結論を出すことが難しいことである.しかし,同様の規模のコホートを解析した他の研究でも,小児と成人の間でACE2TMPRSS2の発現に差がないことがわかっており,この知見の妥当性が裏付けられている.

KochらがCOVID-19に報告した知見の、より広い意味合いは何だろうか?: @上気道におけるウイルス侵入因子であるACE2およびTMPRSS2発現は,感染の有無にかかわらず,小児と成人では差がないと考えられる; A小児と比べて,成人では幅広いT細胞活性化遺伝子セットがアップレギュレートしているという所見は,SARS-CoV-2スパイクタンパク質で刺激した後の,IFN-γやその他の活性化マーカーのCD4細胞内染色性が成人の方が高いというPierce(8)の最近のフローサイトメトリーの結果を補完する重要なものである; BCOVID-19におけるIFN経路の活性化に年齢が重要な役割を果たしているかどうかについて,我々の理解を一致させるためには,さらに多くの研究が必要であるKochらは,小児と成人の間でI型およびIIIFN応答遺伝子の組み合わせに差がないという結果を報告したが,これは以前にbulk-RNA-seqで得られた知見(2)や,SARS-CoV-2に感染した成人と比較して小児ではインターフェロン刺激遺伝子の発現が増加しているというsc-RNA-seqデータ(3)とやや矛盾する.これらの相反する知見には,患者を採取した時期や疾患重症度の違いなどの臨床的要因が重要な役割を果たしている可能性が高い

まとめると,Kochらの論文は,「子供は単なる小さな大人ではない」という小児科医のローテーションでの格言を裏付けるものである.SARS-CoV-2に対する免疫応答は,小児と成人では大きく異なっており,このような違いがその後の臨床アウトカムに大きな違いをもたらしていると考えられるため,我々の分野では,このような研究から得られた知見を活用して,新たな治療ターゲットの特定に役立てるべきである.

 

References

1) Zimmermann P, Curtis N. Why is COVID-19 less severe in children? A review of the proposed mechanisms underlying the age-related difference in severity of SARS-CoV-2 infections. Arch Dis Child 2020;archdischild-2020-320338.

doi:10.1136/archdischild2020-320338.

2) Pierce CA, Sy S, Galen B, Goldstein DY, Orner E, Keller MJ, Herold KC, Herold BC. Natural mucosal barriers and COVID-19 in children. JCI Insight 2021;6:148694.

3) Loske J, Röhmel J, Lukassen S, Stricker S, Magalhães VG, Liebig J, Chua RL, Thürmann L, Messingschlager M, Seegebarth A, Timmermann B, Klages S, Ralser M, Sawitzki B, Sander LE, Corman VM, Conrad C, Laudi S, Binder M, Trump S, Eils R, Mall MA, Lehmann I. Pre-activated antiviral innate immunity in the upper airways controls early SARS-CoV-2 infection in children. Nat Biotechnol 2021;1– 6.

doi:10.1038/s41587-021-01037-9.

4) Yonker LM, Boucau J, Regan J, Choudhary MC, Burns MD, Young N, Farkas EJ, Davis JP, Moschovis PP, Kinane TB, Fasano A, Neilan AM, Li JZ, Barczak AK. Virologic features of SARS-CoV-2 infection in children. medRxiv 2021;2021.05.30.21258086.

doi:10.1101/2021.05.30.21258086.

5) Age-Related Differences in Nasopharyngeal Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Levels in Patients With Mild to Moderate Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) | Global Health | JAMA Pediatrics | JAMA Network. at <https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2768952>.

6) Baggio S, L’Huillier AG, Yerly S, Bellon M, Wagner N, Rohr M, Huttner A, BlanchardRohner G, Loevy N, Kaiser L, Jacquerioz F, Eckerle I. Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Viral Load in the Upper Respiratory Tract of Children and Adults With Early Acute Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). Clin Infect Dis 2021;73:148–150.

7) Chung E, Chow EJ, Wilcox NC, Burstein R, Brandstetter E, Han PD, Fay K, Pfau B, Adler A, Lacombe K, Lockwood CM, Uyeki TM, Shendure J, Duchin JS, Rieder MJ, Nickerson DA, Boeckh M, Famulare M, Hughes JP, Starita LM, Bedford T, Englund JA, Chu HY. Comparison of Symptoms and RNA Levels in Children and Adults With SARSCoV-2 Infection in the Community Setting. JAMA Pediatrics 2021;175:e212025.

8) Pierce CA, Preston-Hurlburt P, Dai Y, Aschner CB, Cheshenko N, Galen B, Garforth SJ, Herrera NG, Jangra RK, Morano NC, Orner E, Sy S, Chandran K, Dziura J, Almo SC, Ring A, Keller MJ, Herold KC, Herold BC. Immune responses to SARS-CoV-2 infection in hospitalized pediatric and adult patients. Sci Transl Med 2020;12:eabd5487.

9) Koch CM, Prigge AD, Anekalla KR, Shukla A, Umehara HCD, Setar L, Chavez J, AbdalaValencia H, Politanska Y, et al. Age-related Differences in the Nasal Mucosal Immune Response to SARS-CoV-2. Am J Respir Cell Mol Biol [online ahead of print] 03 November 2021; https://www.atsjournals.org/doi/abs/10.1165/rcmb.2021-0292OC.

 

 

 

 

 

 

 

SARS-CoV-2に対する鼻粘膜免疫応答の年齢による違い】

Koch CM, et al. Age-related Differences in the Nasal Mucosal Immune Response to SARS-CoV-2. Am J Respir Cell Mol Biol. Nov 1, 2021.

https://doi.org/10.1165/rcmb.2021-0292OC.

Abstract

SARS-CoV-2は,世界的なパンデミック以来,18,000万人以上の人々に感染している.小児と成人では、ウイルス量や感染性がほぼ同様であるにもかかわらず,小児が重症化することはほとんどない.この原因として,一次感染地でのウイルスに対する宿主応答の違いが挙げられている.我々の目的は,小児と成人の鼻粘膜におけるSARS-CoV-2に対する宿主応答を調べ,それをRSウイルス(RSV)やインフルエンザウイルス(IV)に対する宿主応答と比較することである.SARS-CoV-2感染した36人の小児,RSVに感染した24人の小児,IVに感染した9人の小児、SARS-CoV-2に感染した16人の成人,および7人の小児健常対照者と13人の成人健常対照者の鼻粘膜における臨床経過と遺伝子発現を解析した.小児と成人のいずれも,SARS-CoV-2に感染すると,鼻粘膜にインターフェロン応答が生じた.インターフェロン応答の大きさは,疾患重症度ではなく,ウイルスの読み取りの豊富さ(the abundance of viral reads)と相関しておりSARS-CoV-2に感染した小児および成人,そして重症RSV感染症の小児の間で同等であったACE2およびTMPRSS2発現は,年齢やウイルス感染の存在とは相関していなかったSARS-CoV-2に感染した成人は,SARS-CoV-2に感染した小児と比較して,重症度やウイルス読み取り(viral reads)が同等であるにもかかわらず,好中球の活性化やT細胞受容体のシグナル伝達経路に関与する遺伝子発現が増加していたSARS-CoV-2に対する免疫応答の年齢による違いは,成人の重症化リスクを高めている可能性がある.

 

Figure 5: Local interferon response is independent of age and virus.

A. 222T型およびUIFN応答遺伝子のz-score正規化発現(CPM)のヒートマップ.遺伝子を対象とした階層クラスタリング(行)では,明確なクラスタは特定できなかった.SARS-CoV-2IVRSV群内のサンプルは,それぞれSARS-CoV-2IVRSVviral readsの昇順で並べた.B. 参加者群別のIFN応答遺伝子の平均正規化発現(IFNAIFNG応答のHallmark pathway listsを組み合わせたもの).(調整済みp <0.05は統計的に有意とみなす, Benjamini-Hochberg FDR補正を用いたKruskal-Wallis検定).対数変換したCPM数を示す.C. 年齢(歳)とIFN応答の平均値との相関関係を示す散布図.対数変換したCPMカウントを示す.ピアソン相関係数(r)とp値を示す.D. 平均IFN応答readslog2CPM)とSARSCoV-2RSV,またはIV viral readsとの間の相関関係を示す散布図をそれぞれ示す.ピアソンr値とp値を示す.E. 19種類の分泌されたI型,U型,V型インターフェロンのz-score正規化発現(CPM)のヒートマップ.

 

 

rcmb.2021-0292oc.pdf