COVID-19関連追加(20211124日)

免疫不全者の持続感染におけるレムデシビル耐性変異

【免疫不全患者のSARS-CoV-2持続感染の治療において,新たに出現したレムデシビル耐性変異: 症例報告】

Gandhi Shiv, …, Iwasaki A, Ko AI, et al. De novo emergence of a remdesivir resistance mutation during treatment of persistent SARS-CoV-2 infection in an immunocompromised patient: A case report. medRxiv. Posted Nov 9, 2021.

https://doi.org/10.1101/2021.11.08.21266069.

Abstract

SARS-CoV-2のレムデシビル耐性変異はin vitroで生成されているが,この抗ウイルス剤による治療を受けている患者では報告されていない.

今回,SARS-CoV-2無症候性長期感染を発症した後天性B細胞欠乏症の免疫不全患者の症例を提示する.レムデシビル治療により症状は緩和され,一過性のウイルス学的効果が得られたが,高グレードのウイルス排出が再燃して経過が複雑になった全ゲノムシーケンスにより,治療前の検体には見られなかったnsp12 RNA依存性RNAポリメラーゼにおいて変異,E802D,が確認されたin vitro実験では,この変異により,レムデシビルのIC50が約6倍に増加したが,レムデシビルが存在しない場合におけるfitness cost(適応に払う犠牲)が示されたカシリビマブ-イムデビマブによる治療後,持続的な臨床的およびウイルス学的効果が得られたin vitroで観察されたfitness costは,E802Dがもたらすリスクを制限する可能性があるが,この症例は,SARS-CoV-2感染症の免疫不全患者において,レムデシビル耐性を監視することの重要性と,コンビネーション治療のメリットの可能性を示している.

 

Text

レムデシビル(RDV)は,アデノシンアナログのヌクレオチドプロドラッグであり,活性型に変換されるとSARS-CoV-2RNAポリメラーゼを阻害する1)RDVの使用に関するガイドラインのコンセンサスは得られていないが2)3)RDVCOVID-19入院患者の治療に広く使用されている.さらに,免疫不全患者の長引くSARS-CoV-2感染治療にRDVが使用されており,一過性の臨床的改善が得られたとの症例報告がある4)5)RDV耐性変異はin vitroで生成されてきたが6),治療に関連して患者で確認されたことはまだなかった.ここで我々は,SARS-CoV-2持続感染している免疫不全患者が,抗ウイルス剤による治療後にウイルス排出が再燃した際に,RDV耐性変異が確認された症例を報告する.

症例は70代の女性.ステージIVの非ホジキンリンパ腫(NHL)のためにリツキシマブ+ベンダムスチン治療を1コース受け(20193月に終了した),持続するリンパ球減少症と低ガンマグロビン血症を合併していた.20205月にSARS-CoV-2感染症を発症したときは,NHLは寛解していたが,発熱,嗅覚消失,咳,鼻汁の急性発症を呈し(Figure 1a),0日目にRT-PCRで確認された(Figure 1b.この患者は,その後2ヶ月の間に,持続する発熱と新たに発症した好中球減少症および貧血のために2度入院した(Figure 1c; その間,縦断的な鼻咽頭検体から得られたSARS-CoV-2RT-PCRサイクルCt値は低く(17日目は20.5, 36日目は17.1, Figure 1b),血清中の抗SARS-CoV-2 IgG抗体(Abbott)は検出されず,血清中の炎症マーカーは上昇していた(Figure 1c).胸部CTでは両側GGOが認められたが(38日目, Figure 1d),入院中およびその後の経過において,呼吸困難,低酸素血症,呼吸器症状の再発は見られなかった.骨髄生検を含む他の発熱源の検査を行ったが,結果は得られなかった.骨髄生検でも,末梢血単核細胞(PBMC)のフローサイトメトリーでも,CD19+B細胞は確認されなかった.この患者は,好中球減少症と低ガンマグロブリン血症を管理するために,フィルグラスチムを週12回,免疫グロブリンを月1回投与する治療を開始し,51日目の退院後も両者を継続した.

Fig. 1: Clinical course of the immunocompromised patient with persistent SARS-CoV-2 infection.

Timeline of a) patient symptoms and hospitalizations, b) SARS-CoV-2 N1 RT-PCR Ct values and c) clinical laboratory parameters from time of laboratory diagnosis of SARS-CoV-2 infection (day 0) to end of the follow-up period (day 292) and d) computed tomography (CT) scans of chest at indicated days after time of initial diagnosis. The timing of remdesivir and casirivimab-imdevimab are shown as grey and light blue shading, respectively. RT-PCR results that were positive but performed on assays that did not generate a Ct value are denoted by the open circle in panel b. The timing of filgrastim treatments are denoted by green diamonds in panel b. lsCRP values were converted to hsCRP values using a correction factor of 9.2. Ground-glass opacities marked by white arrows in panel d. Abbreviations: Real-time polymerase chain reaction (RT-PCR); Cycle threshold (Ct) Absolute neutrophil count (ANC); Absolute lymphocyte count (ALC); Hemoglobin (Hgb); high-sensitivity C-reactive protein (hsCRP).

 

 

患者は,30日間(103日目〜132日目)の解熱期間を除いて,毎日の発熱,難治性好中球減少症,貧血,RT-PCR検査でCt <25の陽性反応を認め,145日目に当院に入院した.患者は,30日間の解熱(103132日目)を除き,毎日発熱し,難治性好中球減少症,貧血,RT-PCR検査でCt< 25の陽性反応が認められ,145日目に当院に入院した.140日目の胸部CTでは,それまでの検査に比べてopacitiesが増加していたことが注目された(Figure 1d).この患者はRDV10日間コースを開始され(148157日目),解熱(149日目, Figure 1a),CRP正常化(156日目, Figure 1c),胸部CTでのopacitiesの改善(162日目, Figure 1d)が認められた.治療に対する早期のウイルス学的反応,すなわち,152日目にはRT-PCRCt値が増加,ウイルス培養におけるプラーク形成単位(PFU)数が減少,amplicon sequencing dataにおいて測定されたSARS-CoV-2サブゲノムRNAsgRNA)の割合に低下,が認められた(Figure 2a).

 

 

Fig. 2: de novo emergence of remdesivir resistance mutation during and following treatment with the antiviral agent.

a) Anti-SARS-CoV-2 Spike Protein IgG ELISA endpoint titers (1st panel), RT-PCR Ct values (2nd panel), subgenomic RNA (sgRNA, 3rd panel), and plaque forming units (PFU) on viral culture (4th panel) during the course of illness which include the period when remdesivir (grey shading) and casirivimab/imdevimab (light blue shading) were administered. b) Allele frequencies of E802D in nsp12 as ascertained by whole genome sequencing. c) Crystal structure (PDB:7BV2) depicting nsp12 E802 (dark blue) and its putative hydrogen bonds (yellow dashed lines). In green are palm domain (yellow) residues that interact with the replicating RNA molecule (orange). Remdesivir monophosphate (RMP) is depicted in light blue. d) Viral growth curves from icSARS-CoV-2 mNG WT, E802D (patient), and E802A (control) nsp12 mutants on a ORF7a depleted backbone. Significance was assessed by unpaired two sample t-tests (** p < 0.01) with 3 biological replicates. e) SARS-CoV-2 inhibition by RDV assessed at 48 h post-infection (0.01 multiplicity of infection) as determined by quantitative image analysis of percentage of cells expressing mNG. Vertical lines indicate IC50 for WT (black) and E802D (red). Shading represents 95% confidence intervals of the IC50 estimate.

 

 

しかし,RDV療法の施行中および施行後に,実施中および実施後にウイルス排出が再燃した.すなわち,160日目にRT-PCRCt値が減少し(18に到達),156日目に呼吸器検体中のPFUおよびsgRNAが増加した(Figure 2a).この患者は,モノクローナル抗体(mAb)療法の使用が可能になった後,163日目にカシリビマブ-イムデビマブ8g静注治療7)8)を受けた.164日目までには培養されたウイルスが未検出,166日目までにはsgRNAが低レベル,217日目までにはNP RNAが陰性となり,迅速かつ持続的なウイルス学的効果が認められた.カシリビマブ-イムデビマブの投与からおよそ17日後に患者の嗅覚消失は消失した(180日目, Figure 1a).その後の5ヶ月間(160292日目),患者はCOVID-19関連症状の再発はなく,胸部CTにおけるopacitiesは最小限であり(170日目, Figure 1d),抗SARS-CoV-2 S1タンパク質IgG抗体価も高レベルであった(Figure 2a).回復期の間に,末梢血好中球数,ヘモグロビン値,血清炎症マーカーは正常化した(Figure 1c).

疾患経過中に生じたSARS-CoV-2の変異を同定するために,患者の組織や分泌物を縦断的に複数採取し(Supplemental Table 1),Swift SARS-CoV-2 multiplex amplicon sequencing panelを用いて9)Illumina NextSeq platformWGSを行った.ウイルスN1またはN2 RNAは,鼻咽頭21検体中19検体,唾液10検体中10検体,便10検体中10検体,全血10検体中0検体で検出された.我々は,N1またはN2 RNAが検出された39検体のうち,鼻咽頭(12),唾液(9),便(6)から27個の全SARS-CoV-2ゲノムを収集した.鼻咽頭検体のうち1つは,疾患初期(36日目, Figure 2b)に採取された.系統解析の結果,ゲノムはNextstrain clade 20C内の単一の非混合系統(Pango B1)に属しており(Figure S1),疾患経過中に確認されたウイルスゲノムは,単一の株に感染した後の宿主内での多様化(intra-host diversification)に起因することが示された

Fig. S1: Phylogenetic analysis of SARS-CoV-2 genomes from patient samples and contemporaneous samples from Connecticut, USA.

Nextstrain maximum likelihood analysis of patient whole genome samples (blue) in comparison to 283 contemporaneous local samples (grey) obtained from GISAID (10/30/21; Supplemental Table 3). Samples are annotated by type (nasopharyngeal (NP), saliva (SL), or stool (ST)) and day from diagnosis. Divergence from root reference genome (Wuhan-Hu-1) by nucleic acid changes.

収集したウイルスゲノムを解析した結果,nsp12に変異,E802D,が確認され,検出されたこの変異はRDV治療と時間的な関連があることがわかった.E802Dは,疾患初期(36日目)の検体,およびRDV療法開始してからの最初の5日間(148152日目)に採取した検体のいずれにおいても,1%を超える対立遺伝子頻度(allele frequency)は同定されなかった.この変異は,RDV療法開始から7日後(155日目)に初めて検出され,160日目には鼻咽頭検体で対立遺伝子頻度22.6%,および唾液検体で対立遺伝子頻度96%を占めた.nsp12E802残基は,SARS-CoV-2 RNAポリメラーゼの活性部位を構成する残基の一部を含むpalmサブドメイン(palm sub-domain)に存在する1)10)E802残基は,D804およびK807と静電的ネットワーク(electrostatic network)を形成し,新生RNAとの結合に関わるループを安定化させる(Figure 2c, S2a).E802Dは,in vitroRDV耐性選択実験(RDV resistance selection experiment)で同定され,薬剤に対するIC50が約2.5倍に増加することが判明している6)今回の患者におけるE802Dの出現時期,nsp12におけるE802Dの位置,そしてin vitroでのRDV耐性表現型と同じ変異が確認されたことから,この患者にRDVを投与することでE802D変異を持つvariantsが選択され,それがウイルス排出のリバウンドに寄与したというのがもっともらしい(plausibility

 

 

Fig. S2: Validation of a remdesivir resistance mutation.

a) Structure depicting E802 in relationship to nsp12 (PDB:7BV2) b) Viral titers (PFU) assessed under 5 μM RDV treatment. Significance was assessed by an ANOVA (* p < 0.05) with 3 biological replicates. c) Cell viability experiment with RDV performed using CellTiter Glo. Significance of infected cells with SARS-CoV-2 WT (top panel) or E802D/A (bottom panel) was assessed by two-way ANOVA corrected for multiple comparisons (**** p < 0.0001) with 3 biological replicates.

E802Dの耐性表現型を検証するために,我々はこの変異と,RDV耐性をもたらすことが示されているE802A変異6)を,mNeon Green reporterを発現し,ORF7aを欠失させたSARS-CoV-2/WA01の感染性分子クローン(icSARS-CoV-2-mNG11)に導入した.Vero-E6細胞におけるE802DおよびE802A変異の複製動態から,親icSARS-CoV-2-mNGと比較してウイルス複製が減少しておりFigure 2d),これらの変異はフィットネスコストを付与している可能性が示唆された高濃度RDV5μM)の存在下では,E802D変異は親ウイルスよりも高い力価で複製され(Figure S2b),この変異がRDVに対する抵抗性を付与することが確認されたRDV用量反応曲線を見ると,E802DおよびE802A変異は,親icSARS-CoV-2-mNG0.7μM)に対してIC50におけるRDV用量が大幅に増加していた(それぞれ4.2μMおよび2.7μM)(Figure 2eRDVの細胞毒性を評価したところ,10μM以下では細胞死率への影響は限定的であり,E802変異によって付与されるRDV耐性表現型は,生理学的に適切な濃度(relevant concentrations)で発生する可能性が示された(Figure S2c6)

これらの結果から,nsp12における802残基での置換がRDV耐性の新たな媒介因子(mediators)であることが示唆された.我々は,酵素がRDVを排除できるように,あるいはS861による立体衝突(steric clash)を緩和して,それゆえ酵素がRDVに媒介される鎖の切断(chain terminator, 伸長阻止薬)から逃れることができるように1)10),これらの変異は活性部位を歪めていると推測している.E802残基での置換がRDVに対する耐性をもたらすメカニズムを明らかにするためには,生化学的および構造的な特性をさらに明らかにする必要がある.

E802でのRDV耐性変異が治療に与える影響は,我々がin vitroで観察したこれらの変異によって与えられるfitness costによって弱められる可能性があるRDVの治療はパンデミック中の患者に広く行われているが,GISAIDデータベース(www.gisaid.org; accessed 10/14/21)に登録されている患者分離株から得られた410万件のゲノム配列のうち,E802D122件(0.003%),802残基のすべての置換は270件(0.007%)で発見されている.Fitness costの観察と一致して,患者からの鼻咽頭検体におけるE802Dの対立遺伝子頻度は,RDV療法終了後からカシリビマブ-イムデビマブ投与前までの期間(160162日目)に22.6%から1%未満に減少した(Figure 2bしかし,E802対立遺伝子頻度は,この期間の唾液検体で有意に高く(158167日目で5096%),カシリビマブ-イムデビマブ投与まで減少しなかったこのような矛盾した結果の説明は不明であるが,呼吸器管内でのvariantsのコンパートメント化(compartmentalization)が異なることや,より広い地域に分布するウイルスがプールされている可能性のある唾液とは対照的に,鼻咽頭コンパートメントを採取することの確率論的な性質に関連している可能性がある.唾液があまり採取されないと,E802変異を介したRDV耐性は検出されない(underdetected)可能性がある.E802Dおよびこの残基での他の置換の発生が,基礎的なfitness costのために限定されるのか,あるいは代わりにRDV耐性の広範なリスクをもたらすようになるのかを詳しく調べるには,継続的な監視が必要であるだろう

さらに2つの変異,nsp14におけるA504Vexonuclease: エキソヌクレアーゼ)とnsp15におけるI115LendoRNAse)を確認し,その対立遺伝子頻度はRDV治療中および治療後に増加した(Figure S3).しかし,nsp14におけるA504Vは,疾患初期(36日目)に採取された検体に存在していた(対立遺伝子頻度85.1%).nsp15におけるI115Lは初期の検体では検出されなかったが,RDV耐性を付与するendoRNAse遺伝子の変異の妥当性はあまり明らかではない.

Fig. S3: Identification of additional mutations temporally associated with remdesivir treatment. Longitudinal allele frequencies of A504V in nsp14 (a) and I115L (b) by whole genome sequencing of in relationship to RDV and casirivimab/imdevimab

この症例は,免疫不全患者におけるSARS-CoV-2感染の管理に関する新たな問題を浮き彫りにした.第一に,6ヶ月間にわたって高グレードのウイルスが持続的に排出され,肺に病変が見られたにもかかわらず,感染の経過は穏やか(indolent)であったことが注目された.その結果,ORF3aにおけるフレームシフト変異(N257fs)を含む6つの変異が確認され,これらはRDV治療に先行した疾患経過を通じて存在していた(Figure S4).

Fig. S4: Variants identified in persistently infected host.

Non-synonymous (NS) mutations identified at days 36 (NP) and 148 (NP and saliva) of infection. During early infection (day 36), whole genome sequencing identified 9 NS mutations from reference strain Wuhan-1 (NC_045512). Six of those persisted through day 148 (green background). Abbreviations: single nucleotide polymorphism (SNP); amino acid (AA); nasopharyngeal (NP); saliva (SL)

 

しかし,この表現型の減衰を明確に説明できるものはない.PBMCの縦断的なプロファイリングでは,活性化マーカー(CD38+, HLA-DR+)と疲弊マーカー(PD-1, Tim-3)の増加から明らかなように,慢性的な抗原曝露と一致する,循環B細胞集団とあるT細胞表現型の深刻な枯渇が示された(Figure S5).不適応な免疫応答が重篤COVID-19リスクにつながるという報告があることから13)14)免疫応答不全によりウイルス量をコントロールできないことが,逆に重篤な合併症の発症から患者を守ったのではないかと推測している

Fig. S5: Serial lymphocyte profiling reveals T-cell exhaustion.

T-cell profiling of uninfected healthcare workers (HCW), patient’s with moderate and severe SARS-CoV-2 infection. a) Global, CD4+, and CD8+ T-cells. CD4+ (b) and CD8+ (c) subsets demonstrates a phenotype consistent with T-cell exhaustion. Population definitions: naïve CD4/CD8 subset:

CD4/CD8+CD45RA+CD127+CCR7+PD-1-;

activated CD4/CD8: CD4/CD8+CD38+HLA-DR+;

effector memory CD4/CD8:CD4/CD8CD45RA-CD127+CCR7-;

exhaustion CD4/CD8: CD4/CD8CD45RA-Tim-3+PD-1+;

 effTreg: CD4+CD45RA-CD127-CD25hiHLA-DR+. Gating strategy depicted in Fig S7.

 

 

 

 

Fig. S7: Gating strategy for flow cytometry.

Gating strategies are shown for the key T cell populations described in Figure S5. The T cell surface staining gating strategy to identify CD8 & CD4 T cells, naïve T cells, TCR-activated T cells, exhaustion T cells, effector memory T cells (Tem), and effector regulatory T cells (eff Treg) are depicted.

 

 

第二に,SARS-CoV-2感染は,この患者における重度の難治性好中球減少症と中等度の貧血の発症に関連していた(Figure 1c.我々は,この細胞減少が感染の直接的または間接的な影響によるものかどうかは判別できないが,感染の経過で汎血球減少症を発症した免疫不全患者の骨髄において,SARS-CoV-2が検出された15)この患者の細胞減少はカシリビマブ-イムデビマブ療法後に消失したことから,この環境下ではSARS-CoV-2感染と細胞減少の因果関係が示唆された

最後に,この症例は,SARS-CoV-2感染が持続している免疫不全患者に対するmAb療法の有用性の可能性を示しているmAb療法の開始に先行し,循環抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体が検出されない中(Figure 2a),最初の検体(36日目)には存在しなかった2つの非同義変異(non-synonymous mutations),H655YFigure S6a)とP812LFigure S6b)が出現した.これは,獲得免疫応答による選択圧がない場合でも,スパイクタンパク質は進化し続け,宿主に適応していることを示している.カシリビマブ-イムデビマブ投与から1週間後(170日目),スパイクタンパクの新たな変異であるRBDドメインにおけるA348Sが確認され,177日目まで持続していた(Figure S6c).177日目以降に採取した検体では,ウイルスRNAの量が少ないか検出されなかったため,WGSではこの変異を検出できなかった.A348Sは,mAb結合部位に近接しておらず(Figure S6d16),耐性変異の包括的解析でも確認されなかった7)細胞性免疫応答がごくわずかである(negligible)にもかかわらず,mAb療法によってウイルス排出はなくなり,残存する嗅覚消失障害の訴えもなくなり,血液異常(blood dyscrasias)も解消された

 

 

Fig. S6: Evolution of Spike protein in patient samples.

a) H655Y and b) P812L allele frequency over time. c) Allele frequencies of non-synonymous Spike protein mutations identified on more than one occasion by whole genome sequencing. Allele frequencies >50% are denoted by green background. d) Crystral structure of RBD (PDB:6XDG) depicting residue A348 in relationship to the imdevimab (heavy chain: yellow; light rain: red) and casirivimab (heavy chain: green; light chain: blue) binding sites. Abbreviations: nasopharyngeal (NP); saliva (SL); receptor binding domain (RBD).

以上をまとめると,我々はSARS-CoV-2持続感染している免疫不全患者にRDVを投与したところ,RDV耐性変異E802Dが新たに出現したことを確認した.この知見は1例に限られており,より多くの患者集団での一般化を確認する必要があるが,in vivoにおいてRDVが選択圧を与え、ウイルスの進化を促すことを示唆しているE802Din vitroではfitness costと関連しており,この変異が治療中の二次耐性の発現や耐性variantsの伝播による一次耐性リスクに与える影響は限定的であると考えられるしかし,我々の知見は,ウイルス複製が制御されていない免疫不全の宿主が,ゲノムの多様化(genetic diversification4)17)や,抗ウイルス療法に有害な影響を及ぼす可能性のある変異の選択の源として重要であることを強調している.したがって,免疫不全患者のゲノムサーベイランスを強化する必要があるかもしれない.今回の症例のように,抗SARS-CoV-2 mAbの投与を開始することで,免疫不全患者において迅速かつ持続的なウイルス反応が得られ,臨床転帰が改善される可能性がある.

 

 

※補足:SAR News No. 40 (Apr. 2021)より)

コロナウイルスのRNA複製/転写を司るRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRpは,ウイルスがコードする3種類のnspタンパク質 (nsp7, nsp8, nsp12) からなる複合体酵素である.nsp12タンパク質は,RNA合成を触媒するRdRpの本体であり,複製サイクルにおける主要構造であるnsp12は,単独ではほとんど活性がなく,その機能には2種類のアクセサリーサブユニット(nsp7, nsp8)が必要であり,それらが会合して活性化RdRpコア複合体が形成されるnsp12は,ウイルスRNAポリメラーゼに典型的な右手型のRdRpドメイン,ニドウイルスのRdRpに固有のRdRp-associated nucleotidyltransferaseNiRAN)ドメイン,それらをつなぐInterfaceドメインからなっている.RdRpコア複合体には,1分子のnsp7サブユニットと2分子のnsp8サブユニットが含まれている.nsp7nsp8nsp12右手ドメインの親指(thumb)”部分に結合し,もう1つのnsp8(fingers)”に結合する.RNA合成の活性部位は,手のひら(palm)上に位置し,5つの保存されたモチーフ(モチーフA-E)で構成されているモチーフC には,RNA合成に必須のアスパラギン酸残基(D760, D761)が存在し,ここに活性に必要な金属イオン(Mg2+, Mn2+)が結合し,それを介して基質であるヌクレオシド3リン酸(NTPs)と新生RNA鎖の3末端が結合する全体として,RdRpの活性中心に近い約10塩基対の部分をnsp12右手がホールドし,それより下流の約20塩基対にわたる部分を2 つのnsp8 extensionがガイドするかたちになっており,RNA合成途中のRNAの脱落を防ぐのに役立っていると思われる

レムデシビルはコロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示し,その標的はRdRp である.プロドラッグであり細胞内に取り込まれて保護基が外れ,三リン酸が付加されてレムデシビル三リン酸 (RTP) の状態となってはじめて阻害活性を示す.RTPATPアナログであり,アデニンに類似した環とリボースの1位から突き出た1-シアノ基を持っているのが特徴である.レムデシビルはいわゆるchain terminatorではないが,4残基を超えてRNAが伸長するのを阻害する.レムデシビルを取り込んだRdRpのクライ オ電子顕微鏡構造によれば,その原因は,レムデシビルの1-シアノ基が立体障害となり,RNA4残基伸長した時点で立体障害が生じ,それ以上のトランスロケーションが妨げら れるためである.

エキソヌクレアーゼ: コロナウイルスはRNAウイルスの中で最大サイズのゲノムを持つ.大きいゲノムサイズを維持するためにはRNA合成の精度が要求されるので,RNA合成中のエラーの校正機構を持っているのがコロナウイルスの大きな特徴である.nsp14はエキソヌクレアーゼ (ExoN)活性を持つサブユニットで,RdRpコア複合体にRNA合成に影響を与えずに結合することができ,転写エラーの校正を司ると考えられている.

 

フィットネスコスト: 抗体生存下でのウイルス生存は,本来の増殖能とトレードオフの関係がある.すなわちウイルスが変異して免疫逃避の方向になると,もともとのウイルスよりも増殖効率が低下するという考え方.ウイルスによってはトレードオフにより低下した増殖効率を他が補う例もある.

Kosik I, et al. Influenza A virus hemagglutinin glycosylation compensates for antibody escape fitness costs. PLOS Pathogenes. Jan 18, 20218.

https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1006796.

(季節性インフルエンザAおよびBにおいて,ヘマグルチニン(HA)グリコシル化が,抗HA中和抗体から逃避することで生じるfitness defectsを補うという予想外の役割を果たしていることを明らかになった.抗原逃避に続く無抗体増殖(antibody-free propagation)によって,HA globular domainN-結合型糖鎖を付加して受容体結合性を変化させる変異を持つウイルスが急速に選択された.)

 

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